TS転生ウマ娘、才能が空っぽだったので歴代競走馬の魂を借りて伝説を作る 作:雅媛
ウマ娘。
彼女たちは走るために生まれてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。
それが彼女たちの運命。
この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指して――。
……という、前世のアニメで聞き飽きるほど聞いた有名なナレーション。
リビングの床に胡坐をかき、幼児から見れば見上げるほど巨大なテレビ画面でそれを聞くのが、最近のボクの日課だ。こちらの世界でもこのフレーズは変わらないらしい。
画面の向こうでは、名馬の魂を受け継いだお姉さんたちが、鮮やかな勝負服を身にまとい、ターフの上で汗と涙を流している。
彼女たちの瞳には、受け継いだ魂の記憶と、自身の夢が確かな光として宿っている。それは間違いなく、心を震わせる感動的な光景だ。
そう、テレビの中では。
だが、ひるがえって現実のボクはどうだ。
「――って、一般的にはそんな感じらしいんですけどね。ボクは別世界の名前とか魂とか全然引き継げてないんですけど。おいコラ聞いてんのか三女神様。今すぐクーリングオフを要求しますよ」
逢魔が時。
夕暮れ時の薄暗い神社の裏手。
ボクの、幼児にしては低く落ち着こうと努力した声が、カラスの鳴き声と共に木霊した。
今はまだ4歳。幼稚園にも通っていない幼児が一人、大人たちの目を盗んで神社の奥へ入り込み、巨大な三女神像に向かって腕組みをして文句を垂れている。
端から見れば、迷子になった子供が独り言を言っているようにしか見えないだろう。
だが、今のボクの心にあるのは寂しさなどではない。理不尽な現状に対する、社会人としての正当な抗議だ。
《……いやなんか、手違いで間違っちゃって》
なかばヤケクソで放った言葉だったが、あろうことか返答があった。
脳内の神経に直接、ノイズと共に響く声。だがその声色には、神聖さの欠片も、慈悲深き威厳もない。
まるでバイトのシフトを入れ間違えた店長が、バックヤードで言い訳をしているかのような軽いトーンだった。
ふざけた感じだが、どうやらこちらの世界には「ウマ娘の守り神」たる三女神は実在しているらしい。
だが、そのあまりに軽薄な内容に、ボクの怒りのボルテージは静かに、しかし確実に沸点を超えた。
「間違っちゃって、じゃないでしょう。人一人の人生なんだと思ってるんですか。発注ミスで在庫過多になったボールペンじゃないんですよ?」
いまだ無名の、ちんちくりんなウマ娘(幼児)であるボクは、祭壇の前で溜息交じりに抗議した。
本来のウマ娘の脚力があれば、怒りに任せた踏みつけで石畳の一つも粉砕できそうなものだが、悲しいかな、ボクの足音は「ペチペチ」と幼児用の靴が鳴らす、ひよこのように情けない音を立てるだけだ。
本来、ウマ娘というのは異世界の名前と能力、そして運命を受け継ぐ存在だと言われている。
誰かの生まれ変わりである彼女たちは、生まれながらにして常人離れした脚力と、風よりも速く走ることへの渇望、そして何より魂に刻まれた「名前」を持っている。
だが、ボクはそういったものを何一つ受け継いでいなかった。
いや、正確ではない。「異世界から受け継いだもの」自体はあるのだ。
ただそれが、歴史に名を残す名馬の魂ではなく――異世界の「一般男性」の記憶と自我だったというだけで。
そのせいで、前世でしがないサラリーマンをやっていたような妙に所帯じみた記憶や、ワンカップ片手に競馬中継を見ていた知識、ウマ娘 プリティーダービーというこの世界と似た世界のゲームの知識は受け継いでいる。
だがその一方で、肝心のウマ娘としての資質や名前は何も受け継げていなかった。
結果、物心ついた今でもボクはネームレス。戸籍上の名前は「仮称」のまま。
ウマ娘社会において、名前がないというのは致命的だ。
3歳児健診の時、周りのウマ娘の子たちが元気に走り回り、すでに名前を持っている中で、ボクだけが「まだお名前が決まってないちゃん」と呼ばれた屈辱。
それはアイデンティティの欠落であり、ウマ娘としての存在証明の不在を意味する。
周囲が「走りたい」という本能に突き動かされている中、ボクだけが「今日の夕飯」とか「景気」のことを考えてしまう疎外感。「名無しの権兵衛」のまま幼児期を過ごすボクの苦悩など、このスットコ女神にはわかるまい。
《クーリングオフって言われてもねぇ。返品対応したら、魂抜けて君死ぬけど……まあ、それでもいいか》
「よくないですよ。人命を、もう少し尊重してください」
ボクは神像の台座をペチンと叩いた。紅葉(もみじ)のような小さな手が間抜けな音を立てる。
痛い。すぐに涙目になってしまう自分の肉体が恨めしい。幼児の身体は感情と涙腺が直結しすぎている。
《あれもダメ、これもダメ、わがままな子だねぇ》
「当然の権利を主張しているだけです。死にたくない、健康になりたい、名前が欲しい。これマズローの欲求5段階説の最底辺、生理的欲求と安全欲求ですよ? 高望みしてないでしょう」
《……ちっちゃい子がマズローとか言うんじゃないの》
交渉は難航しそうだ。
なんせ相手は神だ。人の心がなさすぎる。いや神だから人の心がないのは当たり前なのかもしれないが、子供相手(中身は大人だが)に容赦がなさすぎる。
前世でプレイしたゲームに出てきた「三女神AI」は、もっとこう、導き手としての威厳や、プレイヤーを支える優しさがあったはずだ。あれは所詮、人間が理想を詰め込んだ機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)でしかなく、本物はこんなにもいい加減な存在だというのか。
現実(リアル)とはいつだって世知辛い。転生して幼女になっても世知辛いとかどういうことだ。
《……なんか今、内心ですごく馬鹿にされた気がするんだけど》
「内心ですがしてますよ。敬う要素が今のところゼロですからね。さっきお母さんの財布からこっそり貰って賽銭箱に入れた五円玉、返してほしいくらいです」
《むぅ、減らず口な子だこと。じゃあどうしてほしいのよ。具体的かつ建設的な案を出してごらんなさい》
女神のふてぶてしい態度に、未発達なこめかみの血管がブチ切れそうになるのを抑え、ボクは深呼吸をした。スーッ、ハーッ。
幼児の肺活量は少ない。すぐに息が切れる。
ここで癇癪(かんしゃく)を起こして泣きわめいては交渉決裂だ。前世で培った社畜根性を総動員して、この未熟な脳みそと舌をフル回転させて要求を突きつける。
「まず、名前が欲しい。これは絶対条件です。そして、体も最低限丈夫にしてほしい。現状、虚弱すぎて両親が非常に気に病んでいるんです」
そう、名前がないこと以外にも、ボクには深刻な問題があった。
体が、身体能力が、ウマ娘にしては絶望的に弱いのだ。
ウマ娘として生まれたはずなのに、少し走ればすぐに転ぶ。階段なんて手すりがないと怖くて降りられない。
同年代のウマ娘たちが、すでに時速数十キロと大人顔負けの速度で公園の砂場をドリフトしているのを横目に、ボクはいつもママの足にしがみついて見学し続けてきた。
《そりゃあ君、ウマとしての能力(スペック)を持ってないからね。お前さんはガワだけウマ娘で、中身は人間(ヒト)と同等の身体能力しかないからな》
「あー、やっぱり……。薄々そうじゃないかと思ってましたよ。外見の形だけしかウマ娘でないわけですか」
納得と同時に、鉛を飲み込んだような深い絶望がこみ上げてくる。
ボクの両親は、本当にいい人たちだ。
人間(ヒト)の父親と、ウマ娘の母親。二人は、いつまで経っても走るどころかまともに歩けず、名前すら「降りてこない」娘を、一度たりとも責めなかった。
それどころか、逆に「私たちの育て方が悪いのかしら」「発達に障害があるんじゃないか」「もっといい靴を買ってあげれば」と自分たちを責め続けてきた。
1歳半健診、3歳児健診。そのたびに「様子を見ましょう」と言われ、不安そうに顔を見合わせる両親。
夜遅く、寝室から聞こえてくる「あの子の足、私が弱く産んじゃったから……」という母の泣き声。それを慰める父の声。
狸寝入りをしながらそれを聞くのが、ボクは何より辛かった。
何より辛かったのは、ボクがただの「ハズレくじ」だったせいで、あの優しい人たちを苦しめているという事実だ。
それが申し訳なくて、情けなくて、自分の存在そのものが呪いのように思えてならなかった。
だからこそ、ボクは一縷の望みをかけて、今日、両親がお参りをしている隙にこの神社の裏手の本殿へ突撃したのだ。医学でもどうにもならないなら、もう神頼みしかなかったから。
《まあ、ぶっちゃけるとさ。面白半分で拾った魂を、たまたま空いてたウマ娘の赤ん坊の器に詰めてみたんだが、やっぱり早々上手くはいかないみたいだねぇ》
女神が、のほほんとそう言った。
お茶でも飲みながら話しているような、あまりに軽い口調。
「…………はい?」
時が止まった気がした。
風の音も、遠くのカラスの声も消えた。
今、なんて言った?
「面白半分……?」
《うん》
「拾った魂……?」
《そう》
「詰めてみた……?」
《だね》
ボクの小さな体から、スゥッと血の気が引いていくのがわかった。
冷え切った内臓の奥底から、次の瞬間、灼熱のマグマのような怒りが沸騰する。
「今、面白半分って言いましたよね!? これ、間違いじゃなくて確信犯ってことですよね!?」
《おっと、口が滑った》
「滑ったで済むかァァァ!! ボクの人生も! 父さんと母さんの苦労も! あんたの暇つぶしだったってことか!! ふざけるなぁぁ!!」
理性が吹き飛んだ。
ボクは思い切り短い足を振り上げ、神像の足元を蹴り飛ばした。
――ポスッ。
なんとも言えない音がして、ボクの足の親指が激痛に見舞われる。骨身に染みる鈍痛に、生理現象としての涙がボロボロとこぼれる。それでも、ボクは涙でぐしゃぐしゃの顔で石像を睨みつけるのをやめなかった。
冗談じゃない。こっちは生まれてから4年間、ずっと両親の悲しそうな顔を見てきたんだ。 転んで泣くたびに「ごめんね」と謝る母さん。高い医療費を払って、効きもしないサプリメントを買ってくる父さん。 それが、神様の気まぐれな実験だったなんて、そんな理不尽が許されてたまるか。
《まあまあ、泣くな泣くな。落ち着きなさいって。仕方ないじゃない、過ぎたことだし》
「開き直りやがった……!」
《このままじゃ君はただの虚弱な無名ウマ娘として一生を終える。何も面白くならなそうだし……私たちも責任を感じていないわけでもない。少しサービスしてやるか》
「面白さでボクの人生決めないでくださいよ! ……で、サービスってなんです。まさか『来世に期待』とか言いませんよね」
疑心暗鬼の目を三女神像に向ける。もしそんなふざけたことを言ったら、この神社に放火してでも抗議してやると物騒な計画を立てていると、脳内の声が少しだけ真面目なトーンに変わった。
世界の色が変わる。
夕暮れの薄暗い神社の空気が、黄金色の粒子を帯び、神聖な静寂に包まれたように感じられた。
その光は、ボクの小さな体を優しく包み込む。
《名前がないのは不便だろう。ということで、お前さんの名前は――『ロールフィヨルテ』。よそ様の言葉で黄金の誇り、という意味だ》
「ロール……フィヨルテ?」
聞いたことのない響きだ。
だが、その名前を耳にした瞬間、胸の奥でカチリと何かが嵌まる音がした。
今まで空っぽだった器に、初めて「芯」が通ったような感覚。ボクというちっぽけな存在の輪郭が、初めて確定したような重み。
「なんか…… 微妙にカッコいいのがムカつきますね」
《モチとかポチとかよりいいだろう。感謝しなさい》
「モチって……」
いやでも前世知識をもとに考えればポチは記憶になかったが、「モチ」は確か競走馬の珍名(面白ネーム)として実在していたはずだ。「モチが粘る!」「モチ伸びる!」という実況は有名だった。
よく考えたらこっちの世界にその名前のウマ娘がいる可能性があるのかと思うと、少し哀れに思えた。それに比べれば、ロールフィヨルテ……黄金の誇り。
口の中で名前を反芻する。
悪くない。いや、自分にはもったいないほど立派な響きだ。
《それと、ついでにウマ娘としての能力を『借りられる』ようにしてやろう》
「……? 借りる?」
耳慣れない言葉に、ボクは眉をひそめた。
ウマ娘の能力とは、生まれ持った血統と魂に刻まれたものであり、図書館の本のように貸し借りできるようなものではないはずだ。
《お前さんの中身は、さっきも言った通り人間だ。ウマ娘としての歴史も、魂の記憶も持たない。言わば『空っぽの器』だ》
「空っぽ……」
《だが、空っぽだからこそ、何でも入る》
女神の声に、ニヤリとした笑いの気配が混じる。悪戯っ子が、とっておきの玩具を見せびらかすような気配だ。
《そこに、古今東西のあらゆるウマ娘の能力(スキル)と運命(レコード)を、一時的にダウンロードできるようにしてやる。歴史に名を残す名馬の末脚も、鬼気迫る逃げも、お前なら再現できる。まあ、同世代とか近い世代だと、本人が『使用中』だから回線が混み合って借りられないなんてこともあるだろうがな》
ボクは呆然とした。
それは、常識外れなんてレベルではない。ウマ娘という種の根幹を揺るがすようなチート能力ではないか。
特定のモデルを持たないボクだからこそ、すべてのモデルになれるということか。
それはまさに、虚無であるがゆえの万能。
《名付けて『非存在の血統(Blood of null)』》
脳裏に、システムウィンドウのような文字が浮かび上がる錯覚を覚えた。
Null。ヌル。何物でもない、ゼロの概念。
幼児のボクにはあまりに不釣り合いな、強大な力の気配。
「……さっきから、ネーミングがいちいち中二病くさくて微妙にカッコいいのが、やっぱりムカつきます」
《素直じゃないねぇ。ま、そういうことで楽しみにしてるよ。存在しないはずの君が、どんな歴史(レース)を刻むのかをね》
「ちょ、ちょっと待って! 使い方の説明とか、マニュアルとか――」
ボクが呼び止める間もなく、神社の境内に吹いていた風がピタリと止んだ。
黄金の粒子も消え、いつもの薄暗い夕闇に戻る。
気配が消えたのだ。
「……行っちゃった」
残されたのは、ボクだけ。
何かが変わった感じはしない。ぷにぷにした自分の手足を見ても、筋肉がついた様子もない。
手を握り、開く。何も差がない。
少しその場で跳ねてみる。体が重い。ペチッ。何も差がない。
「力を借りる、ねぇ」
本当に使えるのだろうか。あのいい加減な女神のことだ、「実装は来週のメンテ明けです」とか言い出しかねない。
だが、もし本当に自由に使えるなら……それこそ競走馬として最優秀レベルの馬を下ろしてみたいところだ。
脳裏に浮かぶのは、前世の記憶にある最強の馬たち。
その中でも、とびきりの一頭。
例えば……そう、史上唯一、九つの冠を戴く女帝。
伝説の九冠馬、アーモンドアイとか……。
「おっ?」
そんなことを考えた瞬間だった。
ドクンッ!!
小さな胸の中で、心臓が爆発したかと思うほどの衝撃が走った。
いや、それはボクの心臓ではない。もっと巨大で、もっと力強い、上位の生き物の心臓がそのまま降りてきたかのような鼓動が、ボクの未熟な脈拍に重なったのだ。
視界が明滅する。
きらめく星のオーラが瞳に宿り、ボクの小さな体から噴き出したかのような感覚が降りてくる。
体に力がみなぎるなんてレベルではない。血管の一つ一つに、溶岩のようなエネルギーが流し込まれていく感覚。
いつもはすぐに疲れてしまう重い手足が、羽のように……いや、風そのものになったかのように軽い。
ためしにその場で、軽く。本当に軽く、足首のスナップだけで跳ねてみた。
――ヒュンッ。
景色が、一瞬で下へ流れた。
風切り音すら置き去りにする速度。
数メートル……いや、十メートル近く? 気づけば、見上げるほど巨大だった神社の屋根が眼下にあった。
4歳の視点からは山のように見えていたそれが、今はただの通過点。
「うわぁっ!?」
あまりの高さに、幼児の本能が恐怖する。
滞空時間が長い。月が近い。
慌てて着地しようとするが、勢いを殺しきれない。
ズドンッ!!
着地と同時に、石畳に蜘蛛の巣状のヒビが入る。
砂煙が舞う中、ボクは自分の手を見た。ぷっくりとしたクリームパンのような手だ。
けれど、体中をみなぎる爆発的な力が、これが夢ではないことを告げている。
これが、歴史を作った馬の力。これが、本物のウマ娘の世界。
「……さてと」
ボクは拳を握りしめた。自然と笑みがこぼれる。
まずは表に回って、両親に報告だ。「名前が決まったよ」と。
そして、「もう心配しなくていいよ、ボクは走れるよ」と。
きっと二人は腰を抜かして、それから泣いて喜んでくれるだろう。父さんは言葉を失い、母さんはボクを強く抱きしめてくれるはずだ。
その顔を想像するだけで、胸が熱くなる。目頭が熱くなる。
神様(あのヤロー)の「面白半分」という言葉は腹が立つが、この能力と名前をくれたことは、今回だけは感謝してやってもいい。
ボクはもう、「かわいそうな子」じゃない。
せいぜい、最高に面白い「黄金の物語」を見せてやろうじゃないか。
「ロールフィヨルテ……行きます!」
ボクは参道の入り口を見据え、一歩を踏み出した。
小さな足で、地面を蹴る。
その一歩が、かつてない推進力を生む。
風を切るのではない。風を置き去りにするのだ。
小さな疾風となって、夕暮れの参道を駆け抜けていく。
まだ誰も知らない、ボク――ロールフィヨルテの伝説がここから始まる。
「あ! いた!!?」
「えっ、あの子……走って……!?」
遠くで両親の声が聞こえた気がした。
だが、その直後だった。
ミシミシミシミシっ
――バタリ。
体が、筋肉が、骨がきしむ音。
それと同時に糸が切れたように、ボクの意識が暗転した。
そして全身の筋肉が断裂するかと思うほどの、地獄のような激痛が小さな体を襲ったのだ。
伝説の馬の出力に、4歳の幼児の体が耐えられるわけがなかったのだ。
感動の再会どころか、急に倒れ伏したボク。
そして白目をむいて崩れ落ちる我が子を見て、パニックになり救急車を呼ぶ両親の絶叫。
どうやらあのすごい能力も、ノーリスクで使えるわけではないらしい。
器が空っぽでも、器そのものの強度は鍛えなきゃいけないってことか……。
(三女神ィィィ! 説明書寄越せって言っただろー!! あとチャイルドロックかけとけー!!)
薄れゆく意識の中で、ボクの心の中の絶叫は、平和な夜の街に虚しく響き渡るのだった。