俺の英雄譚は始まらない   作:佳和瀬

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今回みたいにタイトルは書いてて変わる可能性があります。作者のプロットがすかすかだからこれからも多発しそうです。


15.出会い(運命)は突然に

 そこは、祭壇だった。

 包まれた暗闇の中、炎を揺らす松明によって、長い歳月を感じさせる石造りが照らされている。

 設置された四つの松明、及び祭壇の中心には大きな石の玉座───否、神座が置かれていた。

 

「───ウラノス」

 

「フェルズか」

 

 オラリオという迷宮都市は、『古代』にて尽きずモンスターを放出し地上を侵略するダンジョンを封じ込めるために生まれた要塞都市の後進である。

 人類が幾度挑戦しても終ぞ叶わなかったその迷宮封鎖は、『古代』の終わり───即ち『神時代』を迎え成就する。

 

 天上より来たり一柱の神が『神の恩恵』を齎したことを契機として、人類は地上へのモンスター侵食を阻止したのだ。

 その、人類に初めて『神の恩恵』を刻んだ神。『オラリオの創設神』と呼ばれ、事実上のこの都市の君臨者である神ウラノスは、自神(じしん)の名を発した暗闇を見据える。

 

「すまない、()()()()

 

「何があった」

 

 暗がりに溶け込んだ、真黒のローブに身を包んだ人物───フェルズは闇の中で揺らめく。

 

「結論から言えば、回収した物体──『宝玉』を紛失した。【剛拳闘士(ハシャーナ)】への依頼……異常事態(イレギュラー)が起こった30階層での原因物の回収。そこまではよかった」

 

 見れば、そのローブは擦り切れ、所々に損耗の跡が残っている。

 明らかな闘争の痕跡が、そこにはあった。

 

「私自身、把握しきれてはいないが……彼の帰還中、17階層にて()()にあったらしい。その相手に勝てないと判断したハシャーナ(Lv.4)はもう一人の依頼受注者(ルルネ・ルーイ)へと渡し、『妨害者』の足止めを行った。今は【ディアンケヒト・ファミリア】で治療を受けているよ。全治一か月だそうだ」

 

 肩をすくめるようにして詳細を語るフェルズはしかし、言葉の奥に畏怖が染み付いていた。

 そうして、核心へと話を進ませる。

 

「彼の足止め虚しくルルネ・ルーイは10階層にて補足され、その時に私が回収物を受け取った。彼女に命の支障はない。そうして、私は『妨害者』と相対し、命からがら逃げ通したというわけだ」

 

 フェルズはその時のことを思い出し、纏う黒衣を震わせた。

 

 あれは、『脅威』だった。

 フェルズと同様に身を隠す黒衣を着こんだ『妨害者』。その存在はLv.4であるフェルズでさえも抗えない暴虐を以てあの宝玉を奪い取ろうとした。

 攻防の最中、僅かに見えた顔には目元を覆う仮面(バイザー)をしていたが、更なる奥に見えたのは()()()

 

 このままでは命すら危ういと判断したフェルズは魔法具(マジックアイテム)である煙幕を展開し、逃走を図った。

 結果としてフェルズはこうして帰還を果たせたが、その道中で宝玉を紛失してしまった。

 赤髪の襲撃者が拾っているかすら定かではない。

 

「あれが何だったかのか……最近は、おかしなことが多い。ウラノス、これは……都市を脅かす事態になり得るぞ」

 

「…………」

 

 フェルズの言葉を前にして、しかしウラノスは沈黙を貫く。

 蒼の瞳はただ、起こり始めた異常事態(イレギュラー)を見据えていた。

 

 

 

 △△△

 

「…………という訳で、ダンジョンに関して本当に新人なんですよ」

 

「なるほど…………」

 

 ギルドにて冒険者登録をしていた俺は、職員であるチュールさんに決死の口八丁をかましていた。

 やっぱ無視してくれないんだね、Lv.4って。ちょっと舐めてたわ。そんな凄いことなのかよ。

 

 冒険者にあることを決めた際、問題なのは俺をどのレベルにするのかだった。

 まぁ、うん。皆が神様の恩恵とかで明確な数値を出してやってる中、なんか一人だけ『精霊の加護使えます! 神の恩恵はないです!』とか言い出せるわけないよね。

 なら悪目立ちは嫌だし、Lv.1として始めればいいんじゃないか、と思っていたが、それも無理だった。

 

【ロキ・ファミリア】の遠征に別派閥のLv.1が同行するのは流石におかしすぎるらしい。

 じゃあどうすんの? となったが、実力とかを鑑みた結果が今のLv.4だった。

 

 そうして登録に赴いた訳だが、色々と対策をしてきている。

 飛んできた最初の疑問、『なんで恩恵あるのにないって言って迷宮潜ったの?』にはオラリオの外の派閥に所属していてオラリオでは無所属だったからで、対応した。

 

 俺、オラリオ来るときの検閲で恩恵無しとして来たから普通にバレない? とそういうのに詳しそうな【ロキ・ファミリア】陣営に聞いたら、何とかすると言ってもらえた。

 権力って凄いんだなって思った。敬語とか使った方がいいのかもしれない。

 

『どうやってLv.4に?』にも予測済み。俺は事前に考えた対策でチュールさんを迎え撃った。

 

「オラリオの外で様々なモンスターと戦っていた、と」

 

 怪物は迷宮から生み出され、今は迷宮には『蓋』がされている。

 だから基本的に外のモンスターは自然繁殖していってどんどん弱くなっていったらしいが、例外というのは存在する。

 俗に言う『強化種』であったり、或いは『古代』から生き残ったやつらも居るらしい。

 そういうのを狩っていた、というのが俺の経歴だ。ま、嘘なんですけどね。

 

「分かりました。聴取への協力、ありがとうございました。それでは、ソルヴァルクス氏の担当となる探索アドバイザーですが……何か希望はありますか?」

 

「探索アドバイザー、ですか?」

 

「ええ、冒険者の迷宮探索をサポートするアドバイザーです。階層や怪物の情報、依頼の斡旋などを行わせていただきます」

 

 チュールさんの説明を聞き感心してしまった。

 そういうのもあるのか。めっちゃ便利じゃん。

 情報って本当に大事だからなぁ。初見の怪物相手に苦戦を強いられた前世を思い出し、時代格差(ジェネレーションギャップ)にしみじみと感じ入ってしまう。

 良い時代になったなぁ…………

 

「特に希望がないようでしたら、私が担当させてもらいます。それでもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、お願いします」

 

 ぼー、っと考えているとチュールさんの声が耳を打ち、思考が現実に連れ戻された。

 希望とかないし、チュールさん真面目そうだから情報もちゃんと教えてくれるだろう。問題はない。

 てか真面目じゃない人もいるのか? もしそういう人になったらと思うと最悪だから、彼女で良かったのかもしれん。

 

「それではアドバイザーとして提案をさせていただきますが、暫くは上層での探索を行った方がいいかと思います。幾らLv.4でも、ダンジョンで不慣れな状態で下の層へと進出するのは危険ですから」

 

「その予定です。ベルと一緒に上層での探索を主にしようかと。まぁある程度は収入も欲しいので最上層は超えるつもりですが」

 

「はい。…………Lv.4なら正直な所、上層で危険な状況に陥ることは確実にないと言えます。ですが、ベルちゃんも一緒なら…………」

 

 考え込むようにチュールさんは言葉を切る。

 何というか、本当にこちらもことを考えてくれてるんだな。

 

「あ、そうだエイナさん! 僕今日─────」

 

 

 

 △△△

 

「へー、こうやって新人の作品も売ってるんですね」

 

「まだ未熟な鍛冶師にとって良い経験になるからと、【へファイトス・ファミリア】は積極的に行っているんだそうです」

 

 冒険者登録をしてから少し時間が過ぎた夜。

 俺はベルとチュールさんと一緒にバベル八階、【ヘファイストス・ファミリア】という鍛冶系派閥のテナントにやってきた。

 ちょっと展開が早くないか? 正直まだ半分ぐらいついて来れてないんだけど。

 

 あの後、ベルが単独で7階層に進出したことをチュールさんに報告。

 それに怒りかけた彼女だが、どうやら俺──Lv.4がパーティーを組むことを思い出し静止。

 やっぱり俺の存在が大きかったのか、これまでを見る限り安定志向らしいチュールさんだが軽い注意だけで7階層攻略の許可を出したのだ。

 

 が、しかし。

 ベルが現在装備してるギルド支給の駆け出し用の防具を危惧したチュールさんから、ここでの買い物を提案された。

 もう仕事も終わるからということで彼女も同行し、俺たち三人はここに訪れたのだった。

 

「ベルは奥まで見にいっちゃいましたし、追いかけますか?」

 

「いえ、私はここでもう少し見ようかと…………それと、ソルヴァルクス氏。提案なのですが、敬語を取っての会話でもいいでしょうか?」

 

「ああ、全然大丈夫ですよ。たぶん、俺の方が年下なんで」

 

 正直、敬語って言うのも言われるのもあんまり得意じゃないから助かる。

 昔は俺も敬語とか使わないタイプだったけど、確か極東の方に行った時に礼儀について教えられてからは使うようになったんだよな。極東、今どうなってんのかな。助けた狐人(ルナール)とかまだ血が続いてるんだろうか。

 

「ふふ、ありがとう。アルバス君も、もうちょっと砕けた口調で大丈夫だから」

 

 お、おお…………

 単純にチュールさんが可愛すぎて言葉を失ってしまった。こう、さっきまでのギャップっていうのか、笑顔眩しすぎる。思わず目を覆っちゃったわ。

 

「うーん、ベルちゃんの防具、どういうのがいいと思う? 私としては、もうちょっと身の守りを考えたのが良いと思うんだけど…………」

 

「あー、分かります。ベル、見ててかなり危なっかしいですからね。けど基本的に『敏捷』を活かした戦闘形式(スタイル)だからなぁ。急所を重点的に保護するライトアーマーなんかもいいかも」

 

「へえ、そうなんだ。私、運動とかからっきしだから、全然分かんないや」

 

「まぁ、分からなくてもいいんじゃないですかね。俺としては、分からなくてもそうやって悩んでくれるのはすごい嬉しいことだから。ベルも、チュールさんに対して同じように思ってるはずですよ」

 

 どこか寂しそうに言うチュールさんを見て、気づけば何か言っていた。ほぼ無意識だったけど、本心だ。そういう人がいるってだけで心は軽くなる。

 驚いたように目を見開き、チュールさんの表情が和らぐ。

 

「そっか、ありがとう。あと、私のことはチュールさん、じゃなくてエイナでいいから」

 

 そう言って笑いかけるエイナさんを前にして、俺も笑顔がこぼれた。

 

「分かりました。改めてよろしく、エイナさん」

 

 そうして、俺たちはベル用の装備をまた探し始める。

 このプロテクターとか面白いな。収納機構ついてるじゃん。

 

「あれ、掘り出し物でもあった?」

 

「ああ、これですか? ベルの戦い方にも合ってるのと…………色がエイナさんみたいで綺麗だなって」

 

「色……私の眼かな? 確かに緑玉石(エメラルド)の色だけど……君、普段からそういうこと言ってるの?」

 

「そういうこと?」

 

 そういうことってどんなこと? 

 え、今の発言ってもしかして駄目な奴だったか。思ったことを何も考えず言ってしまったけどまずかったりする? 

 まさかこれってヘスティア様が言ってた『あかんやつ(セクハラ)』になるのか…………? わ、分からねぇ……! 

 びくびく怯える俺を見てエイナさんは呆れたように溜息をついていた。やめてくれよ、怖いだろ。

 

「もう、あんまり軽率な発言は駄目だからね。神様が言う、天然ジゴロになっちゃうよ?」

 

「それが何なのか知らないけど…………別に軽率な発言じゃないんだけどな」

 

「これはもう手遅れなのかな…………?」

 

「なんで!?」

 

「あっ、アルバスさんとエイナさん! 僕、これにしよう…………どういう状況なんですか???」

 

 いや本当に似てたんだって…………

 ジト目をぶつけられ俺が叫んでいると、ボックスに入った鎧を持ってベルが戻ってきた。

 またあの声になってますよ、ベルさん。めっちゃ怖いからやめてください。

 

 俺は体を震わせながら、この状況を乗り切ろうと覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 △△△

 

「遅くなっちゃいましたね」

 

「そうだな、もうすっかり夜だ」

 

 あの後、アルバスは何とかして会計まで持っていき全てを有耶無耶にした。

 かなり最悪の対応だが、そもそもとして彼は自分の何が駄目だったのか分かっていないため他に対処のしようがなかった。

 そしてアルバスは困った時は適当に話の流れを変えるのが最適だと学んでしまったので、もしまた同じようなことになっても安心だと思っている。

 こいつの前世の死因、背後からの刺傷だったりしない? 

 

「プレゼント、よかったな」

 

「はい! 僕、絶対に大切に使います!」

 

 ベルはにこにことして購入したライトアーマーが入ったバックパックを見る。その中にはエイナからプレゼントされた緑玉色(エメラルド)防具(プロテクター)も入っている。

 心のどこかで姉のように慕っている相手からのプレゼントに、ベルの心は喜びに満ちていた。もう心の中の小さなベル(白兎)が跳ね回っている勢いである。

 

 エイナを住居まで送っていった二人は現在、帰路についていた。

 メインストリートを外れ、近道だと先導するベルについてアルバスは路地裏を歩いている。

 

「…………?」

 

「足音……?」

 

 揃って足を止める。

 路地奥から聞こえてくる大小二つの足音。

 何事か、とベルが恐る恐る曲がり角を覗き込む。

 

「あうっ!」

 

「わっ」

 

 その、身を乗り出したベルの足に小さな人影が引っ掛かり、そのまま勢いよく転がった。

 

「逃がさねぇぞ、この糞パルゥムッ!」

 

 間髪入れず、道の奥から一人の男が現れた。背に剣を背負い、瞳には強い怒りが浮かんでいる。

 道全体に響き渡るほどの怒声に、倒れたままの人影がビクリと震えた。

 それを見て、アルバスは目を細め鼻を鳴らす。

 

「てめぇ、どうしてやろうか……!?」

 

「あんた、ちょっと落ち着けよ」

 

 もはや殴り掛かる勢いで迫ろうとする男の前に、アルバスが割り込んだ。

 肩に手を置き、男の動きを止める。

 

「あぁ? なんだお前、邪魔……? あ…………!?」

 

 アルバスを振り払おうと、男がアルバスを押す。

 けれど、返って来たのはまるで『超硬金属』の壁のような重い反発。一切動かすことができず、男は困惑の声を上げる。

 

「ほら、落ち着いてさ、道空けてくれないか?」

 

「だから何を……」

 

 男が言い切る前に、アルバスは瞬間的に『精霊の加護』を起動する。

 溢れる眩い光。その圧倒的な圧力に、男の顔が一気に青く染まった。

 

「だから、その五月蠅い声抑えて、さっさと消えろって言ってんだよ」

 

「……っ」

 

 明確な敵意を孕んだ声に、男は何も言えずに退散していった。

『力任せに人に命令するの、普通に最悪だな……』と渋い顔をしながらアルバスは後ろへ振り向く。

 

「大丈夫か───」

 

 振り向いて。

 アルバスは尻もちをつきながらこちらを見る少女と目が合った。

 その、少女の呆然としたような顔が、目に入って。

 

「フィア…………」

 

 瞬間、()()()()()()()()()()()()

 眩暈を覚えた。溢れる情報に、思考が止まる。

 そして、無意識のままに少女───リリルカ・アーデの手を握った。

 

「…………」

 

「…………あの、手を離してもらっても?」

 

「あ、すいません…………え、なんか離せないんだけど」

 

 リリの困惑したような声にハッとアルバスは意識を取り戻す。

 手を離さそうとして、しかしアルバスの手は全く言うことを聞かない。

 まるで、絶対に離さないとでもいう意思が宿っているようだった。

 張りつめていた空気が、一気に弛緩した。

 深刻(シリアス)は消え、喜劇(コメディ)がやってくる。

 

「えっと…………?」

 

「いやその、なんて言えば良いのか分からないんだけど……俺は君を離したくないみたいだ」

 

「それが言っちゃ駄目な言葉だってことは分からなかったんですか?」

 

 もはやアルバスは失言機械(マシーン)だった。

 ベルの目は酷く冷たかった。

 残当である。




アイズたちはリヴェラを何事もなく通っていきました。
リヴェラ回がないと、アイズがLv.6になってくれません。だから、前回アイズのLv.6フラグを立てておく必要があったんですね。

次回
16.迷宮探索と蠢く闇
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