今回の話は金髪少年視点から見たしーたんの話です。
正直な話をすれば、俺は最初はうちはシスイのことを気にくわねぇと思っていた。
ぶっちゃけ俺達のパーティで先生の次に強いのがあいつで、悔しいけど、実力を考えたら初任務からして一番手柄をもっていくのがあいつになったのはある意味当然と言えば当然の結果で。
でも敵を倒して、それを喜ぶでもなく、なんでもないように(まるで大人みたいに)受け流して、赤い目で遠くを見るように佇むあいつに、うちは一族だか知らねえけど、俺より年下のクセに達観した顔してんじゃねえよって、そう思ったんだ。
(最も、そう思っている相手に何度も助けられているわけだから、そんな台詞言う資格なんてないわけだけどさ)
だから、実際に言った事はない。
けど、9歳で戦場に立ったあいつに、見ていて酷く腹が立ったんだ。
何を言って欲しいのか、どうして腹が立ったのか、その時はわかっていなかったけど。
だけど、やがて気付いた。
俺がなんでそんな風にこいつに腹が立ったのか。
シスイはよく笑う奴だった。
邪気のない笑みは子供らしいようでいて、けれど、どこか落ち着いた物腰の笑い方は子供に似付かわしくない、そんなアンバランスな笑みで、よく笑った。
(お前は気付いているのか)
俺は時々、こいつが大人なのか子供なのか、よくわからなくなる。
けれど、そこがどことなく放っておけなかった。
何故かと聞かれたら……昔、死んだ弟の1人にどこかこいつが似ていたからかもしれない。
「なーにしてんだよ、シスイ。ションベンか?」
だからわざとらしいくらいに明るい態度を取って、背を向けているこいつに話しかける。
冗談のように、からかうように。
それに答えるように、ふと一瞬だけ陰りを帯びたような顔を浮かべていたシスイは、柔らかく笑って、少年らしい声で言った。
「なんでそーなるんだよ。バカだなぁ」
そうして唐突に気付いたんだ。
俺が本当にこいつに腹が立った理由に。
あの子供らしくない影を帯びた顔と、今の微笑みに、本当は俺はこいつ自身に腹が立っていたわけじゃないんだって。
俺が本当に腹が立ったのは、こいつみたいに、才能のある奴は9歳でも戦場に駆り出されなきゃいけないという木の葉のふがいなさに対してだったんだ。
俺だってこの前12歳になったばかりだし、人の事を言えないかもしれない。
だけど、こいつみたいに、才能があるという理由だけでさっさとアカデミーを卒業させられて、戦場に投入されなきゃいけないなんてのは、やっぱりおかしいだろ。
子供が子供らしくあることを許されないそんな里の現状に腹が立って、腹が立って、そして、年下のこいつに頼らなきゃいけない自分のふがいなさにも腹が立ったんだ。
そりゃ仕方ないのかも知れない。
だって、俺は天才じゃない。
確実に俺はシスイのやつより弱いんだ。けど、それってすごく悔しい。
こいつのこと、俺は弟みたいに思っているのに、弟分すら守ってやる力が俺にはないんだ。
けど、自分には何も出来ないなんて、言い訳はもっと嫌だった。
だから。
「お前らさ、夢あるか?」
俺はきっとあの日々の中でそれを決めたんだ。
俺は子供が戦うような木の葉の今のシステムが嫌なんだ。
それが俺の心の奥底に残っていた本音。
シスイのやつみたいに、あんな子供だか大人だかわかんねえ顔で笑うようなガキなんてもう生まれるべきじゃない。
今は戦時中の状況下だから仕方なくても、それでも今が無理だからって未来まで無理なんてそんなルールはないはずだから、だから俺はその未来を夢見ていた。
「オレの夢はさ、将来アカデミーの教師になることなんだ」
それが俺の夢の形だった。
「きっともうすぐ戦争は終わる。そうしたら平和になった木の葉で、俺は忍術だけじゃない色んなことを子供達に教えたいんだ。外には下忍になるまで出れなくても、それでも外の綺麗なこととか、そういうのも教えてやりたい」
そうしたら、もう
そう思って俺は笑う。
夢を見ていたんだ。みんな笑って進んでいける、そんな未来を。
今は無理でも、俺の夢が叶えば未来の子供達は、そんな未来を歩めるんじゃないかって。
もう、無理に笑いながら無理矢理大人になるガキは減らせるんじゃないかって。
そうあれればいいと、俺がそう出来ればと、お前がそれを手伝ってくれたらそうしたらいいとそう思ってたんだ。
願っていたんだ。
(なぁ、シスイ知っているか?)
無理に作った笑顔って案外見ているほうの心も抉るもんなんだぜ?
本当はさ、こんな風に馬鹿言って、過ごす日々の中で、それを癒せてやれてたらいいなと思ってたんだ。
だって、俺のほうが年上だ。
俺はお前より弱かったけど、それでも弟分の心くらい守ってやれねえとかっこ悪いじゃんか。
天国の弟や父ちゃんに胸を張って会えないじゃんか。
もう、それも出来ないけど。
結局、俺の夢は形になることすらなく、お前には一番辛い役割を押しつける事になっちまったけれど。
「……悪いな、嫌な役目おしつけちまって……」
気が遠くなりそうな意識の中、俺は謝罪の気持ちを込めて言葉を零した。
意識が飛びそうな中、少しでも気を緩めたら目を閉じそうになる。
もう碌に前さえ見れてない。
それでも、この弟のようにすら思っていた小さな親友がどんな顔をしているのか、それだけは手に取るように分かった。
(俺は残酷だ)
トドメをさせと、こいつに指示した。
それは、里に対し義憤はあっても、それでも木の葉を愛する人間としての最後の矜持から来た言葉でもあった。
……それを聞いた方がどう思うかなどわかっていながら、それでも俺はそれを言ったんだ。
こいつがどれだけそれに傷つくかなんてわかっていながら。
「シスイ、楽しかったぜ」
せめて、どうか罪悪感が少しでも薄れるように、そう最期に言って、それを境に俺の意識は途絶えた。
それが俺の
慟哭が森を木霊する。
泣き叫ぶ子供に救いの手は無い。
舞台を退場した観客たる
(こんな顔は見たくなかったのに)
(ごめんな、シスイ)
もう、声は届かず、手も届かない。
救いたいのに、救いはもう来ない。
幽霊に言葉は無い。
けれど、俺は俺という人間の影響力をきっと軽視していたんだ。
お前がどんな性格をしているのかわかっていたはずなのに。
後悔してももう遅い。
―――――俺は、この日、俺の死をお前に押しつけた。
お前の事を、弟のように思っていた、それだけは確かだったのに。
了