蝽嗄瞅炵〜ひととせ〜   作:Re:S

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七松と戦って認められてえ……そんな思いで書き始めました。
それゆえに個人的には夢小説のつもりで書いているのですが、体格や設定などが決っているのでオリ主になるのかな……と思っています。

軍師からハマったので作品傾向も忍者してる上級生や先生たちが見たい気持ちが強く出ています。(ギャグがないわけではありません)
オールキャラにオリ主を一滴、そんな感じです。

ピクシブからの流用なので[newpage]が挟まっていますが場面転換としてお読みください。

亀更新ではありますが、結末は大体決まってます。
お楽しみください。


春の段〜その壱〜

 

 

 

 

 

 

月の綺麗な夜だった。

────あの時と同じく。

 

獲物はすぐそこにいる。

────あの時と変わらず。

 

■は暗がりから手を伸ばす。

────あの時とは、違う。

 

 

 

 

衝撃。

目の前の■の絶叫。

 

ああ、五月蝿い。

一刻も早く、この■を黙らせないと。

 

赤く染まっていく視界の中で、月の兎だけが不気味に嗤っていた。

 

 

 

 

[newpage]

 

 

 

けふはたた

おもひもよらて

かへりなむ

ゆきつむのへの

わかななりけり

 

 

 

[newpage]

 

 

「お弁当〜いかがすか〜!お弁当〜いかがすか〜!」

「おいしいお弁当ですよ〜!」

「本当においし〜〜い!」

「「しんべヱ、売り物は食べちゃダメ!」」

「ごめぇ〜ん!」

 

 

たくさんの雄叫びと、それを割くように響く甲高い声に目を覚ます。

目を覚ましたことで、私は今まで気を失って倒れていたことに気がついた。

ゆっくりと身を起こして、あたりを窺う。

 

「ここは……」

 

金属がぶつかり合う音。

たくさんの人が地面を蹴る振動。

むせ返る火薬や煙、それから血の臭い。

 

「(何かわからないけど、逃げないと)」

 

『────どこへ?』

できるだけ遠くへ。

 

『────逃げてどうするの?』

それは……。

 

『────また一人だけ生き残るの?』

……"また"?

 

 

「おおい、弁当くれ〜」

「はぁい!ありがとうございまァす!!」

 

再び、子どもの声によって現実に引き戻される。

そうだ。子どもだ。子どもがいる。

肌でビリビリと感じるこの危険地帯に、子どもが。

変な体勢で、しかも地面なんかで寝ていたからだろう、身体のあちこちが軋む。

そんな自分に鞭打つように立ち上がって、さっきよりも詳しく、自分と周囲の状況を確認する。

手は動く。

脚も動く。

多少擦り傷はあるみたいだけど、どうやら大きな怪我はしていない。

ふとそばの草むらを見ると、エナメルのスポーツバッグが見えた。

 

「これ……」

 

エナメルを手に取った途端、額にズキリとした痛みが走り、目の前が白く点滅する。

体の確認はしたけど、頭の具合は見ていなかったと気づいた。

倒れた時に打ち付けたのだろうかと思って、痛んだ部分に手をやる。

しかし予想したような腫れはなく、血も出ていなかった。

 

「このエナメルを、触ったから……?」

 

エナメルを触ったことと頭痛の因果関係は分からないが、原因がそれしか思い当たらない。

痛む頭をおして、エナメルを開く。

ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた中身を見た途端、頭痛がやみ、唐突に視界が開けた。

 

……そうだ、これは私のものだ。

 

どうして忘れていたのか。やはり頭を打ったのかもしれない。

しかし今はそれよりも大切なことがある。

 

近くに子どもがいるのだ。

場合によっては保護しなければ。

 

エナメルを斜め掛けして、再び立ち上がる。

そのまま子どもの声のする方へ斜面を下った。

 

 

[newpage]

 

 

「お弁当〜おいし〜いお弁当いかがすかぁ〜!」

「きり丸、こっちは売り切ったよ!」

「ボクも!」

「しんべヱは半分ぐらい食べてたでしょ!」

「えへへぇ……でも全部は食べなかったからまだお腹空いてるんだあ。きり丸の分、食べても良い?」

「だ〜め〜だ!ったく、食べた分は分前から減らしとくからな!」

「そんなぁ…………!……ん?クンクン……クンクンクンクン!」

「どうしたの?」

「なんか……嗅いだことない甘い匂いがする!」

「なんだそりゃ?」

「こっち!」

「あっ!もうしんべヱったら!」

「放っとけよ。あっちは合戦場から離れてるから大丈夫だって。それより乱太郎、こっち手伝ってくれ」

「あ、うん!(しんべヱ大丈夫かなあ……)」

「え〜〜!残りわずかとなりました!お弁当いかがっすか〜!」

 

 

「ん〜〜この草むらの中から匂いがする!えーい!」

「うわぁ!」

 

ゴチン!

 

斜面をやっと下りきったと思ったら、思ったより深い草むらに足を取られてしまった。

その間にいつの間にかやってきた子どもの一人がこちらに飛び込んできて……。

 

「いたたたた……」

「うう……はっ!ご、ごめんね、ぼく、大丈夫?」

 

見事に頭と頭をぶつけてしまった。

いやそれにしてもこの子頭硬いな。石頭ってやつか。

ケガがなさそうで何よりだけど。

 

「ぼ、ボクこそごめんなさぁい……甘い匂いがしたから探しにきたんだけど……」

「甘い匂い?」

「うん!今まで嗅いだことない匂い!クンクン……お兄さんのかばんの中からする!」

「(お、お兄さん……?)えっと……そんな匂いのするものあったかな……」

 

目の前の子が目をキラキラさせているので、なんとなくカバンを開けて確認する。

制服に、水筒、タオル、筆記用具に教科書が数冊……

 

「あ、これかな。このグミ」

「グミ?!なにそれおいしいの?!!」

「ん?うん、……食べ、る?」

「食べるぅ〜〜!!!!」

 

封を開けていたグミはもう数個しか残っていない。

が、好みもあるのでとりあえずそのうちの1つを小さな手のひらに出してあげる。

 

「いただきま〜〜す!ンンン〜〜〜おいしい〜〜〜〜!!!!あまずっぱ〜〜〜〜い!!!!!」

「お、おお……お気に召したようで……」

「でも……これじゃお腹いっぱいにはならないや……」

「ご、ごめんね……」

「ところでお兄さんはここで何してるんですか?もしかして、忍者?」

「忍者ぁ?違うけど……ああ、これってもしかして何か映画の撮影なのかな?」

 

突然ファンタジーな単語を出されて困惑したが、それをきっかけに、時代劇とかの撮影なのかと思い至る。

というかなぜまずそっちが思い浮かばなかったのか……随分と焦っていたらしい。

 

「えいが?さつえい?ちがうと思うけど……」

「おお〜いしんべヱ〜!!大丈夫〜〜??」

「弁当売り切ったから帰るぞ〜!」

「乱太郎〜〜!きり丸〜〜!こっち〜〜!!」

 

しんべヱと呼ばれた子が草むらから顔を出して返事をすると、あれよあれよという間に子どもが二人駆け寄ってきた。

どうやら先ほどから聞こえていた声の主はこの三人で間違いないようだ。

 

「しんべヱ、何か見つかった?」

「うん!お兄さんとグミ!」

「お兄さんとぐみぃ〜?」

「あ、どうも……」

「「あ、どーもどーも!……って誰!?!」」

 

おお、すごい。芸人ばりのリアクション。

 

「このお兄さんがグミくれたの!」

「しんべヱ……知らない人から物をもらっちゃいけませんって土井先生にも言われたでしょ……?」

「あ!そうだった……!」

「あ……私もごめんね。アレルギーとかあるかもしれないのに勝手に……」

「あれるぎー?」

「って何?」

「ええと……普通は食べられるものが食べられなかったり……触ったら痒くなっちゃったりするもの……現象?のこと、かな」

 

なんかものすごいワヤワヤな説明になってしまった……見たところ9歳ぐらい?小学校二,三年生ぐらいだろうけど今ので伝わったんだろうか。

 

「ええ?!じゃあボクがお団子あれるぎーだったらお団子食べられなくなるってこと?!」

「オレが小銭あれるぎーだったら小銭に触れなくなるってことォ?!!」

「そ、そういうことです」

「「そんなァ〜〜〜〜!!!!!」

「二人とも……今までそんなことなかったでしょ……?」

「「あ!そう言えばそうだった〜!」」

 

すごい。この三人、子どもお笑い芸人トリオなんだろうか。

さっきから息ぴったりでコントを繰り広げてくれてる。

 

「ええと……つまりあれるぎーと言うのは普通は毒にならないものが、人によっては毒になる……みたいな感じですか?」

「そ……そうそう!そういう感じ!すごい!頭いいね!」

「「さっすが乱太郎〜!保健委員〜!」」

「いやぁ〜……」

 

というか撮影現場にいるんだからどこかの劇団所属の子役なのかも。

ならばこの頭の良さ、対応力の高さも頷ける。

 

「じゃああのグミたべてもボクはなんともないからグミアレルギーじゃないってことでいいですか?!」

「そうだね……でも時間が経って症状が出てくることもあるから……」

「あ〜ん……おいしかったのになあ……残念……」

「ごめんね」

「ところでお兄さん、なんだか珍しい格好してるけどどこの人?」

 

黒髪センター分けでつり目の、おそらく守銭奴な子が話を切り替える。

ぽっちゃりした子がしんべヱくんで、赤髪でメガネの子が乱太郎くん、するとこの子はきり丸くんか。

さっきから思ってたけど三人共役に入りきってるんだろう。プロ根性、天晴である。

しかし肝心なことは伝えなくてはならない。

 

「えっと……ごめんね、まず私、女なんだ。だからお兄さんではないかな」

「「「………………お、女の人〜〜?!」」」

 

 

[newpage]

 

「すみません……ビックリしちゃって……」

「あはは、大丈夫だよ」

「しんべヱがお兄さんなんて言うから……!」

「だって否定されなかったから……!」

「ごめんごめん、聞き間違いかと思って」

「女の人がなおさら、こんなところで何してるんですか?」

「まさか……くノ一……?」

「えーと……まずここがどこかよくわかんないんだけど、気がついたらここにいて……」

「迷子ってこと?」

「そう……だね。うん、迷子。だから大人の人のいるとこに連れてってほしいんだけど……」

「すいません、ちょっとタイム!」

「あ、はい」

「おまえら、ちょっと」

 

クイクイときり丸が手招きすると、三人は円陣を組み、頭を突き合わせる。

 

「あの兄……姉ちゃん、なぁ〜んか怪しくねえか?」

「え〜?いい人だと思うけど……グミくれたし!」

「しんべヱ、悪い忍者だって取り込むためならお菓子ぐらいくれるよ」

「あ〜なんだっけ……なんとかの術……習ったよーな習ってないよーな……」

「今はそんなこと置いといて、だ!オレも別にあの姉ちゃん自身が悪いやつとは思ってねえけどさ。なんか隠してるのは間違いないんじゃねえか?」

「何かって?」

「手見たか?」

「いや?」

「手がどうかしたの?」

「擦り傷はあったけど、指先が荒れたりしてなかった。女の人って水仕事するから結構荒れてること多いんだけど、それがなかったんだよ」

「つまり……?」

「どゆこと……?」

「水仕事をしなくてもいい女の人……つまり……あの姉ちゃんはどっかの国のお姫様で!敵に見つからねえように男みたいな見た目にして!!逃げてる真っ最中なんだよ!!!」

「なるほど……!」

「きりちゃん、あったまいい〜〜!」

「だろォ〜〜?」

「でもそれにしては護衛の人とかいないよ?」

「途中で逸れるか、敵に見つかって散り散りになったんだろきっと。そ!こ!で!だ!」

「もしかして……」

「もしかしなくても……」

 

きり丸の目が小銭の形に変わり、さらに生き生きとしゃべりだす。

 

「オレたちが護衛してェ……忍術学園までつれてけぶわァ〜〜〜?!姫様から小銭が、いやもしかしたら金銀財宝がガッポガッポもらえるって寸法よォ〜〜〜!!」

 

アヒャアヒャアヒャ!アヒャアヒャアヒャ!という笑い声はすでにヒソヒソ話の域を超えている。

一人置いていかれている目下、どこぞの姫君とされた彼女はポカンとその様子を眺めていた。

 

「お、お宝がもらえるかは置いといて……とりあえず私たちも帰らなくちゃだし、学園に一緒に行くのはいいかもしれないね」

「大人の人のとこに連れてってほしいって、言ってたもんね!」

「だからそれが護衛してくれっていう合図だろ?性別を明かしたのだってそう!オレたちが忍たまだってこと、わかってんだよきっと」

「そうかなあ……そうかも!」

「まあ、ケガの手当てもしないといけないし……!」

「いざ!!」

 

円陣がとける。

姫君(仮)の前に三人が傅いて、高らかに宣言した。

 

「「「ぼくたちが!忍術学園にお連れしま〜〜す!!」」」

「に、忍術学園……?と、とりあえずよろしくお願いします」

 

 

[newpage]

 

「お荷物お持ちします!」

「え、そんな大丈夫だよ。ありがとう」

「いやいや!女性にこんな重いものを持たせるわけには……」

「いやいやいや、子どもにこんな重たいもの持たせるわけには……」

「大丈夫です!このしんべヱは怪力の持ち主なんで!」

「えっへん!」

「う〜ん……じゃあこれ、持ってもらおうかな」

 

しんべヱくんがドヤッとしてるのが可愛くて、ついつい気が緩む。

お手伝いしたい年頃なのかと思って、エナメルのチャックを開けて、中に入っていた制服入りのナップザックを手渡した。

 

「かばんの中からまたかばんが」

「こんな軽いのでいいんですか?」

「いいの。ありがとうね」

「でも大丈夫すか?ここからちょっと歩きますよ?山も越えなきゃいけないし……」

「だったらなおさら皆にこんな荷物持たせられないよ」

「私たちは慣れてるから大丈夫ですよ?」

「慣れててもダメ。身体の大きさが違うでしょ?」

 

ワイワイガヤガヤと喋りながら、私たちは私が倒れていたところ、山道まで斜面を登る。

慣れている、という言葉は強がりではないようで、皆歩きにくそうな草履を履いているのに、スイスイと上まで登っていった。

 

「そうっすか……?ずいぶん謙虚なお姫様っすねえ……」

「いや姫ではないんだけど……」

「ちょっときりちゃん!」

「あっ!すいやせん!ただの、迷子の!お姉さんですね!……タダァ?!♡♡」

「う、うん。そうです……」

「きりちゃんたら……ちょっとこっち来て!」

 

子どもに迷子って言われるの恥ずかしいな……と考えていたので、私には聞こえていなかったが、前の方で三人が何やらヒソヒソと話し込む。

 

「もうっ!身分を隠してるって言ったのはきりちゃんなんだから、こっちも知らないフリしないと!」

「そうだよきり丸!」

「いやぁ悪ぃ悪ぃ……つい!」

「お姉さんが気分悪くしてどっか行っちゃったらお金も貰えないよ」

「そりゃ困る!」

「ボクも〜……学園についたらもう一回グミ分けてくれないかなあ〜……ジュルリ!」

「そんなにおいしかったの……?」

「うん!」

「ま、でも逃げることはないんじゃねえかな?荷物一つ持たせてもらったわけだし?」

「え〜……きり丸、もしかして逃げられないように荷物持ちなんて言い出したの?」

「半分は気遣いだって!」

「半分は打算じゃん……も〜……」

「ねえ君たち」

「「「ははははい!!!」」」

「? 山一つ越えるって言ってたけど、撮影は良いの?さっきの場所から勝手に離れたらまずくない?」

「あー大丈夫っす大丈夫っす!俺たちの仕事はもう終わったんで帰るとこだったんす!」

「そっか……それにしても、子どもだけで帰らせるなんて……普通こういうのってロケバスとかタクシーとかで送ってもらったりしないの?」

「ろけばす?」

「たくしー?」

「「「何それ?」」」

「…………ごめん、お姉さんが悪かった。今の忘れて」

 

ダメだ……この三人、プロ根性がありすぎる……!

カメラが回ってないところでまで成り切って……もう一流の役者だ!

服装的に江戸時代……いや、合戦の撮影をしてたってことは戦国時代とかだろうか。

なんにせよ、私の迂闊な発言でこの三人の世界をぶち壊すわけにはいかない。

いや、もう介入しちゃってる時点でぶち壊してるんだろうけど……

とにかく、忍術学園?とやらに着くまでは現代の基準で考えるのはやめて、この三人にひたすらついていこうと決めた。

 

その決意がすぐに立ち消えることになるとは、この時の私は思いもしていなかったが。

 

「「「しほ〜ろっぽ〜はっぽ〜!しゅ〜〜りけ〜〜ん!」」」

「(子どもは元気だなあ)」

 

一仕事終えたあとなのに、大きな声で歌を歌いながらずんずんと山道を進んでいく。

合戦の音が聞こえなくなってしばらく、前の方で固まって歩いていた三人が徐々に私を中心にした三角形の形になる。

 

「どうし「つけられてる」!」

 

大声で歌う二人の声に紛れさせながら、きり丸くんの静かで鋭い声が耳に届く。

 

「つけられてる?なんで……」

「足軽崩れだろ、多分。手柄も立てられなかったんで、オレたちから金を奪う気だ」

「そんな……」

 

それも何かの撮影?

という言葉を発するより早く、目の前にいかにもな格好の男が現れた。

 

「坊主ども、ケガしたくなきゃ金と女置いていきなァ!」

 

 

[newpage]

 

「! なんでお姉さんを女の人だって知ってるの?!」

「……あっ!さっき弁当買ったおっさん!」

「そうか……近くにいたから私たちの声が聞こえてたんだ!」

「そういうこと」

「へっ、だからっておっさん一人ぐらい……」

「おいおい、山賊やるのに一人なわけねえだろッ!!」

 

その声を合図とばかりに、茂みの奥から何かが煌めいたのを目の端で捉えた。

 

「ッ!しんべヱくん危ない!」

「うわわぁっ!」

 

ビィィィン……という振動音と、咄嗟に引っ張ったしんべヱくんの、さっきまで立っていた地面に突き刺さった矢。

先っぽに吸盤がついているおもちゃの矢なんかじゃない。

鏃(やじり)のついた、本物──。

二本目の矢をつがえた二人目の小柄な男が茂みから顔を出す。

 

「チッ、避けやがった」

「くそっ、刀と飛び道具持ちかよっ……おっさんたち!子ども相手に大人気ねーんじゃねえのぉ!」

「そーだそーだ!」

「こんな良い子を狙うなんて!ひきょーものー!」

「ええいうるさい!」

「いいから弁当の売り上げ全部出しやがれ!」

「ずぅぇっっったい、ヤダね!!!どケチを舐めんな!」

「そうかい……痛い目見ないとわかんないらしい、な!」

「ッ?!わー!」

「乱太郎くん!!」

「「乱太郎!!」」

 

背を向けていた反対の茂みから大きな男が現れて、乱太郎くんの襟首をつかんで持ち上げた。

それを確認してリーダーらしき一番初めに出てきた刀を持った中肉中背の男がきり丸に問いかける。

 

「さぁて坊主、お金とお友達、どっちが大事なのかなあ?」

「ッく……くそぉ……」

 

刃物をちらつかせながらニヤニヤと笑う男。

何故だろう……私は、この光景に見覚えがある。

 

あの晩も、そうだ……。

ナイフにひらめく月明かりが反射して──。

 

『──……せ』

目の前が赤く、紅く、染まっていく。

 

『──…ろせ』

■さないと、いけない……。

 

『──■せ』

■される前に、■さないと……。

 

『──殺せ!』

私にはきっと、それが出来る。

 

 

 

[newpage]

 

「ぐぁあっ!」

「「「「?!」」」」

 

不意に背後で上がった声に山賊二人ときり丸、しんべヱは一斉にそちらの方を見やる。

そこには乱太郎をつかみ上げていた男が、男よりは小柄な女に片脚を抱えられ、後ろ向きに倒れている光景が拡がっていた。

 

────決まり手、朽木倒し。

 

 

「は??」

「お、おい!何やって!」

「二人共!走って!!」

「!?」

「!ッ行くぞ!しんべヱ!!」

「ら、乱太郎!」

 

この状況にいち早く気がついたきり丸が、咄嗟にしんべヱの手をつかんで刀を持った男の脇をすり抜けて走り出す。

しんべヱは振り返りながらも、倒れた男の腕から抜け出す乱太郎と、それを助ける少女の姿を見てきり丸に続いて走り出した。

 

「乱太郎くん、走れるね?」

「は、はいっ」

「じゃあ行って!」

「! 行かせるかよ!!」

 

また横を抜け出そうとした二人に向かって、リーダーの男が慌てて刀を振り上げようとする。

が、その瞬間、少女が肩紐をつかんでハンマーのように振り回したエナメルの本体が思い切り側頭部に叩きつけられた。

 

「ぐはっ……!」

「お姉さん!!」

「大丈夫!すぐ行くから!誰か大人の人を呼んできて!」

「ッ……!はいっ!」

「いい子……!」

「逃がすか!」

 

一番事態についていけてなかった小柄な男が、ここでようやく自分の役割を思い出して矢を番え、一目散に駆け出した乱太郎を狙う。

しかしグングンと加速していく韋駄天乱太郎に狙いを定められない。

 

「は、速っ」

「おい」

「ヒィッ?!」

 

その声が聞こえたとき、小柄な男は宙に浮いていた。

混乱の最中(さなか)、弓矢がポロリと手からこぼれ落ちる。

そして彼は自分が浮いたことを認識する間もなく地面に叩きつけられて、そこで意識が途切れた。

 

───決まり手、肩車。

 

「このアマァ……!!何しやがる!!!」

 

先ほど乱太郎を捕まえていた大男がようやく立ち上がり、猛然と少女に襲いかかる。

姿勢を低く、両手前に突き出すように拡げ、少女に掴みかかった大男は、しかし、確かに押し倒したはずの少女の顔が徐々に見えなくなり、代わりに木々の木漏れ日が視界いっぱいに広がる様をスローモーションで見つめていた。

自分より小柄な少女に投げ飛ばされたと気がつくと同時に、木漏れ日の光が目を焼くほどの光量となって瞬く。

そうしてこの大男も、抵抗する間もなく意識が暗転した。

 

────決まり手、巴投げからの送襟絞。

 

「な、何が……何が起きて……」

 

何かで思い切り頭を打ち据えられて、しばらく揺れていた視界がようやく収まり、辺りを見渡した男は夢でも見ているのかとその光景を疑っていた。

男が三人もいて、その内の二人がもうピクリとも動かない。

小柄な男の方は弓を使った狩りが得意でよく雉を獲っていた。

大男の方は村一番の力持ちだった。

先の戦でも手柄こそあげられなかったが、それでも三人大きな怪我もなく生き延びることができたのは気心の知れた仲間との連携によるものだった。

それがこうも、赤子の手をひねるように。

 

「おい、お前」

「ヒッ……」

 

今しがた大男を簡単に絞め落とした少女が、いつの間にか目の前に立っている。

しゃがみ込んでいる己を見下ろしている、その黒黒とした瞳に射すくめられて体が小刻みに震えだした。

まさしく、蛇に睨まれた蛙とはこのことだろう。

 

「お前……子どもを、狙ったな……?」

「あ、あ、あ……」

「その刀で、子どもを、斬るつもりだったな……?」

「ぅ、ぁ、ああ……ゆ、許して……」

 

体の震えが右手で掴まれている刀にも伝わって、ガチャガチャと金属音が響く。

 

「許す……?どうして?お前は、あの子たちを、斬るつもりだったくせに?」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい!もうしません!ほんの出来心だったんです!あの坊主の懐に見えた小銭の束に目がくらんで……!それで!」

 

男の股間がふいに温かくなる。

失禁していると気がついたのは襟を絞めるように持ち上げられ、無理やり立たされた時だった。

 

「三人分」

「……え?」

「三回耐えられたら許してあげる」

「ぁ、え……?」

 

途端、襲い来る浮遊感。

そして背中への衝撃。

脚を持ちあげられて、背中から地面に落とされる。

掬投と呼ばれるそれは、受け身をうまく取れなかった男にとって一撃で意識を揺さぶるに十分な威力であった。

 

「あと二回」

「う、う……ゆ、ゆるして……ゆるしてください……もうしません……ゆるして……」

「お前の"これから"になんて興味ない」

 

ぐわんぐわんと揺れる視界の中、地の底から響くような声にうわ言のように許しを請う。

が、当然聞き入れられるわけもなく、獄卒の如き冷徹さでもってバッサリと切り捨てられる。

 

「ぁ……ぁ、あ……お、鬼……」

「うるせえよ人でなし」

「ぅあー!誰か!誰か助けてくれぇ!!」

 

出会い頭の勢いはどこへやら。

惨めったらしく泣いて助けを求める目の前の男に、マグマを呑み込んだかのように少女の腸は沸々と煮えくり返っていた。

 

 

『だぁれも助けになんか来ないよ────』

そう、どんなに泣いて叫んでも、誰も助けになんか来やしない。

 

『みぃんな君のせいで■んじゃったんだから────』

みんな、お前のせいで……。

 

『だから、■と一緒に────』

私……。

何を、しようとしてたんだっけ……?

 

 

必死に命乞いをする男の襟を掴みあげて、辛うじて爪先が地面につく程度に宙に浮かせたまま、一瞬茫然自失とする。

まるでその瞬間を狙いすましたかのように、力強く左肩を後ろから捕まれた。

 

「やめろ、それ以上はやりすぎだ」

 

 

嗚呼……。

誰も、助けになんて、来ないはずだったのに。

 

 

 

[newpage]

 

「はひ、はひ、きり丸っ、待ってぇ……」

「しんべヱがんばれ!あとちょっとで学園が見えてくっから!」

「でもっ、全然お姉さんが来ないよぉ!」

「だからっ!乱太郎が先に行って!先生とかを呼んできてるんだろ!追いつかれてオレたちが捕まったんじゃあのお姫さんの気持ちが台無しになるんだぞ!!」

「そうだけどぉ……!でもぉ……!」

 

鼻水と汗と涙を撒き散らしながら、しんべヱは懸命に足を前へ前へと進める。

会って半刻も経っていなかったけど、優しくしてくれたお姉さん。

自分たちで忍術学園まで護衛すると大見得を切ったのに、結局助けられてしまった。

今頃どんな酷い目に遭っているんだろう。

考えるだけで身震いがして、足が竦む。

それでも助けてくれた、逃がしてくれた、その想いを踏みにじることだけはすまいと一所懸命に走り続ける。

そんな二人に、突如ゴールが現れた。

 

「きり丸!しんべヱ!」

「無事か!」

「潮江先輩!」

「たちばなせんぷぁ〜〜い!!!」

「うぉあっ!よ、よしよし、よくここまで走ったな、えらいぞ」

 

二人の目の前に、忍術学園六年い組の潮江文次郎と立花仙蔵が空から降り立った。

仙蔵は内心「湿り気厳禁……!」と思いつつも、汗だくのきり丸と、もうあらゆる汁でぐちゃぐちゃの顔をしたしんべヱをその体で受け止める。

 

「先輩方がなぜここに?」

「六年全員で、この付近で課外授業があったんだ」

「そうしたらものすごい形相で乱太郎が走ってきたもんだから、何事かと話を聞いてお前たちを迎えに来たというわけだ」

「乱太郎は?!」

「乱太郎は先生と一緒に忍術学園に知らせに向かったよ」

「そ、そうだ立花先輩!お姉さんが!お姉さんがまだ!」

 

ぐしゅぐしゅと仙蔵の胸板で泣いていたしんべヱが慌てたように顔を上げる。

 

「……しんべヱ、まず鼻をかめ」

「はい!チーン!!」

「私の服でかむなぁ!!!」

「すいませぇ〜〜ん!」

「くっ……ま、まあいい……ゴホン!お前たちを逃がしてくれた女性についても聞き及んでいる。私達以外の四人が向かったよ」

「俺もそっちに行きたかったがなぁ」

「あほか。足軽崩れの山賊三人に過剰戦力だろう」

「わぁかってる!さ、二人共。俺たちと一緒に学園に帰るぞ」

 

その言葉を聞いた途端に、一瞬嬉しそうな安堵したような表情を見せた二人はしかし、すぐに顔を曇らせる。

 

「どうした?疲れてもう歩けないか?」

「違います……ぼ、ぼく……ぼくたち……」

「お姉さんのこと守るって言ったのに、逆にお姉さんに守られて……」

「だから!このままでは帰れません!」

「お姉さんを迎えに行きます!」

「お前たち……」

 

キリリと前を向いた二人の顔に、もう涙はない。

 

「よく言った!!それでこそ忍たまだ!!!」

「潮江先輩……!」

「じゃあ!」

「ギンギンに迎えに行くぞ!!ついてこい!!」

「「おー!」」

「文次郎お前、戦いたいだけだろう……はぁ」

 

戦いたがりな同室に呆れつつも、仙蔵は三人の後を追って走り始めた。

 

 

[newpage]

 

「やめろ、それ以上はやりすぎだ」

「……やりすぎ?」

 

振り返らずに問いかける。

男の襟を握る拳に力を込めると、それに呼応するように左肩を掴んでいる手に力が加わる。

 

「ひっ……ひっ……た、たすけ……」

「子どもを殺そうとしたやつを見逃せって?」

「違う。惣に引き渡す。生かしたままだ。罰はそこで受ける。お前がこれ以上手を出す必要はない。その手を離せ」

「……」

 

ドサリ、男から手が離される。

ぐったりと地面に倒れ込んだ男は、どうやら気絶したようだった。

それを確認した六年ろ組の七松小平太は、思いの外少女が素直に言うことを聞いたことに束の間拍子抜けして、肩を掴んでいた手をほんの少し緩める。

それが間違いだったことに気づいた時には、恐ろしい疾さでその身を翻し、小平太の腕を逆に掴み返した少女によって宙へ投げ出されていた。

 

「「!」」

 

投げられた小平太はしかし、しっかりと受け身を取り、掴まれていた腕を思い切り引いて拘束から逃れつつ、身体を捻って素早く身を起こす。

双方素人とは思えない動きに、相手への警戒度を互いに引き上げた。

 

「いきなり何をする」

「……鉄臭い」

「は……」

「お前、向こうから来たな。……子どもたちをどうした」

「いやこれは違」

「この……外道が!!」

「っ!!」

 

一歩で距離を詰めてきた少女に、小平太は思わず懐に忍ばせていた苦無を掴もうとして、やめた。

相手は同じ年ごろの女だ。

武術の心得があるようだが、まず負ける理由がない。

それに乱太郎の話では、どうやら三人を助けてくれたらしい。

そんな人間に武器を向けるというのは道理が通らぬだろう。

躊躇している隙に襟袖を掴まれたので、こちらも同じように掴み返す。

膂力は自分に分がある。

しかし上背と目方は少女の方に分がある。

向こうも同じことを組み合ったこの一瞬で読み取ったようで、眉間のシワが一段と深く刻まれた。

 

 

 

 

 

「うう、ごめんよ留三郎〜」

「気にするな、同室じゃないか!」

「長次もごめん!」

「もそ……引き上げる。しっかりつかまっていろ」 

 

山賊狩りに向かった四人のうち、七松小平太を除いた六年は組善法寺伊作、食満留三郎、六年ろ組の中在家長次は、断崖絶壁にいた。

まず伊作の足元の地面が崩れ、留三郎が咄嗟に手を掴もうとして巻き込まれ、長次が縄鏢で二人を吊り下げるといった、まあいつも通り、伊作の不運に巻き込まれた形である。

程なくして引き上げられたは組の二人は、少し息を切らせながら先に行かせた小平太のことを思いやった。

 

「小平太、一人で行かせちゃったけど大丈夫かなあ」

「足軽崩れが十人いてもあいつが勝つに決まってるだろう」

「いやそこは心配してないけど、力加減間違えて怪我させてたりしないかなあって」

「あー……」

「もそ……とにかく急ごう。小平太の足ならもう接敵している頃だ……」

「「そうだね/だなっ」」

 

そうして小平太に遅れることおよそ10分。

三人は予想だにしない光景を目にすることになる。

 

 

[newpage]

 

 

「(一体何が起こった……?)」

 

視界の端が徐々にぼやけていく中、小平太は思考を廻らせる。

膂力にものを言わせて、頭に血が上っているであろう目の前の少女を押さえこもうとした。

そこまでは良かった。

存外あっさりと地面に倒れこんだ少女に少し拍子抜けしたが、これでゆっくりと話ができる、そう思った瞬間。

 

「っ……!?」

 

少女はその背を地につける前に襟袖を掴んだまま、その腕力だけを起点に両脚を振り上げ、小平太の首に巻き付けた。

現代ではあらゆる格闘技に広く取り入れられている、柔道発祥の技。

三角締めが綺麗に決まった。

 

 

 

「っ……!?」

「(今、ここで、こいつを締め落とす!)」

 

重力に逆らうように男にぶら下がりながら、その男の右肩と首を脚で締めあげていく。

締め始めた時はなんとか踏ん張ってはいたが、すぐに男は膝をつき地面に臥せていた。

完全に意識を落とすまであと数秒。

 

「!?」

「いっ、けいけ……どん、どん……っ!」

「(こいつ……どんな腕力して……!)」

 

かかりが甘かったのだろうか。

脚の外側にある左手で右腿を引っ張られ、反対に内側に巻き込んだ右腕は左腿を押し、今まさに拘束している両脚を開こうとしている。

 

「こっ、のぉおお!!!」

「ぐっ!?うううう!!!」

 

襟を掴んでいた右手でモサモサ髷をひっ掴み自分の腹に頭部を押さえつけ、袖を掴んでいた左手で男の右手首を掴み直し己の体の右側に押し込んでいく。

開きかけていた脚も、しっかりと右足首に左膝を掛け直し再び締め直した。

 

「(今度こそ……っ!)」

「「「小平太!!!」」」

「!」

 

三人の男の声

まだ仲間がいたのか

逃がした三人はもう

 

一瞬でいろんな思考が去来する。

だから、気づかなかった。

押し込んでいた男の右手が顔の近くにあることに。

気づかなかった。

まだ男の意識が残っていたことに。

 

バチン!

 

「?!」

 

何かが破裂したような音と共に視界が歪む。

強烈な痛みが右の下顎から響いている。

 

「ぐっ……うっ……おえっ……」

 

ぐわんぐわんと揺れる頭とそれに伴う嘔吐感。

全身の力が否応なく抜けていき、三角締めを維持できなくなる。

 

「(一体、どうやって……)」

 

這う這うの体で男の方に目をやると、うつ伏せで倒れこんでいた男を仲間の一人が介抱していた。

残りの二人、鉄パイプのようなものを持った黒髪吊り目の男と、西部劇のガンマンよろしくロープを振り回している顔に傷のある男がこちらに近寄ってくる。

何とか立ち上がろうとしたが、いっそ笑えるぐらい全身が小刻みに震えて、無様に地面に転がった。

 

「(ここまで、か……)」

 

男たちが私に向かって何かを言っている気がするが、酷い耳鳴りのせいで何もわからない。

あの子たちはどうなったんだろうか。

私は結局、また誰も救えなかったのか。

……"また"?

 

「(私、一体何を……)」

 

何かを忘れている。

そして唐突に気づいた。

 

私、わたし、は……

 

「わ、たしは、だれ……?」

 

”何か”ではなく、”何もかも”を忘れていることに。

 

そこで私の意識はブチンと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆夢主

 

????

高校?年生。

柔道??。

??の??を?した??と????の最中に

現代から室町時代へトリップした。

 

◆持ち物

 

制服(in ナップザック)

水筒

タオル

筆記用具

教科書

etc…

 

 

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