『うちはシスイ憑依伝』外伝集   作:EKAWARI

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 ばんははろ、EKAWARIです。
 今回の話はある意味もっとも賛否が多かったであろうルート、サスケ殺害ルートです。
 本編うちはシスイ憑依伝・続後編からの派生で、例によって地味に加筆しました。


『うちはシスイ憑依伝』IFルート・サスケ殺害ルート・ザ・ストーリー

 

 

 

 

「死ね」

 チチチチと鳥の鳴き声を奏で、雷光を纏った腕が周囲を破壊しながら迫り来る。あれぞ雷切、コピー忍者はたけカカシの唯一のオリジナル。それが本来の威力をもって今壁を削り刀のように伸びやかに迫り来る。

 ズキリと、痛んだ腹部と足が引き攣る。だから、それを受け入れようと、そうシスイは思った。

 

 

『うちはシスイ憑依伝』IFルート・サスケ殺害ルート・ザ・ストーリー

 

 

 雷光が男の心の臓を貫く。

 思ったよりも呆気ないほどに、何より憎んだ男の体はぐらりと傾いていった。

 ドサリと音を立て、うちはシスイと呼ばれた男の体が赤い血だまりを作りながら地面に落ちる。それを見て、最初に彼が感じたのはとてつもない昂揚と……昏い歓喜だった。

「やった……やったぞ」

 喜色の滲んだ震える声で少年は……うちはサスケはそう宣言した。

「遂にやってやったんだ!!」

「サスケ!」

 陶酔に噎び歓喜の声を上げた少年は、それとほぼ同時に聞こえてきた声を合図に、ゆっくりとそちらへと振り返った。なにせその声はこの世界の誰よりも敬愛する姉の声だったのだから、未だ姉離れが出来ていないサスケが反応しないわけがなかった。

「姉さん」

(見ろ、オレがやったんだ。父さんと母さんと一族の仇をオレが取ったんだよ!!)

 褒められるとでも思ったのか。仇を討ち取った悦びのままに振り向いた少年は、しかし自身と男を見るその姉の姿に困惑せずにはいられなかった。

 何故なら彼女が浮かべているその顔は、己が想定していた表情とはあまりに違い過ぎたのだ。

 自分はこうして両親と一族の仇を討った、それを思えば褒められたっておかしくないというのに、何故姉は、イタチはそんな苦しげな、悲しげな顔をしているのだろうか、サスケにはそのことがよくわからなかった。

「…………間に合わなかった」

 悔恨の滲んだ声で男の死体を見ながら彼女は呟いた。何故そんな辛そうな声を出すのだろう。いつも涼やかな美貌を誇っていた姉は、其の顔を苦痛に歪めて、まるで弟である自分が見えていないような態でフラフラと倒れ死んだばかりの男へと近づく。

(なんで、そんな顔をする。オレを何故見てくれないんだ)

 ほら、オレは仇を取ったんだ。父さんも母さんも一族もみんなこいつに殺された。そればかりじゃない。こいつはかつて姉さんを其の欲望の侭に犯そうとしやがったんだぞ。オレは、仇を取ったんだ! なのに、どうして、褒めてくれないんだ?

 グルグルとサスケの中で吐き出せもしない感情が廻り巡る。悲しげな顔を浮かべるだけで何故イタチは悦んでくれないのか、少年には姉の気持ちがわからなかった。

 やがて、女は男の元へと腰を落とすと、そっとその体を抱き起こして、死んだばかりのまだ暖かい頬に指を這わせた。見れば、殺されたというのに、男に苦痛を感じた様子はなく何故かその口元は微笑みさえ浮かべていた。そしてそんな男の死体を前に、女は、イタチはとても静かな涙を一筋落とした。

「……シスイ」

 それは確かな愛情を思わせる声音で。何故姉がそんな愛おしささえ詰まった声でその男の名を呼ぶのか、そんな男の死体を前に泣くのか、わからなくてサスケはただただ困惑するばかりだった。

 そして……。

「サスケェ!」

 バンと音を立て、喧噪と共に扉が開かれ、カカシ班のメンバーとアスマ班のメンバーが揃って顔を晒す。

 彼らの目には倒れ伏し、ピクリとも動かぬ男と、そんな男を前に涙を流しながら指を這わせる次期火影の女と、どこか自失呆然とした態のサスケの姿が目に映った。

 そして忍びとしての経験則からだろう、彼らはイタチの抱えるその男が既に事切れているということを悟った。

 心臓を一突き、間違いようのない致命傷なのだから。あれほどの血を流して、生きているわけがない。いや、致命傷を受けて尚生存出来る忍びも中にはいるかもしれないが、少なくともうちはシスイにそんな能力は無かった。

「……嘘」

「シスイの……にいちゃん?」

 やがて、事態を飲み込んだのだろう、どこか苦い声でアスマが言った。

「お前が……殺したのか」

「なんだよ、その目は。どいつもこいつも……こいつはオレの父さんと母さんを、一族のみんなを殺したんだぞ!? オレはみんなの仇を取ったんだ、誰にも文句を言われる筋合いはねえ!!」

 自分に突き刺さる視線が癪に障ったのだろう、そうサスケは叫んだ。

「大体ぬるいんだよ、テメエらは! こいつは最低のクズヤローだ! 犯罪者を殺して何が悪い!!」

「サスケェ、てめえ!!」

 その言葉がナルトの導火線に火を付けたのだろう。ナルトはその怒りのままに走り出し、そしてサスケの己よりもやや色白な右頬へと思いっきりストレートの拳をぶちかました。手加減抜きの一撃を受けたサスケの体が後方へと飛ばされる。けれどそれで収まらず、怒りに染まったナルトの両目からはボタボタと涙が止め処なく溢れていた。

「やんのか、このウスラトンカチが!」

 殴られたこと以上にそんなナルトの様子と、周囲の視線にカッとなったサスケが、殺気も露わに構える。

「もう、止めてぇ!」

 再び殴り合おうとしている2人を前に、サクラが悲痛な声を上げる。しかし、彼女の声では止まらない。やり場のない怒りを2人とも持て余して、それを目前の相手にぶつけるしか考えられなかったからだ。

「もう……やめろ」

 だから、その2人の諍いを止めたのはサクラの声ではなく、そんな静かすぎるほどのもう1人の当事者である女の声だった。

「ナルトも、サスケも……お前達が争ったところで、誰も帰ってきやしない」

 だから止めろと、そう呟いて女は涙を拭い、男の死体を抱き上げた。

 

「クソ、クソ、クソ! どいつもこいつもふざけた目でオレを見やがって!!」

 木の葉に帰ったサスケを待っていたものは、嫌悪と畏怖と同情と……まるであの場が里の縮図だったように、あの時の光景をそのまま拡大したような代物だった。

 うちはシスイはS級犯罪者だ。

 それは手配書からして知られている事実であり、その賞金や手配書にも捕らえることには生死問わずと記されている。だからそれほどの大犯罪者を殺した功績により、サスケの仲間に対する毒物混入事件と命令違反については帳消しにされて有り余るほどの効果があった。報奨金だって後に入ってくることになった。表向きだけを見るのならば、サスケは間違いなく里の英雄だった。

 しかし……どうだろうか。周囲の己に対する扱いは凶悪犯罪者を倒した英雄に向けるそれじゃない。

 怒りと憎しみと諦め。それが大半だ。

 うちはシスイはうちは一族を殺し里を抜けた犯罪者だ。だというのに、あれからもう8年以上経つ。しかしそれなのにどうしてか、あの男を慕うものは未だ多くいたということなのか、うちは一族の仇を取ったサスケを表面上は褒め称えながらも、其の目は何故殺したと訴えかけるものばかりで、サスケはずっとピリピリしていた。

 サスケに笑って近寄ってくるのは、賞金のおこぼれが目当ての下衆ばかりだ。同じ班のナルトやサクラとは相変わらず上手くいってなかったし、時にはあからさまな暴言をあの男を慕っていたらしき輩にかけられることさえあった。サスケを褒めてくれる相手は、あの男のことをよく知らないものだけだ。

 なにより、誰よりも敬愛する姉は、あれから1度もサスケと視線を合わせようとしない。

 次期火影に内定が決まっている故に忙しい立場とはいえ、あれから2週間近く経つというのに1度も、だ。時には厳しいことを言う時もあったし、修行に置いてはスパルタな一面さえ見せてきたイタチではあるが、それでもあんなに自分に優しかった姉がした其の仕打ちに、サスケは1番打ちのめされていた。

(どうしてだ、オレは犯罪者を討っただけだ! オレは両親の仇を取ったんだぞ! なのに、なんでだ、クソクソクソ! オレは何1つ間違っていない!)

 だから、その思考に没頭するまま、裏路地へと足を踏み入れたとき、サスケはそれに気付けなかった。

「ッ!?」

 音もなく匂いも気配すらなく、シュルリと布が口元を覆うのと、胸に布で作られた槍が突き刺さるのは同時だった。そのあまりの痛みと熱さに絶叫を上げそうになる、それらを全て布が遮り、サスケは吐き出せない苦痛のまま、己を貫いた人物を視線だけで振り返った。四肢は全て布によって拘束されており、容易に抜け出せそうもない。

 痛い、苦しい。しかしチャクラを練り込んだ布で作られた槍が刺さったのは心臓ではなく、そのすぐ横だ。わざと外されて、しかし致命的になりかねない場所への苦痛は想像を絶してあまりあるものがあったが、幸か不幸かサスケは忍びとしては優秀な才の持ち主で、身体的にも恵まれていた。だからこそ痛みに気絶すらすることなく、真っ直ぐそれを見た。

「……貴方が悪いんじゃない。それはわかっています」

 女性特有の中高音のそれは聞き覚えのある声だった。

「貴方は両親の仇を取っただけ。そしてあの人は犯罪者だった。あたしにあなたを責める資格なんてない。だから、これはただの私怨であり逆恨みでしかない。でもごめんなさい……やっぱりあたしは貴方を許せない」

 

【挿絵表示】

 

 それは20歳を過ぎたばかりといった容貌の、釣り気味のサーモンピンクの瞳と、赤い髪紐で結った黒髪が印象的な暗部姿をした女性だった。その人物をサスケは知っていた。

 そいつは表向きは消えた猿飛アスマの捜索へと、うちはシスイ探索任務がサスケ達へと言い渡されたその際に、ナルト相手に「シスイ先生をお願いします」そう頼んでいた暗部の女だったからだ。元うちはシスイの担当下忍だったという、くノ一。それが、涙を流しながら、怒りと冷静さを混在させたような面持ちでサスケを静かに睨み据えながら、布を操っていた。

「貴方に取ってあの人が両親の仇だったように、あたしにとっては貴方がシスイ先生の仇だ」

「……ッ!」

 それに思うことは色々あった。ふざけるなとさえ思った。しかしサスケに言葉を発することは出来ない。反論も苦痛も全て、女が操るチャクラが籠もった布によって封じられていた。

「安心して……次期火影の弟を殺ろうっていうんだもの。オチオチと生き延びるつもりはないわ。そもそも私怨に走るなんて暗部失格だもんね。責任はあたしの命で補う。だから、一緒に……死んで」

 その言葉を合図に女は1つの巻物を宙に放つ。それには口寄せの印が込められていて、一瞬で何十何百の起爆札が姿を現した。そして……。

 爆音と共にこの日2つの命が散った。

 

 事件は瞬く間に木の葉中に知れ渡った。

 木の葉が生んだS級犯罪者であり抜け忍のうちはシスイを殺した木の葉の『英雄』であるうちはサスケを殺して、1人の暗部の女が無理心中さながらに亡くなったというそれを、始めイタチはどこか現実感のない感覚で聞いていた。

「サスケが……?」

「はい」

 しかし部下の報告は変わらない。女は震える声で言葉を紡ぐ。

「現場は……いや、私が行く。現場に案内しろ」

「はい」

 表面上は冷静を取り繕って、その実空虚に乾きそうな心を制御して、イタチは事件が起こったという路地裏へと向かう。

 そこには、僅かな肉片とすら言えぬ欠片と、数多の血痕だけを残すのみで他には何も残されてなかった。

「我々が来たときには既にこの状態で……隊長?」

 部下の声も素通りさせてドサリと、イタチは腰を落とす。目の前には小さな肉片。それが、サスケの右の小指であることを、姉であるイタチだけが理解していた。

「……お前も、置いていくのか」

 震える声で、今まで部下には見せたことのないほどに弱り切った顔で、女は呟いた。

「サスケ…………」

 涙する声にもう、答えるものはどこにもいない。もう愛する男も、弟もこの世にはいない。

 

 この日、うちはイタチは、最後の肉親を失った。

 

 

 了

 

 

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