13.ロキ「人の心とかないんか?」
運命なんてクソだ、と少女は思った。
定められた結末が破滅だというのなら運命なんて消えてしまえ、と少女は憤激した。
なんで私なのか、と少女は嘆いた。
その少女にとって、生とは即ち苦痛であり、いずれ訪れる悲劇のための序章に過ぎなかった。
父が殺された時から。王によって『
幼少から変わらず、少女はただ地獄を生きていた。
そう、地獄。
何もかもが紅々とした世界を地獄と言わずして何というのか。
平穏に生きたい。それだけが望みだった。
だが、それすらも過分だと取り上げられた。
与えられたのは望まぬ栄誉。向けられたのは歪み切った殺意。
どうしてこんなにも厳しいのだと、少女は哭いて。
救いなんてないのだと、少女は諦めた。
だからきっと、運命なんてクソだ。そう、少女は思っていた。
今日もまた、助けを求める声へと駆け、怪物を殺すのだ。
『
そう、少女が思っていた時だった。
『…………大丈夫かい?』
自分が戦う暇すらなく全滅したモンスター。そして、代わりに立つ一人の青年。
光り輝く剣を携えた立ち姿。
身に纏う黒と金の鎧。
向けられた、自身の鮮血のような眼とは正反対の蒼い瞳。
『…………ぁ』
きっと、死の間際だとしても。
己が、己ではなくなったとしても。
何があろうとも忘れることはないだろうと、そう思えた光。
遥か『古代』。
未だ怪物が蔓延り、人類が目前の終焉に相対している時代。
『
△△△
遥か『神時代』における、冒険者にとって最も大事な資格とは?
そう問われれば、誰もが口を揃えて言う。
それは『
それが人類の可能性であり素質を解放し、一騎当千の
そしてその本質とは歩んできた軌跡による
当人の経験であり、何を学び、何を得たか、それが形となったもの。文字通りの『軌跡』である『
迷宮に潜り怪物と戦う、だとか。
格上相手に師事をする、だとか。
鍛冶、治療、調合を行う、だとか。
千差万別、あらゆる事が『経験値』になり得る。
そうして、その得た『経験値』は恩恵を授けた主神により己の新たな力となる。
時には特別な経験によって新たなスキルや魔法となり発現することもある。
これこそが、『神時代』における冒険者の普遍的な在り方だ。
「ぐぐぐ、ぐぎぃ……!」
【ロキ・ファミリア】本拠、黄昏の館。
最上階にある自室にて、晒されたアイズの背中を見ながら、ロキは渾身の歯軋りをかました。
『怪物祭』の翌日。アルバス達【ヘスティア・ファミリア】との会談を終えた夜。
あんな大規模な戦闘を行ったのだ、多少は能力値も上昇しているかもしれない。ということでアイズは【ステイタス】を更新した、そんな時だった。
「……ロキ?」
普段と様子が異なるロキに、アイズの表情に疑問が浮かぶ。
飛んできた声にハッとし、笑おうとして、上手く笑えずに口角が歪に痙攣した。
そして、発覚した
「アイズ、新スキルや」
「…………!」
驚愕にアイズは目を見開く。
ロキは手早く更新用紙を記し、それをアイズに渡す。
上衣を着ることすら忘れ、少女は用紙に飛びついた。
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.5
力:D555→D560
耐久:D547→D549
器用:A825→A827
敏捷:A882→A883
魔力:A899→S921
狩人:G
耐異常:G
剣士:I
『魔法』
【エアリエル】
・付与魔法
・風属性
『スキル』
【復讐姫】
【
・
・特定対象との共鳴時、感覚共有
・特定対象との共鳴時、魔法及びスキル効果の高域増幅
・共鳴率一定到達時、魔法規格の拡張拡大
・共鳴率限界突破時、
・
可能性は、あった。
元より特異である精霊の血を持った存在であるという事。そして今回行われた、精霊の『契約』に類似したアルバスとの共鳴現象───刻まれている名で言えば『
それはいわば、宿る血脈の覚醒である。
古今、英雄に連れ添った精霊のようにその『経験値』がスキルという形で発現したのは、ある種当然のことだったのかもしれない。
発現経緯、その中身含め、紛うことなき
魔法使用時ではレベル差すら超えてオラリオ最強格に名を連ねるアイズにとって魔法の強化はそれだけで強力だ。
魔法規格の拡張拡大というのは、『
それこそ集団戦を主力に据える【ロキ・ファミリア】にとって、相性は抜群と言える。出力などは自身へのよりも劣るらしいが、それでも十二分だ。
だが。
「……ふふっ」
「うぎゅぐぎょうんばらばっちょい!!!!」
『スキル』の名前を見て、アイズは鈴が転がすような笑みを浮かべ、ロキは形容し難き奇声を叫んだ。
塔の最上階だというのにその咆哮は一階まで響き、団員は何事か!? と騒ぎになっている。もはや一種の音響兵器だった。
【
『
それ即ち、アイズとアルバスのことに他ならない。
アイズの『英雄』になると、そう言った少年。
手を繋いで、一緒に戦ってくれた少年。
彼と自分を感じさせるスキルの名前が何だか嬉しくて、思わず笑ってしまう。
女神すら嫉妬するような可憐と美麗を併せた笑み。
本来ならばロキも素直に興奮し『激レア表情差分やー!!』と胡乱な叫びをするが、今回ばかりは事情が異なる。
「こ、こんなんもうNTRビデオレターやんか……普通にテロやろ…………!!」
その声には怨嗟が込められた。なんなら血涙も流れている。
アイズを溺愛するロキからすれば、こんなものは言語道断。あり得ないものだ。
しかも『
彼女の妄言に合わせるのなら、ビデオレターの編集を行ったも同然である。
到底許せない。ロキは激怒した。あの邪知暴虐な
ロキには自分が一番邪知暴虐であるという自覚がなかった。
頭を抱えアルバス抹殺計画を練るロキを尻目に、アイズは上衣を着て椅子から立つ。
「やっぱ狙うんなら次の遠征の帰りやな……二度と本拠には戻れんように…………あれ、アイズたん戻るん? うちともっとお喋りしよ~?」
「…………明日は、用事があるので」
すげなく断られることは普段と変わらない。
が、違和感。
確か、アイズはティオナ達と明日から暫くダンジョンに潜る予定だった筈。だが、今の
「何の用事なん?」
「はい…………アルバスと、少し」
「人の心とかないんか?」
まさかの追撃にロキは真顔になった。
どちらかと言えば心がないのは天界にいた頃のお前だよ。
△△△
『怪物祭』から二日経った。
『ロキ・ファミリア』との会談を終え、『豊穣の女主人』を無事退職し、俺も一端の冒険者になって…………ない。
まだギルドへの登録をしていないのだ。
昨日とか話終わった後何故か普通に酒場で仕事してたしな。辞めれてないじゃねぇか。
シルと話していると自然に時間がある時は仕事を手伝うことになってたんだよな。口車が上手すぎる……いやこれ、俺の頭が単純に足らないのか…………?
あまり気づきたくなかった可能性に渋い顔になっていると、一つの足音が近づいてくる。
振り向けば、アイズがこちらに向かって歩いていた。
目が合うと小走りになった。なんとなく、小さい子供みたいだと思った。こう、庇護欲なんだろうか? そういう感情が湧いてくる。
「おはよう……待たせちゃった?」
「いや、時間通りだから大して待ってないよ」
現在は朝の九時。
この時間に此処──オラリオ北部の小さな広場──で待ち合わせをしようと昨日約束していた。
時間は約束通りなので気遣いとかではなく本当に待ってない。
「今日はありがとうな。…………ん、もしかして今日ってダンジョン行く予定ある?」
アイズは蒼の軽装に銀の鎧を身に着けている。
初めてあった時のダンジョンや『怪物祭』と同じ戦装束。
それを装備することは、迷宮探索に赴くこととほぼ同義だ。
「えっと、正午頃から暫く潜る予定だよ」
「そっか、忙しい日程にしちゃって悪いな」
「ううん、私が……したかっただけだから」
めっちゃ良い娘。前世の記憶とかなかったら危うく好きになっていたかもしれない。
あんまり時間がかかる事はないと思うけど、気を付けておこう。
「それじゃ、行こうか。あ、ご飯とか食べてきた?」
「うん……アルバスは?」
「俺も軽くは。あーけど、あれとか食べたいかも。なんだっけ……あのじゃがいも揚げた……」
来る前にベルと朝の軽い特訓やってたのもあり、正直小腹が空いてきた。というか最近すぐ腹が減る。
成長期なんだろうか。今の俺って確か17ぐらいだった筈だし。
「……! ジャガ丸くん?」
「あぁ、それだそれ。前食べて美味かったんだよ。食べたことあるのか?」
名前を思い出そうと考えていると、アイズが食いついてきた。
目を輝かせてるのはいいけど、食いつきすぎて距離が近い。君の顔見るとまだ跪こうとしちゃうとこあるから止めてほしい。
「うん……すごく、好き」
「へぇ、そういやあれ色んな味付けあるよな。お気に入りとかあるの?」
「小豆クリーム味、かな」
「これは笑えばいいのか?」
どういう反応をすればいいんだ?
本当に分からない。正解を教えてくれ。
想像のかなり斜め上の回答を前にして、俺は世界の広さを知った。
最近ロキを書いてると普通に直哉と千夏と森田とタマモクロスが頭の中で暴れ始めてて終わりです。
という訳で、始めました。
第二章 少女のためのオルコス
原作二巻をやりながら外伝二巻と三巻をやる予定です。具体的にはリリとラブコメしたりレヴィスとラブコメ(殺し愛)したりリューとラブコメ(曇らせ)したりする予定。俺は何を言ってるんだ……?
書き溜めがないので更新速度は遅めになりそうです。お付き合いいただければ幸いです。
次回
14.新人です、よろしくお願いします