こういにかかればこんなもん   作:赤とんぼ@蜻蛉の鍬

2 / 3
生まれた気持ちが何なのか、確認したくなるのが人間の性。

雑渡は彼女への興味がなんなのか。知りたくて色々試してみて。
彼女は雑渡の目的がなんなのか。わからなくて困惑して。


芽生えた何かを確認したく

■危険な薬草採取

 

 

暫くたったある日暫くたったある日のこと。

 

伊作から聞いた薬草の情報に心躍らせ山を登る男性に扮した○○の姿。

自分の知らなかった場所に生えているらしいそれは、距離的にも生徒が取りに行ける範囲の場所。ある程度危険だとは言うがそれがどの程度なのか。もしかすると鍛錬も兼ねることができるかもしれない。生徒が学ぶにはもってこいの場所ではないかと視察に来たのだ。

 

そして、それを遠くから見守る雑渡昆奈門とその部下たち。

 

あの情報を聞いた○○なら来るだろうと踏んでいた。

無論、雑渡昆奈門が彼女に興味を示す前の行動ではあるが、いつか かの校医の姿を拝みたいと思っていたが故に仕込んでおいた情報だったのだ。

……まあ、その前に思わぬ形で出会うこととなったが。

 

それはともかく、あの過酷な道のりをどうやって進むのか見ていると、どうも最も安全そうな道を探しつつのんびりと向かう○○。

 

普段から危険な場所へも薬草採取に行っていると聞いていた。彼女であればもっと早くにたどり着くだろうと踏んでいた雑渡は、実力を見誤ったか? と疑問を抱く。

 

 

「尊奈門、どう思う?」

「まあ女性ですから。あの山道を選ぶのは自然ではないでしょうか」

 

 

うーん、自分の過大評価なのか尊奈門の過小評価か。

悩ましく見ていると、彼女は無事到着し、興奮しながら例の本に色々書きとめ、薬草を採取する。

ある程度の分量をなぜか別に分けて懐にしまい、残りはかごに入れた。

 

ふむ、と雑渡。

 

 

「これ、組頭の貴重な一日を使ってまで見ることですか? 報告なら後で私がするのに……」

「実際にこの目で見ておきたくてね」

 

 

○○に対しぶつくさいう尊奈門を横目に、ジッと観察する雑渡昆奈門。

先日の薬の件で興味が湧いたのだろうか?と、尊奈門が雑渡の方を見ていると、

 

 

「尊奈門、私ではなく彼女を見ておきなさい」

 

 

とたしなめられる。

すみませんと慌てて視線を女に戻す。

相変わらず楽しそうに薬草を吟味し摘んでいるその姿は、保健委員会の子たちを彷彿とさせる。

もしや組頭は、彼女を保健委員の良い子たちと同列に見ているのではないか? と、心配そうに改めて組頭を見てしまった尊奈門。

 

 

「尊奈門、」

「す、すみません……」

 

 

まさか自分がそんな事を考えているとは言えない尊奈門は、また大人しく彼女を観察した。

 

 

 

 

■実力やいかに

 

 

 

○○が、そろそろ帰る頃かという時であった。

雑渡は控えさせていた他の部下二人に、この土地の関係者ふりをして彼女の荷物を全ておいて行かせ、抵抗するようなら捕まえて自分の下へ連れてくるようにと伝えた。もし失敗したら、先にタソガレドキ城へ帰るようにとも。

 

 

「尊奈門は遠くから彼女をみていなさい。彼女が逃げるようなら、可能な範囲で追跡を。もし彼女が2人に捕まったら……」

 

 

じっと彼女を見る雑渡昆奈門。

 

 

「助けたふりをしてここへ戻ってくるように」

 

 

可能な範囲で……なんてまるで自分が彼女よりも劣っているかのよう。いくら忍術学園の教師だからといって、ただの校医に負けるつもりはない。

 

 

「絶対に追跡してみせます!」

「頼んだよ」

 

 

改めて校医に視線を戻す尊奈門。

丁度部下二人が接触したところだったようだ。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「人様の敷地内だと知らず、荒してしまい申し訳ございません」

 

ですから全ての荷物は……と穏便に事を運ぼうとする○○。

 

 

「だめだ、荷を置いて立ち去れ。」

「今日摘ませて頂いた薬草だけでなく、全ての荷物を、とのことですか?」

「そうだ」

 

 

困った素振りを見せる○○に、一歩も引かない(偽)関係者。

 

仕方ない……といい、背負っていた籠と飲み物、軽食を入れていた竹皮、財布など、おおよその荷物を取り出し「ではこれで……」と立ち去ろうとする。

 

 

「まて、懐の荷物もおいていけ」

「やだなぁ、一体どこからみてたんですか?」

 

 

財布まで出したのにと、調子の良い笑顔で懐にしまっていた薬草を取り出す。

 

 

「すみません、薬草、どうしても欲しくて黙っちゃいました」

 

 

では、と立ち去ろうとすると、まだ○○を睨む(偽)関係者。

 

 

「まだ、なにか?」

「足りんな」

「もしかして服から何から身ぐるみ全部剥がそうというおつもりですか?」

 

 

笑顔で返す○○。

 

 

「懐に、まだあるだろう」

「……」

「…………」

 

 

お互いの顔つきが変わった瞬間、○○は自分を掴もうとする手を瞬時に避け後方に飛び出す。来た道とは真逆の険しい道のりを追っ手をかわしながら難なく進んでいった。

 

少々判断は遅いが……

 

 

「流石は忍術学園の教師、といったところか……」

 

 

ぼそりと呟く雑渡昆奈門。

学園とは真逆の方へ逃げるところをみると、十ニ分に追っ手を巻いてから学園へ戻るつもりか。

 

「尊奈門」

「はっ」

 

尊奈門はすぐさま○○を追いかける。

雑渡は「さて……」といい、いつもの横座りのまま部下の報告を待つことにした。

 

 

 

 

■案外大胆なあの子

 

 

 

組頭の指示通り、逃げる○○の後を追う尊奈門。

 

尊奈門が様子をうかがっていると、どうも戦闘に入ることを避け逃げに徹するつもりらしい。

 

だがしかし、この先は崖のはず……地形が頭に入っていなかったのか? やはりただの校医……と、尊奈門は自分の認識が間違っていなかったと判断し、組頭に言われた通り助ける準備に入った。

 

想定通り崖の方向へ逃げた○○はとうとう追い詰められた。頃合いかと尊奈門が彼女の前に飛び出そうとしたその時。

煙玉を投げ部下たちの目を眩ませる○○。だが遠くからみる尊奈門の目にも、煙の中から飛び出す人影は見つからない。崖側は木々も少なく見晴らしがいい。隠れる場所もない。

 

ということはまさか……落ちた!?

 

この高さからそのまま落ちては、並の人間なら助からない。

思わず物陰から飛び出し、崖下を覗き込む。

 

見えるのはただの崖と、崖からまばらに生える木が何本か。

いや、下の方で何か動いている……?

目を凝らしてよく見ると、まばらに生えた木と縄やクナイを使って、うまく崖下へと逃げる○○の姿が。

 

まさかここから飛び降りるとは……。

そして「崖から飛び降りるための準備」までしていたとは、用意周到なことである。

 

あの逃げに加わりこの高低差。捕まえるのは難しいだろう。

 

組頭に「絶対に追跡してみせます!」と豪語したのにこの結果とは……と、尊奈門は肩を落とし、報告を待つ組頭の元へと向かった。

 

 

 

「なるほど……」

 

 

まあ追っ手を巻くにはいい選択かもしれないと評する雑渡昆奈門。

 

 

「もちろん、生きて降りることができればの話だが……」

 

 

それをするとは中々……実技もある程度はできるようだ。

 

 

「組頭でもそうしますか?」

「いいや、私なら追っ手二人を倒した後安全に城へ戻るね」

「ですよね。どうもあの校医は、戦闘を徹底的に避けている様子でした。攻撃されても避けるか逃げるかで……」

「なるほど。……忍術学園の教師なら、危険を犯して崖から飛び降りるよりも、戦う選択を取ってもよさそうなものだが……」

 

 

もしかすると尊奈門の存在にも気づいていたかもしれないな、とこぼす。

 

 

「私の存在に!? まさか!」

「彼女が男二人相手でも問題なく倒せるくノ一かどうかは知らないが、男三人となれば逃げに徹するのもわからなくはない」 

「組頭は○○への評価が高すぎます!」

 

 

○○の、というよりも、忍術学園の教師への、という方が正しいのだが、雑渡はあえて言及せず「そこまでいうなら今度は土井半助ではなく彼女と戦ってみなさい」と言い渡す。

 

あの手当と薬に目がない校医とですか? と返す尊奈門。そんな彼に、実力の知らぬ相手を属性で侮るのはよくないとたしなめる。

 

「まあいい。尊奈門、私は忍術学園へ向かう。お前は先に帰っていなさい」

 

 

そう言い残し、雑渡はすぐに忍術学園へと向かった。

残された尊奈門は、もう声の届かぬ相手に「はい……」と返事をするしかなかった。

 

 

 

 

■曲者の手当て

 

 

 

○○が忍術学園へ無事戻ると、医務室には伊作と、伊作に手当されている雑渡昆奈門が。やあと呑気に返す雑渡に向かって「あっ!」と大きな声を出した○○だったが、慌てて医務室に入り戸を閉めた。もし曲者が来たとバレては、血気盛んな子供たちが押しかけてきて収拾がつかなくなる。

 

 

「おや、今日は曲者と叫ばないのか」

「手当されている人間を追い出すのは本意ではありません。終わったらすぐに帰っていただきますが」

 

 

ほっとした表情の伊作に、時間も遅いので代わるから、部屋に戻っていなさいと告げる。

伊作としては、教師と曲者を同じ部屋に残してよいのだろうかと不安もあるが、両名とも伊作にとっては信頼できる大人。一抹の不安も残らないわけではないが、よろしくお願いしますと手当を引き継ぎ部屋を後にした。

 

伊作が出ていったのを見届けたあと、双方無言が続く。

静寂を破ったのは雑渡昆奈門。

「ところで」と切り出す。

 

 

「先生の方も、少し怪我をされているようだ」

「おや、お気づきですか。隠していたつもりなんですが……」

 

 

伊作君にはバレなかったのになぁ、流石は……と怪我をした自分の足に目をやる。

 

 

「実は薬草を取りに行った先で少し無茶をしまして……」

「崖からでも落ちたみたいだね」

「ははっ、流石はタソガレドキの組頭。察しが良いですね」

 

 

まるで見ていたみたいに、とこぼす○○。

やはり尊奈門が見つかっていたか? とも考えたが、仮にそうでも雑渡にとってはなんの問題もない。

 

 

「私の傷の手当より、自分の手当を優先したほうがよいのでは?」

「学園に出没した曲者を追い出すほうが先ですよ」

 

 

追い出したい、といいながらも随分とのんびりした手当が気になる。

……これは、手当ではなく尋問に変わるのだろうか。気になり○○の動きを観察していると、彼女は手を止め、憂いを帯びたような表情で傷口をじっと見つめる。

 

そう、憂いを帯びた……「ような」である。

 

 

この○○という女。

実は以前より気になっていた雑渡の火傷の状態を見たいがためにのんびりゆっくり理由をつけてじっくり観察しているのである。内心は、「どうにかして全身の火傷の具合を見せてもらえないだろうか」と考えている。無論、無理だ。

 

伊作の「一抹の不安」とはこのことである。

 

伊作は以前、雑渡を手当した際包帯を取り替えたと○○に話したことがある。彼女は雑渡が重度の火傷を負った過去があることは耳にしていた。

 

その為、火傷の具合や深度、全身重度の火傷を負ったであろう状態からどうやってタソガレドキ忍軍の忍び組頭にまで上り詰めたのか、現状の火傷の具合はどうなのか、……などなど。

雑渡昆奈門のことを曲者としてだけではなく、一人の火傷患者復活の症例としてとても興味を持っていた。

 

当時の伊作はとても困惑したし、それは今の雑渡昆奈門も同じである。

 

なぜ自分の傷跡をじっと見ているのか。

それほど時間のかかる手当でもなく、すぐにでも終わりそうなものをじっくりと。時には観察するような目で見られ。忍びとして非情に居心地が悪い。

 

 

「……そんなに酷いかな、私の怪我は」

 

 

言われてハッとする○○

 

 

「あ、いえ! すぐ終わります! すみません手を止めてしまって……」

 

 

慌てて手を動かしつつ、しかし欲が漏れ出たようで「火傷が気になって……」とこぼしてしまう。あっ、と思った時には遅く、相手にはしっかりと届いていたようだ。

 

 

「女性に見せるものではなかったね、すまない」

「まさかそんな、私の方こそすみません。人の怪我をじろじろ見るなんて……今の言葉は忘れてください」

 

 

己の欲を敵の前で口に出してしまうとは忍者失格、恥ずかしさに耳を赤らめると雑渡はふっと笑った。

 

まさか曲者の自分の怪我の手当をした挙げ句火傷の心配までされるとは。耳を赤らめ恥ずかしそうに、しかし慣れた手つきで手当を終わらせた目の前のくノ一を見る雑渡。彼女を微笑ましそうに見ていることを当人は気づいているのだろうかはわからないが、実力はさておき、忍術学園の校医も曲者に優しいとは……と雑渡は内に呟く。

 

 

「お待たせしました」

 

 

手当が終え、綺麗に巻かれた腕の包帯を見て、流石伊作君に教えているだけある、と評する雑渡。

 

 

「では終わりましたので」

 

 

お帰りください、さあ、さあ、さあ、と。

追い出されるように医務室の外に案内される雑渡。

 

 

「手当感謝する。それと、怪我。お大事にね」

 

 

慌ただしく学園外に出され、手短に感謝の言葉を述べ去ろうとする雑渡に対し

 

 

「いえいえ、あなたもタソガレドキ忍軍の皆様も、どうかお気を付けてお帰り下さい」

 

 

と○○。

 

やはりバレていたか。と雑渡は思った。

昼間のことがタソガレドキの仕業ということに気づいているにも関わらず、その元凶を手当するというのはどういう心境なのだろう。

 

伊作君のように、戦場に出た際は助けられる命は、と救護活動でもしているのだろうか。

 

少しだけだった興味が若干増していることに気づいた雑渡は、思わず笑みをこぼしつつ自らの城に帰っていった。

 

 

 

・・・

 

 

 

翌日。

伊作から「変なことしませんでしたか?」と聞かれた○○。なるべく平静を装い「つつが無く手当して帰ってもらいました」と伝えたが、あまり信じてもらえてはいないようだった。

 

忍たまでこれなら、やっぱり雑渡昆奈門にも気づかれているはず……と、顔を赤らめ本で顔を隠しつつ「雑渡昆奈門め~!」と走り去る姿を土井半助は教室の窓から見てしまった。そう、見てしまい、しばらく男の気配のなかった彼女がもしやあの曲者に……!? と、あらぬ誤解を胸に秘めることとなる。

 

 

かくしてそれぞれが色々な思い違いをし、それがどう繋がるかはこの時はまだ誰もわかっていなかった。

 

 

 

 

■報連相

 

 

「戦えたか、尊奈門」

 

 

某日。タソガレドキ城内。

意気消沈した様子で帰宅した部下に、いつもの横すわりとお茶でくつろいでいる雑渡が声を掛ける。本日の茶菓子、饅頭を頬張りながら。

 

 

「それが……」

 

 

言いづらそうに、部下尊奈門が口を開くも、同じ彼の部下、雑渡昆奈門が陣左と呼ぶ高坂陣内左衛門が嬉々として言葉を遮る。

 

 

「聞いてくださいよ組頭、尊奈門のやつ――」

「じ、自分で言うんでやめてください!」

 

 

楽しそうに雑渡に報告しようとする高坂を遮り、尊奈門は言い辛そうに話し始める。

 

 

「組頭の言う通り、土井半助ではなく○○に戦いを挑んだのですが……」

 

 

歯切れの悪い返事。

 

 

「無視でもされたか」

「いえ、戦うことはできました。ただ……」

 

 

というと、ほわほわと回想が始まった。

 

 

 

 

■組頭の命令

 

 

とある日。

忍術学園に忍び込み(正確には入門表にサインをし)、ようやく○○を医務室近くの廊下で見つけ戦いを挑むも……。

 

 

「え、嫌ですけど……」

 

 

即答で断られた。

 

 

「な、なぜだ! 手当ならさせてやるのに!」

「いや、自分で相手に怪我させて自分で手当するって意味わからないでしょう」

 

 

何を言っているんだこいつはと困った顔をされてしまい困るべきか怒るべきか分からなくなっている自分をよそに、○○は続ける。

 

 

「あなたが戦いたいのは土井先生では?」

「……組頭の命令だ。土井半助の前にお前と戦ってみろと」

「はぁ」

 

 

先程の表情に加え、わけがわからないという顔で見てくる。

 

 

「まあ、一応忍術学園で働く身、いつか忍術学園に忍び込んだ曲者と戦うこともあるんでしょうけど……」

 

 

名指しで果たし状を叩きつけられる覚えはない、と一蹴。

 

 

「お前になくても! 私にはあるんだ!」

「曲者のくせに厚かましい人ですね、普通に帰ってもらえません?」

 

 

今は試せる傷薬もなく正直旨みがないだとか、そもそも曲者に来てもらっては困るだとか、こういう時だけ自分の都合を押し付けてきやがって……と内心腹は立つが、このまま相手のペースに乗せられては前回と同じだ。今回は自分のペースに巻き込まないと。

 

 

「わかった、なら交換条件だ!」

「交換条件……?」

「私と戦わないのなら、手当してもらった新薬の感想は言わない」

「なっ……!」

 

 

それは自分と組頭が約束した話だろうとは憤慨しているが、もてる手札は使うに限る。

 

 

「戦ってくれれば今まで通り薬の感想は報告するし、一度でもお前に勝てばもうお前に用はない。これまで通り土井半助に挑む。そうすれば組頭も納得してくださるだろう」

「用はない……って……」

「私だって別にお前と戦いたいわけじゃない。だが互いに一戦交えれば丸く収まる話だ」

「……そもそもなぜあなたの上司……雑渡昆奈門は、私と戦えという命令を?」

「それは私が知りたいくらいだ。お前と戦えば、それも合わせて答えが出るということだろう」

 

 

不服そうな校医。

なぜ組頭はただの校医にこんな興味を持っているのか……。組頭がなぜか過大評価していることは隠しため息をついていると、不意にあの男の声が聞こえた。

 

 

「今度は君が彼に好かれたか」

 

 

○○をからかいながら突然彼女の隣に現れた土井半助。

 

 

「雑渡昆奈門が○○に興味がある、とは……面白い話だね」

 

 

にこりと笑ってはいるが、牽制を含めた笑顔。そして「彼は忍たまにしか興味がないと思っていたよ」と、土井半助は組頭への誤解が生まれそうな発言を。

 

 

「組頭が忍たまに優しくするのは可能性の塊だから、という意味だ。勿論組頭だって他のものに興味を示すことはある」

「例えば?」

「た、例えば……?」

 

 

組頭の興味のあるもの……。ちらりと○○に目をやる。何故か興味を持たれている当の本人は面倒くさそうな顔でこちらを見ている。言いたくない……最近何故か組頭がこいつに興味を持っていることを。言いたく……ない……!

 

 

「私が勝手に組頭の考えを読み、その上部外者に伝えるなんてするわけ無いだろう」

 

 

目の前の二人組は互いに目を合わせ、呆れた顔でこちらを見てくる。

 

 

「戦ってあげたら?○○」

「え!? 私がこの曲者と、ですか?」

「い、いいのか……!?」

 

 

まさか土井半助から促されるとは思っていなかった。何か企みでもあるのか?

私の考えとは裏腹に、土井半助は「○○は普段忍術学園内の人としか手合わせしていないし、それじゃあ自分の実力がわからないだろう」と。つまり、忍術学園の教師としての己の実力がどれ程のものなのか知っておくのも大切だという。

 

……これは組頭も似たようなことを言っていたな。

逃げる○○しかみたことがない。実際に戦ってみた時の彼女の実力は、自分としても多少は気になる。

 

 

「そういうことなら……」

 

 

土井先生に説得された○○は、仕方ないといった口ぶりで医務室前の廊下から降りて「これでいいですか」と戦闘態勢に入った。

 

 

「お前は何を武器にするんだ」

「えっ」

「土井半助は教員道具を武器にしていたが、貴様は薬研でも武器にするのか」

「…………」

 

 

あのですね……と呆れた様子の○○。

 

 

「大切な仕事道具の薬研を、武器になんてするわけないでしょう」

 

 

「……。」

「…………。」

「………………。」

 

「それは、まあ、そうだろうけど……」

 

 

まともなことを言われてしまい、思わず土井半助をちらりと見てしまう。

お前の仲間の土井半助は、教師の道具を武器にしているだろう、と……。その気持ちを抑え○○に視線を戻す。

 

 

「……、今失礼なことを考えていませんでした?」

「いや、失礼というか……土井半助が……」

「土井先生は強すぎるからハンデを与えているんですよ!」

「いやあ、ははは……」

 

 

親切心ですと憤慨する○○と笑ってごまかす土井半助にやや納得がいかないものの、そんな話をしていても仕方がないので話を先に続けた。

 

 

「ならもうはじめても?」

「いつでもどうぞ」

 

 

そうして戦闘を開始したのだが……。

 

 

 

■勝負の行方

 

 

○○の徹底した回避によって、戦いは長引いた。

最初こそ何度か刃を交えたが、忍術学園という見知った場所でも回避に徹するなんて……そして逃げに徹した○○に自分の攻撃がこんなにも当たらないなんて!

そうするうちに忍たま達や忍術学園の先生、高坂さんなどギャラリーが集まってきた。これでお互い負けるわけにはいかい状況になった、ということだ。

 

 

「そろそろ……疲れが、出てきたんじゃないか……○○……!」

「そういうあなたは、くノ一相手に随分時間をかけるんですね……!」

 

 

互いに息切れしながら煽り合うが、このままでは埒が明かない。

忍術学園には悪いが、このギャラリーを利用させてもらおう。

 

作戦はこうだ。

手裏剣を投げ牽制攻撃、その後一気に距離を詰め勝負に出る。もし彼女が不用意にはじくか避けるかすれば周囲の忍たま達に当たる可能性があるだろう。しかし一瞬の気の迷いは戦場では命取り……数々の飛び道具により相手の判断に迷いが出た隙に仕留める。

 

 

「まだ在庫があるなんて、どんだけ持ってきてるんですか……!」

 

 

残った飛び道具を余すことなく投げると、悪態をつきつつも器用に弾き続ける○○。しかし集中力にも限界があるようだ。弾いた飛び道具の一つが忍たまの五年生に飛んでいく。

 

「あ!」と気を散らした○○。かかった!

 

 

「そこだ!」

 

 

この攻撃が勝敗をわけた。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

目を覚ますとそこは、忍術学園の医務室だった。

高坂さんと土井半助、それに○○が団欒している。

 

 

「なぜ私が医務室に……」

 

 

状況が把握できない。

あの攻撃で勝てた、と思っていたのに、気づけば医務室の天井を眺めている。

起き上がると談笑していた三人の視線が集まった。

 

 

「ようやく目を覚ましたか、尊奈門」

「強く頭を打ったので心配しました……」

「無事目を覚ましてよかったよかった」

 

 

呆れ気味の高坂さんと安堵した様子の教師二人。

聞けば、隙だと思ったあれは誘いであり、自分の攻撃は躱され○○に態勢を崩された結果地面に倒れた。しかも、たまたま落ちていた大きめの石に強く頭をぶつけたとのこと。

 

 

「本当は体勢を崩したところを馬乗りになり、クナイで動きを制するだけの予定だったんですが……」

 

 

まさか石が落ちているなんて……と申し訳無さそうにいう○○。

 

 

「いや○○先生、気づいてましたよね?」

 

 

土井半助がツッコむと、さっきの申し訳無さそうな顔はどこへやら。「まさか当たると思わなくて……」「無理矢理避けさせて無理な体勢にさせるつもりだっただけで……」と、もごもご言い訳をする○○。

 

 

「では、尊奈門も目を覚ましたし、我々はこれで失礼する」

 

 

行くぞ尊奈門、と、目覚めてすぐの自分を連れて帰ろうとする高坂さん。悔しさやら何やらで言いたいことは山ほどあったが、あわてて高坂さんについてタソガレドキへと帰った。

 

 

 

 

■しょせんそんなもん?

 

 

「ということで……」

「立派に返り討ちにあってきた、というわけか」

「はい……」

 

 

しゅんとする尊奈門。

 

 

「勉強になっただろう」

「それは……その……はい……」

 

 

まだ悔しさが残っているのだろう歯切れの悪い返事。その悔しさがきっと成長させてくれるのだと雑渡は思った。部下が自分の実力を知ることは大事なことだ。

 

 

「で、陣左はどう思った」

「はい、組頭」

 

 

ようやく喋れると高坂はすらすらと報告した。

 

 

「序盤○○は防一線、回避に徹底し手が出せない様子で尊奈門が有利に見えました。しかし回避と逃げにより尊奈門の体力を消費させ、また、戦いを目立たせ周囲に人を集める。それにより尊奈門の行動範囲を絞り、今回のような結果に持ち込んだのかと」

「なるほど。彼女の予定通りだった、というわけか」

「恐らく」

 

 

その会話に「まさか!」と声を荒げる尊奈門。

 

 

「では高坂さんは、忍たまに手裏剣が飛んだ時のアレは、教員である○○がわざと忍たまを危険に晒したということですか?」

「あの忍たまは五年生。弾いて威力を減らした飛び道具程度避けられるという生徒への信頼でもあったんじゃないか?」

 

 

当の本人に聞いてものらりくらりと躱していたが……付け足す高坂。

そんなまさか……と状況を思い出していた尊奈門だったが、ふと気づく。

 

 

「というか高坂さん、最初から見てたんですか?」

「組頭から、尊奈門が忍術学園へ行くときはこっそり後をつけて戦いを観察するようにとご指示があったからな」

 

 

バッチリ全て見ていたという。

最初の方の全く○○に攻撃を当てられなかったところも見られていたなんて。

尊奈門が羞恥心に悶えていると、「よかったじゃないか、尊奈門」と雑渡が口を開く。

 

 

「な、何が良かったのですか?」

「あの忍術学園の教師相手に、" 体力を削ってから策に嵌めて倒す "という手段を取らせたのだから」

 

 

上々だよ、と雑渡昆奈門は言う。

 

 

「そ、そうですか……?」

「組頭、そんな事を言うと尊奈門が調子に乗ります」

「なっ、調子になんてなりませんよ!」

「いいや、今お前は褒められたならいいかと思っただろう」

「えっ、いや……その……」

 

 

図星を突かれたのか言い淀む尊奈門は、慌てて話題を変える。

 

 

「そういえば! 高坂さん、私が寝ている間に土井半助と○○の三人で話していましたよね? 何を話していたんですか?」

「あれは……」

 

 

高坂曰く。

 

本当は気絶した尊奈門を抱えてすぐ撤収するつもりだったが、打ちどころが頭なのですぐ動かすのはまずいと、尊奈門の目が覚めるまで医務室にいることになった。

話した内容は他愛もない話で特筆すべき点はない、とのこと。

 

それを聞いた雑渡は、それだけかと。

 

 

「いえ、まあ二人からは、軽くあまり来てもらっては困るとは言われましたが……タソガレドキ忍軍の修行場所ではないと」

「もっともだ」

 

 

小言は言うが、彼女は怪我をしていれば無下にはしないのか。

なるほどと。少し彼女の行動を理解し始めた雑渡。

部下に○○について調べる指示を出し、心のどこかで少し、彼女と次に会う日を楽しみにした。

 

次に会った際は尊奈門との戦いの感想でも聞いてみるか、と。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

場所は変わって忍術学園。

 

 

「では○○先生、戦いを振り返ってどうだったか教えてもらおうか」

 

 

あの戦いの後、土井半助に時間をつけて反省会をするからと言われていた○○。反省会までに自分の戦いを振り返って改めて浮き彫りになった反省点を土井半助に伝える。

 

 

「……正直、諸泉尊奈門を侮っていました」

「うんうん」

「体術面ではおそらく拮抗……となると男性である相手の方が筋力もあり、策を練らねば勝てない状況だと気づいたのが手合わせをしてからでした」

「以前私と彼の戦いを見ていたのに、それに気づけなかったということかな」

「恥ずかしながら……土井先生に毎度負けているということで、自分が勝っているわけでもないのに油断していたのだと思います」

「なるほど」

「また、忍術学園という良く知った場所で回避に努めてようやく勝てたことも、純粋に忍びとしての力量が足りなかったと反省しています」

 

 

勝てたと言ってもギリギリの勝利でしたと、しょんぼりした様子で報告する。

 

 

「それがわかっているなら、次からは反省点を活かして日々鍛錬に勤しむように」

 

 

どうせまた君のところへ戦いに来るだろうし、と。

……そう。尊奈門は言っていた。

「一度でも勝てたらお前にもう用はない」

つまり勝てなければ何度でも来るということだ。

 

少し間をおいてから困惑した表情に変わる○○。

 

 

「また来るんですか……!」

「ふふっ、私の気持ちが少しはわかってもらえたかな」

「気持ちはわかりましたが……私はその他に、医務室へ勝手に来る雑渡昆奈門の存在もあるんですよ……」

 

 

正直もうタソガレドキはお腹いっぱいだと言いたげな○○。

 

 

「でも尊奈門にわざと負けるのは嫌です!」

 

 

今回の戦いで色んな忍たま達や先生方に見られたのである。土井先生が余裕で倒すしょせん……ではなく諸泉尊奈門と自分の実力が拮抗しているということを。

 

あれ以来上級生たちから「○○に勝てたら諸泉尊奈門と同程度の実力である」目安として、手合わせの申し込みが絶えない。これで彼に負けてしまっては忍たま達から「土井先生が余裕で勝てる諸泉尊奈門に負ける○○先生」という図ができてしまう。

 

いくら校医と兼任とはいえ、忍術学園出身で尚且つ土井先生に稽古をつけてもらっている身としては、そんな状況断固として阻止したい、というのが○○の気持ちである。

 

 

「まあ、彼もタソガレドキ忍び組頭、雑渡昆奈門の側近……実力は並の忍びよりもあると思っていいだろう」

「ということは……」

 

 

やはり土井先生はすごいということか……と○○はしみじみと納得する。

そしてその土井半助という忍びの後輩として負けるわけにはいかないと闘志を燃やす。

 

 

「今後も自己鍛錬に励みます!恐縮ですがお時間が合えばまたぜひ、手合わせもお願いします」

「もちろん喜んで」

 

 

後輩の奮い立つ姿に今後の成長を期待しつつ、にっこりと承諾する土井半助であった。

 

 

 

 

 

■深夜の来客

 

 

「やあ」

 

○○が深夜まで医務室で作業をしていると、どこから現れたのか例の曲者がのんきに現れた。思わず大声を出そうとした○○だったが、彼の大きな手に阻まれてしまう。

 

 

「静かに」

 

 

指を口元へもっていき、静かにするよう促してくる。

 

一体何をしに来たのか。

忍たまの良い子達に会いに来るならわかるが、この時間帯なら中々会うことはかなわない。

ではどうして? 忍術学園の医務室に用が? いや、ただ単に偵察か? いやいやもしかすると先日使った薬で諸泉尊奈門に不調がでたのかも。いやでも彼には確実に安全だと確証を得た薬しか使っていないし……。

考えがぐるぐると回り続け混乱している○○をよそに、雑渡は思いもよらぬ発言を繰り出すのであった。

 

 

「君、私とお茶がしたいんだってね。暇ができたので来てみた」

 

 

……は?

意味が分からないという○○をよそに、雑渡は「伏木蔵君から聞いた時は驚いた」だとか「昼間にタソガレドキで今はやりの菓子を買ってきた」とか、この曲者はのんきなことばかり言っている。

忍術学園が、いや、私個人の実力がなめられているのか? と○○は若干の怒りが湧いたが、当の本人は本当に純粋にお茶をしに来ただけの様子。

 

 

「……ああ、静かにとは言ったが、周囲に聞こえない声で話してもらえるなら構わないよ」

「……」

 

 

無言の○○に対し、気を使ったように優しく話しかける。

これは、なめているとかそういう話ではなさそうだ。勘弁してくれと、彼女はため息とともに肩を落とす。

 

 

「いやぁ、夜は静かすぎて話すには適さないが、こちらも中々都合が取れなくてね」

 

 

今になってしまったのだと雑渡は言う。

 

色々聞きたいことと言いたいことはあるが、その前に。

 

 

「雑渡昆奈門殿。あなたはもう少し、曲者という自覚を持ってください」

「……、ふむ」

 

 

確かにとこぼす雑渡だったが、特に反省の色はない。

これが生徒であればこんこんと説教をしたいところではあるが、相手はタソガレドキの組頭。実力も立場も上の相手に、言いたいが言えない言葉をたくさん飲み込み状況を整理する○○。

 

 

「確認ですが、伏木蔵君が、私があなたとお茶をしたいと言っていたと……そうあなたに伝えたのですか?」

「正確には『みんなでお茶をしたい』と言っていたと聞いている」

「なるほど……。ちなみに以前私が使った薬で、諸泉尊奈門が不調をきたしたということもなく?」

「おかげ様で尊奈門は以前より早く回復しているよ」

「それはよかったです」

 

 

生徒を恨むようなことは今までなかったが、こればかりはちょっぴり伏木蔵君を恨んでしまいそうになる。この状況をどうすればよいのか。

 

 

「私もできるなら最初は皆で、と思ったが、教師が生徒の前で曲者とお茶をするのは都合が悪いかと」

「それはそうなのですが……深夜に侵入してきた曲者と一対一でお茶をする教師というのも都合が悪いかと」

「確かに。一応こちらとしては、組頭一人、部下を連れてこない形で誠意を見せたつもりなんだが……」

「……お気遣い痛み入ります」

 

 

「まあ結果的に、敵対している立場の戦力である男女が深夜一つ屋根の下にいることになっているんですけどね」とは到底言えないので心の内にしまう。

 

 

「では、どうすれば君に迷惑が掛からずお茶ができるか教えてくれないか」

「え?」

 

 

「君に迷惑が掛からず」などという言葉に思わず驚きを隠せない○○。

 

 

「そ、そうですね……可能であれば、客人として入門表にサインの上来ていただければ……」

 

 

そこまで言って、○○は自分の愚かさに気づく。

曲者に対して正面から来てもらえればお茶をするなど忍術学園の教師の言うことか?

 

タソガレドキと忍術学園の仲がいいならいざ知らず、圧倒的な悪名を誇るあのタソガレドキの忍組頭に、「この条件ならお茶をします」と提案するなどバカのすること。タソガレドキの忍術学園への関係は中立。それも「現状は」である。不要な交流など諸外国の心象に影響を与えかねない。

 

 

しかし、時すでに遅し。

 

 

「今のはちがっ、来られても困ります! ここはけが人や忍たま達のための場所で……!」

 

 

そんな○○の主張もむなしく、にやりと笑った雑渡昆奈門は、「ではまた日を改めよう」と一言いい、土産なのでと茶菓子を置いて去っていった。

 

この夜ほど彼女が頭を抱えた日はないだろう。

 

しかしその数日後、約束通り日を改めて客人兼けが人として訪ねてきた雑渡昆奈門の出現に、さらに頭を悩ませることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。