『うちはシスイ憑依伝』外伝集   作:EKAWARI

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 ばんははろ、EKAWARIです。
 今回の話は本編からの分岐で、もしもうちは殺しの任務を三代目が容認しなかったら進むうちは心中ルートです。
 尚、この話の漫画16P版もピクシブのほうにアップしていますので、興味ある方はどうぞ。↓
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42103016



『うちはシスイ憑依伝』IFルート・うちは心中ルート・ザ・ストーリー

 

 

 

「頼む、三代目。他は全部殺すから、禍根なんて残らないようにキチンとオレが全部殺すから、だからイタチとサスケの2名だけは助けて下さい……!」

「……シスイ」 

「オレはアイツに、親殺しの……一族殺しの罪を背負わせるような真似だけはどうしてもしたくないんだ!!」

 長い沈黙だった。頭を床に擦り付けるようにして、そう見る方が痛々しいほど必死に訴えかけたうちはシスイの姿。しかし三代目はゆっくりとしかし、厳かな口調でそれを口にした。

「……ならん」

 この胸に抱いた夢以外全てを捨ててもいいと……そうまで覚悟して告げたその嘆願が聞き届けられることはなかった。

 シスイは顔を上げることも忘れ、土下座体勢のままピクリとも動かない。そんなシスイに向かって三代目はやや悲しげな瞳を向けると、「これはおぬし1人の問題ではないのだ」そう告げた。

 同じことを先日も言われたな、とシスイは思う。あれはイタチの父にしてうちはクーデター事件の首謀者でもあるうちはフガクの言葉だ。

『ことは既に、お前1人の問題ではないのだ。そう、これは……うちは全体の問題だ』

 そう切り捨てるような声で言った。

 ……結局は駄目なのか、無駄なのか。次第にじわじわと黒く淀むような気持ちがシスイの身を苛む。しかしそんな青年に罪悪感を覚えたのか、意外にも優しげに猿飛ヒルゼンは言った。

「……シスイ、おぬし1人なら逃げてもいいのじゃぞ。おぬしがクーデターを止めようと長年説得を続けていたことくらいワシとて聞き及んでいる。おぬしは今まで頑張った。おぬし1人なら逃げたとて追いはしない」

 その言葉を聞いて、徐々に現実へと思考を戻したのだろう。シスイは、うっすらと顔を上げると「ご冗談を」そう口にした。

「虐殺の夜、オレがいなかったら他の上層部はオレを怪しむだろうし、イタチが話したのではないかと、イタチが疑われる。そんな真似、出来ませんよ。……オレはあいつの荷物にだけはなりたくない」

 それに、と口元だけの笑みを浮かべて、シスイは言った。

「元々はオレのミスが招いた惨事でもある。オレにどうにも出来ないというのなら、ならオレが彼らの為にしてやれることなんて一緒に死んでやることくらいだ、そうでしょう」

「……!」

 その言葉に三代目は言葉を詰めた。

「オレは何も知らなかった。聞かなかった。だから、三代目、イタチにオレが知っているってことは教えない下さい。オレは……逃げも隠れもしませんから」

 そういって青年は1つ笑って出て行った。

 

 

 

『うちはシスイ憑依伝』IFルート・うちは心中ルート・ザ・ストーリー

 

 

 

 うちは一族によるクーデター計画、それを前にして、二重スパイであったうちはイタチに里上層部より下された命は『一族を滅ぼし、里を抜けること』という指令であった。

 今ならば、何も知らない弟だけは助けることが出来る。しかし、実際にことが起これば弟も含め全てを滅ぼすしかないし、うちはの反逆は戦争の火種になりかねないと、そう告げられて、何より平和と里を愛するイタチが取る答えなど1つしかなかった。

 ……もううちはのクーデターは止まらないし、自分に下された命が覆されることもないだろう。

 この状況はもう覆らない。

 それを思った彼女の脳裏に1つの記憶が掠めた。

 それは幼い頃のある少年の誓いの光景だ。幼かった自分を相手に、お前が火影になることがオレの夢だよとかつてそんな言葉をかけた少年がいた。

 6つも年上だったというのに、確かに大人の側面があった反面、純粋な子供のような面もあった兄貴分の婚約者。……いつも笑顔で傷を押し込んで自分を自己暗示にかけては誤魔化し、誰よりも自分自身のことをわかっておらず、壊れかけの心を抱えながら、精一杯の不器用な愛を周囲に注いでいた誰よりも愚かで、歪で在りながら誰よりも真っ直ぐだったあの男。

 ……いつか癒せたらいいとそう思っていた。それを成せるのが自分であればいいと思っていた。

 しかし、もう時の歯車は止まらない。

 自分はやがて犯罪者として里を抜ける以上男の夢が叶う時は永劫に来ないし、いつかの願いのように男を自分が癒す日は来ない。何故なら、下された命は一族を滅ぼすことであり、彼は「うちはシスイ」だからだ。

 だから、いっそのこと……。

 少女は1つの決意を秘めて、其の日、男に睡眠薬を混ぜた茶を飲ませた。

 

 そして……運命の夜が訪れる。

 気配もなく、音もなく、匂いもなく、若きくノ一は暗部装束を纏ったまま、その男……自身の婚約者であるシスイが暮らす館に訪れた。まだ宵にすらならぬ時刻ではあるが、薬が効いているのであれば眠っていることだろう。いや、そうでなくては困るとさえ思っていた。なのに……。

「よぅ、イタチ。良い夜だな」

 男は笑って白衣を身に纏って座して少女を待っていた。

 

「嬉しいよ、お前が真っ先に来てくれたのがオレの元で」

 何故、唇の動きだけでイタチは問う。

 あの時確かに睡眠薬を混ぜた茶を男は飲んだ筈だ。それは目の前でよく見ていた。男は幻術を得意とするとはいえ、イタチの目までは誤魔化せるものではないし、それは確かだった。

 ……何故、眠っていてくれなかったのか。いっそ、幸せな眠りについたまま苦しまないように死んでほしかったのに、とイタチはキュッと眉根に皺を寄せつつ思う。

 そんな少女に対し、男は白一色の死装束のまま、布団の上に真っ直ぐに背を張って正座状態で、女を見上げつつ微笑みながら言った。

「こう見えてもオレはお前より実戦経験は長いし、お前より多く人を殺している。……暗殺なんかオレの得意分野だ。耐薬訓練くらい多少は詰んでる。それに……オレがお前の気配を間違うわけねぇだろ」

 それはつまり初めから、わかっていてあれを飲んだのだということを意味した。

「知ってたよ、お前がこの道を選ぶことくらい」

 苦笑しながら、そう男……うちはシスイは語った。

「お前は優しい子だから」

 何が優しいものか。私はお前の命を取りに来たのだと、思わず口元にせり上がる台詞を口内で飲み込んで、ただ静かに語り続ける婚約者をイタチはどこかぼんやりと眺めた。

「本当はさ、イヤだったんだよ。お前に泣きながら両親を殺めてほしくなくて、お前にそんな道絶対歩んでほしくなくて、でもさ、それってオレのエゴで、どうしようもない我が儘だってのもわかっているんだ」

 それを聞いて、本当にこの男はどこまで知っていたのだとイタチは思う。思えば見くびっていたのかもしれない。男はいつだって歪でそのくせ真っ直ぐで不器用で、誰よりも愚かだったから。だから、逆に見透かされているとは思ってなかった。

「結局オレは自分のことばかりの最低な奴でさ……オレが選ばれないのも当然だよな。いつだってオレは無駄な足掻きを繰り返すばかりだ」

 そうして自嘲するように、一瞬だけ男は瞳を伏せた。

 そしてまた元の微笑みと、穏やかな口調に戻って、そんな自身の態度や口調に似付かわぬ台詞を続ける。

「情けなくてどうしようもねぇ男だろ。オレはお前に全部背負わせるしかねえんだ」

 違う、背負わされたわけではないし、お前の責任でもない。そう思う心はあるのに、イタチの口は渇いて動かなかった。だって、お前は……。

「本当反吐が出る。この手に初めて掴んだ夢さえ泡沫に帰すのを座して待つしかねぇんだ。お前を守りたいって……あの言葉を嘘にする気なんて、なかったのにな。だっていうのに、オレがしたのは結局、一族にクーデターを起こさせるための切欠を与えたってだけだった」

「……そんなことはない。お前はずっと……!」

 自分を責めるような男の言葉を前に、少女はなんとか絞り出した言葉と共に、フルフルと左右に首を振って否定を示した。

 誰よりもうちは一族のクーデターを止めようとしていたのがこの男であることくらい、イタチはよく知っていた。いや、イタチだけでない、三代目を始め、うちは一族を監視していた暗部なら知らないものはいなかった。

 うちは一族が木の葉の政権を力で奪取しようと言い始めたのは昨日今日の話ではないのだ。その抑え役になっていたのも、クーデター論が出ながらもそれでも最悪に至ることがこれまでなかったのも、シスイがいたが故にだ。誰よりもこの男はこの結末にならぬように身を粉にして奔走していた。自分のように、言葉での対話を諦めたりすることさえなく。

 きっとこの結末になったことで本当に傷ついているのは己よりもシスイのほうだ。この男は筋金入りの愚か者だから否定するかもしれないけど、誰よりもイタチは知っていたのだ。自分よりも余程この男のほうが一族を愛していたということくらい。己がダンゾウに襲われたことによってクーデター論が加速したことに、己よりも他人が傷つく方が堪えるこの男がショックを受けなかったとは言わせない。

 復讐を、政権の奪取を。一族を傷つけられた誇りを取り戻すのだと、そんなことを声高に叫ぶ一族に対してシスイが放ったという一言、『そんなこと、どうだっていいんだ! オレが狙われたことなんてどうでもいい。クーデターなんて、力で無理矢理奪った頂上の座に一体なんの意味があるっていうんだ!!』それが本音であることを誰よりも少女は知っていた。

 そうこの男は……昔から本質的には嘘をつけない男だったのだから。

 けれど、シスイはそんな葛藤に沈むイタチを相手に、澄んだ黒の瞳を向けながら微笑って言う。

「優しいなぁ、イタチは。でも慰めはいらないんだ。結果が伴わなければ意味なんて無い、そうだろう?」

 それを極論だ、と切り捨てることは出来なかった。

「そういう意味ではオレはただの負け犬だ。結果としてオレは何も出来なかったんだから。結局なんとかしてやりたいと思うことさえ、傲慢なことだったのかもしれないな……」

 …………そうやってお前は自分の言葉の刃で己の心を傷つけ続けるのだ。

 やめてくれと、イタチは思う。こんな顔、こんな姿、こんな言葉聞きたくなかったし見たくなかった。

 そんな風に己を傷つける姿を見たくなんてなかったのだ。だからいっそ、眠っているうちに、幸せな夢を見ているうちに殺してやれば、それがせめてもの救いになると、慈悲だとさえ思っていたのに。

 なのに、どうして眠ってくれなかったのか。もう苦しむのは止めてくれと、言葉にならない声でイタチは思う。

 そんな少女を前に、男は相変わらず内容に似合わぬ穏やかな声で次のような台詞を口にした。

「なぁ、イタチ、オレの最期の願い聞いてくれるか」

 それは殺されることを前提とした台詞。それにはっとなる。そう、己は今宵男の命を絶ちに来たのだ。そのことに苦しげに顔を顰めつつ、それでも彼女は頷くことで答えとした。

「オレを殺した後、オレの目を貰って欲しい」

 思わぬ申し出に、知らずイタチはその言葉に息を詰まらせた。

 男は変わらず静かに和やかに微笑みながら、優しげで穏やかな声で言う。

「今まで周囲には隠してきたけどさ、実はオレ万華鏡に目覚めてたんだぜ?」

 それはイタチでさえ予想していなかった言葉だった。万華鏡写輪眼、それは瞳術の中でも最強クラスに当たる代物の1つであり、それはある特別な条件下でのみ開眼されるという。その条件がなんなのか、イタチは知っていた。一瞬の虚をつかれたイタチの顔を前に、男はわざとらしくはしゃぐような声で言葉を続けた。

「うちはでも数人しか目覚めたことのない伝説の瞳術だ、すげーだろ。ま、オレの目は強力すぎて使いにくい代物だったんだけどさ、でも……お前なら使いこなせるだろうし、きっとこれはお前の役に立つ。貰ってくれ。いや、オレがお前に、貰って欲しいんだ。……頼むよ」

 ……それは私に、お前の目を抉り取れと、そう言いたいのか。

 そう気を抜けば言いそうな口を理性で抑えて、イタチはまた再び頷いた。己の感情を優先して死に逝く者の最期の願いを無碍に出来るほど彼女は子供にはなれなかった。

 昔から子供らしさとは無縁で、真に己を子供扱いしてきたのは何時だってこの目の前の男だけだった。そんな己が今更そんな子供のような振る舞いを出来る筈がない。だからこそ頷いたというのに、それに対してほっとした顔を見せたシスイに再びズキリと胸に痛みを感じた。

 それから男は照れたように、顎を右手人差し指で掻くと、「あ、あとこれは遺言と思ってくれてかまわないんだが……」そんな言葉を口にした。

「……なんだ」

 感情を押し殺した声でイタチは問う。

 そんな彼女に向かって、シスイはフワリと微笑み、そして言った。

「幸せになってほしい」

 その言葉に再び少女は息を詰めた。男は笑っていつも通りの明るく聞こえる声で言う。

「お前にとってサスケちゃんがそうであるようにオレにとってはさ、イタチ、お前こそが希望だった。だから、これはオレの我が儘だけど、オレはさ、お前に死んで欲しくない。お前には幸せになってほしい。だから難しいことを言ってるのはわかっているけど、頼むから……生を諦めることだけはしてくれるな」

 ……それをお前が言うのか、と彼女は思う。いつだって自分を誰よりも蔑ろにしてきたのは私ではなくお前ではないかと。それを見て人がいつもどんな気持ちを抱いていたとおもうのか、人の気も知らないで、なんて自分勝手で酷い男なのか。どんな気持ちで……一体己がこの場に来たと思っているのか。お前を殺しにきたのだぞ、と。なのに、そんな台詞、男の口から聞きたくなどなかった。

 ……どうして、お前はいつだってお前を私が想っているという可能性を排除したがるのか。本当にお前は人でなしだと、少女は思う。お前を殺した世界で、生きろと、幸せになれとそう言うなんて。

「……勝手な、ことばかり言うな」

 けれど、震える声で押し出したそれがイタチの精一杯だった。座して死を待とうとしている男に、これから自分が殺すことが確定している男相手にそれ以上何を言えば良かったというのか。それがイタチ流の気遣いであることをシスイはわかっていたのだろう。

「うん、ごめんな……イタチ」

 青年はそっとイタチの体を抱き寄せ、懺悔をするように頭を垂れた。

「……これからオレはお前に全てを背負わせる、ごめん」

「……謝るな。私の選んだ道だ」

 震える声で、しかし強くイタチは断言した。

 それに対して、囁くような小さな声でシスイは自嘲するような言葉を漏らす。

「そうだな……謝るのは卑怯だよな」

 そして男は、微笑って言った。

「イタチ、オレはお前のことが好きだったよ」

 それは春の木漏れ日のような微笑みで。

 昔からイタチが好きだった顔を前にした其の台詞に、嗚呼、やはりこいつは卑怯者だと思った。

「オレはお前と出会えて、お前と過ごせて幸せだった。お前に会えて良かった。……ありがとう」

 ……本当になんて卑怯で狡い男なんだ。好きだなどと片手の指で足りるほどしか言ってくれたことなどなかったくせに、最後に言うなんて本当に狡い。そうしてお前はいつも人を振り回して……最期まで縛るのだ。

 けれど、こうしている合間にも刻一刻一刻と時は過ぎていく。歯車は止まらない。あまり時間をかけるわけにもいかない。異変に気付かれるわけにはいかないのだから。今宵、うちは一族は終焉を迎える。そうでなくてはいけない。それが上層部の決定だった。時間がもうないのだ。それを男もわかっているのだろう。シスイは穏やかな口調のまま、震える指の少女の手を取ると、自分の左胸の上に乗せて言った。

「ほら、ここだ。ここがオレの心臓」

 トクトクと男の心の臓の音が触れた掌を伝ってイタチにまで届く。それがどうしようもなく苦しくて、彼女は眼を細めながらきゅっと唇を切れない程度に噛み締めた。そんな少女の体を抱き締め、ポンポンと宥めるようにその背を叩きながらシスイは言う。

「……大丈夫だ、お前なら一瞬で終わる。心配なんていらない」

「……シスイ」

「大丈夫だよ。オレはお前による終焉なら苦しくないし、辛くなんてないんだ。だから……」

 そう言って男は少女の背に手を伸ばし、その刀を抜き取ると其れを彼女の右手の平に握らせ言った。

「お前はオレの死に苦しまなくて良い。引きずらなくてもいいんだ。オレはただ、お前に覚えていてもらえたら、それだけで充分なんだから」

「……シスイ」

 つぅと、音もなく少女の目から涙がこぼれる。その涙を青年は親指の腹で拭い、そしてイタチの刀を握る右手の上に手を重ねると、其の手を自分の心臓の上に固定しながら、和らげで優しげな声で言った。

「イタチ、オレは充分幸せな人生だった。お前と過ごせた日々は掛け替えのない宝物だった。だから、泣かなくて良いんだ。……ありがとう」

 ズブリと少女が手にした刀がゆっくりと婚約者だった男の胸を貫いていく。シスイは少女の手に指を添えたまま、ただそれを微笑んで受け入れた。それが苦しくて、イタチは更にもう一筋涙をこぼす。

 重ねられた体温の暖かさが痛い。その命が無くなる瞬間をずっと忘れはしないだろうとそうイタチは思った。

 もう男の口が開かれることはない。イタチは押し殺した嗚咽を僅かに漏らした。そして……。

 

 

 ―――――その晩、1人の少年を除いて1つの一族が滅びを迎えた。

 

 とある忍びの家庭では、その伝えられたニュースを前に、深刻な面持ちで娘へと今入ってきたばかりのその情報を伝えた。何故ならこの事件は娘と無関係とはいえず、その木の葉史上でも最悪とさえ言える事件の被害者の中には娘の担当上忍だった男の名前も含まれていたからだ。

 けれど、始め娘は何を言われたのか理解出来なかったのだろう、意志の強そうなサーモンピンクを困惑に揺らして、彼女は戸惑うような声を出した。

「え……うそ、嘘……よね。父さんも母さんも冗談、きついよ」

「……冗談じゃないのよ」

 そんな常らしからぬ動揺を見せる娘が痛ましくて、けれどきちんと伝えなければという義務感が先に立ったのか、少女の母である木の葉のくノ一はそっと瞳を伏せながら、そう娘の希望的観測を否定した。

 娘はフルフルと頭を左右に振って弱々しげな言葉を押し出す。

「嘘、シスイ先生が死んだなんて、殺されたなんて、嘘……」

「シスイ先生だけじゃないんだ。うちは一族は皆殺された」

「嘘……!」

 父母からの無情な言葉に、少女は悲鳴のような声を上げて耳を塞いだ。其の様子をただ痛ましそうに両親は眺める。たとえ下忍といえど忍びがそれほど簡単に感情を表に出すのは望ましいことではないとはわかっているけど、ここは個が守られるべき家庭だし、娘が自身の担当上忍であったうちはシスイに強い思慕を抱いていたことは知っていた。だからそれを指摘する気にはなれなかった。

「誰、誰が先生を殺ったの!?」

 少女は、父母に詰め寄り、泣きながら怒りの形相を見せつつ叫ぶように言葉を放つ。そんな娘を前にして言うか言うまいか両親は一瞬迷うような仕草を見せるが、いずれ知ることになると思い直したのか、少しだけ間を置いた後答えた。

「うちはイタチだ」

「うちは……イタチ」

 その名を少女は知っていた。思いがけない名を前にして、数瞬呆然とする。

 其の名前は知っていた。想い人であったうちはシスイの婚約者の名前がそうであると記憶していたからだ。1度だけシスイ先生と共に町の団子屋にいる姿を見かけたこともあった。

 自分と同じくらいの年齢とは思えぬ綺麗な大人びたくノ一で、またそんな彼女の隣にいる想い人が彼女に対しては自分とは少し違う顔も見せたから、だからあの人が相手じゃ自分じゃ敵わないと悔し涙を流したのは遠い記憶ではない。悔しいけど、お似合いだと思ってしまったのだ。

 何度好きと告げても完全に子供としてあしらわれてしまう自分とは違うのだと。悲しいけど、それでもだからこそ自分なんかのちっぽけな未練がなくなるくらい幸せになってくれたら良いとそんな風に思っていた。

 ……シスイ先生のことを想っているだけで、その笑顔が見れるだけで自分は幸せだったのだから。だから、悔しいけど先生が笑っていてくれたらそれで良かったのだ。

 けれど、少女はうちはイタチの人となりを知っているわけではない。それでも彼女が相手だから諦めようと1度は思ったのに、なのに……まさか殺すなんて、裏切られたような気がした。

「許さない……絶対に、許さない。うちはイタチ……!」

 1度は祝福しようと想っていた相手だった、けれどだからこそ、許せなかった。たとえ理由があったのだとしても知るものか。あの女は先生を、自分のこの気持ちを裏切ったんだ。

「……うちは、イタチィ!!」

 呪詛のように女の名を吐く。ギラギラとした其の瞳は怒りと憎しみに染まっていた。

 

 うちは一族が滅んだ。そのニュースは三代目火影の息子の1人でもある猿飛アスマにも当然のように早々と回された。1人を除いて一族全てが1人の女の手によって皆殺しにされたなど、まるでタチの悪い冗談のようだ。しかしこれは紛れもなく現実であり、またその被害者の中には親しくしていた後輩とも呼ぶべき男もいた。故にその捜査班に入ったのは自らの希望によるところが大きかった。

 心臓を一突きで殺されていた其の死体は、死後硬直の様子から見て最も古い死体であり、つまり1番最初に殺された被害者ということになる。そして其の死体は他と明らかに違う異なる部分が多く存在していた。

 まず、その男……うちはシスイが纏っていたのは死装束であったということ。他の死体が着の身着のままであることを思えばこれだけで異様と言える。それだけではない。何故かその死体は……微笑っていたのだ。目は奪われ、其の瞳に空洞を穿ちながら、なのに何故か笑っていたのだ。

 犯人はうちはイタチと伝えられている。イタチとシスイは婚約者だったことはアスマだって聞き及んでいたし、2人が仲睦まじいことも見知っていた。だが、果たしていくら婚約者だったとはいえ、こんな死に方は異常ではないだろうか? まるで己が殺されることを前から知っていたようだ。

「なぁシスイ……お前は何を知っていたんだ」

 アスマの疑問に答えるものはない。

 

 

 その年、1人の女が己が一族を滅ぼして里を抜けた。

 犯人とされるのは、元木の葉隠れの暗部分隊長を務めていたうちはイタチといい、この事件はやがて木の葉史上でも最悪の事件の1つとして伝えられることとなる。

 しかし、1人の青年の存在によって既に正史とは違う歴史を歩んできたこの世界で、果たして少女の未来が正史通りとなるのか、それとも大きく異なる道を辿ることになるのか。

 それはまだ、誰も知らない。

 

 

 了

 

 

 

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