Melty Blood Another 作:Unknown37564
昼。曇り一つ無い快晴の空から、強烈な紫外線が降り注ぐ。
現在、久我峰と待ち合わせの喫茶店に俺たち一行は向かっていた。
その顔ぶれはシオン、さつき、レン、有彦、そして"ななこ"だ。
向かっている理由はただ一つ、タタリ対策の為の打ち合わせのため。
久我峰から連絡があり、
それを受けて、シオンから『関係者一同で打ち合わせをしよう』という経緯だ。
「ふぅ」
袖で汗を拭おうとすると、後ろから袖を引っ張られる感覚。
振り向くと、レンがハンカチを差し出してくれていた。
「ああ、ありがとう。レン」
レンは小さく頷いた。
無風も相まって、十一月だというのに身体が火照る。
時折通過する車によって発生する風が、心地よいぐらいだった。
「……遠野くん、大丈夫? まだ病院で寝てた方が……」
「いや、問題ないよ。ちょっと暑かっただけだから」
さつきが傍らで、心配そうな顔で覗き込んでくる。
彼女はパーカーのフードをすっぽりと被っているのにも関わらず、汗一つもかいてなかった。
もしかしたら、今の俺は熱があるのかもしれない。
結局
そもそも、寝たきりで無ければ回復しない訳でもない。日常生活程度ならば折れたままでも問題は無い。
当然戦うのは
本当はこの道のりも、タクシーなり久我峰に送迎車を手配してもらうなりすればよかったのだろうが……これは、俺の我侭だ。
シオンと有彦、ななこが
「この"ゼンザイ"という食べ物は何でしょうか」
シオンがケースを指差して言う。
「ゼンザイ? ああ、ぜんざいな。小豆っつー豆を砂糖と混ぜて煮詰めたものだな」
「へー! 日本では煮たお豆をスイーツにするんですねぇ! ちらっ! ちらっ!」
ななこの露骨なアピールに、有彦は呆れながら財布を取り出した。
「……口で言わなくても食いてえって言えばいいだろ。シオンさん、あんたも食うか?」
幾ばくかの思案の内、シオンは口を開く。
「口に合えば良いのですが……」
「はい! 苦手なら私、全部食べちゃうから大丈夫!」
さつきが手を振り上げて、シオンに言いながら駆け寄る。
俺は側から離れるさつきを見送る。
「おーい! お前ら食うのか?!」
「……俺はいらないけど、レンは?」
レンは俺を見つめながら、首を横に小さく振った。
「有彦、俺達は大丈夫だ」
「そうか。すんません! 白玉ぜんざい、四つ!」
「六つ! ねぇ六つですって! 私二つ食べたいです!」
ななこが有彦の耳元でふわふわと飛びながらやんやと叫び立てるが、有彦は意に介さず店員から白玉ぜんざいを受け取った。
ぜんざいを一口つけ、目を見張るシオン。幸せそうにぜんざいを食べるさつき。
中天の陽光が彼女たちを照らし、まるで宝石のように輝いて見える。
俺にとってそれは、宝石よりも価値のあるものだった。
ふと、レンが気になって横を振り向いた。
彼女はじっと、俺の方を見ていた。
「ん、どうした?」
「……志貴を、見てる」
ぽつり、とレンが言う。そうか、俺を見てるか。
「……俺なんて見ても、面白くないんじゃないか?」
俺の返しに、レンはむっとした顔をする。
そして、その小さい手で、ぎゅっと俺の手の先を掴んだ。
握られた俺の手が白くなるほどの力強さ。
そのまましばらく、彼女は俺の手を握ったままだった。
◇
喫茶店に入ると、相変わらずのスーツ姿の久我峰と黒のジャケットにスラックスの宗玄の爺さん、作務衣の刀崎さんがカウンター席からこちらへ振り向いたのが見えた。
久我峰は俺達を見るや席から飛び降りて、どすどすとその巨躯をこちらに向けた。
「おお! お待ちしておりましたぞ!」
そういう彼の視線の先は、俺が二割でシオンとさつきが八割だった。
「で! 彼女らが!?」
ふんふんと鼻を荒げなら久我峰は俺へまくし立てる。
あいも変わらずの様子に俺は呆れてしまった。
「……あぁ。まず彼女がシオン」
シオンの方へ手を差し出して紹介する。
彼女は一歩前へ出て、久我峰を見据えて自己紹介を始める。
「お初にお目にかかります。シオン・エルトナム・アトラシアです。錬金術師を生業としています」
久我峰へ手を差しのばす。それに応じて彼も手を取って握手を交わす。
「うん、うん。遠野くんから話は聞いておりました。今度じっくり錬金術の事を伺わせて頂きたい!」
「え、ええ……」
爛々とした目つき、そして早口。いかに彼が興奮しているかが見て取れる。
シオンはやや引きながらも微笑みを浮かべて対応している。
思っていたよりも、久我峰への対応が柔らかい事に感心させられた。
「そしてこっちが、弓塚さつき」
「はい。弓塚さつきです。死徒? っていうやつですけど人の為にがんばりましゅ! ます!」
噛んでしまった事を恥じてか、思わず頭を掻いてしまうさつきだった。
そんなさつきに対して久我峰は、これまたシオンとは対照的で、穏やかで紳士的に握手の手を差し出す。
「ご丁寧に、ありがとうございます。初めまして、久我峰斗南と申します。久我峰グループの総裁を務めております」
「あ、ありがとうございます?」
さつきも聞いていた話とは違うというような驚きの表情で、久我峰と握手を交わした。
レンもそこに割って入るようにすっ、と手を差し伸ばした。
「……レン」
「レン、さん、ですね? よろしくお願いします」
さすがの不思議少女ムーブに久我峰も一瞬戸惑いを見せたが、すぐに握手を返した。
「さて、お二人には遠野くんとも契約していただいているエージェント契約を結んでいただきたいと思います」
「確か、私たちが久我峰の人間として社会活動しやすいように、だっけ?」
さつき達には俺が予め契約の内容を事前に説明してあった。
今回のタタリ事件のように怪異が絡む問題を、国だけで無く、専門のエージェントたちによって解決してるのが今の日本の現状だ。
とはいえ、エージェントの実態は土着の退魔師だったり国外の
今まで立て続けに問題が発生したのもあって、これを機にと契約を結ぶ事になった。
……例え俺が死んだとしても、この繋がりをもって彼女たちが未来を切り開けるように。
「さぁ、あちらで契約書を書きましょう」
久我峰がいそいそとカウンターに置いた黒革のビジネスバッグを取り、テーブル席へとさつきらを促した。
さつき達は頷いてそちらへと向かう。
「おぅい。お前さんら」
宗玄の爺さんの声。そちらへ向けると俺と有彦へ手招きをしていた。
俺達はカウンター席の方へ足を運んだ。
「そこの少年が、お前の友達か?」
爺さんが有彦を見ながら言う。
有彦が一瞬身を引いたのを目端で感じた。
「ああ、乾有彦。学友だ」
「乾有彦です」
有彦は会釈する。爺さんはうん、と頷いてじっと有彦を見ながら言う。
「時南、宗玄だ。志貴の主治医をしている。ほれ、お前も挨拶せんか」
爺さんは刀崎さんの肩をバシンと叩いた。
刀崎さんは持っていたロックグラスの中身を少し零した。
「ああ! てめえジジイ! 何しやがる! あぁもったいねぇ~! マッカランがぁ!」
「真っ昼間から呑んでんじゃねえよ! てか俺もジジイだがてめえもジジイだろが!」
「んだとジジイ!」
「おいこらジジイ!」
ジジイがジジイ同士で張り合っている。
その様子にああ、と俺は呆れてしまった。有彦の方を見ると、何だか遠い目をしているように見えた。
「有彦?」
「ああ……なんだかさ。良いよな、ああいうの。歳とってもさ」
「……ああ、そうだな」
きっと俺達にはこないかもしれない未来。
しかし、想像するだけならばきっと、いくらでもしたって良いはずだ。
イフの話は、救われたような気が、するから。