俺の英雄譚は始まらない   作:佳和瀬

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12.ハローワールド

『ありがとう』

 

『出会えたこと。一緒に進んでくれたこと。輝きを見せてくれたこと』

 

『その全てに、心からの感謝を』

 

『あなたが示してくれた可能性』

 

『希望だった』

 

『何よりも光だった』

 

『……消えかけていた、ただの残滓だった私だけど』

 

『剣であり、鎧であり、翼として』

 

『あなたが諦めない限り、私は共に在り続けるから』

 

『だからどうか』

 

『いつまでも──』

 

 

 

 

 

 △△△

 

「ちゅーことで、アイズと一緒に色ボケ馬鹿戦闘(バトル)したらしいそこのアルバスくんをどう殺すかって話なんやけど」

 

「ちょぉーーーっと待ったァー!? 何を言い出してるんだ君は!?」

 

「うるさいねんドチビ!! アイズたんは誰にも渡さんッ!! 手を繋ぐ? ケーキ入刀? 認める訳ないやろ!!!」

 

 地獄のような会話を前にして、アルバスの顔から表情が抜け落ちた。

 遠い目をしていると、正面のフィンも同様だと分かり、同情の目を向ける。

 

 そっちも大変だね。

 君もね。

 言葉もなく、男たちの慰めがあった。

 

『怪物祭』から二日。

 アルバスたち──ヘスティア様、ベル──は神ロキたち──フィン、アイズ──と『豊穣の女主人』にて諸々の話し合いを行っていた。

 

 形式としては【ロキ・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の会談。

 当事者であるアルバスとアイズ。そして各ファミリアの団長と主神だ。

 そう、アルバスは【ヘスティア・ファミリア】の団員としてこの場にいるのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの祭りが起こした影響は大きい。

 ギルドへの詳細報告の前に、話し合いをしておきたいというのは、ある種当然であった。

 隠しておきたいこと、確かめておきたいこと。それらの擦り合わせである。

 

 前提として、アルバスの正体は既にバレている。

 これまでは顔を隠した外套姿での行動だったが、『怪物祭』でのアルバスの恰好は『豊穣の女主人』の制服だ。顔を隠してなんていない。

 ここからの誤魔化しは不可能だと、アルバスは諦めた。

 だからこうして話し合いの場に応じたのだ。

 

 話し合いに応じたことをアルバスは後悔していた。

 全く以て早計だったと自分をぶん殴りたくなった。

 ロキが完全にこちらを殺す目をしている。

 それはもう、『お前を殺す……!!』と激烈に伝えてくる眼光だった。

 

「アイズたんはうちのやぁ……! こんな寝取り認めてたまるかぁ!!」

 

 寝てから言え。

 いやまぁしかし、言い方を選ばなければ確かにアイズを溺愛しているロキにとってアルバスはぽっと出の間男である。

 ならば、この荒ぶり様も仕方がないのかもしれない。

 

「ええいっ、大事な話し合いの場で暴れるな! それに眷属に()()()()疑惑があるだけでこうなるなんて。神として恥ずかしいとは思わないのかい?」

 

(説得力がなさすぎる……)

 

 ヘスティアはアルバスとの初対面の時を完全に忘れていた。

 ベルさえも微妙な顔でヘスティアを見ていた。

 というか、この場の全員が神のしょうもない争いを微妙な目で見ている。

 

「うるさいよあんた達!! 今すぐここから追い出してもいいんだよ!」

 

「「す、すみません……」」

 

 そうして神二柱による喧騒はミアによる一喝があるまで止まる事はなかった。

 アルバスはもう二度と神の巻き込んだ騒ぎは起こさない、と心に誓った。

 

 到底叶わない誓いである。

 アルバスは自分が厄ネタ爆発庫であることを自覚していなかった。

 

 △△△

 

 そんなこんなで騒ぐ段階を終え、やっと真面目な話し合いが始まった。

 アルバスは転生や前世周りの、話してもややこしくなる部分を適当に誤魔化しながら(嘘にならないよう注意して)説明する。

 

「過去の英雄と間違えられて狙われてるとか、ほぼ通り魔みたいやないか」

 

「それは……いや確かにその表現で間違いないな……」

 

 あんまりな言い方に訂正しようとしたが、特に訂正する所がない。

 実際そうだな……と嫌な納得感があった。

 

「色々言いたいことはあるねんけど……とりあえず君、うちのファミリア入らへん?」

 

「あんな殺意向けられてたのに勧誘されることあるの?」

 

 アルバスは困惑した。

 緩急というか、温度差が凄まじい。

 冗談のような状況だが、ロキは真顔だった。

 

「アイズの件は置いておくとして、君は正直喉から手が出るほどに欲しい人材や。それに、おもろい。ウチに欲しいと思える。アイズの件は置いておくとして」

 

「ちょちょちょっ、主神の前で引き抜きしようとしてるのかい!?」

 

「主神っても、()()()()()()()? ほなまだ誰のでもないやんけ」

 

 ロキの言葉にヘスティアは何も言い返せなかった。

 そう、ヘスティアはアルバスに自らの恩恵を刻んでいない。いや、()()()()()()()()

 昨日の記憶が思い返される。

 

『怪物祭』の後、不眠不休での武器づくりに加え、怪物に襲われたことで疲れ果てたヘスティアは一日眠りこけた。

 そして目覚め、アルバスから諸々の説明を受けたのだ。

 

 彼も怪物に襲われたこと。

 その怪物が明確にアルバスを狙った、意思を持ち存在だという事。

 その怪物の仲間がまだいて、アルバスは戦う決意をしたこと。

 

 迷惑をかけるからと廃教会を去ろうとするアルバスをヘスティアは止めた。もちろん、ベルも。

 アルバスの善性はヘスティアにとって好感に値したし、情もある。ベルの恋慕も理由の一つだった。

 彼がこのままいなくなることを許容する者はヘスティア・ファミリアにはいなかった。

 

『う、うちは確かに団員は一人だけだし貯蓄もないけどアットホームで明るいファミリアだぜ?』

 

『勧誘が胡散臭すぎる』

 

 二人して、あの手この手で勧誘し、最後には泣き落としを行い、ついにアルバスは折れた。

 最悪俺が守り抜けばいいか……と自分を納得させ、彼はヘスティアの眷属になることにしたのだ。

 そうしてヘスティアは、彼に自らの恩恵を刻もうとして、

 

 そこまでを思い返して、ヘスティアは口を開いた。

 

「……()()()()()()()()()。弾かれて、拒否されてしまう。たぶん、『神血(イコル)』が入るほどの容量がないんだ。彼の中の『精霊』がその分を食ってるせいでね」

 

 自らの『神血』を背に透し、彼のこれまで(軌跡)を汲み取り、刻もうとした。

 できなかった。

 文字通りに、弾かれた。

 入り込む余地はないというように、弾き飛ばされたのだ。

 

「聞いたことがないけど……精霊と契約してる状態から神の眷属なるなんて前例は知らんし、そういうこともあるのかもしれへん。少年、その精霊との繋がりを切る気はないんやろ?」

 

 口には出さず、ロキはアイズとの相違について考えていた。

 彼女も精霊由来の力を持っているが、それは精霊との契約によって得られたものではない。

 そこに差異が生まれたのだろう。

 

「はい。それに切っても俺はLv.1からのスタートだ。()()()()()()()()()()

 

「……つまり、この少年には明確な所有権を誰も示せへん、っちゅーことや。ドチビのとこに所属してるいうのも、言ってるだけやろ?」

 

 アルバス・ソルヴァルクスには、神の恩恵は刻めない。

『古代』と『神時代』が決して相容れないように、彼はこの時代の異物であった。

 が、しかし。

 誰の眷属にもなれないということは、誰もが自らのものと宣言する機会(チャンス)を持っているということになる。

 娯楽に飢えた全知無能たる神々にとって、格好の玩具だ。

 今はその特異性がバレていないが、子供(下界)の嘘は(天界)に通じないために、いづれバレてしまう可能性はある。

 

「そうなった時、うちなら守ってやれる。これでも最大派閥や。()()()()()がちょっかいかけてきても跳ね除けられる。けど、ドチビはどーや? お前にんな力、ないやろ?」

 

「っ」

 

 力とは、重要だ。

 手に入れるためにも、守るためにも、それなくして語れない。

 そういう前提なのだ。

 だからヘスティアは何も言えない。後ろに立つベルも、悔しさに唇を噛むことしか許されていない。

 

「問題ない。降りかかる露は俺が払う。障害だろうが何だろうが、全て潰せばいいだけの話だろ?」

 

 逆説。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 物理的な重圧を発していると錯覚するほどの気配を纏って、いっそ凄絶なまでにアルバスは言い切った。

 

「敵はお前より強大かもしれん。それでもできる気なんか?」

 

「それが『英雄』ってもんだろ」

 

 さらり、と。

 さも当然であるかのように、アルバスが告げた。

 その場の全員が呆気に取られた。

 アイズだけ『私は分かってましたよ……』みたいに頷いていたが、誰にも気づかれていなかった。気づかれなくていい。

 

 この時代、この場──都市最大派閥、『英雄候補』の巣窟の前──において、その言葉に込められた意味は絶大なもの足る。

 

 一拍置いて、フルフルニィ……とロキの口角がつり上がった。

 

「フ、フヒヒっ……!! うちら前にしてんな事いうとは、傑作やな……!」

 

 最高の玩具を見つけた時のような、そんな笑い声。

 ゲッ、とヘスティアは顔をしかめた。

 

「ハアァァァァ……振られてもうた。ごめーんアイズたん! うちには来てくれへんみたいや!」

 

「うん……けど、大丈夫。一緒じゃなくても、一緒だから」

 

「なんかめっちゃ正妻の余裕みたいの出してるんやけど……」

 

 広がっていた緊迫の雰囲気が消える。

 アルバスが【ヘスティア・ファミリア】に属すという事を認めた、あるいは諦めたということ。

 ヘスティアとベルが満面の笑顔を浮かべるが、続くアイズの言葉に真顔になった。当然ロキもである。

 

「さて、じゃあこれからについて話そうか」

 

「ああ、そうだな。話そう話そう、大いに話そう!」

 

 事前に予測していたフィンが話を流す。ここ二日でアイズの変化は察し済みだ。胃痛が増したことは誰にも言っていない。

 冷や汗を流しながら、アルバスが頷く。

 アイズの爆弾発言に普通に動揺していたからヘッドバットじみた挙動になっている。

 

「君を狙った堕ちた精霊──『穢れた精霊』だが、アルバス。君の所感を聞きたい」

 

「……ニクス、今回の精霊は()()()()()()。たぶん、別に本体が居て……そこから力を分け与えられた分体だ。それこそ、神と眷属の関係性に近しいと思う」

 

 あの時感じた悪寒。

 いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれこそが本体のものではないかと、アルバスは考えていた。

 

「まだ自分と同じような精霊が居ると彼女は言っていた。助けてあげて、とも。だからきっと()()に居るんだと思う」

 

「……迷宮深層域にて、僕たちはあの極彩色の怪物と接敵している。君が言っていることが正しいのなら──」

 

「──そこに、居る」

 

 力を分け与えられた分体で、あの規模。

 ならばその本体とは一体どれほどのものなのだろう。

 

「……【ロキ・ファミリア】は近々再び深層域への『遠征』を計画している。君も参加してもらえないか。勘になってしまうけど、君の存在がカギになる……そんな気がするんだ」

 

「願ったり叶ったりだな。勿論だ。足手まといにはならない、必ず力になるよ……まぁ、色々制限のある力だけど」

 

 差し出された手をしっかりと握った。

 少し懸念するように言うアルバスに、フィンは苦笑する。

 

「時間制限があるにしても、Lv.4~5の力を持っているのは心強いさ。それに、精霊を倒したアイズとの()()()もあるんだろう?」

 

双戦舞(ダブルアーツ)やな」

 

「落ち着くんだロキ」

 

 ヘスティアは慌ててロキの口を塞いだ。

 本当は羽交い絞めにしようとしたが彼女の身長では不可能だった。もし可能だった場合ロキの背中に豊満な胸部装甲が直撃しもっと危険な状況になっていただろう。

 

「あの状態……身体的な接触を条件とした、擬似的な共鳴現象だと俺は考えてるんだが」

 

「たぶんそれで当たりや。言わば『仮契約』。パクティオーと言ってもええ」

 

「君はもう喋るな」

 

 ただ巨乳な幼女に負ける無乳(ロキ)ではない。ヘスティアの拘束をその体躯で抜け出し、また何か言い出した。

 ヘスティアが飛びかかり、神々が争い始める。

 もはや誰も視線すら向けなかった。

 

 △△△

 

「迷宮内での戦闘や陣形についてはこれから調整を重ねよう」

 

「そうだな、色々教えてもらえると助かる」

 

「そのぐらいはお安い御用さ。……さて、取り敢えず今日話すことは終わったかな?」

 

 会談を始めて暫く。

 たぶん話すべきことは全部話したよな……? うん、話したな。

 俺は迷宮での戦闘は初心者なので遠征までに経験を重ねよう、とかまで話したし、もう終わりだろう。

 

「あっ……話じゃないけど、まだ此処に用があったわ」

 

「僕たちが居ても大丈夫かい? 離れたほうがいいのなら離れるよ」

 

「いや大丈夫だ。これからについての事だから、居てくれると助かる」

 

 席から立ち、俺はカウンターの奥で作業をしているミア母さんのもとに行く。

 

「ミア母さん、まだ残ってる弁償の金、迷宮で稼ごうと思うんだけどいいか? これまでみたいには働けなくなるだろうし、そっちの方が都合いいだろ?」

 

 そう、俺は賠償金の分ここで働いている。正直もう返せてね? って思うぐらいにはこき使われてるけど、何も言われないってことはまだ残ってるんだろう。

 

 正直かなり職場として気に入ってるからこのまま働いてたいけど迷惑をかけるし……。

 断腸の思いでそう提案したのだが。

 

「何言ってるんだい? あんたが払わないといけなかった分はもう仕事で払ってるんだ。何時でも辞めていいさ」

 

「え?」

 

「あ」

 

 どういうことだ? 

 俺、もう返済してたの? 

 なんだ今のあ、って。シル、お前まさか……

 

「まさか……聞いてないのかい?」

 

「聞いてない、本当に聞いてないんだけど」

 

「シルが自分から伝えるって言ってたんだけどねぇ」

 

『やっべ』みたいな顔をしたシルを見る。

 

「…………てへ」

 

「無理があるぞそれは」

 

「だって、アルバスさんすごい働くからすぐに返済終わっちゃうんですもん。もうちょっと一緒に働きたいなーって」

 

 俺は力なく首を振った。

 完全に駄目だろ。いやまぁ働くのは結構楽しかったけど! 

 日給で金も貰えてたし、こう……別に責めることはないんだけど……こうさぁ。

 

「えっと……お客様として来てくれたらサービスしますから! 許してくれませんか……?」

 

「上目遣いで言われても俺は屈しないぞ……って言いたいけど、いいよ。働くの楽しかったし。また客として来るから、普通に接してくれ」

 

 別に上目遣いに言われて負けたわけではない。

 少々値段は張るが、料理は上手いし。これからも愛用していきたい。それに客としていけばあの猫二人組からかえるしな。

 

「……なら、あの時助けてくれたお礼として、サービスさせてください」

 

「あぁ、『怪物祭』のか。そんな気にしないでいいんだけど……」

 

「私、本当に感謝してるんです。あんな横抱きにしながら私のことを守ってくれて……かっこよかったですよ?」

 

 ん? 

 なんで密着してきたんだ。それに結構しっかり通る声で言ってるし。

 シン、と静かになる。

 嫌な予感がしてきた。

 

「……僕も助けてもらったし。すごく、かっこよく」

 

 ベルが対抗するように呟いた。ちょっと不貞腐れたような顔をしてる。

 どうして対抗してるの? 

 

「……私が助けてって言ったら、絶対に助けてくれるって言ってくれた、私だけの英雄になるって」

 

 ちょっと盛ってない? 

 君だけの英雄になるって言ったっけ。ちょっと記憶曖昧だな……

 それより何で変なマウント合戦が始まってるんだ? 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 まずい。

 よく分からないけどまずいことだけ分かる。凄え空気が重くなってるもん。

 ルクスも『逃げろ!』って言ってる気がする。逃げたいな、逃げていいか? 

 

「じゃあ、僕たちは先に帰ってるよ」

 

「あ、アイズたんが寝取られた……」

 

「修羅場を見せられて脳破壊されてる……アルバスくん、背中を刺されないよう気をつけるんだぜ。あと君は仮にも処女神(ボク)の眷属なんだから風紀を乱さないように!」

 

「はぁ……まったく。終わったら準備手伝いな。いいね?」

 

 そさくさと、皆が店を出ていく。ミア母さんもやれやれ、みたいな感じでどっか行った。

 ちょ、待ってくれよ。この状況で置いてかれるのか。

 

「私を助けてくれた時のアルバスさん、一番かっこよかったですよ?」

 

「ぼ、僕を助けてくれた時の方がかっこいいです! ……きっと」

 

「私に助けるって言った時の方が、かっこよかった」

 

 なんとなく、何かの英雄譚が頭を過った。

 こんな感じ……こんな感じではないけど女性に囲まれて大変な目にあう英雄。

 もし俺の英雄譚ができるんなら、そういうのはいらないなぁ。

 

 …………いや。

 俺がやるのは、英雄譚を終わらせることだ。

 前世(ケイオス)の後始末、それが俺がやること。

 

 うん、そうだな。

 だからきっと。

 

「俺の英雄譚は始まらない、な」

 

 

 

 

「いきなりどうしたんですか?」

 

「えっと、大丈夫ですか……?」

 

「……? そうなんだ……?」

 

「聞こえてたのかよ!!」

 

 睨み合ってたから聞いてないと思ったのに! 

 不思議そうに俺を見てくる三人に対し、俺は羞恥のあまり叫ぶことしかできないのだった。

 





うおおおおおおお完結!!!雑にタイトル回収して、俺たちの戦いはこれからだエンドです。
最終話なのに色々と勢いのまま書いてしまい、雑になってしまったのは本当にすまない。
活動報告にて後書き書きます。



 嘘です。続きます。
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