『うちはシスイ憑依伝』外伝集   作:EKAWARI

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 ばんははろ、EKAWARIです。
 ここからは外伝ショートショート集となってます。
 今回収録の話は、18禁板で連載している歪曲王さんリクエストイラストのIF・ルート・ザ・ストーリー設定で、イタチと生まれてきた子供(イズナ)と主人公の幸せそうな光景より派生外伝「幸福の肖像」となっております。
 尚、IFルートについては18禁板で連載していることもあって、年齢制限的に駄目な方、エロが無理な方などご覧になっていない方も多いと思いますので、表に出して差し支えない部分かつ「幸福の肖像」の話に関係がある部分のみIFルート・ザ・ストーリーより一部抜粋掲載させていただくことにしました。


外伝SS集
外伝SS[幸福の肖像」


 

 

『うちはシスイ憑依伝』IFルート・ザ・ストーリー第二話よりストーリー抜粋。

 

 

 ~~~序略~~~

 

 

「……なぁ、イタチ、起きているか?」

 ふと、自分を胸板に抱き寄せたまま、上から子守歌のような声音でかけられた男の声に、少女は顔をそっと上げ、「……ああ」と短い言葉で答えると同時に、今までの回想を振り払う。

 そんな若妻の豊かな黒髪を指で梳きながら男は、「あのさ……」とどこか不安に揺れる子供のような色を瞳に宿しながら、次のようなことを言った。

「オレさ、今日火影様に呼ばれてただろ。それで……正式にアカデミーの教師になる気はないかって、そう言われたんだ」

 それは初耳だった。けれど、別段驚くようなことでもなかった。なんとなく、三代目はそうして欲しいと前から思ってたように感じていたからというのもあったのだろう。そうでなければ、シスイ程の手練れを臨時とはいえ幻術講師としてアカデミーに派遣なんて使い方はしなかっただろうとも思っていたからだ。

 けれど、男はそんなこと露にも思っていなかったのか、不安に揺れる瞳のまま「いいのかなぁ」とそう呟く。

「問題でもあるのか」

 思わずイタチは問い返した。そんな妻に向かって、シスイは始め小さく息を詰め、それから何かを決意したようにキュッと眉間に皺を1つ寄せると、口調だけは穏やかなままに次のようなことを言った。

「……アカデミーの教師はさ、オレの親友の夢……だったんだ」

 そんな風にポツリポツリと漏らされた男の言葉に、思えばこうしてシスイが自ら過去のことについて断片ではなく口にするのは初めてなのかもしれないとイタチは思う。些細なことでは己の感情を恥ずかし気もなくストレートに出していた男なのに、肝心なことについては何も言わず内にひたすら溜め込む。自分の夫はそういう奴だった。

 けれどそのことで水を差すでもなく、イタチは1つ頷きを返すことで、話を促す。

「アイツはさ、本当に良い奴で、将来はアカデミーの教師になって忍術だけじゃない、色んな事を子供達に教えたいってそう言ってたんだ。外の綺麗なこととかいっぱい色々。そうやって木の葉の教育界に亀裂を入れてやるんだって、そう……言って」

 言いながらにどんどんと語尾は震えていった。同時に、イタチを抱きしめている腕もまた震えている。顔は涙こそ流していないけど、まるで泣いているような切なげで苦しげな表情を描いていた。

「なのに、アイツは死んで、オレが生き残って、オレが教師になるなんて……そんなの、本当にいいのかなぁ?」

「そいつはお前が教師になることを嫌がるような奴だったのか?」

 淡々と感情を排した声で上目遣いに問う。そんな己の妻に対して、夫たる男はフルフルと横に数度頭を振ると、「そんなわけない」そう呟くような声で口にした。

「アイツは、オレに夢がまだないって知ると、一緒に教師にならないかってそう言ってきたんだ。夏の太陽みたいな笑顔の眩しい奴でさ。キラキラした眼で、オレが居てくれたら心強いってそんなことを言ってた」

「なら、何も悩む必要はないだろう」

 イタチはそっとその形の良い右手人差し指をシスイの額に伸ばすと、軽くトンと押してから、その両の手で男の頬を左右から包み込む。

「夢を継ぐとそう思えばいい。それに……私から見ても、オマエに教師は天職だと思う」

 その言葉にシスイは「……そっか」そう小さく呟いて、泣きそうな顔で微笑って、それからギュッと子供が母親に縋り付くような仕草で細身の妻の体を抱きしめると、その黒髪に顔を埋めるようにして眠りに落ちた。

 

 ~~~中略~~~

 

「おめでとう」

 その日の夕方、アカデミーでの授業を終え帰るなり、開口一番、ニコニコとした笑顔で出迎えた義母ミコトの第一声がそれだった。シスイはなんのことかわからず、キョトンと目を丸くしてマジマジと彼女の顔を見返した。

「えーと、ミコトさん、ただいまです。ところで、おめでとうって?」

 本当によくわかっていないその青年の様子を前に、男の妻たる女性によく顔立ちの似た義母は苦笑しながら、「イタチのことよ」そう口にした。

「貴方とイタチの間に赤ちゃんが出来たのよ。だからおめでとう」

 その言葉に、男は目を見開いて絶句した。

「いつ出来るのかとあの人と2人楽しみにしていたのだけど、漸くね。ふふふ、孫の顔楽しみにしているわ」

「……子供?」

「そうよ、妊娠してから約3ヶ月ってところね。あの子ならもっと早く気付くと思ってたんだけど、案外あの子にも鈍いところがあったのね。ああ、イタチなら今日は検診のために火影様にお願いしてお休みにしてもらっているわ。部屋にいるから会いにいってらっしゃいな」

 その言葉を聞くか聞かないかと同時に、男はイタチと自分達夫婦のために与えられた部屋に向かって駆け出した。

「家の中で走るなよ、馬鹿」

 とそんなサスケの声が途中で聞こえたが、かまっていられず、バンと音を立てて部屋の扉を開いた。イタチは布団の上に白い寝着姿で、湯飲みを片手に座してそこにいた。

「シスイ……」

 あまりに慌てている男とは対象的に、彼女は冷静で、その凛とした姿はいつもと変わらないように見えた。それを信じられないような気持ちで見ながら、青年は言う。

「妊娠したって……そう聞いた。本当か?」

「ああ」

 コックリと頷き言うその言葉に、ヘタリと男は腰を落としながら、脱力したように呆然とした声で言う。

「本当に……オレとお前の子が?」

「信じられないか? 今は変わらないように見えるかもしれないが、そのうちイヤでも信じざるを得なくなるさ。それとも……お前は嫌だったのか?」

 最後のほうの言葉は彼女にしては珍しく、少し不安げに見えた。だから、シスイは我に返り、フルフルと左右に首を振って、それから言う。

「嫌じゃない。嫌なわけない。でも本当に、本当なんだな」

「ああ……本当だ」

 その言葉に男は駆け寄って、泣きそうな顔で妻の体を抱きしめた。

 

 それからの日々は緩やかに過ぎた。

 シスイは妊婦となったイタチの体を常に気遣い、「体は大丈夫か」「無理はしていないか」「辛くはないか」「何か食べたいものはあるか」と毎日のように尋ね、イタチはそれに「大丈夫」と答える。そんな過保護にさえ思える男の姿に、周囲の人もクスクスと微笑ましそうにそれを見守り、イタチの弟であるサスケは少し面白くなさそうな顔をしてブスッとすることが増えた。

 そして更に3ヶ月が過ぎた頃、イタチの腹部は大分膨らみを帯びてきた。

「その……暗部の任務は大丈夫なのか。その体だろう。休ませてもらったほうがいいんじゃ」

「大丈夫。流石に妊婦相手に無茶な任務なんて割り当てられない。来月からは1年の育児休暇ももらえることになっているし、シスイは少し心配しすぎだな」

 そういってクスクスと笑うイタチに対して、男はふと陰りを帯びた顔を見せた。

「どうした……?」

 流石に普通とは思えない男の表情を前に、イタチは笑いを止めて夫を真っ直ぐに見上げる。そんな妻に対し、男は「なぁ……」とそっと蚊の鳴くような小さな声で言葉を落としながら、壊れ物を扱うように震える指で少女の体を抱き締めた。

「……オレ、本当にオレなんかが、父親になって、いいのかな……」

 それは漸く吐き出せたような不安と恐怖に満ちたような言葉。嗚呼、そうかとここでイタチは漸く合点した。何故あれほどまでに必要以上に男が妊婦となった己を気遣っていたのか。自分の抱える恐怖を飲み込むためだったのか、と。

「オレが父親で……その子は、幸せになれるんだろうか」

 きっとずっと思い悩んできたのだろう。まるで泣き出しそうな暗闇の中の迷子みたいな声で、男は震えながらに自身の不安を吐き出した。だから……。

「シスイ」

 そう穏やかな声でイタチは敢えて青年の名を呼んだ。そしてその右手を男の後頭部に添えて、その顔を自身の腹部へとそのまま誘った。

「聞こえるか? この音が。今、中で動いた」

「……!」

 そうやって囁くように優しい声で告げられたそれに、男は一瞬泣きそうな顔をするが、そのまま耳を女の腹に当てて「聞こえた……」そう呟いた。

「お前がどう言おうとどう思おうとこの子の父親はお前だけだ。お前と私に会うためにこうしてこの子は精一杯この中で生きている。父母に会いたいと望まない子供はいないだろう。それに、私はお前との子が出来たことが嬉しいし、この子にも早く会いたいと思っている。お前はどうだ? お前はこの子に会いたくはないのか?」

 その言葉にクシャリと顔を歪ませて、男はボロリと涙をこぼしながら苦しそうな声で言った。

「会いたいよ……凄く会いたい。抱き締めて、やりたいよ」

 そんな男の髪をそっと指で撫で梳きながら、「ならそうすれば良い」そうイタチは静かな声で答えた。

「お前はいつも考えすぎだ。抱き締めて愛してやればいい。それだけで子供は……幸せになれるものなのだから。きっとこの子もお前に会える日を待っている」

 それに「うんうん」と頷いて、男はズビズビと鼻を啜った。

 

 それから色んな話をした。子供の性別はどちらだろうという話や、名前はどうするかなど、男は泣きながらも幸せそうに微笑んで、子供は出来ればイタチ似の女の子がいいなとそんな話をした。

 男の子だったら、イズナ。女の子だったら、クシナ。話し合いの末そう決まった。

 勿論名前の由来はイズナは最初に万華鏡写輪眼を開眼したとされる開祖うちはマダラの弟から取った名であり、クシナは4代目火影である波風ミナトの妻だったうずまきクシナから取ったものだ。

 イズナは、平和主義者だったと聞いているし、なんだかイタチの名前とおそろいっぽいからと男は笑って言った。クシナはうずまきクシナのように元気で活発な女性に育ちますようにとのことだ。

 そうして少しずつ色んなことを話しているうちに、男が胸の奥に抱えた澱みは少しだけ晴れていったような気がした。

 

 ~~~中略~~~

 

「オギャアオギャア」

 赤ん坊の声が、あれほどの難産であったとは思えぬほど元気に響く。そして生まれた子の祖母となったミコトは「シスイくん、生まれたわ、元気な男の子よ。早く来て頂戴」そう義息へと声をかけて、またイタチや赤子のいる部屋へと戻り、慌ててシスイはその後を追った。

 中ではイタチは額から滝のような汗をかき、疲労したような目元を晒しながらもそれでも産婆によって手渡された赤子を胸に抱いて、優しげに微笑んでいた。

 そして。

「シスイ」

 そう名を呼んで目線だけで手招きをする。それに惹かれるようにして、未だ現実感のない足のまま男はフワフワと女に近づく。そして、女はそっと夫に向かって生まれたばかりの赤子を掲げた。

 抱けと言ってるのだとわかって、シスイは震える腕でそのしわくちゃで赤らんだ顔の泣き声逞しい赤子を受け取った。その感動をなんと呼べば良かったのだろう。

「あったかいな……」

 最初に浮かんだのはそんな言葉。

「柔らかくて、軽い……」

「そうだな」

 イタチは穏やかな声でそれを肯定する。

 それと時を同じくして「姉さん、子供が生まれたんだって」そんな言葉と共にバタバタと少年が部屋へと乗り込んできた。けれど、そんなことさえ意識の欄外でシスイは震える指をそっと赤子の頬に這わす。

 そんな光景を見て、少年……イタチの弟たるサスケは「わ、オマエなんで泣いているんだよ」とぎょっとした声を上げた。

 少年の指摘の通り、男は……赤子の父となった男うちはシスイは泣いていた。

「生きてる……」

 一生懸命に呼吸をするように泣き声をあげる我が子を前に、震える声で男はそんな言葉を漏らす。

「……生きてる」

 それは、死にばかり触れてきた男が新しい命と出会えた事への感慨だったのか。

 男は赤子を腕に抱えたまま、そっと震える足で妻の元に向かい、その額に額を合わせながら、何度も擦れるような声で「ありがとう」、そう繰り返した。

「ありがとう……イタチ、ありがとう。オレ、オレ……」

「お前はすぐに泣く。全く、まだこれからだろう」

 そんな風にぐずる男を前に、そう言いつつもイタチは仕方なさそうに微笑み、そして回想した。

 

 ―――――かつて雨の降りしきる神社の中で1人傘も差さずに、古い血のついた木の葉の額宛を眺める少年がいた。

 少年は涙も流さずけれど確かに泣いていて、その手にした額宛を見ながらそれは「形見」なのだとそう答えた。

 それが、あまりに寂しげで、苦しげで、だから思ったのだ。

 いつか、男に家族を与えてやれる日が来ればいいと。

 

 きっと青年についた傷が癒える日は来ないだろう。それでも、少しでも和らげることが出来れば、そう出来るのが自分であればいいとそう思っていた。

 その願いは、今この日叶った。

 

 そして次の約束を口にする。

「気が済むまで泣けばいいさ。嬉しいならいくらでも泣けばいい。……辛いなら寄りかかってもいいんだ」

 

「だって私たちは家族なのだから」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 うちはシスイ憑依伝外伝「幸福の肖像」(IFルート・ザ・ストーリー設定より)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 * * *

 

 

 陽気が暖かく、麗らかな風が周囲を満たす春、木の葉隠れの里が誇る忍者学校(アカデミー)の教師の1人であるその癖毛が印象的な黒髪の男、うちはシスイは、少しだけ眠そうに目を細めながら、子供達の相手をしていた。

「先生さよならー」

「おう、気をつけて帰れよ」

 因みに今は春休み中であり、子供達の相手をするのは別段仕事の一環というわけではないのだが、子供がいたら相手をしてしまうのはこの男の性分といえた。

「……しかし、もう2年近く経つのか」

 ふと、ぽつりと男は呟いた。

 シスイがアカデミーの教師に正式になる気はないのかと問われたのは、今から約2年ほど前のことだった。それまでも何度か幻術の臨時講師としてアカデミーに派遣されることはあったが、まさか本当にこうして教師として働くことになるとは当時は思ってなどいなかった。

 あれから上忍としての任務も殆ど回されることはない。だけど、時々本当にこれでいいのかと、シスイは思う。火の国は大国だし、木の葉隠れの里は忍び里の中でも屈指の実力と勢力を誇る里ではあるが、それでも上忍に上り詰めたものを態々遊ばせておく程余裕があるわけでないことくらいは知っている。なのに、こうして自分がこうのほほんと教師なんてやって本当に良いのだろうか、と思ってしまうのだ。

 自分は甘えているだけなのではないか、と。

 イタチは教師は天職だと思うと、死んだという友人の意志を継いだと思えばいいと言ってくれたし、なによりシスイが教師になる話を持ち出してきたのは木の葉の長である三代目火影猿飛ヒルゼンなのだ。それを思えば考えすぎと言われるのかもしれないが、それでもこうして血なまぐさい現場を離れ教師業をやっていることに罪悪感を覚えないと言ったら嘘になる。

 それに……今年は例の年だ。

 つい先日、アカデミーでは最上級生相手に卒業試練が行われたし、卒業していく生徒も見た。その中にナルトの姿はなかったが、原作のイベントを思えば、おそらくは無事に昨日卒業したことだろう。

 一時は原作とは違ってうみのイルカは孤児ではないことから、ナルトと原作のような関係を結べるのかと杞憂したこともあったが、原作よりは多少堅い部分はあっても、其の絆はちゃんと深いものに思えた。だから、きっとナルトはイルカから卒業祝いの木の葉の額宛を受け取ったことだろう。

 ……だから、今年なのだ。大蛇丸の木の葉崩しが仕掛けられるのは。

 しかし原作と違ってうちは警務部隊は今も現役だし、なによりイタチがいるのだから原作より酷いことになるとは思えない状況だが……それより問題は別にあった。

 果たして、自分は本当に戦えるのだろうか? それが男にとって最大の問題だった。

 結婚し、子供も授かって、教師として働いているこの状況はまるでぬるま湯か、夢の中のようで、少しずつ心が溶かされる度に不安もまた胸を抉っていく。いつかこのままでは自分は誰1人殺せなくなるのではないかと、そんな予感がある。今まで散々敵を葬ってきた分際でそんなことを思うなんて最低だ。そう思うのに、どうしてか幸せを感じれば感じるほど指先が震えそうになるのだ。

 でも、出来るなら……あの時抱いた夢を嘘にしたくない。だから、この牙が抜けてしまわないようにただ近頃はそればかりを祈っている。

 ふと、そんな風に己の思考に沈んでいたシスイの前に、見知った第三者の気配が近づいてきて、シスイは即座に表情に笑顔を載せて、それまでの思考を打ち払いながら、自分の名を呼びながら近づいてくる少年のほうへ向かって振り向いた。

「シスイのにいちゃん! やっと、見つけたってばよ!」

 少年はにかにかと明るく笑いながら、嬉しそうに駆け寄ってくる。その体を片手で受け止めて、空いた手でくしゃりと少年の髪の毛をかき混ぜながらシスイは優しく問うた。

「おう、ナルトどうした?」

「えへへ、これこれ、見ろってば。オレも今日から立派な木の葉隠れの忍者だ」

 そうしてグイッっと親指を立てながら、ナルトは自分の額を示した。そこには思った通りイルカから貰ったらしき木の葉の額宛が存在を示している。そんなナルトを微笑ましく思いつつ男は言う。

「そっか、無事卒業出来たんだな、おめでとう。でも本当に大変なのはこれからなんだぜ? がんばれよ」

「おうっ! オレってば将来火影になる男だぜ。これからだってことくらいちゃんとわかってる。がんばるってばよ!」

 そういってガッツポーズを取るナルトを見てシスイも笑った。

「ところで、兄ちゃんこれから暇?」

「んー、まぁ後は家に帰るだけだからなー。暇っちゃ暇なのか?」

 そういって首を傾げる男に対して、ナルトはどこかワクワクしたような顔をして言う。

「じゃあさ、じゃあさ、これからにいちゃんち行ってもいいか?」

「お? 別にいいぞ。イズナもナルトのこと気に入っているみたいだしな、いくらでも来い来い」

 因みにイズナとは昨年生まれたばかりのシスイの息子の名前だ。うちは一族で最初に万華鏡写輪眼を開眼した男として知られるうちはマダラの弟の名からあやかって名付けた。顔立ちと髪質自体は男の妻であるイタチに似ているのだが、表情豊かで人懐っこい性格をしていることから、「性格はお父さん似ね」と言われることの多い子だった。なので正確にはナルトを気に入っているというよりは、誰にでも懐いているといったほうがいいのかもしれない。

「駄目だ!」

 が、そこでそんな和やかな会話に水を差す言葉がかかった。

 現れたのは、シスイの妻である女性に似た顔立ちにツンツン跳ねた後ろ髪が印象的な黒髪の少年、うちはイタチの弟であるうちはサスケだった。サスケはムッスリとした不機嫌そうな顔をしたまま、ズカズカとシスイとナルトの元へと歩み寄る。

「いつまでも帰ってこねえと思ったら、このドベと何話してやがんだ、この唐変木」

「お、サスケちゃん、なんだ迎えにきてくれたのか」

 因みにサスケがいつもシスイにツンケン当たるのも、口が悪いのも日常茶飯事のことなので、特に男は気にしていない。気にしているのは隣にいるナルトのほうだ。

「ちゃんづけで呼ぶんじゃねえ! それに、なんでこのウスラトンカチを家に呼ぼうとしてんだ、アンタは!」

「いいじゃん、客は多いほうが楽しいぞ?」

「良くねえ、オレん家だぞ! それにだ……イズナが1番懐いているのはこんなウスラトンカチじゃねえ! このオレだ!!」

 そういって、サスケはバンと胸に手をあてて宣言した。其の台詞は叔父馬鹿全開である。

「大体、天使みたいに可愛いイズナがこんなウスラトンカチに懐く? は、ありえねェだろ。いいか、イズナはオレのもんだ。姉さん(イタチ)の息子ならオレの息子も同然だ。よってテメエなんか顔を見るのもおこがましい、わかったかドベ」

「んだと、コラ! サスケェ! テメエさっきから黙って聞いてたら人のことドベドベうるせェってばよォ! それに、イズナちゃんはぜぇーたい、テメエなんかよりオレのほうに懐いてるってばよ!」

「……はっ、寝言は寝て言え」

 バチバチと2人の少年の間で火花が散る。それを見て、シスイは1つため息を落とすと、両者の首根っこを掴んで、「はいはい、そこまで。それ以上はやめんさい。それと、心配しなくてもイズナはオマエラどっちのことも好きだと思うぞ?」そういって喧嘩を止めた。しかし、両者は聞いていなかったのか、「ぬぐぐ、テメエ何しやがる!」といってサスケはじたばたもがき、ナルトもナルトで「シスイのにいちゃん、止めるなってばよ」と言って恨めしそうに見上げた。

「全く、オマエラいつも飽きないなぁ……。下ろしてもいいけど、うちでは喧嘩すんなよ。喧嘩したなんて知ったらイズナ、悲しむぞ」

 そういって釘を刺すと、2人は漸く大人しくなった。

 結局の所、2人の喧嘩はイズナにどっちが懐かれているか、張本人であるイズナに決めさすで決着を迎えることになり、2人を連れて家に帰った。だが、残念ながらというべきなのか、イズナは丁度昼寝の時間ですやすや寝ているため、それが本当の決着を迎えることはなかった。

 そしてやがてナルトは家に帰り、サスケは修行へと向かう。そんなタイミングを読んだというのか、食後の句を詠んでいたシスイの元へとイズナを胸に抱いたイタチが現れた。

「お帰り」

「ああ、ただいま」

 そうして仄かにイタチは微笑みを浮かべて、イズナを胸に抱いたまま男の隣へと腰を降ろす。数ヶ月前から暗部として復帰した妻に変わり、今日一日はイタチの母親であるうちはミコトにイズナの面倒を見て貰っていたため、こうして親子3人が揃うのは今日は朝食以来だ。

「今日はナルトくんが来ていたと聞いた」

 ぽつりぽつりとした穏やかな声でイタチは言う。

「ああ。サスケちゃんとどっちがイズナに懐かれているかーって勝負するってな。しかしまああいつら昔から顔を合わせる度喧嘩しているけど、本当よく飽きないよな」

 そういって笑いながら和やかに言う男に対して、妻はそっと目を細めながら、「そうだな」そういって同意して、それからそっと胸に抱いた幼子の頭を撫でた。

「でも、そんな2人が好きなんだろう?」

 その言葉に一瞬だけシスイは言葉に詰まった。それから、小さく抜けるような声で「うん」とそう答える。そんな男に向かって女は言う。

「なぁ、シスイ、お前は幸せか?」

「…………そうだな、幸せだ」

 美しい妻がいて、可愛い子供がいて、それはまるで目眩がするように。これで幸せでなかったらきっと嘘だろう。けれど、思わずシスイは聞かずにはおられなかった。

「なぁ、イタチ……お前は?」

 それに答えず、悪戯げにイタチは微笑った。そしてそのまま掠めるように男の唇を奪ったかと思えば、ムニッと男の頬を引っ張った。

「ちょ、ひたち」

 思わず慌てて男が妻の名を呼ぶ。それに反応して小さな幼子が「うー」とむずがる声を上げる。イタチは笑っている。それになんだかおかしくなって、シスイはぷっと笑うと、「ああ、もうクソなんかオレ馬鹿みたいだ」なんて言って妻ごと我が子を抱き締めた。

「余計なことばかり考えるからだ」

「余計なことって、酷いな」

 どこか楽しげに言うイタチに対して、わざとらしい拗ね声を多少口に含ませて男も言う。

「幸せとお前は答えた。ならそれが全てでいいだろう。それ以外は余計なことだ」

 そういって笑う妻の頬に手を伸ばして、シスイはしかし問うた。

「……お前がそう言うのならそうかもしれないな。でも人にばかり答えさせるのはフェアじゃないだろ。なぁ……お前も幸せなのか?」

 それに女は綺麗に笑ってそして、言った。

 

「嗚呼、幸せだ」

 

 

 了

 

 

 

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