Melty Blood Another 作:Unknown37564
偽物が私に拳を振るう。
それを躱して肩で全力の体当たりを当てると、お互い距離が離れる。
──戦いは、泥仕合になっていた。
私は何とか拳を振るっているも、痛みと疲労、そして骨折で力が半減していた。
一方の偽物も存在が消えかけているからだろうか、時折攻撃を空かしたりしている。
お互い決定打に欠けた攻防が続き、今に至っていた。
「あーあ、もうつまんなくなっちゃったなぁ」
偽物が血だらけの顔を飽き飽きとした表情にさせて、手をぶらぶらさせる。
私だって、こんな事やめてさっさと寝たいんだけど。
「そう思うんなら、とっとと消えてくれないかな………」
もう立ってるのも辛くて片膝立ちになりながら、こちらも苛立ちと呆れを含ませた感じで答えた。
「いやいや、面白いものが見れそうだから、もう少し!」
偽物がまた構え直して突進の準備をする。
あっちの考えが事の繰り返しであるというのに気づいていた為、私は受けるのも面倒になってそのままの態勢でいる。
そして、偽物が駆け出そうとした時───。
「──弓塚さん!!!!!!」
公園の入り口。
──遠野くんが、立っていた。
考えがうまく纏まらない。
一年間、会おうと思えば会えた。
けれど私は吸血鬼で、遠野くんはそれをやっつける人で。
相容れ無いと思っていたのに。
いざ、目の前にして───涙が、にじんできた。
「───と「遠野くん!?」
私が言うよりも先に。
偽物が遠野くんの名を呼んだせいで、涙が引っ込んでしまった。
──私が言うはずだったのに。
私が言うはずだったのに!
こいつ、この!
この偽物が!!!!!!!!!!
怒りで歯を食いしばって、片膝に右手をあてがってなんとか立ち上がる。
──痛みなんて、もう知らない。
偽物は私から見て左斜めへ跳躍。
私からも、遠野くんからも離れた地点に着地した。
「遠野くん!こいつが噂の吸血鬼騒動の犯人だよ!その土地に居る人の情報を依り代として顕現する吸血鬼、タタリ!!」
偽物が焦った演技をしながら私を指して説明しだす。
こいつ──タタリは、自己紹介を本物である私を用いて済ませた。
その事実が、私を焦燥感へと駆り立てる。
「なるほど。そしてそれが噂化した弓塚さんの姿に化けてると」
遠野くんの視線が、私を斬り裂くように貫通していく。
遠野くんを見ていたら、あの日を思い出した──。
初めて遠野くんに合ったのが、体育館倉庫で閉じ込められていた時の事。
あの時に助けられて、本当に心からありがとうって気持ちになって。
遠野くんがしてくれた事にとても感動して、私も誰かを助けられる人になりたかった。
助けて、助けられて。そうして人の輪が巡っていくように。私が誰かを助け続けて、そうして疲れ果てたとしても。遠野くんがきっと助けてくれるから。だから──。
「──遠野くんになら、いいかな」
遠野くんを見つめながら、ぽつりと小声で呟いていた。
一方遠野くんは目を閉じて少し思案した後、眼鏡に手をかけて外しながら。
「質問するけど。あの時、体育館倉庫で閉じ込められていたあの日、あの時中に何人の人がいた?」
それは、この場では私と遠野くんしか知らない筈の出来事。
いくら土地の人の情報を依代とすると言っても、過去の事までは知らないはず───。
「え、3人?だったよね?」
オドオドとした様子で偽物が先に答えてしまった。
──どうしよう?!
今から何を言ってももう遅い!
けど、言わなきゃもっと駄目!
なにか言わないと!
「わ、私も3人だって!3人だって知ってるよ!放課後で下校中の遠野くんがたまたま………」
自分で言葉を振り絞りながら、これは苦しい言い分だって事を実感し始める。
「もういい、わかった」
遠野くんが眼鏡を外すと同時に、ナイフを取り出した。
一生懸命やってきたけど、頑張ってきたけど。
──────もう、終わりかな。
遠野くんは、私の方に向かって駆け出した。
鋭い目つきでナイフを構えてこちらに向かって掛けている。
あの速さだとあと数秒で私のところに来る。
──遠野くん、ほんとに運動出来たんだ。
最期だというのに、漠然とした感想。
そんな事を思ってる内に、私の目の前に死が訪れた。
一瞬の
刹那、遠野くんは既に目の前にいなくて。
ふわり、と風が私を包む。
「「───え?」」
私とタタリが同時に間の抜けた声を上げていた。
振り返る。
遠野くんは、片手で側転していた。
瞬間、腕が振るわれる。
凄まじい速度でナイフを放っていた。
そのナイフの先は───私にではなくタタリに。
ナイフを向けたこともさる事ながら、人間離れした速さで回避運動を取りながら同時にナイフの投擲。遠野くんがそこまで常識ハズレだったという事をこの時に身を持って思い知り、戦慄から鳥肌が立った。
事態は私が何かを思考するよりも先へと動いていく。
偽物──タタリの方へ向く。
タタリはとっさに腕で守りに態勢を取っていた。
刃が空を切る音が、ナイフの速度を雄弁に語る。
そして──ナイフは、タタリの喉を、腕ごと貫いた。
「───う゛そ」
タタリは目を大きく見開いて、口から血と同時に言葉を吐きだす。
はっ、と視線を遠野くんのいた所に戻す。
そこにもう彼はいない。
急いでタタリの方に向き直る。
タタリの頭に手を置いて逆立ちするような形で、遠野くんはもうそこにいた。
そして──独楽のように回転した。
ぐきり、と鈍い音が響き渡る。
首が、変な方向へと折れ曲がる。
その折れた部分から、頸の骨が露出して血が吹き出る。
その様子はまるで赤い花が咲き乱れるようだった。
丸く、大きな月に背面飛びする遠野くん。
まるで、自分が夢物語を見ているようで。
その光景から、目が離せなかった。