一番好きなヒロインはアイズです。
アイズ・ヴァレンシュタインという少女にとって、『英雄』という存在は複雑な意味が込められている。
一つは『憧れ』。父のような強く優しく、泣いている誰かの手を引き笑顔に変えれるような、平和を踏みにじる悪から自分を守ってくれるような、そんな存在が現れることを夢想していた昔の自分にとっての『
もう一つは『虚像』。自分が泣いてる時、苦しんでる時、現れなかった、来てはくれなかった。助けてと声を枯らしても、どれだけ願っても助けてくれなかった。だから『英雄』はいない。だから『悲願』も『母』も、自分の力でやらなければならない。諦めて剣を取った今の自分にとっての『
英雄はいる/いない。
だから英雄が好き/嫌い。
私に期待をさせないで/私を助けて。
【
『英雄』は『虚像』と知ったから。
『英雄』は決して褪せない『憧れ』だから。
△△△
光剣を構え、ニクス──変わり果てた精霊を睨む。
これは、駄目だ。
脅威──推定
もはや建物がどうとか言っている場合ではない。そんなこと考えてる余裕が一切ない。
てかケイオスって呼ぶのやめろ。
記憶を思い出すたびに『確かに凄いけどお前色々ふざけんなよ』ってなってく奴と一緒にしないでほしい。
『──ケイオス!』
歓喜の叫びだった。
高揚する精神に呼応するように穢火が勢いを増す。空間が震えて、軋んだ。
驚愕が溢れかえった。
本能的にこれは防げないと悟る。
回避──だめだ。後ろに人が残っている。
防げなかったら、確実に死ぬ。
ヴァレンシュタインさんたちが庇おうと動いてるのが分かった。
ああもうっ、畜生が!
「【
叫ぶように唄い上げ、出力最大──『全力』の発動。
ニクスを囲む形で防御性能に特化させた光粒を防壁として形成する。
衝突は刹那だった。
炎が膨れ上がった。
膨張した炎が弾けた。
弾けた炎が爆発となって、光の防壁とぶつかる。
「がっ、ぐぅぅ……!!」
防壁が耐え切れない。一瞬で亀裂が走った。防ぎきれなかった余波が周囲を燃やしていく。
損耗を瞬時に修復。張り重ねる要領で防壁を増設。並行して強化と修復を繰り返す。
発動の起点にした右腕に負荷がかかる。皮膚が弾け、筋線維が断裂した。
「──おぉぉぉぉォォォ!!!」
関係ない、緩めるな。痛みに怯んでいる暇はない。
守れ。守り抜け。
穢火の紅と白光の白が競り合い、視界を輝きが染め上がった。
防壁が砕ける。
割れた
辺り一帯を呑み込むほどに衝撃が放たれる。
吹き飛ばされないよう踏ん張る。
ちく、しょう。
防ぎきれなかった……! なんとか直撃しないようにするので限界だった。
確認するまでもなく、あちこちに炎が走っているのが分かる。
単純な出力差。歴然とした、隔絶とした差異が示された。
ニクスは恍惚とした表情で固まっている。
放置は怖いが、今が
今のうちに体制を整えないと詰む。
「戦える奴は来い!! そこのエルフも! 俺が治す!」
赤毛の神と思わしきと避難が遅れたのであろう獣人の少女を、オルナ似の少女──ティオナとかだった筈──が運ぶのを確認しながら残りのヴァレンシュタインさんたちを呼ぶ。
俺の隣にエルミナ似──ティオネ──とフィーナ似の少女──この娘は知らん──、最後にヴァレンシュタインさんが来た。苗字長いな、もうアイズでいいや。
加護の『全力』発動は解除せず、そのまま光をフィーナ似の少女に集中させる。
ルクスの光を生命力として傷を塞ぎ、ある程度活力を回復させる。
全快は無理。やろうと思えばできるがそんなことする余力はない。
最低限戦闘を継続できる
「……よし、これで動ける筈だ」
「──あ、本当だ。痛くない……!」
よし、ベルで練習しといてよかった。
『全力』を切る。現在の合計使用時間が約30秒。残り二分半……厳しいな。
「それで、あんたは何者?
「俺はアルバス。あれは精霊……たぶん、怪物と混ざってる。疑問は一旦飲み込んでくれ。君たちの力を借りないと、どうにもならん」
こっからは時間との勝負だ。
ニクスが動き始めるまでに信頼関係を築かないと。
嘘、正直信頼関係の構築は無理すぎるから、最低限の協力関係を成立させなければならない。
「あいつは俺を狙ってる。どっか別の誰かと勘違いしてるんだ。だから頼む、力を貸してくれ」
頭を下げる。
長々と言葉を連ねる時間すら惜しい。
マジで頼む。コミュ力なくて死ぬとか本当に最悪だから。
「……信じていい、と思う」
「アイズ、本当?」
「うん、嘘を言ってないって、思えたから」
「……はぁ。分かったわ、信じてあげる。あんたじゃなくて、アイズをだけどね。それにレフィーヤも治してくれたし」
「わ、私も! 貴方のおかげで助かりましたから! この恩は必ず返します!」
おお……よく分からないけど、何とかなった。
ん? なんかアイズめっちゃこっち見てるな。
……あ、え、これ俺が
……いやもういい!
そういうの全部後回し!
生き残れたら未来の俺が頑張ってくれるだろ、今の俺も頑張るから。
「君たちが何ができるか教えてくれ。俺はさっき見せた光を使った強化・放出・治癒・武器の形成。けどさっきまでの出力は後二分半しか使えない。その後はLv.4ぐらいだと思ってくれ」
「なんでもできるじゃない……あたしは体術、ナイフ、後は魔法で拘束ができるわ」
「私は単発攻撃、広範囲殲滅、後は他の方の魔法……色々できます」
なんでもできるじゃねぇか。
凄いこと言ってたぞこの娘。
「えっと……風の付与魔法と剣、です」
「となると……近距離戦闘要員が俺含めて三人。遠距離攻撃要因が俺含めて二人。搦め手が俺含めて三人か」
「全部含まれてる……」
いちいちツッコミしなくていいんだよ!
やっぱこの娘フィーネだな!
今真面目な時だから!
……ギリ、いけるか?
人材が優秀で助かった。
俺一人だったら到底不可能だが、彼女たちの力を借りれたのなら、まだ。
「──俺たちで、倒すぞ……!」
全員の意志が統一され、勝つための話が始まった。
△△△
また会えた。
これからも一緒だ。
破綻した思考。
捻じれ歪んで、それでも増し続けた愛の怪物。
方向性の根本が破滅を向いているという、致命的なまでの壊れ方。
それが穢れた精霊の分身として存在する、嘗ての大精霊だった。
『──ア』
彼を見つけられて。
彼の隣に見知らぬ精霊がいるのが分かって、
だから、気に入らないものは壊してしまおうという壊れた思考で、
「【
「【リスト・イオルム】ッ!!」
──光の鞭に、開かれた口を強制的に閉ざされた。
△△△
光の鞭が口に絡んで拘束する。
ティオネの魔法が成功したということだ。
っし、成功率10%ぐらいって聞いた時は本当に賭博士にでもなった気分だった。
勝ったから問題なし。賭博万歳だね。
一応俺が作った鞭も渡してたけど無用だった。光に還元し回収する。
回収できるのは僅かな魔力だが、その
「──【ヴェール・ブレス】」
示し合わせたように、魔法が飛んでくる。
身体を包む防護魔法。物理も魔法にも耐性があるらしい。
僅かに回復効果もあるらしく、消し切れてなかった傷が消えていく。
これで、最初の準備は完了だ。
ニクスに対して何よりも警戒したのは、魔法の発動だ。
さっきの魔力の奔流。あれは本質的には
制御されていなかった魔力で
可能性を潰す。
忍び寄る死神を先に殺す。
格上に挑むときの大前提だ。
だからこその拘束。
わざと見つかるような位置に俺とアイズは移動した。
レフィーヤはその近くに隠れ。
そしてティオネはニクスの足元に。
「じゃあ、
「はい、また向こうで!」
レフィーヤと別れ、俺とアイズはティオネの下に向かう。
長剣の柄を握り、感触を確かめる。
さっき渡された、店に置かれたものを借りた代物らしい。
耐久度は前のと変わらないぐらい。無理に使えば壊れるが、あるだけでありがたい。
光剣を作るより単純に付与で強化する方が効率が良いのだ。
「【剣姫】」
「はい」
二つ名を呼ぶ。確認しておきたい疑問があった。
……これはあいつが俺だけを狙っているのが分かったからこその作戦だった。
上手くいった……けどなんか標的俺だけじゃなくてアイズにもいってなかったか?
「なんかしました? めっちゃ狙われてましたけど」
「…………」
無表情なのに、固くなったのが分かった。
言いたくないことなんだろうか。
「お願いだ、教えてください。知らなかったから対処できなかった、なんて最悪だ。貴女も、誰かを守ろうとしたから手を貸してくれたんでしょう?」
家屋の上を移動しながら、至近距離で目を合わせる。
金の瞳が揺れた気がした。
「……たぶん、精霊の力に目を付けたんだと思います」
「精霊……なるほど」
なるほどとは言ったもののよく分からない。
君も俺みたいに加護使う感じなの? なんとなく違う気するんだよな……
まあ、いい。
俺以外にアイズも狙われる可能性がある。それを留意しとけば問題ない。
『
「ッ!」
ティオネの奮闘もあり、その口は未だ閉じられたままだ。
それに痺れを切らしたのか、ニクスが下半身の翼を羽撃かせる。
舞う炎は羽の形を取っていた。莫大な炎熱が込められているのが分かる。
拘束を解かんと、炎羽がティオネ目掛けて射出される。
「【
「【
光を纏い、駆け抜ける。
その横を
剣を振った。銀閃が走り、炎羽を斬り裂く。
二振りによる斬撃がティオネを守る結界を作った。
斬って斬って斬って。
剣閃が加速する。
傍から見たら光の奔流にしか見えない程に、斬撃が幾重に重なる。
「
「長くは持たないわ! 早く移動を始めるわよ!」
羽は無尽蔵。途切れる気配がない。
このまま逐一斬っていてもきりがない。
一発デカいのぶつけるべきだ。
「消し飛ばす! 行くぞ!」
斬撃を放ってから流れるように肩に長剣を乗せる。
魔力を回す。
臨界に達し白い火花が飛び散る。
全身を駆動。回転するように剣を振るう。
そうして放たれた
『─────!?!?』
それでも勢いを落とさない斬撃がニクスに直撃する。
斬り裂くには至らずとも、ダメージにはなったようだ。
くぐもった悲鳴を上げて、炎羽の追加がなくなった。
俺たちはすぐさまティオネが持っている
そして、全力で鞭を引っ張る。
ニクスの体が引き摺られ、動き始めた。
彼女の下半身になっている『ファイヤーバード』は決して大きくはない。
ニクスが悶えているうちに、全速の加速を行った。
ニクスと戦う時、最も気にしなければならないのはその攻撃範囲だった。
此処は街中。そんなとこで戦闘を始めれば被害は甚大だろう。
だから俺達は被害を気にせずに戦える場所を探した。
この街の一体何処にそんな場所があるのか。
「──
「レフィーヤならそのぐらいやってくれるわ! とにかく全力で運ぶわよ!」
解答。
レフィーヤに会場での避難誘導を頼み、俺達はそこまでニクスを引きずっていく。
それが前哨戦だ。
「っ、レフィーヤ……!」
アイズの声に従うように探せば、視線の先にレフィーヤがいた。
こっちに知らせるように手で丸を作っている。避難完了ってことでいいな。
ここまで四十秒。
ニクスはまだ行動を起こしていない。
残された『全力』稼働可能時間は一分五十秒。
いける。
例え時間を迎えて俺の能力が落ちても彼女たちの力があれば十分に対処できる。
これまでの交戦から確信を持って判断できた。
最初の魔力爆発に比べて、今は明らかに出力含めた全能力が下がっている。
あれで無理をしたのか?
「…………!」
「なんか言ってないか?」
「なんか言ってるわね」
「何か言ってる……?」
豆粒サイズだったレフィーヤがどんどん大きくなっていく中、何か叫んでいるのがわかった。
最初は聞こえなかった声が、距離が近づくにつれどんどんと大きくなっていって……
「こっちー! 人用の入り口しかないです! どうやって中に入りますかー!?」
顔を真っ赤にして伝えてくれた。
ぜぇはぁ息切れを起こしてる。
俺達は顔を見合わせる。
意思は元より統一されていた。
「「「
加速したまま、俺達は真っすぐ闘技場にぶつかりにいく。
目を見開いたレフィーヤが慌てて横に退避した。
衝突音が響き渡った。
闘技場を構築する石柱がニクスにぶつかって砕け散る。
後ろで石粉が舞うのが分かった。加速している身体は石粉に当たることもなく通路を突っ切る。
──そうして、中に入った。
闘技場は広かった。
これならニクスの攻撃範囲も収まる。
観客席には誰も残っていない。避難はしっかりと完了したようだ。
ブチ、と
ティオネの横顔に大量の汗が流れているのが分かる。必死に維持してくれたんだろう。
それでも、その立ち姿に乱れは見えない。
っし。
ここからが本番だ。
ここからが正念場だ。
ここからが、本当に制さなければならない絶戦だ。
全員が武器を構え、瞬時に突貫。
後を追ってきたレフィーヤの詠唱が聞こえる。
彼我の戦力を分析し、頭の中の冷静な部分が結論を出していた。
勝てる。
倒せる。
殺せる。
確かにニクスの出力は莫大だ。
あれが正しく攻撃の意思を持って振るわれたら、危ないかもしれない。
だが使わせない。唄わせない。抵抗すら潰す。
俺とティオネとレフィーヤとアイズ、それに合流しそうなティオナもいれば可能だ。
油断も慢心もない。
情すら今は切り捨てた。
順当に、勝てるから勝つ。
昔から、そうやって戦ってきた。
そうやって、ニクスを
『────』
─────だからきっと、これは順当な結果なんだと、思った。
唄ではない。
唄う時間なんて、与えなかった。
それは単純な魔力の放出だった。
単純な魔力の放出が、
防壁を作る時間すらない。
ただ直感に身を任せ、アイズたちを後ろに押しのけ、光を前方に収束させた。
劫火が白光と衝突する。
拮抗は一瞬だった。
紅と白がぶつかって、一方的に白が押し潰された。
腕を広げて受け止める。
守らないと、とか。死ぬなぁ、とか。制服駄目になるな、とか。
意味のない思考だけが脳裏をよぎった。
「……が、かひゅ……っ」
暗闇に染まった意識が復帰する。
息を吸おうとして、喉が焼けていてうまく吸えない。情けない嗚咽だけが漏れた。
首だけ動かして、周囲を確認する。
アイズたちが、戦っていた。
見ただけで魂が砕かれてしまいそうな凄絶な戦い。
荒れ狂う炎の渦を相手に、彼女たちは戦っていた。
……炎が、さっきまでと段違いだ。
この威力が出せるなら、なんで──
記憶が、
そうか。
お前は、
そんなになるまで壊れ果ててるのに、それでも気にかけていたのか。
全てが歪んでいるから、君の中で破壊と庇護は相反していないのか。
だから、壊しちゃダメなものがない此処だから本当の火力を出せたのか。
く、そ。
俺のミスだ。
読み違えた。
決定的な分水嶺を見誤った。
その結果がこの様だ。
制服も身体も焼け焦げている。
レフィーヤの魔法がなかったら即死だったな。
腕に力を込める。込められる力が残っていない。
歯を噛みしめて力を振り絞る。噛みしめる余力すらない。
ルクスに呼びかける。返ってきたのは弱弱しい気配だった。
無理、か。
何かできないかと思ったが、何もできない。
俺に許されたのは、彼女たちの戦いを眺めることだけだった。
アイズが剣を振るう。
決死の覚悟を宿した相貌で、炎を断ち切っている。
ティオネも、レフィーヤも、気絶してる間に参戦してたティオナも。
全員が、命を賭している。
場違いに、そこに輝きを見た。
命の輝き、人の輝き……きっと、
「…………ぁ」
アイズの態勢が、崩れた。
今、ニクスの攻撃が集中してるのがアイズで。
だから、必然としての崩れ。
炎が迫ってる。纏ってる風で防げるだろうか。
無理だろうな、と頭の中の冷静な部分が判断する。
「……ぉ」
なんだよ、まだ動くじゃん。
「──おおお」
もつれる脚を回して転がるように駆ける。
駆けながら落ちていた長剣を拾う。
魂が熱い。その熱が剣に光を灯した。
「おおおおおおおおおぉぉぉ!!!」
焼けている喉で、血を吐き出すように叫ぶ。
アイズと炎の間に飛び込んだ。
見るも無様な剣閃から放たれた光の奔流が炎と衝突する。
全力の俺でも無理だったんだ。
力不足だって分かってる。
力不足じゃなかった時なんてなかった。
俺には足りないものばかりだった! それでも守りたいものばっかり増えてきた!
だから!!
「ゥァァアアアアアアアアア!!!」
全身全霊。
刀身が砕けると同時に光が炎を押し返す。
両方の足で揺るぐことなく立つ。
今にも死にそうなのに、今までで一番感覚がクリアになっている。
魂が
「俺は、守る! この光を! この、人の輝きを!!」
刀身が砕け、柄だけになった剣でニクスを指す。
『それから、目を逸らすべきではない、私はそう思います』
『貴方自身が一番、逃げたくないと思っているのなら、向き合うべきだ。それが逃げ出したいものだとしても。そうしなければ、貴方が一番後悔する』
リューの言葉を思い出した。
ああ、そうだな。目を逸らさないで、向き合うよ。
「お前がこの光を貶めるなら俺が倒す! 輝きが薄れるのなら、輝けるように俺が照らす!」
宣誓が闘技場に響き渡る。
全員が目を見開いた。
『──アハ、ヤッパリアナタ、ケイオスダ』
ニクスが全身を喜びに震わせる。
そのまま俺を抱きしめようと羽撃いた。
広がった炎翼が炎を撒き散らすより早く、二本の
「やらせないよ!」
「無視してんじゃねぇよ!」
『~~~~~ッッ!?』
ティオナとティオネの痛烈な飛び蹴りがニクスを弾き飛ばす。
勢いよく闘技場の壁に衝突した。
「──【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
追撃と言わんばかりに後方のレフィーヤが放った三条の吹雪が奔る。
吹雪と炎がぶつかって、大量の蒸気が発生する。
追い打ちを狙ってか、ティオナとティオネの二人が駆け抜けた。
「……【剣姫】? 大丈夫か!?」
俺も続こうとすれば、制服の袖を掴まれた。
見れば、アイズは座り込んでいた。
怪我がひどいのか、と確認するも重傷ではない。
手を差し伸べても反応がない。……どうしたんだ?
「あなた、は……どうして、人を助けるんですか……?」
「は? …………えっと」
こんな時に何言ってんだ。
けど、その眼はあまりにも真剣だった。
縋るようですらあった。
「……困ってる人がいて、それを助けられる力があって、助けない理由があるか?」
「っ、ならっ……その困ってる人が、自分じゃどうしようもなかったら、どうしますか……?」
うん? マジで何なんだこの質問。
アイズは俯いて、ぎゅっと手を握っていた。
「きっとそういうこともある。助けたくても助けられないことは、きっとある。だから手を伸ばすんだ。手を伸ばした先からまた伸ばしていって、その繰り返しの先には届くかもしれない」
バっ、と顔が上がった。
迷うように、震えるように、目が、喉が震えているのが分かった。
「わた、しが……助けてほしいって言ったら、助けてくれますか……? わたしの……、英雄になってくれ、ますか……?」
英雄……? いや、英雄はちょっと…………ええ、マジか。
覚悟を決め震える手を握った。
俺は此処に居るぞ、というように強く握りしめる。
震えは徐々に収まっていった。
「ああ、助ける。君が助けを求めたら、必ず助ける。……英雄を求めるのなら、俺が英雄になってやる!」
勢いで言い切った。
え、俺本当にまた英雄やることになるの?
とりあえずアイズを立ち上がらせる。
「だから、君も俺を助けてくれ。俺だけじゃだめなんだ。お互いに助け合えば、きっとどんな困難にも打ち勝てるはずだ」
そう。
俺だけじゃ、
最後に一人で立ち向かうなんて選択をした、独りよがりの英雄はもういらない。
金色の瞳と目が合う。
この時、俺は初めて前世とか関係なくアイズ・ヴァレンシュタインを見た気がした。
「私が、必要……?」
「ああ、君が必要だ」
「……そう、なんだ」
握っていた手を離す。
なぜか向こうから握ってきた。
なんで?
「そうだったんだ──【
アイズを中心に風が巻き起こる。
温かく、包み込まれたような安心感が胸に生まれる。痛みも消えていった。
見れば、焼け爛れていた体が治っていく。
……あれ、
△△△
アイズは確かめたかった。
彼が、アルバスが本当に望んだような英雄なのか。
信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。
英雄なんていないと諦めていた。
だって。
だって、本当に居るのならなんで、助けてくれなかったのか。
彼女の中の憎悪には、そんなありもしない幻想への憎しみも混じっている。
嘘だと言いたかった。どうしても否定したかった。
やっぱり英雄なんていないと、叫びたかった。
だって。
だって、本当に居るのなら助けて欲しくなって、握った剣も決意もなくなってしまいそうだった。
──なのに。
『ああ、助ける。君が助けを求めたら、必ず助ける。……英雄を求めるのなら、俺が英雄になってやる!』
本当は、ずっと待っていたのかもしれない。
暗がりで独り泣く
震える手を握ってくれた彼の手は温かかった。
凍り付いた心すら溶かしてしまいそうな、泣きたくなるような温かさだった。
ああ、そうだったのか。
こんなに簡単な話だったのか。
助けてと言って。助けてもらって。
助けてと言われて。助けてあげて。
それが、こんなにも嬉しいなんて。
『いつか、お前だけの英雄に巡り逢えるといいな』
父に言われた言葉を思い出す。
お父さん。
巡り逢えたよ。
私の英雄になるって言ってくれた、英雄になって欲しい人に、巡り逢えたよ。
風が胸の中で渦巻く。
ずっとアイズを守ってくれた母の風とも違う、
きっと母も、こうやって風を父に渡したんだろうと。
全身を満ちる暖かな力を感じながら、そう思った。
「【
超短文詠唱。唄われる中身が、変わった。
それは、遥か昔に行われていた祝福と同一だった。
英雄に加護を授ける精霊という『古代』の再演。
「【エアリエル】」
アイズを中心に風が紡がれる。
そうして、繋がれた手を介して英雄に風の加護が授けられた。
傷ついた彼を癒し、守る聖なる風の加護だ。
「……行こう?」
顔を向ければ、横の少年は呆気にとられたような顔をしていた。
その顔が面白かったから、思わずアイズは笑ってしまう。
寄る辺を見つけ、風は世界を揺蕩う。
隣に彼が居ればきっと、どこにだって行けると、少女は軽やかに風に乗った。
△△△
待て。
待て待て待て。
本当に待ってくれ。
俺、一応覚悟決めて宣誓とかしてたんだけどさ。
それどころじゃないよね、これは。
何が起こってるんですか?
アイズが手を繋いできたと思ったら風が俺に纏わり何かすごいパワーが溢れてくる。
どういうこと?
あ、なんか風が強まった。
浮遊感。
浮いてる……す、すげぇ……
アイズに手を引かれて俺は空に浮遊していた。
あ、ニクスがこっち見た。
とんでもない形相になってるんだけど。
「……行こう?」
いや、当然そうな顔してないで説明してくれ。
……ああ、もう!
分かったよ、分かった。
疑問とかはとりあえず全部置いておく。
手を握ったまま。
空いてる方の手でニクスを指さし。
「さあ──決着をつけるぞ!!」
俺は半ばやけくそ気味に叫ぶのだった。
完全にライブ感で書いてしまい終わりです。本当はアイズに加護を使わせる気なんてなかったのに……
アイズ好感度ポイント
ミノ撃破+1
少女を助けてくれた+1
酒場でうるさいのを止めてくれた+1
誰かのために止めた+1
前世補正+1
自分を助けてくれた+10
英雄になるって言ってくれた+100
みたいな雑な処理です。
今まで主人公は7:3ぐらいの比率でアルバス:ケイオスだったんですが、今回で吹っ切れて100%アルバスになりました。まあアルバスとケイオスは本質が同一みたいな感じなのでほぼ変わらないけれど……
なんか知らない精霊が我が物顔でやって来てルクスはブチ切れてる。
たぶん次の更新は土日になります。
次回
11.それは遥か彼方の往昔の軌跡