この素晴らしい魔道具店副店主に幸福を!   作:白峰 真紀

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第2巻
第9話 冬でも未だに休店という2文字は無い


 

 もうすぐアクセルに冬が来る。

 なのでこれから冬を越すために色々と準備をしなければいけない……のだが

 

 

 「………で?何か言い訳は?」

 「ち、違うんです。これは絶対に売れま」

 「そう言って、去年全く売れずに借金が重なったけど」

 「で、ですが今度こそ!!今度こそ上級職冒険者の方がこの商品を買ってくれます!!」

 「……そこに座りなさい」

 「え、でも」

 「いいから座れ」

 「…はい」

 

 

 静かな、だが怒が篭った声でユウヤはウィズにお説教していた。その理由はウィズが仕入れた商品である。

 

 ウィズが仕入れたのはモンスター寄せの香水だ。似た商品にデコイ強化のポーションがあるが、これはそれと似た効果の香水版の商品だ。これを使うと、ありとあらゆる生き物から親の仇を見るように襲われる。ここまで聞けば分かると思うが、この時点で欠陥品だ。

 さらに加えてこれは親友や肉親までも対象となる。そう、言わば自分以外全ての人が敵になるという代物。本当に孤独になりたい人にしか需要がないマニアックな一品だ。

 

 大体冒険者達のほとんどはパーティを組んでいるので、これを浴びて全員の攻撃を集中させ、1人で耐えようとするバカはいないのだ。……あの金髪ドMクルセイダーは例外として。

 

 なので、去年これを購入した際は色々と説教して返品したのだが、この店主は懲りずにまた今年も購入したのだ。怒りを通り越して呆れている。

 

 

 「で、ですが効果は確かなんです!なのでいつかはこの商品を買ってくれる人が………!」

 「じゃあボクが全部買おう」

 「え?」

 

 ユウヤの思わぬ発言に素っ頓狂な声が出る。

 しかし次の発言にだんだんと顔が青ざめていく。

 

 「そして、それを浴びてウィズに憎しみの目を向けられて、ボクは泣く泣くこの魔道具店を辞めることになって……」

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!もう2度と購入しないのでお願いですから見捨てないでください!!」

 「すごい必死に引き止めるな……冗談だよ。けど次やったら本気で実行するから」

 

 だから離してくれ、と大声でしがみつくウィズを落ち着かせようとした。

 

 

 その後、ウィズの声が聞こえていたのか、ユウヤはご近所さんから興味津々な目線を向けられた。痴話喧嘩だと噂されていたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何故か近所の人達から恐怖……と言うより興味の目線を向けられ、話しているのに疑問に思うが、あまり気にせずユウヤは冒険者ギルドへ入った。

 

 いつも多くの冒険者達で賑わっている冒険者ギルドも、今日はあまりいなかった。掲示板の依頼の難易度も高くなっている。

 

 冬になると多くのモンスター達が冬眠に入る。年中よく見かけるジャイアントトードですら冬眠に入っている。そして冬でも活動する生き物達は大体強力な者が多い。腕利きでなければ、ほとんどの冒険者達はクエストを受けたがらない。よって家で春が来るまで大人しく過ごすのだ。

 

 だがそれは普通の冒険者達の場合。

 ユウヤはそんなもの知ったことかと、いつもと変わらず依頼を受けに来た。

 

 そして同じく依頼を受けに来た冒険者パーティがここに。

 

 

 「カズマ達か。そっちも依頼?」

 「あぁ。ほんとはすげぇ行きたくないんだけど……あ〜家にいたい」

 「普通の冒険者ならそうだが……依頼を受ける原因は?」

 「アクアが酒場で作ったツケが溜まりまくったせいだ」

 「大体分かった」

 

 

 あの水の女神は酒場でよく見かける。そこで側に飲み干したジョッキが沢山置いてあるのも見える。

 多分酒を飲みすぎて払えず、ツケておいた分が溜まりに溜まってデカくなっていき、このままではマズいと考え、稼ぐために高難易度の依頼しかない今、渋々稼ごうと考えているのだろう。何をやっているのだか。

 

 「まぁ、頑張ってな。冬の依頼は大変だと思うけど」

 「あぁ。ったく、あいつは限度ってもんを調べてくれ……」

 

 この前楽しそうで羨ましいと言ったが、正直酒のツケが払えなくなった、とかそんなしょうもない理由で迷惑がかかっているカズマに思わず憐れみの目を向けた。

 

 

 

 そういえば最後、雪精討伐の文字が見えたが、一見簡単そうに見えるその依頼の実情を知っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 今日受けた依頼は白狼の群れの討伐だ。

 普段は一撃熊と縄張り争いをしているのだが、今年は自分が一撃熊を討伐して数が減ったため、白狼が増えている。普段はあまり見かけない場所でも出現しているため、被害を増やさないよう依頼が出された。

 

 そして現在、寒い空気を歩く中、ユウヤはまたリエスに話しかけられていた。

 

 

 『ユウ〜。今日は私も出たい〜』

 「【はいはい。あの熊のときと同じな。別に良いけど、今日は別々にするから】」

 『え、むしろ嬉しいわよ!よりいっぱい戦えるじゃない!!』

 「【この戦闘狂め】」

 『ユウも人の事言えないと思うけど』

 

 

 心外だ。ボクはお前のように戦いを楽しいと思う感性は持ち合わせていない。

 

 そう言ってもリエスの目は変わらなかった。ヤメレ。

 

 

 「取り敢えず呼ぶ。……『コーリング』」

 

 

 その掛け声により影が伸びて近くに移る。怪しげな黒い煙を発して形が変化していき、やがて人が姿を現す。

 

 この前と違い、白と黒を基調として一部が破けたり、穴が空いたアメリカンスリーブを着て、紫と赤のオッドアイの姿となって出てきた。

 

 

 「私、参上!」

 「分かった分かった。それじゃあ行くぞ」

 「はいはーい!」

 

 

 ユウヤは『灼狐やくこ』にした妖狐を引き抜き、リエスは腕に生やしたトゲで群れへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちなみに決着はあっという間に付いた。何故なら

 

 

 

 

 

 「……『灼斬』」

 『アォオオオン!?

 

 

 ユウヤが灼狐で大きく一振りし

 

 

 「ハッ!それ!うぉラァ!」

 「アォン!?」「ォォン!?」「ウォン!?」「ウゥルン!?」

 

 「……最後はアンタだけね」

 「アォアォアォオオオオン!!??

 

 

 リエスが腕の大きなトゲを振り回し、通り魔のごとく次々と倒していったためである。

 

 ……ハッキリと言ってこの2人を相手した白狼側が可哀想だ。リエスの後ろには血まみれの死体が所々に転がっている。

 

 

 「終わりだ。帰るからもう戻ってくれ」

 「えぇ〜、私、まだ物足りないんだけどぉ〜」

 「つべこべ言うな。帰った帰った。『リターン』」

 「もう戻っちゃうの〜。早く次も出たいなぁ」

 

 掛け声でリエスの姿が溶け、再び影に戻るとユウヤの足にくっつく。

 

 「……やっぱりエグいな」

 

 目の前の惨状にそう呟くと、その場をテンペストですぐ離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 討伐を終え、少し離れた場所で昼飯を作っている途中、雪が降って来た。天候から今日は降るかもしれないと思っていたが、予想よりも早めに降って来た。

 雪を眺めていると昔のことを思い出す。それも前世、地球にいた頃の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 “なぁ姉さん。また作り直すのか?()、ちょっと疲れてきたんだけど……”

 “だってこれじゃまだ天井が小さいよ。私は行けるけどユウは通れないでしょ”

 “ユウって呼ばないでくれ。……ったく、もう直ぐ22歳になるっていうのに、まだ子供みたいにはしゃいじゃってさ”

 “じゃあユウはこんなことするお姉ちゃんのこと嫌い?”

 “嫌いじゃない”

 “即答じゃん。じゃあもうちょっと付き合って。完成して中に入るまで”

 “それ結局完璧に完成するまでじゃん……良いけど”

 “ありがと、ユウ!”

 “だから……あーはいはい。わーったよ、姉さん”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと1時間半もかけてかまくらを完成させた。中は狭かったが、意外と暖かかった。

 

 

 今となっては眩しくてもう戻れない楽しい思い出だ。懐かしい。

 ふと思い出すと、次々と雪での出来事が蘇ってくる。楽しかったことも辛かったことも。

 

 

 思い出を断ち切るようにブンブンと頭を振ると、完成した料理をバクバクと口に運ぶ。話題を逸らすように。

 

 

 

 熱々で口の中をうっかり火傷し、水で冷やしている頃、影ではリエスがちょっと笑ったのにユウヤは気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 冒険者ギルドに帰る頃には3時を過ぎていた。そこで依頼完了の手続きをしていると、カズマ達が帰ってきた。

 

 が、その顔は何処となく疲れている。察するに十中八九あの精霊に出会ったんだろう。

 話しかけて聞いたところ、驚くことが分かった。

 

 

 冬将軍に出会い、やり過ごそうとしていたとき、なんとカズマが死亡した。が、水の女神がリザレクションという最高級の回復魔法を発動させて生き返らせたそうだ。

 

 そういえば、あの女神は一応アークプリーストって上級職で回復魔法を使えるのだった。だがリザレクションとかいう強力な魔法を使えるとは思ってもいなかった。流石女神。

 

 そんなトラブルもあったが、取り敢えず女神の酒場でのツケを払える分までは稼げたようだ。そしてカズマはしばらく引きこもるらしい。気持ちは分からないでもないが。

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー」

 「お帰りなさいユウヤさん。その……ちゃんと返品してきました。お金はだいぶ失っちゃいましたけど……」

 

 帰るとウィズがヨソヨソしく話しかけてきた。まだ自分が怒ってると思ってるのだろうか。

 

 「大丈夫。今日稼いできた分も含めれば元に戻るからそんなに気にしなくていいよ。次に同じミスをしなければ良いだけだから」

 

 それを聞いてウィズの表情が晴れていき、手を打った。

 

 「ありがとうございます。実は、その分で別の商品を買ってきたんです。もちろん、冒険者のお客様ならみんな欲しがる一品ですよ」

 

 

 その発言にユウヤはピシッと硬直する。普段なら全く気にしないのだが、あんなことが起こってから商品を仕入れたということに思わず衝撃を受けていた。

 

 「……何を買ったの?」

 「こちらですよ。マナタイトです」

 

 そうして中に幾つもマナタイトが入った箱を持ってくる。それを見て少し安心する。幸い以前のように最高品質のマナタイトは買い占めていなかったため、それほど金はかかっていないだろう。まぁこれも見る限り品質は良いg………

 

 

 「(ん?)」

 

 

 そこでユウヤがある事に気づき、恐る恐るウィズに聞く。

 

 「……ウィズ、今回買ったマナタイトの品質は?」

 「品質ですか?本当は最高品質のマナタイトを買おうと思ったのですが、残念ながらもう売り切れていたので、その次に高品質のマナタイトを購入しました」

 

 それを聞いて頭を抱えた。幾ら品質が良くても、売る場所が悪ければそれはゴミとなる。王都などでは良く売れる需要ある物だが、ここ駆け出しが集まるアクセルでは宝の持ち腐れだ。

 

 「……買うよ。ボクが全部」

 「良いんですか!?ありがとうございます!!」

 

 結局、ユウヤが全て買って利益を出した。ニコニコと笑っているウィズを見て、自分があんなに怒ったあとでも商品を仕入れる彼女のポジティブさには呆れ、思わず溜め息を出した。

 

 




 
 彼は全くお金が貯まっていかないのですが、それは何故でしょうねぇ………(スッとぼけ)

 まぁそれでも銀行に3270万エリスは溜まっているんですが。
 (年初めは2億エリスくらいあったけど)


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