この話は三代目視点なわけですが、三代目としーたんじゃ認識が噛み合う事はありませんが、まあ薄々三代目がしーたんがおかしいってことに気付いた切欠みたいな話です。因みに本編の三代目によるしーたん語りは半分正解で半分不正解なんだぜ。
うちはシスイ憑依伝本編軸より外伝「微笑みの裏側」(本編ナルトの中忍試験イベント前後の時間軸より)
* * *
深夜、暗部すら遠ざけた火影邸に1人の男がいた。
名前は猿飛ヒルゼン。木の葉隠れの里における三代目火影である。
歳は今年で69歳を数え、木の葉でもかなりの高齢に入る。それ故に1度は新鋭に火影の座を譲り引退した身であったが、12年前の九尾襲撃の際に四代目火影であった波風ミナトを亡くし、本人の望みとは別に再び火影の座に返り咲いたという経緯があった。
おかげで近頃はめっきり高齢故に無理が利かなくなってきた。若い頃は
しかし自らの衰えを自覚しているというのなら、一体何故彼は供もつけず、自室に1人いるのか? いくら火影邸の警備が厚いとはいえ、あまりに無防備すぎるのではないか。
そう同じ疑問を持ったというわけではないだろうに、狐の面をした暗部姿の男は、すっと三代目以外誰もいない執務室に足を踏み入れると「あまり無防備なのはどうかと思いますよ」と労るような声で言葉をかけた。
それに対し、ヒルゼンはすっと眼光鋭く男をしっかりと見上げ、「来たか、シスイ」そう声を掛けた。
その言葉を合図に、その男は……否その男の影分身は、変化を解除して微笑った。
影分身と幻術を駆使した定期報告。これは男……うちはシスイが一族を殺し里を抜けて暁に入ってから続けられている習慣の1つだ。といっても、いくらシスイとはいえ、出来ることと出来ないことはあり、いくらうちはシスイが類い希な幻術の使い手といっても、チャクラ量には限度があったし、何より寄越すのは影分身だ。
術者のチャクラを分け与えて作るこの分身は実態を持ち固有の思考能力も持つという意味では、分身の術の中でも最高ランクにあるだろう術ではあるが、それでも分身の術であり本体でないが故に脆いという欠点もあった。
それになにより、腐っても五大国筆頭、木の葉の里のガードは堅く、シスイであっても毎度何事もなく潜り込ませることが出来るというわけでもなかった。故に、定期報告と名がついてもその送る頻度は精々が数ヶ月~1年に1度くらいのものだ。けれど、それでも男がそれを欠かそうとすることはなかった。
「……報告は以上です。もうすぐ中忍試験が行われると聞きましたが、同盟国とはいえ、砂には気をつけてください」
「のぅ、シスイ」
そんな風にいつも通りに報告が済み次第、消えようとするシスイの影分身に向かって声をかけてしまったのは、僅かな罪悪感だったのか。それとも……。
男はまだ何かあったのだろうかと不思議そうな顔をしながら猿飛ヒルゼンの顔を見返す。
そんな青年に向かって苦み走った声で老人は言う。
「おぬしはワシを恨んではおらんのか?」
それはずっと抱えてきた澱みの一部だった。
もう5年は前になるだろうか。うちはシスイがうちは一族を皆殺しにして里を抜けたのは。あれは男から望んだことではあった。クーデターを起こそうとしていたうちは一族をそのままにしておけなかった故に、二重スパイだった、男の婚約者であったうちはイタチに命じうちは一族を事件前に殺させようということは。そしてイタチに変わって男が手を汚すことを望んだのは。
シスイが一族を説得し、クーデターなど起きないように奔走していたことは知っていた。うちは一族を監視していた暗部からの報告でも、シスイこそがうちは一族の抑え役になっていたことは伝えられていたからだ。なのに、本人が望んだ役とはいえ、それをシスイに殺させたのだ。
うちはシスイが一族を愛していることくらい知っていた。たとえ理由があったとしてもそれで納得出来る人間などそう多くはいないし、何よりシスイは情に厚い男だったし、木の葉を愛したいと口にしながら、愛していると言ったことがないことや、憎しみじみた感情も見たことさえあった。
シスイはそもそもが幼いときより火影のような考え方をする子だったイタチとは違うのだ。たとえ命じたのがこちらだとしても恨まれても仕方ないとさえ思っていた。なのにいつもシスイはこうして定期報告に現れる際、寧ろ労りのようなものさえ見せ、笑った。いつものように、昔と変わらず。
どうして笑うのか、何故笑うのか、未だヒルゼンはシスイの全てを見抜けなかった。
そんな葛藤を胸に抱く老人に向かって、シスイは柔らかく笑って澄んだ眼で言う。
「何を言ってるんですか、三代目。寧ろ感謝していますよ。あの時、オレの我が儘を聞いて下さってありがとうございます」
そういって、穏やかにシスイは、正確にはその影分身は頭を下げた。
どうしてそんな柔らかにそんな言葉を言えるのだろう。そんな三代目の困惑を感じ取ったのか、シスイは苦笑しながら言う。
「『オレ』だって本体じゃなくても『オレ』です。うちはシスイが貴方を恨んだことなんてありませんよ」
「何故じゃ……」
ぽつりと呟かれた老人の声に、寧ろシスイは困ったように頭を掻きながら言った。
「何故って、寧ろなんでオレに恨まれていると思っているのかがわかんないんですけど」
「ワシがおぬしに殺させたのじゃぞ!」
そう、わかっていた。自分はあの時木の葉の為に全ての泥をこの青年に被せただけなのだと。シスイがあの時言い出さなくても其の役目はイタチに与えられ、そしてそのまま男はイタチの手にかかり死ぬはずだった。そういう……決定だった。
これは自分の力不足から来たツケだとわかっていた。うちははかつての戦友ゆえに言葉で話したい、そう口では言っても具体的な解決策を用意することは出来ず、遂にはダンゾウの暗躍を許してしまい、それがうちはクーデター論を加速させる燃料としてしまった。
不甲斐ない話、だった。
けれど、そんな言葉で済ませられない。
猿飛ヒルゼンにとって、うちはシスイこそがあの事件の最大の被害者といえたし、その件に関しては自分こそが加害者だとわかっていた。なのに、何故か……。
「三代目」
青年は笑う。
「『アレ』は貴方のせいなんかじゃない」
どうしてそんな赦しのような言葉を男がかけるのかが、
そしてそのまま淡々と、微笑みさえ浮かべながらシスイの影は言う。
「『アレ』が起きたのはオレのせいですよ。オレのミスで『アレ』は起き、そしてオレが自分の意志でやったことです。貴方に責任なんてない。全てオレのせいだ。そうでしょう?」
その言葉は真っ直ぐ過ぎるほど真っ直ぐで、だから本気で言っているのだとわかった。しかし、だからこそ異常だ。
アレが全て青年のせいなどそんなわけがない。何を言っているんだと老人は思いながら、しかし思い出したのはかつて自分の元に懇願に訪れたシスイの台詞だった。
『今回のことの発端はオレです。うちはのクーデター計画は、オレがあいつらを止めれなかったから、オレのミスで口実を与えてしまったから、だから起きようとしているんです。なら、そのケジメはオレが取るべきでしょう。イタチじゃない』
(まさか……)
あれも本気で言っていたのかと、唖然とするような気持ちで三代目は目の前の青年を見上げた。
そして長年の疑問でもあった、うちはシスイという男が抱えるその異常を三代目は漸くその日正しく認識した。
「大丈夫、安心して下さい」
男は微笑って言う。和らげに優しげに。
「この目もこの命も、アイツとアイツが将来治めるだろう里のためだけに全て使い切ります。オチオチと生き延びる無様は晒しませんよ。だから三代目、イタチとサスケのこと、宜しくお願いします」
其れは生き延びるつもりなど端から持っていないと言ったも同然の言葉。
そして最後まで笑ってうちはシスイの影分身は消えていった。それが、まるでいずれ訪れるだろう未来を暗示しているかのようで三代目は思わず片手で顔を覆って、深々と椅子に体を預ける。
(シスイ、おぬしは……疾うに狂っておったのか)
―――――里人皆を我が子のように思っていた。
それは嘘じゃない。たとえそれが途中で朽ちる命だろうと托せるものがある限り無駄にはならないという想いもあった。だが、あんなのは……。
あの微笑みの裏側に、どうして気づけなかったのか。奴が罪人と断じていたのは己1人であったのだ。他者を憎む代わりにあれは己を憎んだ。だから笑うのだ。しかし気づいたとて、今更だ、もう遅い。
賽は投げられたのだから。
ただ、それでも三代目は、里人皆の幸せを、青年の幸せも願って眠りについた。
了