Melty Blood Another 作:Unknown37564
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幾度と眺めた、この街の風景。夜も更けてきた頃でありながら、煌々と摩天楼が燦めいている。
私はビルのヘリにしゃがんで、その景色を目に焼き付けようとしていた。
ビルからの隙間風が吹きすさび、私の修道服をバタバタとうるさい程にはためかせている。
胸いっぱいに外気を吸い込むと、肺が寒気で冷えていくのを感じる。
そうしてゆっくりと息を吐くと、まるで煙のような吐息が口から吹き出た。
十二月。日本は、冬の真っ只中だった。
「まさか三咲に来る事になるとはねぇ」
背後から声がするので振り返る。そこには、紅の長髪を靡かせた女性の姿。
ルージュのスタンドカラーのコート、そして茶色い革の手提げ鞄を携えている。
私は立ち上がり、彼女へと向き直った。
「……準備はよろしいですか──マジックガンナー・ミスブルー」
彼女は胸を張って、鞄を肩にかついで言った。
「勿論。そちらこそよろしくて? 代行者、シエル?」
彼女は鋭い視線で、不敵な笑みを私に向ける。
魔術協会が認定した魔法のうち、第五魔法「青」を継承した、現存する魔法使い。
本来であれば神聖を否定する彼女ら魔術師と
かつて異端審問騎士団を壊滅させた彼の祖を相手にするのに、味方を選ぶ余裕は無い。
彼の言っていた通り、対症療法ではなく根治を目指す。
その為に渡りをつけたのが、彼女だった。
「聞かれるまでもありません」
私は振り返り、摩天楼を見下ろす。
この眼下には、死徒や魔術なども知らずに生きる普通の人たちも居て、そして死徒も紛れている。
先の少女、有間都古のような痛ましい一件は断じて許せない。
一刻も早く、終わらせねば。
「まさか、貴方が志貴と知り合いだったなんて思わなかったわ」
協力を要請するために、今回の作戦に参加する人員を説明した時の彼女の驚愕した様子は今でも鮮明に思い出せる。
直死の魔眼を持った、シキという少年なんて、この世に一人しかいない。
ましてやそこが三咲市ともなれば、お互いの思い浮かぶ人物は合致していた。
あまりの世界の狭さに思わず失笑が漏れ出た。
「こちらこそですよ……彼に合うのは、楽しみですか」
私の問いかけに、彼女はうーん、と唸った後に答えた。
「楽しみではあるけれど、一つだけ確信してる事はあるわ」
彼女は私のところへ近づくと、顔を覗き込むようにして言った。
「貴方、志貴の話をしてるとき、良い顔してたわよ。だから、素敵な男の子になったんだって」
──冷え切って感覚が無くなった自分の耳に、血が回っていくのを感じずにはいられなかった。
◇
幾度と眺めた、この街の風景。夜も更けてきた頃でありながら、煌々と摩天楼が燦めいている。
目的地へと続く道のりの公園を、俺達は歩いていた。
冷たいからっ風が、俺のロングコートをうるさく叩きつける。
胸いっぱいに外気を吸い込むと、楓の匂いと共に、乾きと冷たさが鼻をツンと刺激した。
そして肺まで冷気を取り込むと、歩き通しで火照った身体が冷えていくのを感じた。
「……ゴホッ!ゴホッ!」
しかし、あまりにも乾燥がきつかった為か、思わずむせてしまう。
「だ、大丈夫?! 志貴くん!」
傍で歩いていたさつきが、俺の背中を甲斐甲斐しく擦ってくれた。
死徒になったからか体温が高い彼女は、本来なら冬支度の必要はない。
しかし、俺達と行動するのに夏の装いだと余計な目を引くという事で、彼女も紺色のモッズコートを着ていた。
普段の明るめな印象の彼女とは真反対の落ち着いた色合いに、どこか新鮮さを感じた。
「……ああ、ちょっと咽ただけだから」
「本当? やっぱり家で待機してた方が……」
折れた肋骨は修復期を迎え、安静にしていれば痛みは出ない程度にはなった。
骨の再生は、まず骨膜という骨の外側を形成し、その後に内側を作っていく。
今はまさにその状態で、つまり無理をすれば簡単に折れてしまうという事だ。
その為、医者から口を酸っぱく"安静にするように"と言い渡されていた。
でも……こんな状況で、安静にしているだなんて、無理だろう。
「大丈夫、無理はしないよ。やるにしても、前の秋葉の時みたいに最低限しか動かないさ」
そうして前を見ると、前を行くシオンもこちらへ寄ってきていた。
彼女もまた普段の紫の装いの上に、ベージュのトレンチコートを着ている。
普段のあの服が制服のような装いなので、どこか軍人みたいに見えて凛々しく見えた。
まるでランウェイを歩くかのように、背筋を伸ばしてしゃんと歩いている。
ビルの隙間風が彼女のトレンチコートをはためかせると、それはもうドラマのワンシーンのようにさえ感じた。
彼女の心配そうな眼に、俺は視線を返す。
余計な事は言わないで、ただ黙っていてくれ、と。
「……行きましょう」
意図を察したのか、彼女は俺とさつきを見ながら言った。
「……ああ、行こうか」
俺はそういうと、肩を掴んでいたさつきの手に手を添えた。
大丈夫、と。笑ってみせると、彼女は哀しそうな、寂しそうな顔をして漸く手を離した。
眼前にそびえ立つ一際大きな建築物は、まるで俺達の墓標のようにそびえ立っている。
シュラインビル。ここに噂を集中させる事ひと月が経ち、現在は十二月。年の瀬も近い頃だ。
今宵、このふざけた夜を、終わらせる。