Melty Blood Another 作:Unknown37564
薄暗い路地裏。
ゴミ箱とゴミ箱の間にダンボールを敷き詰めて、私は蹲って寝ていた。
時刻はもう二十時になる頃だろうか、日は暮れて会社員の人たちが帰り道を歩いていくのが見える。
私はひとつ伸びをしつつ、大きなあくびをしてゆっくりと立ち上がる。
「よいしょ、と。おかしな事になっちゃったなぁ」
最近、街頭のニュースで吸血鬼の噂が広がっている。
夜の住人になってからここ一年、私は街の空気感が普段とは違い殺気立っていることに感づいていた。
あの時から、こういう時は首の後ろがビリビリする。
でもあの日とは違う。
なんとなくだけどあの時より強いヤツが出てきたんだってコトを、薄っすらと感じていた。
こんな時遠野家が動いてくれていたら、なんていう話も風の噂で聞いた。
こんな身体になってから初めて知った、遠野くんの家の事。
混血という鬼の血を引く一族、そして今は当主であった遠野くんの妹さんが病で伏せっている事。
遠野くんもこっちの界隈ではとんでもなく強い人だって知ったけど、倒れちゃった妹さんの看病もあって大変だろう。
──私もなにかしなくちゃ。心まで吸血鬼になったら、おしまいだもん。
ぐっと屈み込んで、思い切りジャンプする。
しゃがみ込んでいた路地裏が小さくなるほどの高さ、ビルの屋上に私は自由落下で着地する。
そこから、三咲市の摩天楼を見つめる。
夜風が気持ちよく吹いている。
人間だった頃では見られなかった景色。
交差点には沢山の人たちが行き交っている。
皆、一生懸命に日々を活きている人たち。
「遠野くん、わたしも一緒に街の平和を守るよ」
また屈み込んで、跳躍───夜を駆け出した。
◇
翌日二十二時、俺とシオンは夜の歓楽街を歩いていた。
噂となっている箇所は路地裏だ。
行き止まりや角を曲がってまた大通りに復帰、というような複雑な道になっている。
俺たちは大通りに入っては裏通りに入って、また大通りに戻るを繰り返していた。
「ところで志貴、真祖の行方に検討はついてますか?」
「うーん、今のところは無いかな。あいつ気まぐれ屋だし、ひょっこり顔を出すかもしれないし、何処かで遊び回ってるかもだし」
「やはり、行方をくらましているとなると簡単にはいきませんね、これだけ噂が伝播する地でも目撃情報も無さそうですし」
彼女は時折、大通りの人たちにエーテライトを振るっているようだ。
今も情報収集しているのだろう。日中もこうして情報収集に勤しんでいる彼女が、全然その話を見つけられていない点から考えてもアルクェイドはもう……。
「今この街で唯一、真祖の行動パターンを把握しているのは貴方だけです。彼女は死徒狩りもしているようので、もしかしたら私達が吸血鬼を追っている先で真祖と出くわす可能性も考えてはいます。ですが、闇雲に探し回っていてはどちらにも遭遇することは叶わないでしょう」
確かに、両方同時にというのは流石に無理がある。
どちらかに絞ろうとしてもそれはそれで時間が足りないだろう。
ならば、アルクェイドと件の吸血鬼の捜索を交互にやっていく、ということか。
「なるほどね、そういう事ならアルクェイドは他愛も無い事を好んでいたな。特に映画とかゲームセンターなんかの娯楽関係。あと待ち合わせによく公園を使っていたよ」
「真祖が娯楽所へ、ですか。真祖に対する印象を大幅に修正する必要がありますね」
彼女は少し驚いた様子で納得する。
「取り敢えず今は娯楽施設が近いし、その辺を回ってみようか」
「わかりました」
俺は目下、現在地点から一番近くのゲームセンターへ行こうと考えた。そういえば。
「シオンってさ、そういう所って行ったことある?」
「……私にとっての娯楽施設は、図書館だけでしたが?」
何か?と言わんばかりにシオンは強がってみせる。
なるほど、まぁあながち間違いじゃない。図書館にも娯楽足り得る書籍はある。
最も、シオンが呼んでいた書籍はそういうものでは無いだろうけど。
一瞬、友人関係の話に疑問が湧いたが、死徒に成りかけている彼女にそれを聞くのは、あまりに酷だろう。
何、心配はない。ここまで来たんだ。友達なんていないなんて言おうものなら、俺は?と聞き返すだけだ。
「ならちょっとだけでもいいから遊んでみようか。真祖の、アルクェイドの事を知るならあいつがそれを感じてどう思ったかを実際に経験した方が良いだろうし。何より、俺も歩き回って少し疲れちゃったし、ここいらで休憩も兼ねてね」
ゲームセンターなら自動販売機なども置いてあるだろうし、とりあえず休憩を取りたかった。
彼女は数秒思案の面持ちの後、答えを出す。
「わかりました。私はそのあたりの事は詳しくないので、貴方にお任せします」
「了解、なら最初はゲームセンターだな」