この素晴らしい魔道具店副店主に幸福を!   作:白峰 真紀

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 さっむい!!

 (執筆当時1月上旬。氷点下とかいうクソ寒い気温で手が悴んで動かん)


第13話 店の常連

 

 ある日の昼間、ユウヤは細い路地裏の奥へ進んでいた。光があまり入らず、薄暗い雰囲気の光景を目に流し見ていると、だんだんと道幅が広くなる。やがて正面に何の変哲もない小さな飲食店が見えてくる。

 いつ見ても都会の裏通りにポツンとある隠し店みたいだな、とユウヤは思った。

 

 ガチャリとドアを開けると、オレンジ色のカーペットが敷かれ、白いテーブルシートが重なった机が幾つも置かれており、まさに大人のお店を思わせる内装だ。

 

 

 中の従業員は全て女性しかおらず、そのまま外を出歩いたらわいせつ罪で捕まりそうな魅惑の格好をしており、そして角や尾、翼が体から生えている。

 

 そう、彼女らはサキュバスだ。全てがそういう訳ではないが、戦闘力もさほどないサキュバス達は人間達との共存共栄の関係を築いていこうとしている。そのために、男性冒険者達に良い夢を見させ、精気を吸って性の欲望を解消させる代わりに、自分達の存在を見逃して貰えるようにしている。ちなみにサービスは三時間で5000エリス。地球の風俗店よりも遥かにお得だろう。多分。

 

 実際に見せて貰える夢に制限はほとんどないため、日々欲求不満な多くの男性冒険者達は、ここに来て夢を見させて貰うのが習慣になっている。一応表向きはスイーツ店のため、何か法に引っかかるようなこともない。

 

 

 だが、それは普通の男性冒険者達。

 普段から性欲を持て余してなどいないユウヤは夢のサービスは利用しない。彼の目的は表向きのスイーツだ。裏向きの営業が本業とはいえ、スイーツのメニューも他の飲食店と大差ないくらいのメニューが多くある。ユウヤはそれを楽しみにここに来ている。(ちなみに、スイーツのメニューは一部ユウヤが提案したものもある)

 

 

 3年前、とある仮面悪魔と会話をしていたときにこの街のサキュバスの存在を知った。初めは余り興味がなかったが、少し経ったあとに気づいた。経営しているお店の表向きの営業がスイーツ店だということを。

 

 聞くと、ここからでは中々採れない食材を使ったスイーツも沢山ある。甘い食べ物が好きな自分にはピッタリの店だ。そう考えたユウヤは早速店を訪れた。

 そこから何度も入店するうち、自分が知っている異世界のデザートのレシピを教えてメニューのレパートリーを増やすなど店に貢献していき、今では常連客になっている。

 

 

 「いらっしゃいませ〜!」

 

 入店に気づいた一人の従業員がこちらへ近づき、視線を向ける。

 

 「あ、ユウさん!来てくれてありがとうございます!ささ、こちらへどうぞ!!」

 

 何年も通っている常連なだけあり、従業員からはお得意様な扱いを受けている。案内してもらった席に座り、メニュー表を開くと何にしようかと選び始める。とりあえず安定の味、プレーンシュガードーナツとコーヒーのセットを初めとする定番品を頼んだ。

 

 「お待たせしました!ご注文の品です!」

 

 数十分後、両手にトレイを持った複数の従業員が運んでくる。楽しみにしてるのか、スイーツセットをキラキラとした目で追いかけている。

 テーブル上に置かれると、待ってましたとばかりに早速食べ始める。

 

 まずはプレーンシュガードーナツとコーヒーセットから味わう。

 紙ナプキンでプレーンシュガーを手掴みして口に運ぶ。粉砂糖と穴あきドーナツの甘さが上乗せされて甘さが口いっぱいに広がって美味しく、コーヒーも一緒に飲むと苦さも加わって丁度いい味になる。

 次はバウムクーヘンに手をつける。しっとりとした軽い食感が旨い。ハチミツを加えると、優しい甘さに早変わりしてこれまた美味しい。

 

 他にも、シュークリームやマカロンなどにも手をつけてパクパクと食べる。美味しそうに笑顔で食べるユウヤの姿に、ある者は顔を紅潮し、ある者は微笑ましく見守っていた。

 

 

 お代わりの追加注文もして30分が経ったあと、ユウヤは満足して立ち上がる。

 入り口近くの受付で懐から財布を取り出し、お会計を済ませるとくるりと振り返り、

 

 

 「いつも美味しいスイーツセットの提供してくれて助かる。また楽しみにしている」

 

 

 礼を言って店を出る。その言葉にほとんどのサキュバスが目を奪われた。

 

 

 なお、その様子に他の男性冒険者達は羨望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「あ、ユウじゃん」

 「またカズマか」

 

 もはや最近恒例行事となってきた、カズマと偶然の出会いにも慣れてきた。

 だが今日は違う。隣に街で一番のチンピラ冒険者ことダストと、そのパーティー仲間のキースがいる。何を企んでいるのかは知らないが、問題だけは起こさないで欲しいと思う。

 

 「で、隣にはチンピラ冒険者達か。君達は何をやらかそうとしてるんだ?」

 「俺達が悪事を働く前提で言ってんじゃねぇよ!!ただ例の店に今から一緒に行くだけだ!!」

 「へー、君達もデザートセット食いに行くのか。あそこのデザートは旨いから、是非食べてみてくれ」

 

 

 何故かダスト達がポカンとした表情を浮かべる。別にそんなおかしな事を言ったつもりはないが。

 

 

 「………え、おま……マジで言ってるのか?」

 「キース、思い出せ。こいつはアレだアレ」

 「……あーそうだよな。あんたには店主さんがいるもんな」

 

 

 信じられない物を見るような目から、やがてケッと地面に唾を吐いた。ただ答えただけなのに、ここまで酷い対応はないんじゃないのだろうか。

 

 

 「そりゃあんたには店主さんがいるからいいけどよ。俺達はその………まだ縁のねぇ話だ。だから裏の営業を利用するんだよ。表向きの営業であの店訪れるなんて、あんたくらいしかいないだろ」

 

 

 ユウヤは訳が分からない、と首を傾げる。確かに女性には教えられないが、男性限定の秘密のスイーツ店だと考えれば皆普通に入店すると思うが。それに、別にウィズや他の女性と一緒にいても()()()()()()()は高まりはするが、別に発散するほどではないので、自慰やサキュバスによる裏の営業を利用することはない。

 

 

 「………あーダメだ。こいつ完全に冷めてやがる。何言っても無駄だ」

 「ユウ……お前マジか」

 

 

 ユウヤの言葉にカズマまで可愛そうな物を見るような視線を向けてきた。少し失礼ではないのか。

 

 

 「まぁ良いか。あ、分かってると思うが女性達にこの店を伝えるのは……」

 「分かっている。秘密にしておく」

 「もし伝えてサキュバスを追い返そうもんなら、この街の男性冒険者達を全員敵に回すことになるんだからな。忘れんなよ?」

 「それに、ボクもスイーツ店が無くなるのは嫌だから。言われなくてもバラすつもりはない。流石に全員を相手取るのは面倒臭いしな」

 「面倒臭いで済むのか。怖いとかじゃなくて」

 

 

 一応(最近忘れられてるが)アクセル一のハイウィザードと呼ばれている。何人束になっても駆け出しの街の冒険者達くらいなら、そこまで苦労なく相手取ることは出来る。

 とはいえ、死なないように魔法の威力を加減するのは難しい。妖狐や金属操作の能力ならそういう心配はないのだが、人海戦術で来る敵だと、連続攻撃を避けて攻撃するのは体力を使う。だから複数人を相手取り、殺さないようにするのは無駄に技術が高く、細かい動作が必要なので面倒臭い。

 

 

 と考えていると、あることに気づいた。

 

 

 「カズマ、お前本当に裏の営業を利用するのか?」

 「ユウ。俺の仲間は全員ポンコツだが、見てくれ美人ではあるんだ。そんな奴らと常に一緒にいれば、自然と溜まっていくんだよ。分かるだろ?」

 

 そういう意味で聞いた訳ではないが……本人がソワソワと楽しみにしているので、それ以上言わないでおく。サービスを受けられず、失敗する未来しか見えないが、これも経験だ。そう考えたユウヤは黙秘することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 カズマ達と別れたあと、ユウヤは魔道具店へと寄る。

 

 

 「来たよー」

 「あ、ユウヤさん。丁度良かったです」

 

 果て、丁度良いとは何だろうか。疑問顔を浮かべると、ウィズは手に持っていた封筒を向ける。

 

 「バニルさんから手紙が届いたんですよ。私の分とユウヤさんの分が」

 

 あの仮面悪魔はちょくちょくこちらへ手紙を寄越してくる。いつもはウィズへ送るが、今回は珍しくユウヤにも送ってきた。

 一体何が書いてあるのか。受け取った封筒の付箋を外し、中の手紙を取り出す。

 

 

 『────久しぶりであるな。有能副店主。店の赤字はどうなった?どうせあの商才ゼロのポンコツ店主のせいで減るどころかむしろ増えてるであろう。貴様が手を回して減らしてくれていると助かるのだが。………さて、本題に入るが、近々我輩は魔王の命もあり、久々に街へ行くことにした。日付は○月▲日。よろしく頼むぞ』

 

 

 普通の手紙だった。あの悪魔の事だからもっと人を煽るような文を書いていると予想していたため、少し拍子抜けした。と思っていると、紙にはまだ続きがある。

 

 

 『………ところで、最近貴様が恋心を抱いた者との仲は進んだか?まぁ、かれこれ5年以上も一緒にいるというのに未だに行動に移せぬヘタレの貴様の事だ。どうせ進んでおらぬだろうな。フハハハハハハハハハ!!

 

 

 最後まで読み終えた次の瞬間、ユウヤは手紙を灰化アッシュする。結局いつも通りのバニルだったとユウヤは軽く舌打ちするのと同時に、ウィズもライト・オブ・セイバーで手紙を切り刻んでいた。

 そうして、お互い形もない紙の姿を見て数秒間沈黙したあと。

 

 

 「バニルはなんて言っていた?」

 「近頃この街に来ると言っていました。そっちも同じでしたか?」

 「あぁ。それだけ。そして自分達はもう読み終えたから手紙を処分した。そうだよね」

 「はい。それ以上は何も書かれていませんでしたので、処分しただけです」

 「よし、これで話は終わりだ」

 

 

 そう淡々と会話をし、これ以上触れることなく別作業に入る。

 

 お互い何が書いてあったのか話したくない。

 そうして通じ合った2人は見事連携して一切触れることなく回避した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ー次の日ー

 

 

 「あれ、ユウヤさん?こんな朝早くに。………というか、嬉しそうですね。どうしたんですか?」

 

 早朝6時、ユウヤが家の前で作業していると、散歩でもしていたのか厚着を着こんだウィズが白い息を吐いてこちらへやってきた。が、ユウヤは反応せずに作業を続ける。

 

 「あの、ユウヤさん?」

 「………ん、ウィズか」

 

 もう一度声をかけると、今度は反応してウィズへ視線を向ける。

 

 「ゴメン。集中してた」

 「それは見てて分かりますけど。今は何をしているんですか?」

 

 ウィズの質問にフッフッフ、と笑うと嬉々として話す。

 

 「もうすぐ……もうすぐ完成するんだ!1年半前から製作し始めて、設計図を書いたりガソリンに代わる燃料を見つけるのに苦労して計画が何度も頓挫しかけて。それでも諦めずに必死に製作し続けた物が遂に……………!!」

 「は、はぁ。なるほど……それが前から言っていた『ばいく』ですか?」

 「そう!これで移動手段が増えてだいぶ楽になる………!!」

 

 熱烈に説明するも、ウィズはあまり理解出来ていなかった。それどころか、普段よりテンションが高いユウヤに少し困惑していた。

 

 「まぁ口だけじゃ分からないからね。塗装が終わったらあとで見せるよ。楽しみにしてて」

 「わ、分かりました……」

 

 そのままウィズが家へ入ったあとも、ユウヤは浮かれていた。バイクに乗って走ったときの疾走感。風の気持ちよさ。それらを想像し、走れることを楽しみにして待っていた。

 

 

 

 

 

 『緊急!!緊急!!デストロイヤー警報!!デストロイヤー警報!!機動要塞デストロイヤーが現在この街へ接近中です!!冒険者の皆様は準備を整えて冒険者ギルドへ!!街の住民の皆様は直ちに街の外へ避難してください!!』

 

 

 

 

 

 ……この緊急速報により、ドライブの予定はすぐさま吹っ飛んだが。

 

 





 ちなみにGoogleでプレーンシュガーで検索したら、まさかの架空のフレーバーでした。13年越しに初めて知ったわ。



 ・灰化アッシュ:名前の通り何でも燃やし尽くして灰化する。任意で効果は変更が可能。燃やし尽くして炭化する物もあれば、色を灰色や黒色にすることもある。


 評価と感想待ってます。

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