『うちはシスイ憑依伝』外伝集   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
まず初めにお詫びしておきます。牙喪失ルートの内容がうちは心中ルートのものになっていたようで、ご迷惑おかけしました。とりあえず修正してきましたので、本来の牙喪失ルート見たかった方はそちらもどうぞ。
今回の木の葉出頭ルートは大蛇丸戦で無傷で勝利した場合至るエンディングで、ピクシブのほうにも同時掲載しています。
とても愚かな男にとっての「ハッピーエンド」それが木の葉出頭ルートです。
しかし、読み直してて思ったが、しーたんってアスマのこと(変な意味でなく)大好きですよね。やっぱああいう正当派兄貴っぽいのに憧れるタイプなんだろうか。


『うちはシスイ憑依伝』IFルート・木の葉出頭ルート・ザ・ストーリー

 

 

 

 ―――――嗚呼、漸く終わった。

 最初に感じたのはそんな放心にも似た安堵感と、虚無にも似た感情。

 達成感や喜びといった感情は、無い。

 それでも、自分は終わらせることが出来たのだ。

 正直未だに自分でも信じがたい気分だ。あの大蛇丸を、無傷で倒せるなど。相打ちも想定していたのに。

 それでも、これでもうイタチが火影となる未来に対しての憂いは無い。もう思い残すことはない。例えあったとしても、あいつならば多少の困難をものともしないだろう。なら、自分の役目はコレで終わりだ。

 ならば、するべきことは、しないといけないことは1つだけ。

 そう思い、大蛇丸のアジトからターゲット暗殺と同時に脱出を始めた彼、うちはシスイはこれからの未来を想って、微笑った。

 

 

 

『うちはシスイ憑依伝』IFルート・木の葉出頭ルート・ザ・ストーリー

 

 

 

 

 木の葉の里は火の国が要する忍びの隠れ里であり、その特質上、当然のように出入り口と為る関所には見張りを務める忍びが勤めていた。

 とはいっても、戦争中ならばいざ知らず、平和な時代においてはそこまで大変な職務というわけでもない。故に其の日、関所の見張りに任じられていたその中忍もまた、どこか気の抜けたような気分で見張りをしていた。

(あー、退屈だ)

 思わず胸中でそう呟きながら気怠げにあくびをする。

 最近、木の葉は火影が代替わりしたのもあって、お祭り気分だ。その少し前に木の葉を揺るがせた大事件もあったことはあったが、おめでたいことが起きれば人は簡単にそれを過去にしてしまえるもので、この中忍もまたそういう人種であった。

 何も起こらず、何も目新しいことはなく、そんな退屈で、素晴らしい1日、本日という日がそうなるであろうことを彼は信じていた。

 

「ん?」

 しかし、ふいに見慣れぬ影を見て、男は気分を引き締め、門番としての責務に戻り慎重に声をかける。

「おい、そこのお前、止まれ」

 そこには黒い装束、黒い髪に、笠を被った1人の男が、音も立てず、匂いもさせず、気配もなく、立っていた。いつ男が現れたのか気が抜けていたのを抜きにしてもまるでわからない。それは、おそらく間違いなく、忍びであった。

「何者だ、その笠を取って名を名乗れ」

 一瞬薄ら寒いものを感じながら冷や汗を掻きつつも言葉を発する。もしもこの人物の目的が自分の暗殺だったのならとうに果たせていたのだろう。そう思えば冷たい物を感じずにおれようか。

 しかしそれでも己だって中忍の端くれだ。怯えた姿や動揺を敵ともつかぬ相手に晒すわけにはいかない。故に警戒心も強く、そう見張り用に持たされていた槍を構えながらの男の言葉を前に、その件の忍びは「木の葉の罪人です」とそう答えた。

 一瞬、どういうことだと男は思考する。

 罪人だと答えたが、その声はあまりにも穏やかで、敵意の欠片すらもなかった。

 そんな風に動揺を持て余す男を前に、しかし笠を被った罪人と名乗った男は、やはり穏やかな声でそれを言った。

「里に裁かれる為、恥を忍んで戻って参りました。どうぞ上層部にお取り次ぎを」

「……! お前は」

 そして笠を外し現れた顔は、指名手配書を通して間違いなく知っていた顔で。

「オレは元木の葉隠れが忍、うちはシスイです」

 その予想以上に大物の名前と落ち着いた態度に、見張りの男は思わず言葉を無くした。

 

 

 * * *

 

 

 うちはシスイが戻って来た。その情報はすぐさま里の上層部に回された。

「我らを裏切るつもりじゃないかえ」

 そう言って警戒をしたのは、シスイが何故一族を殺して里抜けをしたのかを知るものの1人であるうたたねコハルだ。それに追随するように同じくご意見番の水戸門ホムラが「どうする。ヒルゼン。やはり、あの任はイタチに任せるべきであった。あのような男を信用するからこのような眼にあうのだぞ」と言ったが、それに対し、苦い声で三代目火影である老人は、答えた。

「よさんか。おかしな思い込みでものを言うでない」

「だが、あの男がうちは一族の真実と、自らの任について他の者に漏らさぬとどうしていえる」

 それに厳しく根を統括する男……ダンゾウが続く。

「里に戻れば自分がどうなるかわかっていよう。それをわかっていて戻ってくるなど、正気の沙汰ではない。ならば別の狙いがあると見るのが当然であろう」

 その言葉にため息を1つついて、それから苦み走った声でヒルゼンは言った。

「シスイは漏らさぬよ」

「何故そう言い切れる」

「あやつはそういう男なのだ。それに……処刑こそが望みだと言った。それを儂は嘘とは思えんよ」

 そういって三代目火影と呼ばれた老人は力なくうなだれた。

 

 

 * * *

 

 

「えー、お久しぶりってほどでもないですよね、先輩」

「シスイ……」

 そう言いながら、牢獄に繋がれた男はかつてと同じように柔らかく笑って男を出迎えた。

「あー、それにしても良かった。怪我すっかり治ったんですね。いやあ、ほらオレあれからすぐ先輩とは離れたじゃないっすか? 内心手違いで死んでたらどうしようと思ってたんすよ? アスマ先輩。ああ、でも元気そうで本当良かった」

 そう言ってニコニコと笑う目の前の男に対して、アスマと呼ばれた男は苦み走った声で言葉を落とした。

「オマエ……何も話してないんだってな」

 その言葉にキョトンと首を傾げながら……妙に子供っぽい仕草だとアスマは思う、で男を見上げながら、シスイは不思議そうな声で言葉を返す。

「いや、だって、話すことなんて何もないでしょう?」

「何もないはずねェだろう!」

 それに僅かな苛立ちと怒りを宿してアスマは言った。

 この男がうちは一族を2人を残して皆殺しにして里を抜けてから9年になる。

 当時、シスイが起こした事件は色んな意味で里に震撼を与えたものだ。

 シスイが起こした其の事件に、この男を知っているものは皆、まさかとそう思ったものだ。

 能力的に出来ないとは言わないが、それほどにうちはシスイという男に持っていた周囲の印象と起こした事件の内容は釣り合っていなかった。シスイがうちは一族内で孤立していたわけでもなく、寧ろ上手くやっていたようにしか見えなかったからこそ不可解だったのだ。

 何故そんな事件を起こしたのか。

 だから、なにか事情があったのではないかと、アスマを始め当時親しかった面々は考えた。

 シスイの起こした事件の大きさが大きさだからこそ全てから庇うつもりはなくても、それでも事情があってその事情がこっちにも納得のいくものだったのならば、皆で罪を軽減させるための嘆願書を出していいとそう思っていたのだ。

 だから、その事情が知りたかった。

 しかしこの目の前の青年は自分がどうやってうちは一族殺しを成し遂げたのかの手段については語っても、こちらが知りたいその事件を起こした動機部分については全く話すことはなかった。

 そして、今も男は淡々とした口調で、困ったようにそれを言った。

「何もないですよ。里には新しい火影が立って、悪者は逮捕されて処刑。はい、ハッピーエンド」

「何がハッピーエンドだ!」

「? なんで怒ってるんですか、アスマ先輩」

 そのアスマの言葉に不思議そうな顔をしてシスイはそう訊ねた。それは本当にわけがわからないといわんばかりの顔で、わけがわからないのはこっちだ馬鹿野郎とアスマは内心で毒づく。

 それからああと一拍おいて、シスイはノホホンとしているようにさえ聞こえる声でしみじみとこれまでの感想を述べた。

「それにしても吃驚しました。オレてっきりイビキ先輩のことだから拷問の1つや2つあると覚悟してたんですけど、まさかの事情聴取だけですよ? しかも今も牢屋に繋いで手枷されてるくらいだし、意外に好待遇で吃驚したなあ」

 その言葉にアスマは困惑した。

(拷問されると思っているのに帰ってきたってのか?)

「痛覚鋭敏にした上でさ、手足や指の5,6本くらいもってかれるかなーって思ってたのに」

 そう呟く顔には、なんの感慨も浮かんでいない。純粋に感想だけを述べているという色があった。其れを見て、嫌な予感を覚えつつもアスマは訊ねる。

「お前は拷問されたかったのか?」

「え? オレだって痛いのは嫌いですよ? マゾじゃあるまいし。でもほら、オレの立場的にこう拷問されちゃったとしても仕方ないかなーって。だから正直、今の状態は拍子抜けだ」

 それに、何が仕方ないだ馬鹿野郎と、アスマは思った。

 痛いのは嫌いだ? なら何故そんなに平然と拷問されるような言葉を言う。

 何故周囲に何も言わず、処刑だけを望む。

 前も思った。おかしいとは思ったんだ。だが、はっきりと今は確信出来る。

(こいつは矛盾している)

 なのに、それを矛盾とは思っていない。

 己を助けたこともそうだ。自分を悪人というのなら、何故己を助けた。そんな悪人がどこにいるというのだ。なのに関わらず、未だこいつは自分を悪人と思っている。あまりにもちぐはぐだ。

 それに、イタチが言っていた言葉を思い出す。

『食い違って当然だ。あいつは世界で1番自分のことが大嫌いで、最も疎ましく思っていて、最低の人間と信じ込んでおきながら、他者を愛するが故に助けたがるその己の思考が、矛盾しているということに気付いたことなど終ぞなかったのだから』

(これがそういうことなのか)

 これはどうしようもない愚か者だ。

 けれど、だからといってどうして見捨てるなんて選択肢が出来るのか。

 ついこの間アスマは、シスイに命を救われたばかりだ。あれからまだ1ヶ月ほどしか経っていないのだ。

 自分の命を救ってくれた相手をすぐさま見限るにはアスマは人情家過ぎた。

「シスイ……話せよ。あの日、何があったのか、オレに話せ」

「は……? 話せって、だから話すことなんて何もないってあの時も言ったはずですケド。ていうか、先輩さ、オレに何求めてんの? というか、何言いたいの? 正直さっぱりわからないんですが……」

「話せば、弁護してやるって言ってるんだよ!」

 その言葉に、シスイは初めてピタリと笑う事をやめた。

「……なんだ、それ」

 どこか、震えているような声でシスイが言う。それを前に、アスマは幾分か熱の含んだ口調でそれを続けた。

「このままいけばお前は間違いなく処刑だ。だが、オレが弁護してやれば、事情次第じゃ罪の軽減くらい出来るはずだ。いや、オレだけじゃない。他の奴らもお前を助けるために動いてやれる。だからそのためにも、事情を話せとそういってんだ」

「くだらねえ冗談言ってんじゃねえよ」

 そのアスマの言葉に被せるように、ドスの効いた声で吐き捨てるようにシスイはそう言った。

「さっきから聞いてたら……ざけんのも大概にしろよ。何が罪の軽減だ。んなもんこちとら端から求めちゃいねえんだよ、いい加減にしてくれ……!」

 そういって、激情を込めて、シスイはアスマを睨み付けた。其の顔は、今までシスイから一度も向けられたことのない怒りをまざまざと宿した顔で、それに驚き交じりにアスマは言葉を失う。

 そんな男の姿を見て、我を取り戻したということなのだろうか、シスイは息を1つ零すと、やがて硬質な声でこう言った。

「オレなんかを弁護したいとかいう酔狂な話ですけどね、アスマ先輩。そんなことをしたら、オレはあんたを軽蔑する。絶対に死んでも許さない。だから止めて下さい。オレはあんたを軽蔑したくはない」

 そしてもう話す事はないのだと男を拒絶するように、その後はもうシスイはアスマのほうを見ようとすらすることはなかった。

 

 

 * * *

 

 

 うちはシスイが木の葉へと出頭してきた次の日、その男が帰ってきたという情報が木の葉上層部以外の人間にもこっそりともたらされていた。

「シスイの兄ちゃんが帰ってきたって!?」

「こら、ナルト、一応それは極秘だって言ってんでしょ!」

 そうナルトが勢いよくまくし立てると、そうサクラが窘める。そんな2人を見ながら、2人の担当上忍であるはたけカカシは、「まあ、そうね」とお茶を濁すような声で肯定した。

 それに対して、ナルトは顔を輝かせるような顔をしてそれを言う。

 サスケがシスイを攻撃しようとしてイタチを刺した日から、それまでに増してナルトがサスケとシスイのことを気に掛けていたことは、この場にいるものには周知の事実だ。眼の下にうっすら浮かんだ隈は気のせいでもなんでもない。

 それを思えば安心させてやりたい気分にもなる。しかしそれは出来ない事を、この場にいる大人2人はわかっていた。

「なあなあ、シスイの兄ちゃんに会えるのか」

 ワクワクとそんな擬音が似合いそうな無邪気な笑みでナルトは訊ねる。

「いや、ことはそんな簡単じゃねェな」

 しかし、そんなナルトの希望が入った言葉はあっさりと、件の情報をもたらした当事者である猿飛アスマの苦渋に満ちた声で遮られた。

「あいつは、あの事件を起こしたワケを話すでもなく、ただ刑の執行だけを望んでいやがる。木の葉上層部もどういうわけか碌に情報も引き出してないにも関わらずあいつの早い死刑に乗り気でな、数日中に執行されるだろう、本人の望み通りにな……」

「まあ、理由はどうあれ奴がS級犯罪者の重罪人であることには代わりがないからね。自然な流れといえば流れっしょ」

 重い口調で語るアスマとは対象的に、カカシはあっさりとそう言った。

 それにこの場にいる紅一点の少女、サクラは「そんな……」と痛ましそうな顔と声で言う。ナルトもまた言葉を失っているようだった。

 そんな2人に向かって、苛立ちと悲哀と苦みが混じったような声で、アスマは言った。

「オレが弁護を務めようとそうあいつに言ったら、あいつは『そんなことをしたら、オレはあんたを軽蔑する。絶対に死んでも許さない』と答えてきやがった。ああなった奴はもうテコでも動かない。そういう男なんだよ、あいつは……」

 その言葉が示すこと。

 それはつまり最初っから……。

「生きる気自体、奴には元から無かったんだよ……!」

 

 

 * * *

 

 

 木の葉に帰ってきてから、今日で3日目となる。

 刑は明後日には執行されるはずだ、それがシスイにはとても嬉しい。

 ちゃんと自分は犯罪者として裁かれるのだ、これでいいと牢獄の据えた匂いに安堵感を覚えながらシスイは思う。

 本当はイタチに殺される未来も魅力的だったのだけど、あいつの手で殺されたかったなとも思うけれど、それをしてしまったら優しいあいつはきっと傷つくから、だからきっとこれで良かったんだ。

 アスマ先輩を含め、何人かのかつて親しくしてきた人達は、何故か「わけを話せ」と、そうすれば弁護してやるとかおかしなことを言っていたけど、そんなもの最初から意味のない行為なのだ。

 実際、自分はただの卑劣で傲慢で卑怯な、最低最悪の犯罪者に他ならないのだから。

 悪は悪として裁かれるべきだ。

 それを思えばこの手枷や牢の匂いさえ、愛おしい。

 そんなことを思いながら、ふとそのチャクラの匂いを察知してシスイは顔を上げる。……最も、別天神を使った影響で殆どこの目は見えていないのだが、それでもそこに立っているのが誰かくらいわかる。

 思わずクスリと口元に笑みを零しながら、招かれざる客のフルネームを呼んだ。

「顔を見せたらどうです? 志村ダンゾウ」

「……ふん」

 そうして現れたのは思った通りの、木の葉の闇ともいうべき存在だ。

 この陰湿なチャクラは忘れたくても忘れられそうにない。

 そんな相手を見上げながら、それでもシスイは飄々とした声で気軽に声をかけた。

「久しぶりですよね。何年ぶりなんだろ。まあ、いいや。元気そうでなによりです。正直オレ、あんたのこと嫌いだけど」

 そんな一言多いと言われそうな台詞を吐きながらも、あっけらかんとシスイはダンゾウにそれを訊ねる。

「それで? 目的は」

「何故、言わなかった?」

 それは事情聴取を受けたときのことや、アスマ達に詰め寄られた時のことを示しているのだと理解した。

 しかし、何を聞かれたのかはわかっても、わかったからこそおかしなもんを聞くんだなとシスイは他人事のように思う。

 自分が何故うちは一族を滅ぼしたのか。その理由など、そんなものイタチに原作と同じ道を歩んで欲しくなかった自分のエゴ以外の何者でもない。あれはつまりそれだけのことなのだ。それだけのために自分は女子供老人までも卑怯にも毒で動きを封じた上で殺して回った。それを自分のイタチへの思い入れはともかく、この男とて知っているはずだ。

 なのに、ひょっとしてこの男も自分がうちは一族を滅ぼしたのは、それが任務だったからなだけとでも思っているのか? イタチと違って、オレはそんなに出来た人間じゃないのに。

 そんな風に毒抜けた気分を味わいながらも、シスイは吐き捨てるような声で答える。

「なんだ、オレはそこまで口が軽いと思われてたのか?」

「イタチならばともかく、貴様なんぞ信用ならん」

「そりゃ結構」

 別に元々信用される気などない。

「で、今日は刑が執行される前にオレの目でも回収しようとでも思ってきたのか?」

 ザワリと殺気じみた気配に身に纏うチャクラの質を変えながらシスイは吐き捨てるように言う。

「ただで取れると思ってんの?」

「その状態で抵抗が出来るとでも?」

 そのシスイの挑発を前に、ダンゾウはあくまで冷静に返した。

 囚人であるシスイは手枷と足枷で厳重に牢と繋がれている。自ら出頭してきたことと模範囚であることの温情により、チャクラ制限までは受けてはいないが、それでも抜かりはなかった。そうそう晒す気はなくてもダンゾウにだって切り札はいくつもある。力の差は歴然だった。

 けれど、それでいて、尚強気な態度で彼は言う。

「舐めんなよ、この状態でもテメエののど笛ぐらい噛み切れる。試してみるか?」

 それは、ブラフでもあり、同時に本気でもある言葉であった。

 たとえ自由の利かない身であろうと、それでも一矢報いると、そう決意の含まれた言葉。それを前にダンゾウは思考する。

 どうせ、この男の命は明後日には消えるのだ。なら、此処で争うのはそれだけ無駄であると言えた。無駄な力を使う気はダンゾウにもない。そのダンゾウの思考の変化に気付いたのだろう、シスイはまたも穏やかな顔に戻っていった。

(よくわからない男だ)

 ダンゾウにとって、うちはシスイとは理解不能な思考回路を持つ不気味な男であり、うちはきっての幻術使いである点からしても危険人物と判ずるには充分な男であった。こんな感情的な男が忍びをやっていることとて理解の範疇外だ。御するに難しい味方ほど厄介なものもない。

 いや……そもそも死刑にされるとわかっていて、何故わざわざ里に裁かれるために出頭してきたのか、そこからして理解し難い。確かに必要とあれば死ぬのが忍びではあるが、この男のそれはまた異質だ。必要な犠牲と自ら死にに来る自殺願望者はまた違う。

 故に彼が問うた内容は、ダンゾウにしては珍しく純粋な疑問とも言えた。

「お前は何故里に戻ってきた」

「為すべきことは全て終わったからな。あとは悪者は裁かれてそれでハッピーエンドだろう」

 あっさりとした声で、シスイはそう答えた。

 それは数日前にアスマに答えた内容と同じものであった。

 そこに宿る色を注意深く観察しながら、更にダンゾウは言葉を重ねる。

「思い残すことは」

「微塵もないな」

 それは間髪入れずの即答であったが、それから「ああ、でも」と呟いて考え込むような顔をしてシスイは言い直した。

「未練はなくても、イタチに、渡してやりたいものならあったな……」

 そして、シスイはまっすぐにダンゾウのほうを見上げて言った。

「ダンゾウ、あんたに頼みがある」

「何?」

 己がこの男を不信としたように、この男は自分を嫌っているはずだ。それを知っているダンゾウは訝しむようにしてシスイを見たが、そんな男の態度などどうでもいいとでもいうように、ダンゾウの反応を気にする事もなくこう言った。

「無論、無償でなんてムシの良い事は言わない」

 そして、男は、ダンゾウにとって予想外の言葉を放つ。

「オレの片目はあんたにくれてやる。だからもう片方の眼はイタチにやってくれ」

 ダンゾウはこの男が何を言っているのかが一瞬理解出来なかった。

 そんなダンゾウの気持ちを置き去りにして淡々とした声でシスイは語る。

「万華鏡は使うほどに光を失う。オレはイタチにそんな目にあってほしくない」

 その言葉にダンゾウはこの男が万華鏡に目覚めているのだと気付いた。

「頼む」

 そういってシスイは頭を下げる。それに、ダンゾウは苦い声で言った。

「ワシに渡すのは嫌なのではなかったか?」

「ああ、そうだな。出来るならイタチにしかやりたくない。だが、ただであんたはオレなんかの頼みを聞いてくれるわけがないだろ」

「わからんな……」

 しかし尚も渋い声でダンゾウは言う。

「貴様は、儂がイタチに渡さず、両方の眼を独占するとは思わんのか」

「思わねぇよ」

 それは思わぬ言葉で。

「悪用するかもしれんぞ」

「あんたが使う時は木の葉のためにだろう」

 そして男は言った。

「オレはあんたのことは嫌いだったが、木の葉を想うものとしてのあんたならある程度の信用はしてる。いくら胸くそ悪くても、木の葉にはあんたのような存在が必要だろうし、イタチにも必要だろう。そしてイタチは火影だ。支えるのはあんただ。じゃあこれがベストだ。なら、仕方ねえじゃねえか」

 そう言って、シスイは頭を下げ、その言葉を放った。

「オレの目はあんたとイタチに預ける。それだけがオレの願いだ」

 

 その2日後、予定通り刑は執行された。

 何人かの見物人が居る中、絞首台までの道を、かつて瞬身のシスイと呼ばれた男は不平不満を零すでもなく、震えるでもなく、ただ粛々とした歩みで、穏やかな顔を浮かべながら静かに歩き続けた。

 ……男は最後まで何も語ることはなかった。

 自分がやった殺しの内容のみだけを公開して、どうして事件を起こしたのかという動機について、最後までただ、「己のエゴ」であったのだと、それ以上は黙して語らず、泣き言も死への怯えも見せず、ただ微笑ってその時までの短い余生を過ごしていた。

 何も思い残すべきことはないと、何も話す事もないと、そう言いながら。

 そうして、この日、彼の望むとおりに其の命は終焉を迎えた。

 絞首台にかけられ、其の命が奪われる其の刹那まで真っ直ぐに背筋を伸ばし、微笑みさえ浮かべたまま、大勢の人間が見ている中で彼は命を落とした。

 享年27歳だった。

 

 

 了

 

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