【ペルソナ5 ザ・ドリーム】ラスボスが天使だとそそるものがあるよね。よし、とことん曇らせてあげよう(クソデカ善意)   作:プレイアデス

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契約 4月19日

 起きた抜けに飲むコーヒーは流石に美味いが、今日ばかりは少し味が落ちた。

起床したはいいが、窓に変な生き物がいた。こちらを興味深そうに見ていたが、普通に迷惑なのでご退散いただいた。あまり動物が得意でない僕には災難だったが、癒しを求める人からすれば良き出会いなのだろうか。

 

 朝は流石に冷凍食品を摂る訳にもいかず、仕方なく焼いたトーストを呑み込んで、今日も今日とて学校である。本日は体育があり、非常に面倒臭いが、座学で無為に過ごす時間よりかは満足できる時間だ。

 

(体育でほどほどに活躍した...。♪)

 

 

 そして放課後。今日は特筆すべきこともなく、体育のあとは小論文のテスト、数学と少々学生にはキツイ時間割だった。

 学校生活を終えると、僕はいつも家に直行だ。たまに図書室でいい本が入っていないか探しに行くことはあるが、それ以外は保健室に顔を出すか、玄関へ向かう。

 今日もそのつもりだったが、冷凍食品のストックが切れかけていることを思い出し、通学路にあるスーパーに寄ろうと、少々寄り道をしている次第なのだ。

 

「季節の山菜香る山菜天ぷらうどん...これだな」

 

 山菜うどんなら山菜が香るのは当たり前じゃないかと思うが、まあ分かりやすくていいじゃないか。まあ冷凍よりインスタントで出す方がいいのではないかという意見については、その通りなのだが。

 

「ん?これは...有名カレー店とのコラボ商品か。しかし高いな...富裕層向けじゃないか」

 

 まあ買えない値段ではない。ちょっと懐に余裕があれば買うかな、くらいの設定だし、バイトこそしていないが、親から毎月生活費をもらっている身なので、高校生らしい付き合いもあまりしない僕なら買える。だが、生活費もお小遣いではない。無暗に使うのもはばかられる。ううむ、どうするべきか。

 

「いや、今日の僕は頑張った。体育頑張った。運動部の連中ならモノ食ってるだろうし。これくらいはね」

 

 バスケットに放り込む。レジに通すと、やはりそれなりの値段がしたが、もうそこは割り切ったのだ、躊躇はしない。硬貨と野口をレジに突っ込み、袋に冷凍食品を入れてスーパーを出た。口に出したもの以外にもここ一週間分ほどは買い溜められたので、気分はいい。今なら友人の一人や二人簡単にできてしまいそうだ。

 

 るんるん、今日はカレー、明日はうどん、いい日だな。

 

 鼻歌交じりに帰路につくと、不思議な人を見かけた。首からひもを下げ、ひもには箱がつけられている。通行人に頭を下げて、幾人か箱に何かを入れている。

 

「募金だ」

 

 今の日本ではあまり見ない。もう五年ほど前なら見かけることもあるのかもしれないが、僕はその時ですら見たことがなかった。いつもの僕なら、あのすれ違う通行人たちのように、彼女を無視して立ち去っていたことだろう。一抹の罪悪感すら覚えずに。

 だが、今日の僕はあいにくと気分がいい。それが例え蚊に刺されたくらいで引っ込む小さなものでも、ほんの少し他人に気を掛ける程度にはいいのだ。

 

「募金、お願いします!世の中の救いを求める人々のために、どうか募金をお願いします!」

 

 思わず、踵を返しそうになる。なんだ、その文言は。もっと、こう、かわいそうな動物たち、とか。病に侵される子供たちに、とか。もっとそれらしい何かがあるだろうに。

 まあでも、元々そういう胡散臭いものでも構わないと思って近づいたのだ。せいぜい、いいことをしたという気分をもらおう。

 

「あの、募金をしたいんですが」

「はい!ありがとうございます!」

「まあ、何を目的としているかはわかんないけど、頑張ってね」

「...私たちは、ただ誰かの『救い』になればと思って、この活動をしています」

「『救い』?」

「はい!」

 

 彼女の顔をよく見てみた。

笑顔だ。

 いっそ悪であれ、偽りであれと思うほどに、純粋な笑顔だ。もうそれだけで何人かは救われていそうなほどに。きっと、彼女の言うことは本当で、僕の今のいい気持のように、どんなに小さくとも、なにか僕の知らぬ救いがあるのだろうと思った。

 

「私は...救いの必要な方々に無償で、あるいはほんの少しばかりのお気持ちで...その方の理想を、叶えるお手伝いをさせていただいています」

「そう、ですか。それは、誰にでも?」

「ええ、誰にでも!ただ、管理のために書面に名を記載していただく必要はありますが...」

「...いつか、僕も頼みごとをするかもしれない。紙はあるかな?」

「はい、はい、こちらに!」

 

 彼女は背中に背負うサックから、するりと紙を取り出す。書面には、『甲』とか『乙』とか...所謂契約書だろうか?そのようなものが書かれている。内容としては、この個人情報は『救い』以外には使用しないと書かれている。それだけだ。名前を教えてもらう、というだけの。

 

「えっと...睦月、雅さん?」

「そういうの、口に出さない方がいいよ」

「あ、そうですよね、すみません、では、救いがあらんことを!」

 

 ひたすらに無垢な笑みを浮かべている彼女に手を振り、帰路につく。

 今、僕の胸には心地よいような、それでいて何か恐ろしいような感覚が湧いている。

 これが募金をしたことの満足感と喪失感からくるものなのか、はたまた無意識的に彼女に何かしらの思いを抱いているのか、というのはさっぱりわからないが、ともあれ今日の僕は善人である。

今はそれでいいのだ。

 

 

★★★

 

 

 どこから流れているのか、美麗なピアノの音色と、天上の歌声が聞こえる。

ともすれば眠りを誘いそうな心地よさなのに、不思議と意識が覚醒してくる。

 

「ここは...」

 

「『ベルベットルーム』だ、我が信徒よ。以前の授業で話したはずだ。覚えていないのか」

「お目覚めですかな。どうやら、契約を確かなものとしたご様子。これで名実ともに、貴方様は我がベルベットルームの客人となりました」

 

 また、あの『イゴール』と名乗る鼻の長い老人と、その従者を名乗る『ディオーネ』なる女性が教卓にいる。

 

「来る未来...貴方様には大いなる厄災...いえ、あれは一種の救済とも、言えるのかもしれませんな。しかし、どうであれ、貴方様の下には逃れ得ぬ運命が待ち受けている」

「『そんなのは嫌だ』」

「残念ながら、貴方様が契約をした時点で決定したことなのです。いえ、その契約すら、人には知り得ぬ運命が決めていることなのかもしれません」

「『どうにかできないのか』」

 

 どうやら、ここでは思考の枷が随分緩くなってしまうようだ。二極化した、あるいは単純化した言葉しか口にできない。

 

「教えを乞うとは、信徒らしくなってきたではないか、我が信徒よ」

 

 白く、しかしどこか透明感のある長髪をかき上げながら、ディオーネが口にする。

 

「歴史を見れば、本を見れば、人とは古来より運命に抗うものだ。当然、それは信徒も例外ではない。最近手に入れた書物には、絆とはパワーであると記載されている。そういうことだ」

「『...絆?』」

 

 イゴールは教卓の上に組んでいた手を組み替え、僕が口にした疑問に答える。

 

「そう、絆でございます。絆の力こそ、貴方様の心に力を与え、知恵を与え、勇気を与える。むろん、それは貴方様が運命に抗うことにも、役立つのでございます」

「『しかし、どうすれば』」

「それは―――。と、そろそろ時間が差し迫ってまいりました。今回はこれまで、また次の機会に致しましょう」

 

 イゴールがそう言うと、意識が遠のいてゆく。

いや、正しくは、はっきりとしていくのだろう。

 

「では、次までの宿題だ。運命に抗う力を手に入れろ。どんな形でもいい」

 

 もはや、ディオーネの声も聞こえない。しかし、それは果たされるものだと確信があった。

 

 運命に抗うということもまた、己の運命であると。

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