……転生って本当にあるんだなぁ。
しかもポケモンの世界で…戦争真っ只中。
はは…笑うしかねえ。
ポケモンはポケットモンスターの略称。
世界的に有名であり代表ポケモンのピカチュウを知らない者はいないと知らしめられているほど。
ゲームを殆どやらない俺でも嗜んだし知ってるくらいだ。
……本来ならポケモントレーナーになってさ。ポケモンと共に旅をしたり学園生活を謳歌したりと…楽しめたんだろう。
……ゴツゴツの鎧に剣と盾を装備してなければ。目の前に襲いかからんとするヘルガーがいなきゃ…ね。
……時代が時代だよ。
ここはカロス地方…しかも3000年前。
カロス神話真っ最中とか聞いてねえけど!?
子供の頃はやけに古い時代に生まれてんなぁ…みたいにのほほんとしてたけど。
徴兵されて戦地にぶち込まれて…嫌でもわかるわけですよ、ええ!
人と人の殺し合い、ポケモンとポケモンの殺し合い。……人とポケモンの殺し合い。
視界には人とポケモンだった亡骸が落ちている。とてもじゃないが見てると胃になにかが込上げてくる感覚が…途端にヘルガーの顔面ドアップ。
「グルァッ!」
ちょちょ!?…殺し合いとかできるわけねぇだろ!!
ヘルガーの牙を盾で防ぎ後退る。
…牙が燃えてたしほのおのきばじゃないですか!やだー!!
盾もヒビ入ってるしさ…!
こちとら前世は学生の今世は医者擬きだぞ!?
…俺は争うつもりはない!それに…殺したくも、ない。…気持ちを伝えたところでヘルガーは牙を剥き出しに殺意を向けている。
逃げるにもクッソ重い鎧が邪魔をする。
てかカロス神話はわかるけど…戦争相手はどこなんだ?
そもそもなんで急にカロス地方へ攻めてきた?…何もかもが分からねえよ!!
…またくる!…このままじゃ……!
盾を構える。ヘルガーの真っ赤に燃えた牙が……。
「グゥ!?」
破裂音と共にその場で倒れ伏した。
「大丈夫か!?」
同じく徴兵された仲間であろう兵士が銃を片手に駆け出してくる。…ありがとう、助かった…けど……。
ヘルガーを見下ろす。
腹部から血を流し呻き声を上げている。
兵士は銃をヘルガーの頭へと向けた。
それを静止し剣と盾を捨ててヘルガーの前でしゃがみ…腹部を押さえる。
…よし致命傷では無さそうだ。
このままじゃ出血多量で死に至るが…助けることはできる。
「お、おい…この
勿論この時代にポケットモンスターなんて名称はない。
オーキド博士……この場合はラベン博士が命名したのか?
分からないけど…皆はマモノと呼ぶ。
……分かってる。分かってる…けど、さ。
俺はこんな世界を望んじゃいない。
ポケモンの世界にも歴史はあるんだろう。
それはもう血に血を重ねた…暗い歴史がさ。
こんな世界に生まれなきゃポケモントレーナーになってポケモンバトルをしたかった。…旅立ってしたかった、さ。
今も生まれた時代を恨んでいる。
……俺は主人公じゃない。モブ役…かすら怪しい。
だけどできることはあるはずだ。
それが……これだったんだよ。
鎧が邪魔だ。甲冑を脱ぎ捨て肌着を破りヘルガーの腹部にキツく巻き付ける。
苦しさに嗚咽を漏らす。…その間も死体が積み上がっていくのがわかる。
ああ…俺はヘルガーしか救うことはできない。……助けてくれた兵士も怪訝な顔をするも直ぐに戦地へと駆け出した。
はは…本当に…クソ喰らえな世界だよな。
……敵前逃亡は…銃殺だっけか。
なら…遠くへ…もっと遠くへ逃げればいい。
カロス地方から飛び出せばいいんだ。
…見つからないぐらい…もっと遠くへ…。
ヘルガーを背負い…戦場から逃げた。
「おい!!逃げるな!!」
すれ違う兵士の怒号を聞き流し…足を早め…もっと…もっと遠くへ……。
……どれぐらい走っただろう。
ただひたすら逃げただろうか。
雨が降り体温を奪っていく。
森の中。大きな木の下で立ち止まる。
ゆっくりヘルガーを木の根の傍に……。
……まだ生きている。
血をたっぷりと吸い込んだ布切れ。
不味いな。……何をしてんだ俺は…。
…医療品なんて持っていない。
全て自宅に置いている。
なにもできないじゃないか。
…はは…俺は……ヘルガーすら助けられないのか。
…これで医者擬きか…お笑いだよな。
「…ウゥ」
ヘルガーが目を開ける。
こちらを見つめている。…殺気や敵意は感じない。
…お前も…好きで戦っていた訳じゃないんだよな。…ヘルガーを撫でる。
次第に小さくなっていく鼓動。
息遣いも弱々しくなっていく…。
ヘルガーの隣で横になる。
……ごめんな。何もできなくて…。
「…クゥ」
…俺はさ。…普通に生きたかったよ。
戦争が起きるまでは…町のお医者さんなんてしてたんだぜ?
それが…なんで…こんなことに。
……眠くなってきたな。
……一緒に寝ないか?
雨で寒いしさ…失礼するよ。
ヘルガーを抱き締める。
血に汚れようと…しっかり…強く……。
…ヘルガーは受け入れてくれた。
頬をひと舐めし…顔を押し付け…ゆっくりと目蓋を落としていく。
……俺も目蓋を下ろし…眠りについた。
おしまい。
「…兵士さんとヘルガーは……」
話を聞いていた少年少女は瞳を潤ませていた。
「…お医者さんだったのに…戦争に行くんだ」
…あの時代は大変だったからね。
今じゃ考えられないだろう。
あ、チャイムがなった。
それじゃ今日の授業はここまで。
「センセー途中からお話ばっかりだったよ!」
「面白かったからまた聞かせてねー!」
…そうだね。
流石に授業をしないと他の先生に怒られそうだから…時間があったらね。
「はーい!」
少年少女…生徒達は元気いっぱいに返事をし椅子から立ち上がり自由行動を始める。
余所目に教材を抱え教室を出る。
自分を題材に物語を作るなんてどうかと思ったけど…ウケているようで良かった。
脚色を付け加えているが…大部分は実話。
俺はカロス神話の中で生まれ…戦場に放り込まれた。
…元医者でもある、し…敵対していたヘルガーを抱えて敵前逃亡を図った。
この後からは違う。
実際は自宅へ戻り…ヘルガーを治療した。
…助けることができた。
ただ…兵士に見つかってしまい、なんとかヘルガーを逃がすことができたが捕まっちまってね。
敵前逃亡は立派な軍規違反。
…死刑は免れたが懲罰房へぶち込まれて。
色々と大変だったなぁ。
……なんの奇跡か知らんが医者をしていたことがバレて脱走兵なのに軍医としてまた戦場に放り込まれたよ。…監視付きでね。
ひたすら人とポケモンを治療をしたよ。
…戦場の中で治療をしまくった。…敵味方関係なくね。
少なくとも…亡骸抱き締め涙を流す家族を減らすことはできた。
…それが功績となったのかカロスの王の謁見を許されたり、ね。
初めはビビりましたよ。
王だけで普通に怖い…それでも愛しているポケモンであるフラエッテの前では柔らかい笑みを浮かべていたよ。
だからこそ悲劇を産まないために…フラエッテもなんとか…助けられればと思った。
…ただ運命ってものは邪魔をする。
治療する間もなく……死んでしまった。
目の前で…さ。
王の前に…フラエッテが眠っている小さな棺が届けられて…。
最愛のポケモンの死に直面した王は悲しみにくれるもこの事実を受け入れることはできず…命を与えるキカイなんて現代科学を軽く凌駕するものを作って…フラエッテに永遠の命を吹き込んだ。…止めようはしたんだ。
なんやかんやそれなりの地位を築けていたからさ。…なんなら王直々にフラエッテの亡骸の保管を頼まれるぐらいには…信頼されていた。
…最終兵器を作り起動しかけた時なんて必死に説得したんだ。…動力源が大量のポケモンの命だって知っていたから…無理だったけどね。
最後の最後で殴り合いだぜ?
まあモヤシの俺が王様に勝てる訳もなく…起動されて…なんとかしようと最終兵器にしがみついて……ダイレクトで巻き込まれちまったさ。
……よく生きてたよな、ホンマに。
お陰様であれからずーっと…生きているよ。
…戦争は終結した…同時に俺はカロスから飛び出した。
……道中…あのヘルガーと奇跡的な再会を果たして一緒に旅をしてさ。…半永久的に生きられる俺と違ってヘルガーは……。またヘルガーのお墓参り行かないとな。
他にもそうさ。…旅の中で出会いと別れを繰り返し……何度見送ってきたんだろうな。
…老いもせず…病気もない。
ここにも十数年居たから…次の滞在先を探さなきゃなぁ。
今度は何になろうか。……そいやポケモントレーナーにはなったことがない。
……先に逝ってしまうから。…俺は何時まで生き続けるだろうねえ…。
…王はどうしてるんだろうか。
もうフラエッテと再会しているのか。
んじゃまぁ…退職届け…書いて出しますかね。