コロサン短編集 作:─────
前提その一
この時空のコロンビーナはパイモンが弓と例えた方法で次に行こうとした。
前提そのニ
その一が失敗。
コロンビーナは大きく消耗。
前提その三
方法が自分の想定したものではなかったのでドットーレは介入に失敗。
以上を前提としてお読みいただければと思います
満月、クーヴァキの満ちる祈月の夜。
サンドローネは祭りの喧騒に囲まれながら月を見上げていた。
この夜、この地に満ちたクーヴァキの力を用いて、サンドローネの友人であり執行官であった──二つの意味での──少女、コロンビーナは故郷である月へと旅立ったのだ。
『私、きっとまたサンドローネに会いたくなる』
それは、コロンビーナがサンドローネに残した最後の
そして、それに返答できなかったことがサンドローネのわずかな心残りでもあった。
だからこそ、サンドローネは彼女がいるであろう月に小さな声であの時言えなかった返答を呟いた。
「私……私もまた、あなたに会いたい。コロンビーナ」
「──そうなんだ。私と同じ気持ちだね、嬉しい」
「えぇ、そうよ。癪だけど、あなたといた時間は悪くなかっ…………?」
背後から聞こえた儚げな声にいつもの癖で返答して、その途中でサンドローネは全ての動きを止めた。
身体と頭脳、サンドローネの全ての動きが停止したのは久しぶりのことだった。
「……へ?コロンビーナ?」
「うん、ただいま。サンドローネ」
「な、な、な……」
「……な?」
「なんで帰ってきてるのよあなた─────っ!?」
サンドローネの大声に周囲の人が一瞬だけ二人に視線を向けた。
しかし、コロンビーナにそれを気にする様子はなく、彼女は笑顔でサンドローネと距離を詰め、彼女を抱きしめた。
「本当はね、月に行くはずだったんだけど……失敗しちゃったから」
「……失敗?」
「うん、力が足りなかったみたい。それに、二回目はできないと思うから、お別れを言いにきたの」
「ちょっと待って、二回目は無いのにお別れ?」
「うん。私、また消えちゃうと思うから。だってもう、力が……っ!」
コロンビーナが言い切る前に、サンドローネがその手首を掴み彼女を連れて歩き出した。
「サンドローネ?どこ行くの?」
サンドローネは焦った様子で、彼女に返答すらせずプロンニアを呼び出しコロンビーナと自分を担がせてファデュイの実験設計局へと向かった。
「……ほら!ここよ」
「なにが?」
「いいから!」
サンドローネは一つの狭い機械の中にコロンビーナを立たせる。
そしていくつかの計機を操作してその機械を作動させる。
「……すごい」
その作用にコロンビーナは素直に感心した。
サンドローネが作り上げたそれは、コロンビーナの内側に彼女の存在維持に足る月髄の力を流し込んだ。
「この設計局に残されていた貴重なエネルギーよ。感謝しなさい」
「……ありがとう、サンドローネ」
説明もなしに機械に突っ込み、無理やりエネルギーを注いだサンドローネに対し、コロンビーナは無邪気に感謝の意を伝え、機械から出るとまた先ほどのようにサンドローネを抱きしめた。
しかし、そこから数十秒の時が経つと、コロンビーナから悲しげな息遣いが聞こえてくる。
今にも泣きそうだということが、雰囲気で伝わってくる。
「サンドローネ……私、結局家に帰れなかった……」
「ふん、何よ……家、家って──」
数瞬の躊躇いの後、サンドローネの腕がコロンビーナを抱きしめ返す。
「ここが家じゃダメなわけ?……大好きって、言った癖に」
尻すぼみな声だったが、抱き合うような距離だったこともありコロンビーナは一言一句聞き逃さなかった。
コロンビーナは顔を上げ、サンドローネの瞳を正面から覗き込む。
その表情は明るく、何より嬉しそうだった。
「私、ここに帰ってきていいの?」
「えぇ、構わないわよ。……何度も言わせないで」
「ふふっ、わかった。サンドローネ、これ以上言ったら恥ずかしくなっちゃうもんね?」
「っ!このっ、少し優しくしてあげたらすぐに──っ!」
顔を赤くして揶揄われたことを悔しがるような様子のサンドローネにコロンビーナは急接近する。
そして、サンドローネは自らの頬に柔らかな温かみを感じ取った。
「……え?──は?」
「これからは、サンドローネのいる場所が私の家。よろしくね、大好きなサンドローネ?」
サンドローネ、本日二度目となる硬直。
コロンビーナはそれを見て満足そうに微笑んでいる。
二人の新たな生活はその日から始まった。