しとしと
しとしと
あめがふっていた。
ペンカンペンカンと金ダライが賑やかな演奏を奏でる。
それ以外は静かなものだった。
大所帯のはずの兵舎は静まり返り、常の賑やかさはない。
おそらく誰も彼も、心地良い雨音を子守唄に昼寝を決め込んでいるのだろう。
ひっつきあった誰かの体温が心地よくて、うつらうつらとまどろむ。
古毛布の埃っぽい匂い。
湿った木の独特な匂い。
寝息に寝言。
穏やかな時間が流れていた。
夕刻。徐々に騒がしさが戻ってきた。
三々五々と起き抜けがうろつき出し、提督も欠伸をしながら今日の当番を出迎えに港へ出向いた。
待つこと暫し。港湾直近の警邏に出した巻雲が大泣きして帰ってきた。
「うわーん!司令官様のばかぁ~~!」
「おう巻雲、帰ったか」
雑巾行きしかないほど破れた服に、黒煙を吐き出す艤装はものの見事にへん曲がっている。巻雲は仮にも提督である彼に装備を投げつけ、びえーんと夕雲にしがみついた。
「あらあら、巻雲さんたらこんなに泣いちゃって」
ススまみれ海水まみれで引っ付かれた夕雲といえば、嫌な顔一つせず、流石の包容力で抱き返した。これができる人物は、残念ながら彼の艦隊にはそういなかった。
うーむ。誰なら優しいかと首をひねった彼を、夕雲は軽く咎めた。
「提督?巻雲さんに謝るのが先じゃないですか?」
「ああ、すまん巻雲。さすがに一人は厳しかったか」
「あ"だりまえ"でず!たっだひどりは、ざびじがっだのですー!」
鼻水でえらい事になっていた。夕雲が甲斐甲斐しくベソかき巻雲の世話を焼くのを見つつ、あまり見た覚えの無い反応に提督もやや困った。初陣の駆逐クラスってこんなもんだったか?と思い出す。
叢雲『ま、悪くないわね。その調子で頑張りなさい』
霰 『んちゃ』
不知火『もっと骨のある敵はいないの?』
一名以外殺伐としていた。その一名もボケていた。
いやいやあれは俺の緊張を解してあげようとしてくれたんだ、とせめて好意的に思い込もうとする提督。だが霰はいっつもそんな感じでした。無精ひげの生えた顔がゲッソリした。
夕雲が困り顔で小さな子供と大きな子供の頭を撫でていると、連絡用のスピーカーが耳に痛いハウリングを鳴らした。うるさいと三人が耳を押さえて見上げると、底抜けに明るい放送が入る。
『テートクー、どこデスか~?今日のdinnerは金剛の当番デース!』
いつまでたっても治らない
三人は誰からともなく顔を見合わせてへらりとわらった。
「帰りますか」
「帰りましょう」
「そーしましょー。夕雲姉さん、手をつないでください」