Melty Blood Another   作:Unknown37564

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 小僧と嬢ちゃんの戦いが激しさを増していく。

 それをただ、立ち尽くして見守るしか出来ない自分に歯痒さを覚える。

 関節がずきずきと悲鳴を上げる。

 正直座りたいが、いつでも動き出せるようにしないといけない手前、片膝もつけない。

 雨は蕭蕭(しょうしょう)と降り続いている。

 

 

「あれが七夜の(せがれ)か」

 

 背後から声がしたので、思わず振り返って構える。

 

「……なんじゃい、刀崎(とうさき)。お前らか」

 

 作務衣にタオルを頭に巻いた、熊のような男──刀崎(とうさき)がこちらに歩いてきた。

 その三歩後ろに有馬夫婦が傘を差してついてきていた。先ほど駆けつけたのだろう。

 

「み、都古はどうなってますか?!」

 

「あっちでやり合うとる」

 

 儂は小僧達の方を指す。

 嬢ちゃんの凄まじい散打を、スウェイで回避して足を引っ掛けて倒す小僧。

 そして猫のように受け身を取って転がっては立ち直り、また小僧へと向かっていく。

 

「あ、あれが……?!」

 

 青い顔で有馬夫婦が驚愕する。

 

 きっと自分の子が、居候していた高校生にあれ程の死闘を繰り広げているとは夢にも思わなかっただろう。

 

「これが現実じゃよ。今の都古の嬢ちゃんは、バケモンじゃ」

 

 これでもかと目を見開き、鬼のような形相で有馬の親父は儂を見るが、わなわなと震えるだけで言い返せないでいた。

 

「これは誰が悪いとかの問題じゃ無い。天災のようなもんじゃ。それよりも、この後のケアの方が大事じゃぞ」

 

 釘を刺す。

 小僧の先のやりとりから、嬢ちゃんの精神面の事も考えていた事を思い出したからだ。

 

「ところで、"お前ら"これをどう決着つけるつもりだ?」

 

 刀崎が腕を組んで言う。

 

「……儂は当初、嬢ちゃんの体力切れを狙った。しかし、今ああして連戦で小僧とやり合って、しかも一方的に投げられてるのにも関わらず体力は切れそうに無い」

 

「それじゃあ、打つ手が無いって事ですか?!」

 

 有馬の奥さんが慟哭のような叫びを上げる。

 大事な一人娘の事だ、そうなるのも致し方無いだろう。

 

「……儂らが賭けたのは、小僧の眼じゃ」

 

「眼?眼ってあの眼だろ?確か七夜に代々伝わるとか言う、精霊だの魔力の流れだのを見るって言う」

 

 刀崎が食いつく。

 

「違う。小僧のそれは、直死の魔眼と言って、モノに存在する死期を、線や点という情報として視認して、刃などでなぞるだけで対象を殺す事ができるんじゃよ」

 

「殺すつもりか?!」

 

「まさか!殺すのは、嬢ちゃんに取り憑いてるタタリなるモノじゃ」

 

 ああ、と刀崎と有馬夫婦は納得した様子を見せた。

 

「ところで、どうして都古はここに来たのでしょうか?」

 

 有馬の奥さんが、刀崎に質問する。

 

「ふむ。それに関しては憶測になるが、分かるかもしれん」

 

 儂が手を上げて注目を促す。

 有馬夫婦は怪訝そうにこちらを見た。

 

「嬢ちゃんの行動目的は"強くなること"じゃ。自身が記憶してる強者を渡ろうとしていたのかもしれん」

 

「おいおい、それで何で俺なんだ?」

 

 刀崎が腑に落ちぬ様子で尋ねる。

 

「混血の一族会議の後で刀崎家と有馬家、そして儂の家族で集まって、バーベキューをせんかったか?」

 

「ああ。覚えてるよ。あの頃の都古は四歳ごろか」

 

「懐かしいですね……」

 

 有馬の旦那が遠い目をする。

 

「あの時に刀崎よ、お前さん久々だってそやつと竹刀でしばき合ってたではないか」

 

「……あぁ!あの時のアレか!竹刀ぶっ壊したやつな!あれは確かにまずかったか……」

 

「あぁ、僕の竹刀だけ壊したあれですよね」

 

「恐らくそれじゃろうな。まず身近な儂の方に来て負けた。で、次は刀崎」

 

「んで、俺が凌げたら次は自分の親、だったってわけか」

 

 有馬の夫婦は顔が青ざめていく。

 今小僧が必死になって捌いているあの地を割る程の踏み込みが、自分たちに向けられる事への恐怖からだろうか。

──それにしても、いまだに起点を掴めないでいるのか、小僧は未だに嬢ちゃんを投げるばかりだ。

 

「こりゃ冗談で言った交代も、本気で考えないといかんな」

 

 背を伸ばす。バキバキと背骨が悲鳴を上げる。

 

「ふっ。上海(シャンハイ)閻王(えんおう)と呼ばれた男も、寄る年波には敵わぬか」

 

 刀崎が冗談めかして言う。

 

「儂が全盛期であったとしても、あの戦いについていくのは厳しいわい」

 

 苦笑いを返す。

 方や死徒や混血などの人外を相手どる七夜、方やタタリと言う村や街を滅ぼす怪物に取り憑かれた混血の娘。

 常人の自分がついていけてる方がおかしいのだ。

 

「慢心すれば一瞬で狩られる。これはそう言う戦いだ」

 

 刀崎も腕を組んで頷いた。

 

「……かれこれ数分は戦ってるが、そんなに見えないもんか?」

 

「わからん。だがその魔眼というのは、酷く身体に負担がかかるようでな。特に脳のダメージがまずい」

 

 小僧の立ち回りがどんどんと怪しくなっていくのを感じる。

 一方の嬢ちゃんは寧ろ動きにキレが増しているように思えた。

 

「あれはまずいな……」

 

 小僧がふらつき始める。体力不足というより、頭痛などの体調不良だろう。

 そのふらつきを、遂に嬢ちゃんは捉えてしまった。

 頂心肘(ちょうしんちゅう)が入る。

 

「まずい!!!!」

 

 思わず叫ぶ。

 一瞬、小僧が後ろに飛び退くように見えた。

 しかし、完璧に捉えた動きで嬢ちゃんは小僧の懐に飛び込む。

 どん!という車が衝突したような音。

 そして、小僧が思い切り吹き飛ばされた。

 

「志貴ぃ!!!!!!」

 

 思わず名前を叫ぶ。

 (うずくま)った志貴は、ゴホゴホと咳き込んでいる。

 都古はその場でじっと立ち尽くしている。

 

「……出るか」

 

 もう見てられない。

 そもそも死に体の人間に、自分の不始末をつけて貰おうというのがおかしな話だった。

 自分の尻が拭えなくなったなら、それは死ぬ時だと若い頃思っていたではないか。

 

「ご両人。すまぬが──」

 

「し、志貴……!」

 

 有馬の奥さんが手を抑えて、泣きそうなのを堪えている。

 その先を見ると、小僧は──志貴は、立っていた。

 

「おいおい、まだ立つかよ……死ぬぞ」

 

 刀崎も険しい顔で見つめる。

 脇腹を抑えて背を丸めながら、肩で息をして立っている。

 あの佇まい、(あばら)が折れているやもしれない。

 やはり、行かねば──。

 いざ、動き出そうとした時。

 志貴が、こちらに手を向けて静止を促してきた。

──やるのか。

 まだ、やるというのか。

 そうか、やるのか。

 何という気合。何という根性。何という執念。

 胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じる。

 

「漢の戦い──だな」

 

 刀崎が一言零す。

 袖捲りした腕に、鳥肌が立っているのが見える。

 

「そうだな。これで行くのは無粋だな」

 

 やってみせろ。

 遠野志貴。

 

 

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