「……アナタがカロス神話に生きていた、ですか」
考え込むウォロを横目に蕎麦を食べる。開いた窓からは潮風が髪を撫でていく。
ヤマブキシティから南に位置する港町。
クチバシティのとある料亭。…久しぶりにマトモな飯を食ったかもしれない。
……別に食わなくても死ぬわけじゃない。
三大欲求の一つに過ぎないわけで…普通に二日三日…酷い時は一週間ぐらい飯抜いてたし。
やっぱ美味い飯を食べると幸せになれる。
死にはしないが空腹は辛いし睡眠を取らなくともなんとかなるが…睡眠不足でストレスにはなる。
ただ…不老不死擬きになったから分かるが…何千年も維持するのは普通にキツイ。…なんだかんだで生き続ける。
適当でも良いってなっちまうんだよ。
……不老不死になったところで残るのは死ねない身体だけ。
見た目だって気にしない。…ボサボサの長い髪でボロボロの服を着ていたこともあった。傍から見れば浮浪者だ。
教師をしていたから身なりはしっかりしていたけど…それ以前はどうだったか。
関係を作るも…最後は見送る側になる。
…他にも…何年経っても姿形が変わらない。
さっきまでちっこくて可愛い少女があっという間に大人になり家庭を持って子供ができるくらい……時の流れに鈍感になってもいる。
…同時に…俺を見る目が畏怖に変わるんだ。
当然だろう……一度…そんな感じで迫害を受けたこともあったか。
だからこそ転々としているんだけどさ。
…相手が同じく長生きできる人種なら考えるが……ウォロみたいなさ。
「…でしたらアナタはカロス神話の当事者ということになりますね」
……そうなるよな。
一度は戦争から逃げた脱走兵だ。
その後は軍医として監視付きで戦場を駆け回った。…逃げようとすりゃ殺されるし監視の女兵士さんクッソ目つき悪いわ雑談も無視られて…心開いてくれんかったしな。
の癖に…甘味や…ポケモンが好きと属性は盛り込まれていたよ。…最後は戦場で亡くなった。看取ることはできなかったが…彼女が入った棺に花を手向けることはできた。
……次の人生は幸せでありますように。
「そしてカロスの民とポケモンの命を救った治癒者…と呼ばれた」
そうそ……ん?その治癒者とは?
「知らないんですか?カロス神話の歴史ですよ?カロス神話の中で敵味方問わずに戦場で命を救った軍医。その功績を称えられカロス王の側近となり唯一の
ん?ん?ん?ん?????
…側近?理解者?…いやいやいや!それはない!
確かに王からよく仕事を頼まれたけど側近でもなきゃ…理解者って程ではないと思うんだが……。
「話が確かなら治癒者はカロス王が最終兵器と呼ばれるキカイの起動を止めるために…沢山のポケモンを守るために立ち向かったと伝わっています…」
立ち向かったけど…あれはもうステゴロの殴り合いだ。……王の愛したポケモン…フラエッテが生き返った。それだけで良かったんだよ。
だけど……王は世界を憎み全てを滅ぼそうとした。
ポケモン達の命を代償にね。それだけは許せなかった……止められなかったけどさ。…その最終兵器を間近で喰らってインスタント不老不死の完成ってわけよ。
「その最終兵器により戦争は終結。…だが治癒者は王に失望し、止められなかった責任から姿を消した、と言われています。……まさかアナタがカロスの英雄だとは…戦場で直ぐ死にそうな顔をしているのに」
失望した…訳じゃないし責任も何も初めからカロスから出ようと思ってただけで……それはそう。スグ死ぬよ。
殺し合いなんてできるわけないだろ!
徴兵されるまではただ町のお医者さん!
人体に詳しいからって殺しに役立つと思うなよ!?フィクションじゃないんだ!
戦争中はマトモに飯が喉を通らなかったよな。
液体だけがメイン食……待って?カロスの英雄?…俺英雄なの?
何も成し遂げてないけど?なんなら逃げた人間だけど?
「アナタ…自分のことなのに何も知らないんですね。カロス地方でアナタは王の強行を止めようとした英雄として崇められています。肖像画とかあるんじゃないですか?…美化されてそうですが」
…は……はは…はぁ……。
そんな事になってんのねえ。だからどうしたって話だけどさ。
「絵本にもなっていますね。…一部じゃアナタを崇拝する組織に……子孫を名乗る者もいるんだとか……結婚は?」
……してない、です。
んだよ!ニヤニヤすんな……!
そんな事になってんのかぁ。
……カロスには戻れないなぁ。戻るつもりは今のところないけど。
というかなんでウォロはカントーにいるんだ?…あれだけアルセウスに執着していたのに……。
「……確かにワタクシはアルセウスに並々ならぬ思いを抱いていたでしょう。ですが…今はどうでしょうね」
お茶を啜り天井を見つめる。
心做しか…寂しそうに見えた……。
そう、か…ウォロも同じ…か。
……ウォロに会えて良かったよ。
「ワタクシも……少なからずそう思っています」
それは……良かった。
クチバシティなら…当分住んでも良さそうだ。
ウォロがいるし…退屈はしなさそうだ。
…ご馳走様でした。ウォロの料理はまだ来てな…。
「スペシャルデラックスセットお待ち!」
料亭のおばちゃんがバカみたいな量の料理をウォロの前に置いていく。最後にレシートを置いた。…え?は?
「ありがとうございます」
口角を上げて料理を食べ始める。
……置かれたレシートを手に取る。
…………ウォロテメェ!!
「ゴチになりますね」
現代語を使い悪戯な笑みを浮かべた。
やっぱクチバシティに滞在するのはやめよう。……金が溶ける。
此処からならヤマブキシティからジョウト、クチバシティならホウエン…シンオウにだっていける。
……オーキド博士がいるマサラタウンも。
どこでも行くことはできる。
…………どこに行くか。
それは自分すら分かりえない。衝動の思うまま身を任せる。
…よし……!やってみるか。
どうせだからウォロも…。
「ご馳走様でし…急にどうしたんでか? ワタクシの袖を掴んで」
開業をするんだ。…ウォロもどうだ?
…個人的には護衛が欲しかったりする。
「突拍子もないことを言いますね。……生憎手持ちは二体で育ちきっていません」
……え? でも…なんでもない。その手持ちは……。
「此処では出せませんよ」
それは…そうだ。
おば様!これでお願いします!
あ、お釣りは要らないです!
とても美味しかった!また来ます!
お会計を終えて外に出る。
直ぐに見える海と港と船。
地平線が続いている。
……ウォロが懐からモンスターボールを二つ取り出した。放り投げると…ポケモンが飛び出す。
「わうっ!」
「トゲピッ!」
蒼き小さな体には波動の力を秘めている。…かくとうタイプのリオル。
赤と青の複雑な模様は卵の頃から変わっていない。…フェアリータイプのトゲピー。
両者ウォロが使っていたポケモンだ。
二人は振り返りウォロを見ると一目散に飛び込む。
肩まで登り終えるとしがみつき頬ずりをはじめた。……こらこらと止めに入るウォロだが…勢いは止まらずされるがまま。
……懐かれているようでして。
アルセウスに対する執着さえなけりゃ類まれなる才能を持っている。
ポケモントレーナーとしての才能も青天井だろう。もしかしたら…四天王、チャンピオンにすらなれる器の持ち主だ。
…俺の護衛なんかで時間を費やすのは勿体ない、か。
悪い…ウォロはウォロで人生を楽しんでくれ。俺も俺で……人生を楽しむことを覚えるよ。
「ワタクシは別に嫌とは言ってませんよ? アナタと共に行動した方が…オモシロそうですしね。この子達は卵から産まれたばかりですが才能はあります。これからどんどん育って行くことでしょう」
…俺の勝手でウォロを縛るつもりはない。
「…はぁ……勘違いをしないでください。開業ってことはまた医者でもやるのでしょう?この時代…昔の様にはいきません。ポケモンセンターのせいで需要も無ければ資格もないのに医者の真似事などしたらお巡りさんにしょっぴかれますよ?」
ウォロから正論を叩き込まれる。
それは、その通り…だ。ポケモントレーナー御用達のポケモンセンターがある。無料で治療して貰えるのに金のかかる医者に頼む奴はいない。
教師をやるために時間をかけて資格も取った。
医師免許は持っていない。
今から取るとなれば途方もない時間…そもそもを取る資格すら持ちえない。
…3000年前に身分証なんてない。
偽造された身分証を使って資格を取った。
もう一度その身分証を使えば…バレてしまう可能性があるし…転々とする度に偽名を変えてきた。尚更…使うことはできない。
……これはこれで面倒くさいよな。
トレーナーになったりポケモンを持つだけで資格が必要だわ。
3000年ちょっと生きてきた人間はどうやって身分を証明すりゃいいんだが……。
てかウォロ…お前は……。
「もちろん持ってません。ワタクシはポケモントレーナーではなく
……屁理屈だろ。
それぐらい開き直った方がいいんかね。
そうなると…どうすっかねえ。
「資格云々は置いておいてシンオウなら場所を提供することができます」
……まじ?
ウォロって…特定の場所に留まるようなイメージなかったんだけど。
「ジブンではありません。…ちょっとした知り合いがいるんですよ。……
…長生き?…ふーん。
……場所を選ぶつもりはない。
久しぶりのヒスイ…シンオウ地方に腰を落とすのもありだろう。
「案内まではします。…が、ジブンは好きにさせて貰いますよ。…というかあの人と一緒にいると面倒…なんでもありません」
今不穏なことが聞こえたぞ、おい。
……無視するなウォロ!
ウォロはリオルとトゲピーを戻し港に向かう。
まぁ…それだけで充分さ。ウォロとは何時でも会えそうだしな。
後に続き港へ。
……シンオウ地方のミオシティ行き。
甲板に立つ。
潮風を全身に浴びる。
次は過ちを犯さず。
……呪われた身体で生き続ける。
そう、いつか死ねる。
その時までは……間違えない。