この箱庭に生ける花々よ   作:プニぷに

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第10話 教会へ

 親友を想うアルバ。

 その前を歩くリンもまた、彼について苦悩していた。

 

(なんだかんだ言って、結局アルバから機会を奪っちゃった。世間的にはもう立派な騎士なのに、これじゃあ私が信じてないみたいな……でも、やっぱりアルバが傷つくのは見たくない……な)

 

 振り返りたい気持ちをグッと堪え、裏口から教会へ入るプニュリアの長身美麗な後ろ姿を追う。

 

 すぐ悩む自分とは違い、アルバは強い。

 精神力ではなく、精神性。耐えるのではなく、一度忘れて置いておく。考えてある程度の道筋を立ててからではなく、即座に行動。

 

 だから彼は勝てる勝てないではなく、人数も身体能力も界法もあるアイン教に対し剣を抜き、自分の横に立った。それなのに、自分の取った行動はどうだ。ついさっきアルバに任せると、危なければ自分も共に戦うと言っておいて、結局危ないからと蚊帳の外に。

 

(それって邪魔だから退いててって言ってるのと同じじゃん。自分だって人の輪に入れず、踏み込めもせず、君は一人でも大丈夫でしょって言われるのが、どれだけ辛いか知ってるくせに……っ!)

 

 ギッと歯を噛み締めるリンに、前を歩くプニュリアが振り返る。

 少女の様子に彼女はくだらないとばかりに鼻で笑い、それから嘲るような声でリンに声をかけた。

 

「おい花の。貴様の世界観からして地面が恋しいのは分かるが、下ばかり見ていないでさっさと役目を果たせ」

「……えっ? 何かありましたっけ?」

「前を向け馬鹿者。目の前の花壇すら目に入っていないのか?」

 

 半分馬鹿にしたような優しさにリンは前を向く。

 後ろからはアルバが「なんか約束してたのか?」と聞いてきて、リンはマリアと交わした言葉が表面上ではなく目的の一つだったのかと思い出した。

 

「あれってカモフラージュじゃなかったんですね」

「建前半分、本音半分だろう。後でマリアから聞くだろうが、今回の件は内部にも敵がいる可能性が高い。故に奴は我やこの小僧のような、真に信頼のおける少数でさっさと片を付けたいのだ」

「……つまり情報が筒抜けになっていると?」

「可能性の話だ。貴様が気にするべきは、己のことだけでいい」

 

 そう言ってプニュリアは腕を組み、プイと顔を花壇へ向ける。

 リンも釣られて花壇を見ると、暗がりに確かに枯れた植物達が見えた。

 

「ん~? これ、土が駄目ですね。安物……というか、土が合ってません。もっと保水性の高い土にしないと……まぁ、その割には長持ちしてるので、誰か見てくれていたのかもしれませんが」

「そうか。貴様も同じ意見か」

「はい?」

「いや、最近マリアの部下になった者が同じことを言ったのだ。だが、自分は『契約者』だから専門家を呼んだ方がいいと言ってな」

「……なるほど。その人は相当ガーデニングに詳しいんですね。多分これ、月の国の商品です。安い割に品質……というか科学成分がいいので、本来より長持ちしたのかと。それに前の土とも混ざっているので、余計に。……というか管理者はフラワ人じゃないんですか? 流石にこの国の人なら常識だと思うんですけど」

 

 花壇の前に屈み、土に触れ。

 リンは界法で土を丁寧に入れ替えながら口を尖らせる。

 

「そうか。やはり貴様に聞いて正解だったようだ」

「どういう……? まぁいいですけど。とりあえず、新しい子にしますね」

 

 土を直し、土壌は癒した。

 意味深なプニュリアの言葉に何か真相への糸口があるのだろうが、まだ彼ら薔薇十字教会からの信頼は得られてないらしい。

 

「【朽ちる前に種を落とせ。枯れし身は次なる糧に。代行者リンの名の下に、汝に次なる芽吹きを与えよう】」

 

 だがそれもこれも、すべてマリアに聞けば済むことだ。

 なんせ彼女は薔薇十字教会の大司教。名も知らぬ枢機卿を除けば、教会のすべてを知る人物なのだから。もちろん、マリアが裏切り者で無ければ、だが。

 

「おー! ここミニトマトだったんだな」

「黄色くて小っちゃくて、可愛い花よね」

「へへっ。お前とは正反対だな」

「悪かったわね。デカくて可愛げのない花で」

 

 横から軽口を言うアルバに、リンは内心安堵しながらも睨む。

 普段の調子を取り戻してくれて嬉しい反面、やはり彼にも可愛げが無い。まぁ、気落ちして黙っている彼よりはずっと良いのだけれど。

 

「終わったならさっさと行くぞ。せっかくの夜を人間如きに削られては不愉快だ」

「ねぇアルバ。もしかしてプニュリアって優しい?」

「そ。みぃーんな素直じゃねぇんだよ、どっかの誰かと同じでな」

「ふーん。アンタも大変ね」

「…………あぁ、本当に」

 

 和んだ空気の中、再びプニュリアに付いて行く二人。

 静かな夜に彼女の蹄のようなヒールは石畳によく響いた。人外の彼女でなければ、履くことすら困難だろう。そうして、リンは月光と外灯に神聖さすら感じる教会に……ではなく、更に奥で名状しがたい不気味な雰囲気を醸す、かなり古びた教会に到着した。

 

「え? アルバ本当にこれ? 仮にも大司教の住まいなんでしょ?」

「まぁ結構ボロいから、初見でそう思うのは分かる」

「いや分かるとかじゃなくて、窓ガラス割れてるけどホント!?」

「あー……あれはあれだ、うちの悪戯好きなシスターがやったやつだ」

「ククッ。なんだ人間、我を前にあれだけ堂々としておきながら、怖いのか?」

 

 うんうんと頷くアルバと、次こそ本心から馬鹿にした様子のプニュリアにリンは取り乱す。

 

 ボロボロの門。捲れた地面。屋根には所々に穴が。

 加えて暗くてすぐには分からなかったが、すぐ横には大きめの墓碑が見えた。いや、むしろ教会なのだから当然かもしれないが。

 

「いや私だって怖いとか思いますよ!? あなたみたいに見えて倒せる相手ならともかく、こういう見えない恐怖には対処のしようがないじゃないですか!」

「貴ッ、様ァ……随分と言ってくれるじゃないか」

「あーも―お前らいいから、早く中入るぞ」

 

 いがみ合う高身長女子二人を尻目に、呆れた様子でアルバが扉をギギィッと開ける。

 中は意外にも広く、というより奥に天秤を括り付けられた薔薇の石像があるだけ。他にあると言えるのは精々埃くらいで、屋根に空いた穴から月明かりが差し、宙を舞う埃が雪か星のように煌めいていた。

 

 物寂しい、憂いの蒼白。

 そんな印象を覚えたリンは、恐る恐る中へ入るのだった。

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