……これで大丈夫。
一週間はしっかりと見てもらうこと、起床時と就寝時に必ず薬を与えてください。
ポケモンフードは食べさせないでオレンのみかオボンのみをすり潰して食べさせてあげてください。喉の調子も悪いみたいなので……ノメルのみがあれば果汁を搾って混ぜて食べさせるのもいいでしょう。
「わ、わかりました!…本当にありがとうございます!…ピチューもう大丈夫だからね」
「…ビ……チュ」
頬を紅色させ苦しさから顔を歪ませ目を真っ赤にさせたピチューの診察結果をブリーダーに報告する。
…ピチュー特有の病気みたいなものだな。
ピチューはピカチュウの進化前。ピカチュウの頬は電気袋になっており電気を溜め込み…ポケモンバトルや外敵に対して放電を放つ。
放電器官、給電器官の役割を持っている。
尻尾にもあるがそれは置いておいて…進化前のピチューにももちろんあるが未発達であり感情の昂りやストレスなどで放電したり…できなかったりする事例がある。
今回は放電ができず体内に電気を溜め込みすぎて許容範囲を越えてしまったパターン。…高熱や疲労感、嘔吐や目の充血等が症状にでる。
ポケモンセンターに行けば簡単に治せると思ったら…うーん、それがなぁ…何かの拍子に溜め込んだ電気が放出される可能性から今直ぐに…とはならないらしいんよな。
ポケモンセンターには他の患者も入院しているポケモンもいるわけで事前予約は必要、責任問題が発生する為の契約書に保険適応外。
要するに金が必要ってことよね。
ただの怪我を治すって訳じゃねえから妥当。
場所によっちゃお断りする場所もあるんだとか。……開業初日がこれだもんな。
朝食までご馳走になり…なんとか理由を付けて戻ったらウォロに仕事がありますよーてズイタウンに連れてこられてさ。…当然の如くショウちゃんがいたよ、ええ。
…そらをとぶでも使ったん?と思ったらその通りでしたよ。…シンオウのジムバッジ…
なんなら半年で集めきったってさ。シンオウだけならそれなり名の通った有名なポケモントレーナーなんだってさ。…強くない?はやくなァい?…手持ちを見せて貰っても…(震え)
……ヒスイ…じゃない
あ、これは…ショウちゃんだぁ(白目)
うんうんポケモンリーグは挑戦せず…ナナカマド博士の助手を…ね。うん、はい…ウォロとショウちゃんが楽しそうに会話してるからもう…それでいいや。
時と場合で呼び方を変えれば解決ね。
もう一つ解決しておきたいけど…ショウちゃんがいる理由は? 俺の護衛…?
ウォロに頼まれた、か。…スゥー…もういねえわ。……全力で守ってくれるのね。…助かるよ。ショウちゃんが守ってくれるなら…もう何も怖くない…!
…経緯はこんな感じとして、さ。
ピチューはかなり深刻だった。
あと数日遅れていたら…薬でどうにかなる範疇を越えていただろうな。
無理やりにでも放電させないと…死ぬ。それぐらいは不味い状況だった。…現代進行形でもっとやべえんだけどね。
バチバチと火花を散らす電気袋。触れると一瞬で指先の感覚が消え去る。…離すと少しずつ感覚が戻ってきた。
少しだけ…ピチューの顔色が良くなった。
うん、冗談抜きで爆破寸前のマルマイン並にいつ放電してもおかしくないわ。…体感だが…受け入れられる電気の数倍は溜め込んでいると見る。
もし放電したらこの家は崩壊するな、うん。
最悪の場合…付近にも被害が出るだろう、うん。
みずタイプやひこうタイプが流れ弾で喰らったら瀕死は確定。
無理に放電させると身体に負担がかかり後遺症が残るかトラウマから給電や放電ができなくなってしまう可能性がある。
個体差はあるといってもピチューが溜められる電気量は微々たるもの。数倍に膨れ上がったところで一週間もあれば薬で抑え少しずつ放電していけば症状は治まるだろう。
その間にも体力が消耗していくからきのみで凌いでもらう。ポケモンフードは多種多様なのもあり栄養素の関係上放電を招く危険性から食べさせたらいけない。
ピンキリだし。…流石の俺もポケモンフードの自作まではできんからな。
ピチューの額に置かれた氷嚢を取り替え…薬の用意を。……えっと、電気を抑える…抗電剤は…。
「先生!これです」
目の前に紙袋を差し出される。
あ、ありがとう。…ヒカリちゃん。
開けて確認。…錠剤タイプで個数も問題ない。…喉を痛めているから粉薬だと吐き出してしまうからね。…良くわかっている。
これヒカリちゃん一人でも解決できたくない?俺いらなくね? ……ポケモントレーナーで薬の知識もあるとか…超人やんけ。
作業台でキズぐすりを作ってましたや仕事を隣で見てきたからでは説明できない領域におるぞ?
薬をブリーダーに渡して、と。…それじゃ治療費ですが……。
「は、はい…!」
顔が強ばる。…緊張する程、か?
まぁいいとして…診察兼処方箋も含めて…これくらいですね。
手書きの請求書を渡す。…恐る恐るといった様子で請求書を確認するブリーダー…。
「…は?……え?…こ、こんなに……!」
わなわなと肩を震わせる。え? 高過ぎた?
いやいやいや!…適正価格……!
「
?????
安い…?……あれ?ブリーダーって金持ちだったりする?
「……あの、先生…本当にこれでいいんですか?」
ヒカリちゃん?なんでちょっと苦笑いをして…いうて高い方だと思うけど……? …あー…えっとスマホか。…懐かし……じゃなくて、画面を見てください?
はいはい……この時代の適正価格は……
……はっ!?こんな高いの!?詐欺だろこれ!
「いえ……寧ろ先生の請求額が安すぎるというかある意味法外価格、といいますか。…… 先生が広まったら大変なことになりそう」
最後の方は聞き取れなかったけどマジで……?うわぁ…これが最先端の医学ってやつか。診察に機械とか使うのかなぁ…時代に取り残されてんなぁ。
「…本当にこの価格でいいんですか?その…本来の十分の一もないですけど…」
ん?…ああ、はい。大丈夫ですよ。
最後に…ピチューのこと大切にしてあげてくださいね。
いつか来るであろう…その時まで大切に。
「……本当にありがとうございます…!」
料金を受け取りピチューを見……っ!
バチバチと音が鳴り響く。
「…ビ……ビッ…ビ……」
「ピチュー…?大丈夫……ねえ!しっかりし…」
触るな!
ピチューに触れようとするブリーダーを止めに入る。…マジか……。
「……先生…!」
わかっているよ。
診察が間違っていた。…もう
……これお返しします。
金を返してピチューを抱える。
全身で電気を浴びる。
…気を保たないと意識飛ぶぞ、これ。
ヒカリちゃん。ブリーダーの傍にいてあげて……ッタ!…痛いな、もう…。
「先生…!…分かりました。落ち着いてください。先生がなんとかしてくれますから」
「ピチュー……はい…」
良い? …絶対に家から出さないでね。
……ピチューを抱えたまま外へ飛び出す。
駆ける。…兎に角駆ける。
誰もいない場所を探して手当り次第。
髪は静電気で浮き指先からゆっくりと麻痺していく感覚。……ここでいいか。
見つけた一本だけ取り残された木の下で立ち止まる。電気は広範囲に拡散し停まっていたとりポケモン達が逃げていく。
「…ビ……ビィ……」
苦しそうに呻くピチュー。…不老不死でも怪我はするんだぜ?
……苦しかったな。でもこれで苦しみから解放される。
「…ビ……?」
ああ、本当だ。…良くここまで頑張ったな。
…偉いぞ……ピチュー。
気休め程度に頭を撫でる。…少しだけ微笑んだように見えた。…ごめんな……もっと苦しい思いをするし、もしかしたら…身体が不自由になったり電気を扱えなくなってしまうかもしれない。
それ抜きにしても……俺に憎しみを持って恨んでくれて構わない。本当の意味で…助けられなくてすまない。
「ビ……ビ…ヂュ……」
お前さんのブリーダーも帰りを待ってる。
……直ぐに終わらそうか。
ピチューを強く抱き締めた。
声にならないピチューの声と共に電撃が広がり…頭上に雨雲が出来上がっていく。
…痛い痛い痛いっ!!眩しくて目も開けられな……でもピチューはもっと痛いんだ。我慢し…ん?ピチューが大きくなった?
それよりも…なんか、予想よりも…電気の量が多い。これ……数倍じゃなくて……数十…。
なんとか目を開き雨雲を見上げた瞬間。……かみなりが直撃した。
──────────────ー
……うん、後遺症もトラウマも無さそうだ。
これで大丈夫だね。……
「ピッカ!」
腕の中にすっぽりと収まったピカチュウ。
ピチューがピカチュウに進化した。…なつき進化の筈なんだけど……。
それが功を成したと言える。
進化したことにより受け入れられる電気量が増えて負担が軽減されたんだ。
……俺も髪型がアフロになって服が焼き焦げたぐらいしか被害が無かったから良しとしよう、か。
「…心配したんですからね。…大きな音が鳴って……見に行ったら木が真っ二つに裂けて…地面が先生を中心に焦げてたんですから…」
良しにできないよねー。
背中に張り付いたヒカリちゃん。…かみなりが落ちたぐらいじゃ死にゃしないって…心肺停止してたらしいけど……。
ピカチュウ式AEDとヒカリちゃんの心臓マッサージで事なきを得たらしいです、はい。
ただこちらとしてはかみなり直撃からのヒカリちゃんのドアップだからさ…許して……。
「…ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした! …その…」
さっきからブリーダーがペコペコ頭を下げているよ。…大丈夫ですよ。診察ミスが原因ですので……こちらこそ申し訳ございませんでした。
「……お金に糸目を付けずしっかりと治療しなかった私が悪いんです。…これじゃブリーダー失格ですよね…」
……はぁ…。ブリーダーは大変だろうね。沢山のポケモンを抱えることになる。それも赤子に近い。普通のポケモンより育成難易度は高いだろう。
金もかかるわ下積みも必要になる。…確かに…ブリーダーとしては失格だろうよ。でも…ピカチュウはそう思っていない。…だろ? ピカチュウ。
「ピカ!」
「…ピカチュウ」
あんたの思いに応えてピチューはピカチュウに進化した(多分)。……愛情を込めて育てていたのは分かったさ。
……この先ブリーダーを辞めるのか続けるは知らねえけどさ。もし続けるっていうなら…また診てやるよ。
「…………」
安心しろ。次から値段引き上げようとか卑怯なまねはしない……すみません。…もし今後もご利用でしたらよろしくお願いします。
「…ぁ……は…い…」
握手をして終了。
……ブリーダーさん顔赤いけど大丈夫かい?
ピカチュウもいい加減降りましょうね。
君のトレーナーはブリーダーでしょ?
緊張の糸が解けてボーッとしているブリーダーさんと…ヤケにグイグイくるピカチュウに別れを告げて外に出る。
あの……ショウちゃん?ちょっと苦しい…。
「…………」
なんでもないです。
はぁ……初仕事が無給……かぁ。
ヒカリちゃんをひっつけたままマサゴタウンまで送り帰ろうと思ったら…押しの強い母親と妹に丸め込まれ泊まることになりました。まる。