こういにかかればこんなもん   作:赤とんぼ@蜻蛉の鍬

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デフォ名:○○
まだ彼女と雑渡が、顔を合わせたこともなかった頃。
互いの名前だけを知っていた頃。

一人の忍たまの、何気なくてかわいらしい提案が――
後に多くの人の人生を揺らすきっかけになるとは、誰も知らなかった。


測れる距離ができるまで

■プロローグ

 

 

「雑渡昆奈門に興味を持たれたァ!?」

 

 

思わず上ずった声。

家族のような間柄の利吉から出たその言葉に、彼女は思わず驚きと共に眉をひそめた。この後に来るいつものお説教の嵐を想像したが故である。しかしまさか、自分が“あの”曲者の目に留まることになろうとは――。

 

 

「い、いやでも“生徒の話を聞いたから気になった”、程度ですからそんな……」

 

 

危機感の薄い彼女は利吉をなだめようとするも、そのような言葉で納得できるわけもなく。彼女の予想通り彼の長いお説教が始まるのだった。

 

 

――それは運命と形容するにはあまりに軽く、執念と言うには甘酸っぱすぎる、不器用な二人の物語である。

 

 

・・・

 

遡ることしばらく。

雑渡昆奈門はいつものように忍術学園の医務室へと来ていた。彼にとって、保健委員会の良い子たちとの歓談は居心地の良い心休まるもので。

 

 

「なるほど、あそこの山にはそんな薬草が……」

「昔の話だけどね。今はある程度流通しているし、わざわざ崖上の危険な場所に行く人間なんていないだろう」

「でもきっとすごいスリル~」

 

 

今日の医務室には不運の申し子伊作と、スリルとサスペンスが大好きな伏木蔵が。校医不在のその医務室で、彼らはいつものようにサバイバルスキルの話題で盛り上がっていた。

 

忍びは任務で様々な地域に行くこともある。どこの山のどこに何があるかを把握するのは死活問題だ。ゆえに、植生を敵対する忍び同志で情報共有なんてもってのほか。

 

……ではあるが。

忍たまの良い子達の生存率を少しでも上げられるのであればと、雑渡はある程度問題にならない範囲で忍術学園の保健委員会の良い子達には共有することにいしていた。勿論情報の出所は秘密という約束で。

 

 

「薬草といえば。○○先生も最近薬草で新しいで薬を作ったと仰ってました~」

「そうだった。なんでも先日珍しい薬草を見つけたらしく……」

「いつ聞いても精力的だね、彼女は」

 

 

彼女。○○とは。

雑渡昆奈門の知る限り、忍術学園の校医の一人であり、学園の先生方の中では比較的若い女性である。時たま授業を教えることもあるとか。伊作曰く、薬学の知識に長け、新薬を開発しては自己で試し効能の良い薬を忍たまに提供しており、その薬は随分と効き目がいいらしい。もう一人の校医、新野先生の分野外を補うような存在とのこと。

 

まあ雑渡にとっては、つかの間の癒しの一つである良い子たちとの歓談を阻止する……もとい、曲者から忍たまを守っている存在には変わりないのだが……。

 

 

「特に先生の書かれた本は貴重な情報ばかりで、任務の時は助けられています」

「先生は趣味で、なんて仰ってますが、すっごく詳しく書いてあって面白いんですよ~」

「なるほど。それほどのものなら、いつか読んでみたいものだ」

「雑渡さんが曲者でなかったら、きっと見せていただけると思うんですが……」

「難しいでしょうね~」

「だろうね」

「でももし二人が出会ったら、一体どんなスリルとサスペンスが……」

 

 

苦笑いする伊作とは対照的に、二人の会合を少し期待する伏木蔵。わくわくとした思いを隠しきれないようで、期待を込め雑渡の顔を見つめる。しかし彼女が自分をどう思っているかうっすらと知っている彼は、彼女と出会うというのは少々面倒かもしれないと感じていた。

 

 

「おっと、彼女が来たようだ」

「! 今日も面白いお話をありがとうございました」

「また来てくださいね~」

「そうさせてもらおう」

 

 

そう伝えると、瞬く間に姿をくらませる雑渡。こうしていつも彼女が来る前に姿を消してしまうので、雑渡も○○も互いの顔をきちんと見たことがない。

 

 

「失礼」

 

 

そのすぐあと。

毅然とした声で障子を開けたのは、雑渡の言う通り○○だった。

 

 

「……二人だけ?」

 

 

彼女が部屋を見ると、三人分の食べ終わった菓子の皿。しかしもう一人の姿はない。

 

 

「今度こそはその顔を拝めると思ったのに……タソガレドキの曲者め……!」

「え、あ、あはは……その……」

 

 

曖昧な笑いで返す伊作をよそに、○○は雑渡のいた痕跡をにらみ叫ぶ。

 

 

「またお茶の機会を奪われたッ!」

 

 

私もみんなとお茶したかったのに! と悔しそうにこぼす。

そう、彼女もまた忍たま達との交流の機会をひと時の癒しにしているのである。たいてい彼女がよい茶菓子を手に入れた時に限って雑渡が忍び込み忍たま達とお茶をし、そのあとに○○が来るというのが最近のお約束だ。もはや知っていてやっているのではとさえ彼女は思い始めている。

 

 

「先生~、僕まだ食べられます」

「晩御飯食べられなくなるからダメです」

「じゃあ僕と伏木蔵で半分ずつなら……」

「うーん……それなら……」

「ワクワク」

「いやでも今回のお菓子は結構重いからな……やっぱりやめておきましょう」

「ガーン」

「お菓子はこちらで適当にするから、片付けしておいてくださいね」

「はい……」

 

 

効果音を口で言う伏木蔵にまた今度別のを用意するからと優しく返す。そして片付け始めた伊作に、そういえばと棚を見る。

 

 

「お客様用の茶葉は足りてますか?」

「あ、もう残り少ないかもしれません……」

「じゃあそれも取ってきますので、戻ったら委員会の仕事の続きをしましょうか」

「わかりました」

 

 

部屋を出た○○を見送りながら、伏木蔵は小さくこぼす。

 

 

「先生も雑渡さんとお茶がしたいなら、皆で一緒にお茶すればいいのに……」

「流石に曲者と先生とでお茶をしちゃだめなんじゃないかな」

 

 

伊作は伏木蔵の可愛い勘違いをした提案に軽く笑いながら、でもそんな風になれる日が来ると良いねと、希望ある未来を想像しながら返答するのであった。

 

 

 

 

 

■ひらめき

 

 

 

「で、この茶菓子を私に?」

 

 

受け取った菓子を見ながら、またいつものアレかと土井先生が笑う。

 

 

「そうです……またしてやられました……!」

「もう少し警備をなんとかしないといけないなぁ」

「相手はあの雑渡昆奈門ですから、中々難しいでしょうね」

 

 

はあ、とため息をつき半分諦めた様子の○○に、土井はなんとか後輩でもある彼女の力になってやれないかと思案する。そして、タソガレドキといえば、と思い出すことが。

 

 

「そうでもないかも」

うんうんうなる後輩を前に、土井半助は提案する。

 

 

「今日は一人だったみたいだが、部下と来る日もあるだろう」

「確かに。皿が多い時もありますね」

「そうそう。その部下の中に諸泉尊奈門という子がいてね」

「ああ、土井先生に挑んでは負けて帰るという噂の……」

 

 

お二人が戦っている時いつも見そびれるんですよね、と、買った茶菓子を口に運びながら、土井半助の活躍を見れないことに悔しがる○○。

 

 

「その子は小松田君に引き留められているし、私に戦いを挑んでくる時は事前にわかる。その後彼に続いて雑渡昆奈門が来ることもあかもしれない。あの曲者を見つける目安にはなるんじゃないかな」

「なるほど……では土井先生、諸泉尊奈門に戦いを挑まれたらぜひ私に教えてください。すぐに仕事を終わらせて向かいます」

「できる限りそうさせてもらうよ」

 

 

後輩のお悩み解決の手助けができたかな、と、土井は少し喜んだ。

その反面、こうして○○とお茶ができることは雑渡昆奈門の侵入あってのこと。忍術学園の教師としてはあるまじき考えだが、もしこの機会がなくなると少し寂しさを覚えてしまうかもしれないなぁ、とも。

 

 

「……待ってください。その諸泉尊奈門という忍び、確か若い男性でしたよね?」

「え?あぁ、そうだけど……」

 

 

土井が来るかもしれない未来に一抹の寂しさを感じている傍らで、○○は何か気づいたような顔をしている。

 

 

「そして、土井先生に挑んで負けては帰る、と」

「それがどうかしたか?」

「いえ、つまりその曲者は負傷して帰るということですよね」

「まあ、ある程度加減はしているが怪我はさせてしまうかな」

 

 

なるほどなるほど、と一人納得する○○。

一体なんの話をしているのかさっぱりわからない土井半助だったが、もしやと嫌な予感が頭をよぎった。

 

 

「あの、違っていたらそれでいいんだが……」

「?」

「もしかして、彼を手当しようとか考えてない?」

 

 

ギク! とあからさまに動揺した○○に大きくため息をつく。

これだから君は……と頭を抱える土井先生。

 

 

「あのね、相手は曲者。敵対している城の忍だ。彼が素直に手当させてくれると思うか?」

 

 

忍たま達ならともかく、教員である彼女が手当てをしたいと申し出れば流石の彼も何か訝しむだろう。しかし彼女は言い切った。

 

 

「思いません。思いませんが策はあります」

 

 

そう大きく言い切った○○に、嫌な予感がするなぁと苦笑い。

彼女の、見える範囲の人をできる限り手当したがるこの性分。昔から多少はあったが、現六年生の善法寺伊作が学園に来てからエスカレートしている気がするなと、自分が振り回される未来を感じ取った土井半助だった。

 

 

 

 

 

■若さゆえ

 

 

「土井半助! 今日こそは!」

「はぁ……また来たのか……」

 

 

暖かな日差しが降り注ぐ放課後、忍術学園に曲者が現れた。もはや恒例の、諸泉尊奈門である。

 

毎度毎度戦いを挑まれる土井半助であったが、今日はなぜかこちらに来てくれと案内を始める。

いつもと違う行動に頭にハテナを浮かべながら尊奈門がついていくと、そこは組頭がいつもお邪魔している医務室の目の前。

 

 

「なぜこんなところで……?」

「いやぁ、君の活躍を観たいと言っている人がいてね」

 

 

自分の活躍を見たい?

意味がわからないと首を傾げていると、土井半助が「○○先生ー、連れてきましたよ」と医務室へ声をかける。

すると障子が開き待ってましたと言わんばかりに「ようやくですか! 土井先生、がんばってください!」と女性が顔を出す。

 

 

「誰だ?」

「校医の○○先生。君が怪我をしたら治療ができるようにと待機しているんだ」

「校医の、○○……」

 

 

そういえば保健委員の忍たまたちから名前を聞くことがあったような……と思い返していた尊奈門だったが、はたと気づく。

 

 

「……って、私が怪我をする前提なのか!?」

「まあ、今までの傾向でいくとね」

 

 

まあまあいいじゃないか、と宥める土井半助にますます腹のたつ尊奈門。

そんな尊奈門に対し、○○は「今日なら負けないと?」と煽るような発言をする。そんな彼女に「何!」と、廊下に座り伏木蔵と共に観戦と手当の用意をしている○○をにらむ尊奈門。

 

 

「もちろんだ! 今日という今日は絶対に勝つ!」

「では、負けたら手当させてもらっても?」

「え、手当?」

「ええ。あなたが負けたら、忍術学園で手当されて帰ってください」

「なぜ曲者の手当をしたがるんだ」

「深い意味はありませんけど……」

 

 

若干目が泳ぐ○○に懐疑的な視線を向ける尊奈門。

 

曲者の手当てをしたがる教員がどこにいる?何か思惑があるに違いない。

 

流石の尊奈門もその考えに至るのは早かった。

 

 

「断る」

「でも負けないなら別にこんな条件あってもいいですよね?」

「そりゃあ負けるつもりはないが、お前が何か企んでいるのもわかる」

 

 

だからその話には乗らない、と尊奈門。

 

 

「なるほど~。敵のたくらみが怖いから断ると。まあもし負けて手当されて帰ったら、同僚からなんて言われるかわかりませんもんね。」

 

 

ね~伏木蔵君、と横に座る伏木蔵に語り掛ける校医。

 

 

こんなあからさまな挑発に乗るものはプロの忍びにいないだろう。

が、尊奈門は若い。若かったのだ。血気盛んな若者が何度も負けては自陣に帰り、先輩方からからかわれる日々。故に、挑発に乗ってしまった。

 

 

「なに~! 負けもしないし手当も受けない! お前の目論見はよくわからんがいいだろう!! その提案、受ける!」

 

 

見てろよ土井半助! と息巻く尊奈門を見て、「ああ、かわいそうに」と心の中で憐れむ土井先生。

そんな土井先生の心中などお構いなしに、今日こそはと勢いづき、尊奈門、いざ勝負にかかる。

再戦のため鍛えた腕前を見せる時!

 

 

 

■性分

 

 

「やはり出席簿では打ち身が多いですね。チョークでは切り傷もつきませんし……」

 

 

使えるのは打ち身用の薬だけかぁ~、と残念そうに尊奈門を手当する○○とやら。

 

 

「なぜ曲者の私をなぜ手当するんだ」

 

 

ふてくされた顔の尊奈門。

それを聞いた○○、ぴしっと姿勢を正し、生徒に説くように尊奈門へと口を開く。

 

 

「怪我人をそのまま返しては忍術学園の名折れです。ここで怪我をしたのであれば、ここで手当を受けてください。……まあ、曲者には普段適用されないんですけど」

 

 

といい目線をそらす。

やはり曲者に対する対応にしては異例だと認めつつ、つらつらと続く。

 

 

「いえね、実は日々新薬を開発していまして。ただ、どれくらい効くかという治験は子どもである忍たまたちには当然使えませんし、かといって忍術学園の先生方は皆お強いので使う機会も早々ないし……そんなところにあなたの話が舞い込んできたわけですよ」

 

 

つまるところ人体実験がしたいと。

 

 

「すごいスリル~」

「ほどほどにしてくださいね、○○先生」

 

 

いつものことだとでも言うように、茶をすすりながら軽い笑いですませる土井半助。この様子からみて忍術学園にとってはよくあることなのだろう。

 

そしてこうなることが分かっていたのに止めなかったのであろう土井半助……! じとっとした目で尊奈門が土井先生をにらんでいる中、ぬっと大きな影が○○を覆った。

 

 

「あまり人の部下で遊ばないでいただきたい」

「組頭!」

「げぇ! 雑渡昆奈門!?」

 

 

頭上から聞こえた声に反応し、仰け反るように叫ぶ○○。

尊奈門に組頭と呼ばれたこの大男。

タソガレドキ忍軍組頭、雑渡昆奈門。

忍術学園の最強のセキュリティである小松田君さえも欺くその力量は、○○にとってはこの先きっと「手当対象外」。

その上生徒とのお茶会の機会を奪う、忍術学園関係者でもなければ自分に手当をさせてくれるわけでもないこの曲者は、○○にとって全く持って無益な存在なのである。

一応気になる点はあるものの、曲者がそれを自分に開示するとは思えない。……戦場で怪我をしていれば話は別だが、まあ遭遇しないだろう。

 

 

「あ、遊んでいるのではありません、手当をしているのです」

 

 

動揺しながら答えつつ、○○は初めて雑渡顔を見た。

噂には聞いていたが、全身に包帯を巻いた想像以上の大男の存在に、流石の○○もぎょっとする。顔、こわ、と。顔を見たら今までの恨みで睨んでやろうと思っていたが、その存在感に気おされた。さすがはタソガレドキ忍軍の組頭。

しかしここで動揺はいけないと己を落ちつかせ説明を続ける。

 

 

「今回使うのは普段なかなか手に入らないあれとこれを使って……いえ調合は秘密ですが、まあ一般的な打ち身薬よりも効果は期待できるぬり薬を使っています。一応自身で実験済みですので」

 

 

安全ですよと。ただ男性には使っていないので比較資料が欲しいんですよね~と続ける。はぁ……とため息をつく雑渡昆奈門に対し、もう○○はどこ吹く風。

 

 

「どうせ私のいない間に勝手に医務室にいらっしゃるのですから、その時に感想など保健委員の子達に教えてください」

「承知した」

 

 

嫌味も含めた発言に対しあっさり承諾する雑渡昆奈門に、尊奈門も○○も少し驚く。

尊奈門は「組頭?」と心配そうに雑渡を見つめ、○○は目を丸くして雑渡の顔を凝視する。どこのプロ同業者に部下を人体実験させる上司がいるのか、と。

 

 

勿論、雑渡も普段なら自分の部下を忍たま以外の身内でもない者に手当をさせるなんて、しかも新薬の実験体なんてもってのほかではある。が、保健委員のみんなの話を聞く限り、曲者であっても怪我人を無下に扱ったり、危ない薬を使うことはなさそうだと雑渡は判断した。

 

あくまでも○○を信頼しているのではなく、忍術学園の良い子達を信頼しての判断ではあるが。それに打ち身の薬ですと言って毒を塗るなんて馬鹿な真似をする教師が忍術学園にいるとは思えない。

 

雑渡は、そばにいた伏木蔵に解説をしながら手当てをする○○の手際と薬をじっと見つめ、確かに忍術学園で校医をしていることはあると一人納得する。

 

 

少しして、手当終わりです!と優しく尊奈門の肩を叩く○○。

 

 

「どうも……」

「次はぜひ、打ち身以外の怪我もお願いしますね!」

 

 

嫌味ではないことはわかるが、だからこそ腹のたつ一言に、尊奈門の彼女に対する手当への礼の気持ちは去っていく。

土井半助と○○、いつか絶対にぎゃふんといわせてやると心に誓った尊奈門。

手当ても終わったし帰ろうかと、タソガレドキの曲者たちはそう言ってさっさと立ち去って行った。

 

 

 

「また来てもらっても困るんだけどな~」

 

 

夕焼けに消えゆくタソガレドキの忍びを見送りながら、土井半助は困ったようにそうこぼした。

 

 

 

 

■分析

 

 

「で、どうだった?」

「どうもこうもないですよ、またやられました」

 

自陣に戻り、悔しい表情を浮かべる尊奈門に対し「そっちじゃなくて」と雑渡は言う。

 

 

「手当の方だ」

「手当……ですか」

 

 

言われて手当された箇所を確認する。

撤退する途中は傷んでいたが、気づけば随分と痛みは引いている。

普段ならまだ痛んでいてもおかしくはないのに。

 

 

「そういえば、痛みの引きが早いような……」

「なるほど。実際に有用な薬ではあるのか」

 

 

ふむ、と少し考えた雑渡は忍たまの話を思い出す。

植物、特に薬草に詳しく、薬の開発に精力的。

そして、校医といえど若くして忍術学園の教師も兼任する。

尊奈門と土井半助が戦っている最中の彼女も遠くから観察していたが、伏木蔵君にしていた戦いの解説を聞けば、その実力もわかるというもの。

 

実際に目の当たりにすると、少し興味が湧いてきた。

 

 

「今後も土井半助に挑むなら、けがをした際は手当されて帰ってくるといい」

「え! 本気ですか!? 組頭!」

 

 

また負けたら敵陣で手当される無様な姿を晒せと? と異議を申し立てる尊奈門だったが、雑渡は一言。

 

 

「それが嫌なら土井半助に勝つことだ」

 

 

ずず、といつもの竹筒から茶を飲む。

尊奈門は弱くない。ただあの土井半助が強すぎる。それだけのことだ。しかしそれだけのことを理解できずにいては、実践で苦労をするのは尊奈門だろう。

早くそれを理解してもらいたいものだと、部下の成長に期待する。

 

 

それにしても……あの手当の手際、雑渡は伊作を思い出した。

きっと彼の師は彼女なのだろう。であれば、伊作君が薬学に長けていることも納得がいく。

つまり、非常に間接的ではあるが、自分が助けられたのは彼女のおかげとも取れるというわけか。……いや、いささかこじつけすぎるか。

 

雑渡はふと浮かんだ自分の考えに笑い、いつまでもふてくされた様子の尊奈門に一言告げる。

 

 

「それと、医療班に塗り薬を見せてきなさい。成分が分かるかもしれない」

 

 

転んでもただでは起きるなと、失敗を生かせと安易にそう言う組頭に、小さく「はい……」というほかのない尊奈門だった。

 

 

 

 

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