「お……ここか」
「うん、私も整備とかでお世話になってる、【ゴブニュ・ファミリア】」
あれからジャガ丸くんを摘み───本当にアイズは小豆クリーム味を頼んでいた。一口貰ったけど案外美味かった───北と北西のメインストリートに挟まれた区画、そこの路地裏にある一つの平屋に訪れた。
飾られているエンブレムには三つの槌が刻まれていて、一目で鍛冶系の派閥だと分かる。
何でも、武具の性能に関してオラリオでも最上位と呼べるほどの派閥らしい。
そう、今日の目的は俺の装備だ。
【ロキ・ファミリア】の遠征───ダンジョン深層域の探索に参加することになったが、生憎俺は冒険者としては新参。つかまだ冒険者じゃないし。
装備なんかも外套と長剣を買っただけ。剣の方は壊してしまったし、そもそも店売りの既製品では深層域では通用しないらしい。怖い。
なので、遠征に向けて俺の装備を揃えよう、ということになった。
費用とかは全体の半額は【ロキ・ファミリア】が負ってくれ、もう半分も無利子という形で貸してくれる。
全額払うって言ったけど色々と迷惑をかけたから、と押し切られてしまった。思い返しても頭が上がらなすぎるな……
そうして外からでも聞こえてくる鍛鉄の音に耳を傾けながら、扉の奥へと入っていく。
「おお…………! これは凄いな…………!」
中に入れば、一気に熱気が押し寄せてくる。肌を焼くような熱に目を細めた。
工房然とした建物の中では各々が作業に取り組んでいる。一瞬見ただけでも漏れなく腕がいいことが分かった。
デカい金属に槌が振り下ろされていく光景を眺めながら、アイズの先導に従い奥の部屋へと進む。
「…………来たか」
「失礼します。【ヘスティア・ファミリア】所属、アルバス・ソルヴァルクスです。本日はお時間いただきありがとうございます」
部屋に居たのは、一柱の老神だった。白髪が生え、白髭も蓄え、顔には皺も刻まれているが、それでも引き締まった身体からは力強さが伝わってくる。
頭を下げる俺に対し、老神が鞘へ施していた彫刻を止めて顔を向けた。
「顔を上げろ。
顔を上げ、こちらを見据える瞳と視線を交わす。
ある種品定めをするような眼差しに、怯むことなく真っすぐ目を合わせた。
「それで、お前はどんな武具を望む?」
どうやら認めてもらえたらしい。
それに安堵する間もなく飛んできた問いに思考する。
どんな、か。そう言われると結構悩むな……
あ、けど視界が妨げられるのは嫌だから兜はなしがいい。さっき言ったことと矛盾してるけど正直不意打ちは加護で防げるし、視界の確保の方が大事だと思ってる。
「……防具はこんな感じですかね。頑丈で堅固であれば、他は特に」
「そうか。武器はどうだ」
正直に伝えれば、続きを促される。
武器か……どうだろう。
基本一番慣れてるから長剣を使いがちだけど、一応なんでも使えるしなぁ。
長剣、大長剣、大剣、短剣、短刀、短槍、長槍、斧、槌、弓…………他にも大体の武器は使える。
自慢ではないが、前世の俺は中々才能があったのでちょっと使ったらある程度は形になったからな。
精霊の加護を用いた遠距離攻撃を併用することが多かったから、結局は長剣に落ち着いたけど。
「よく斬れて、頑丈で、程々に重さがある長剣。魔力を通して使う事が多いのでそっちの補助もあると嬉しいです」
「…………『
俺の要望に対し、神ゴブニュは一瞬の思考の後に何やら呟き、俺へと話しかけた。
俺が『精霊の加護』を受けてることは事前に伝えてもらっている。
命を預ける武器を作ってくれる所に下手に嘘はつきたくない。てかつかない方がいい。
頷いて肯定すれば、何か懐かしむように老神は目を細めた。
「ならば柄は『聖木』辺りだな。そうすれば親和性も高まる」
手元の紙に手際よく材料を書き、その紙を後ろに控えていた眷属に渡す。
何というか、思っていたよりも扱いが丁寧だった。別に雑な対応をされるとは思っていなかったけど、まさか神が自ら構想を決めるとは思ってなかった。
アイズにこっそり視線で『いつもこうなの?』と聞けば否定が返ってきたし。
正直、謎の好待遇にビビってるんだけど……
「あの、なんでゴブニュ様がこんな色々してくれるんでしょうか……?」
「お前が、『古代』だからだ」
「─────」
「ただの感傷。懐古だ。気にするな」
懐かしむような瞳と言葉に、頭を殴られた気がした。
そうだ、この神威。これと似たものを昔、どこかで感じたような。
誰か、思い出せない誰かに教えてもらって、それで……
「アルバス?」
「っ! あ、ああ。どうした?」
「えっと、ゴブニュ様は行っちゃったけど、固まってたから…………大丈夫?」
マジか。完全に思考に没頭してた。
慌てて周りを見ても、部屋にはもう老神はいなかった。
心配そうなアイズに笑いかけて部屋を出る。
場を考えないで思考に集中するのは良くないな。素直に反省だ。
その後に採寸やらをして、工房を出る頃には掴みかけていた記憶の輪郭は既に消えていた。
なんだったのか気になるが、気にしてもしょうがない。
「今日はありがとな。付き添いまでしてもらって助かったよ」
「ううん、大丈夫」
「アイズはこの後ダンジョンだろ? 応援してるよ」
「ありがとう…………アルバス」
「ん?」
「私、頑張るね。アルバスに、追いつけるように」
見れば、彼女の金の瞳には覚悟の火が灯っていて。固く決意するように、そう言った。
「おう、頑張れ。信じてるから」
いやそう言われても正直そんな差はないっていうか、君の方が強いぐらいだと思うんだけど。
頑張るのはいいと思うけど結果は追いつくじゃなくて引き離すになりそうなんですよ。
そんな情けないことを言う訳にもいかず、俺は笑顔で見栄を張った。
ちょっと俺も頑張らないとな……
△△△
「あ、アルバスさん! ここです!」
「あれ、待たせちゃったか?」
「い、いえ。僕もちょうど今来たところで…………」
空に茜の光が差し込み始めた夕刻。
『豊穣の女主人』でアーニャ達にダル絡みをしたりして時間を潰していたアルバスは、
そう、アルバスは探索帰りのベルと合流してから冒険者登録をする約束をしていたのだ。
一人で済ませようとしていたアルバスに、勇気を出してベルから誘ったのである。
少しでも一緒に居たいから、という少女の純情さに気づかず、アルバスは今朝もこんな会話したな…………と最悪なことを考えていた。
「…………
「いやいやいやそんなことない。ないないないないないないない」
ギルドにいた全員が、此処が極寒であると錯覚した。
ベル本人にも自覚がない、しかし絶対零度の声音。普段の温厚で人懐っこい、それこそ小さな白兎のようなベルとは正反対の、まるで
まぁ血筋的に合ってるし、
アルバスはめちゃくちゃ必死に否定した。これまでの人生でも一番と言えるぐらいの勢いだった。
首を振りすぎて残像すら生まれている。それ程にびびっていた。信じられないぐらい冷や汗もかいている。
残当である。気をつけないと死ぬことになるという自覚がアルバスにはなかった。本当に気づいた方がいい。
「ご、ごめんさい! ちょっと早とちりしちゃって…………」
「大丈夫です。ほら、登録にいきましょう」
「なんで敬語なんですか……?」
君が怖いからだよ、とアルバスは言えなかったから曖昧に微笑んで誤魔化した。
そんなこんなでギルドの受付を向かった二人をエイナが出迎える。
ベルの姿を見つけ、ほっとしたように笑みを浮かべたのも束の間、隣に居るアルバスを見て目を細めた。
つい先日出会った、『神の恩恵』もなしにダンジョンに潜った少年。
禁止されているから、とかよりもそんな命を捨てに行っている行動をエイナは看過できなかった。
その時の記憶を思い出し、エイナは半分ぐらいお説教モードに入っていた。同様に
「ベルちゃんと……ソルヴァルクス氏、何か用でしょうか?」
「はい、今日は冒険者登録をしに……」
「ソルヴァルクス氏の? ということは、【ヘスティア・ファミリア】ですか?」
「ええ、まぁ。ちょっと縁あって」
エイナとしては、とても喜ばしい知らせだった。
アルバス・ソルヴァルクスという見た限り青年と少年の狭間にいる彼も、悪性という訳ではなく、ただ常識知らずなだけで善人であることが話して分かっていたので安心もできた。
「分かりました。ではこちらの登録用紙に必要情報の記入をお願いします」
にこりと笑みを浮かべ、アルバスに羽ペンを渡す。
すらすらと記入を進めるアルバスを見ながら、エイナは思考を巡らせた。
(男の子……身長は170c以上だし、前衛かな? Lv.1だろうし、ベルちゃんと合わせて色々教えていかないと……!)
静かに奮起するエイナを尻目に、アルバスは記入を終えた。
エイナは眼鏡の位置を直し、渡された用紙を確認し始める。
(年齢は17で……空欄が多めだけど、それは問題なし。あんまりそっちの話はしないようにしとこう……それで、レベルが……)
目を走らせていたエイナは、そこで止まる。いや、固まったと言った方が正しいのかもしれない。
「Lv.……4?」
レベルの欄に書かれている、アルバスの内容は『Lv.4』。
ぱちぱち、と瞬きを数回。もう一度見直す。疲れているんだろうか。
「……え?」
書かれているのは、やはり1ではなく『4』。
ぎぎぎ、と音を立てながらエイナはアルバスを見た。
目が合う。そうすれば、アルバスは笑顔で口を開いた。
「新人です、よろしくお願いします」
「それは無理があるかと思います」
真顔でエイナは言い放った。
驚愕とかの次元を超えて、一周回落ち着いていた。
何だかこれからとんでもない厄介ごとに巻き込まれそうだな、と彼女の感覚が囁いていた。
そして、それが正解であると知るのに、そう時間はかからない。
△△△
「……これは?」
燐光を放たれていて尚薄暗い、迷宮の何処か。
そこに、一人の少女がいた。
ゆったりとしたローブを身に着け、子供のような体躯の数倍の大きさのバックパックを背負った、小人族の少女。
「何かの、
それは、緑色の宝玉だった。透明な膜に覆われ、液体と共に奇怪な胎児が丸まっている、異質にして異常な宝玉。
不気味なそれを、少女───リリルカ・アーデは拾う。
もしもドロップアイテムなら高値で売れるかも、そう思い宝玉を拾って───
とろん、と蕩けた表情でその宝玉をバックパックに納めてから、少女はハッと
「……ッ、リリは何を……?」
何も覚えてないかのように。
何かが起きたという事すら知らないかのように。
困惑するリリの耳を怒声が打つ。彼女が騙した冒険者の声。
追ってくる声は近づいている。
撒けるか、撒けるにしても時間がかかりそうだ。
そうして自分が逃走中であることを思い出し、少女は駆けだす。
灰を被り、少女は独り、迷宮を駆ける。
バックパックの奥にて、誰にも知られず、ただ静かに宝玉が蠢いた。
ケイオス/アルバスは戦闘に関しては才能マンです。
どんな武器種でも適正はほぼ均一で少し使えば普通に使いこなせるタイプ。突出した才能というよりは戦闘そのものへの総合値がずば抜けてる感じです。
次回
15.勧誘は大胆に