TS転生ウマ娘、才能が空っぽだったので歴代競走馬の魂を借りて伝説を作る   作:雅媛

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19 勝負服のデザイン

 木枯らしが吹き始め、街行く人々がコートの襟を立てる11月。

 しかし、レース界隈の熱気だけは、真夏のように沸騰していた。

 

 話題の中心にいるのは、一人のウマ娘。

 ロールフィヨルテ。

 8月の鮮烈なメイクデビューに続き、先日行われた前哨戦、GⅡ・京王杯ジュニアステークス。

 そこで彼女が見せた走りは、観る者すべての度肝を抜いた。

 

 前回と同じくお願いしたのはロードカナロア。

 マイルよりも短い1400mという距離で、トップスピードで走り続ける。

 

 結果は圧勝。

 無傷の連勝で、彼女はいよいよ世代の頂点を決める年末の大一番へと駒を進めることになった。

 

 朝日杯ジュニアステークス。

 選ばれし強豪のみが立てる、夢のGⅠの舞台だ。

 

 

 

 学園のカフェテリアにて。

 周囲の生徒たちが楽しげにランチを囲む中、ボクのテーブルだけ時が止まったような静寂に包まれていた。

 目の前に広げられたスケッチブック。そこに描かれたイラストを見て、ボクは言葉を失い、絶句していた。

 

「……えっと、ドーベル。これは?」

「何って、アンタの勝負服のデザイン画に決まってるでしょ」

 

 メジロドーベルが、さも当然という顔で腕組みをしている。その表情には、クリエイター特有の自信と、ほんの少しの緊張が見え隠れしていた。隣ではメジロブライトが、「あらあら~」とニコニコ紅茶を飲んでいる。

 

 GⅠレース。それはウマ娘にとって特別な舞台であり、そこではじめて専用の「勝負服」を纏うことが許される。

 これまでは体操着で走ってきたボクも、ついに自分だけの鎧を手に入れる時が来たのだ。

 だが、服のデザインセンスなど皆無のボクは、幼馴染であり、同人活動もしているドーベルにデザインをお願いしたのだ。

 彼女なら、ボクに似合うカッコいい服を作ってくれると信じて。

 

 だが……提示されたそのデザイン画は、ボクの想像の斜め上を音速で突き抜けていた。

 

「いや、コンセプトは分かるよ? 『黄金の守護者』ってテーマで、騎士風にしてくれたんでしょ? 黒と金の配色はすごくカッコいいと思うし、絵もプロみたいに上手いんだけどさ……」

 

 ボクは引きつる頬を抑えながら、震える指先でデザイン画の細部を指差した。

 

「この、ベースになってる黒い部分……これ、レオタードだよね? しかも、かなりハイレグじゃない?」

 

 そこに描かれていたのは、濡れたような光沢のある黒い生地が、体にピタリと吸い付く大胆な衣装だった。

 首元まで覆うハイネックのインナーをベースに、肩には金の甲冑風アーマー、腰には儀礼用のマントのような白い布があしらわれている。頭には小さなティアラのような飾りもあり、確かに「騎士」の高貴さはある。

 しかし、いかんせん露出面積がバグっている。

 

 特に下半身だ。

 際どいラインまで切れ込んだハイレグ仕様。太ももはおろか、足の付け根、骨盤のラインまで露わになっている。

 腰回りに申し訳程度の布があるだけで、実質、下半身はほぼ丸出しに近い。

 さらに背中は肩甲骨から尻尾の付け根である腰までがっつり開いているし、肩も丸見え。

 そして何より、布がある部分も極薄のピッチリした素材で描かれており、体のライン、筋肉の隆起、へその窪みまで浮き上がっている。

 端的に言えば、破廉恥だ。えっちすぎる。

 これを着て走る姿を想像するだけで、顔から火が出そうになる。

 

「……な、何よ。文句あるわけ?」

 

 ドーベルが少し顔を赤らめながらも、ムキになって反論してくる。

 

「機能性を突き詰めた結果よ! アンタの脚の可動域を最大化するためには、股関節周りの余計な布地は極力減らすべきだわ。それに、この特殊素材は伸縮性と空気抵抗に優れていて、汗もすぐ乾くし……」

「理屈は分かるけどさぁ! これ、ほとんど競泳水着……いや、それ以上に際どくない!? これを着て全国中継のGⅠを走るの!? お茶の間の空気が凍りつかない!?」

 

 ボクが頭を抱えていると、ブライトがおっとりと、しかし確信犯的な口調で援護射撃を行った。

 

「とっても素敵ですわよ~? ロールちゃんの鍛え上げたお体の美しさが際立ちますし、何より強そうですわ~。それに、ドーベルちゃんが徹夜して、何度も何度も描き直して、一生懸命考えてくれましたのよ~?」

「うっ……」

 

 ブライトの言葉が痛いところを突いてくる。

 確かに、ドーベルの目の下にはコンシーラーで隠しきれないクマがある。ボクのために寝る間も惜しんで、ボクの体のことだけを考えてくれたのだ。それを無下にするのは、人として、幼馴染として心苦しい。

 

 ボクは縋るような思いで、いつも力を貸してくれる脳内の魂たちに意見を仰いだ。

 

(……みんな、どう思う? これ、さすがに露出多すぎない? 止めてよ、誰か!)

 

 「こんなえっちなのダメ! 騎士道に反する!」とか「アタシの器に変なもん着せんな!」という反応を期待していた。

 だが、返ってきたのは予想外の肯定的意見ばかりだった。

 

『ふむ。悪くないではないか』

 

 真っ先に口を開いたのは、堅物の騎士・ローエングリンだった。

 

『確かに肌の露出は多いが、関節部の可動域は完璧に確保されている。装飾も華美すぎず、実戦的だ。……古の女騎士たちも、これくらい機能的な鎧を纏う者はいたぞ』

(えっ、そうなの!? この世界の騎士、基準がおかしくない!? 防御力捨ててない!?)

 

『ギャハハ! いいじゃねえかマスター! 潔くてよぉ!』

 

 ゴールドシップは手を叩いて爆笑している。

 

『中途半端に隠すより、これくらい突き抜けてた方が清々しいぜ! それに、これなら泥んこになっても洗いやすそうだしな! 川に飛び込んでも重くならねーぞ!』

(そういう問題じゃないって! ボクは人間としての尊厳の話をしてるの!)

 

 体の洗いやすさとか、水陸両用とかはどうでもいい。羞恥心の問題なのだ。

 

『あら、自信を持ちなさいな』

『そうよ。アンタの体、アタシたちが見ても悪くないわよ?』

 

 あろうことか、アーモンドアイとグランアレグリア、二人の女王までもが肯定側についた。

 

『鍛え上げた肉体を見せつけるのも、王者の威圧(プレゼンス)の一つよ。圧倒的な美と強さは、見る者を畏怖させるわ。恥ずかしがらず、堂々と着こなしなさい』

『そうよ! 空気抵抗ゼロ! 最高じゃない! ヒラヒラしたスカートなんて邪魔なだけ! これでタイムがコンマ1秒でも縮むなら安いもんでしょ!』

 

 ……嘘だろ。まさかの満場一致で「アリ」判定。

 どうやら、走ることに特化した彼女らにとっては、羞恥心よりも機能性、そして「強者のオーラ」の方が重要らしい。一般人の感覚を持っているのはボクだけなのか。

 

「……はぁ」

 

 ボクは深く、深く、地球の核に届くほどのため息をついた。

 外堀も内堀も埋まってしまった。

 

「……分かったよ。ドーベルがせっかく考えてくれたんだし、みんなも良いって言ってるし……。これでいこう」

「ほ、本当!? ……ふん、当然ね。私のデザインに間違いはないもの」

 

 ドーベルはツンと澄ましているが、その表情は明らかに安堵し、パッと花が咲いたように嬉しそうに緩んでいる。

 まあ、彼女がこんなに喜んでくれるなら、多少の恥ずかしさは我慢するか。ボクは覚悟を決めた。

 

 

 

 そしてGⅠウィークを目前に控え、完成した勝負服が手元に届いた。

 更衣室の鏡の前。

 ボクは一人、新しい「鎧」を纏った自分の姿を直視できずにいた。

 

「……うぅ、やっぱり恥ずかしい……」

 

 デザイン画で見た通りの、光沢のある黒いエナメル質のレオタード。

 体にピタリと密着し、バストの膨らみからくびれたウエスト、そしてヒップにかけてのS字ラインが、残酷なまでに強調されている。

 ハイレグのラインは想像以上に鋭角で、腰骨の横まで露出しているせいで、布地の面積が極端に少ない。動くたびに、さらに上がって食い込みそうで気が気じゃない。

 肩や腰の黄金の装飾が「騎士」っぽさを演出してはいるが、それがかえって本体の無防備さを際立たせ、倒錯的な色気を醸し出している気がする。

 

 顔から火が出そうだ。これを着て大勢の観客の前に出るなんて、公開処刑じゃないか。全国のお茶の間が凍りつく未来しか見えない。

 

 だが、軽く体を動かしてみると、その機能性の高さに驚かされた。

 締め付け感は一切なく、まるで第二の皮膚のように体に馴染む。

 脚を高く上げても、腕を大きく振っても、何の抵抗も感じない。布が引っかかる感覚がゼロなのだ。

 動きやすさで言えば全裸のように阻害されないにもかかわらず、胸や尻といった揺れる部分は、特殊な縫製によって完璧にホールドされ、サポートされている。

 揺れすらも推進力に変えるような設計。

 ドーベルが言っていた通り、これはただのエロ衣装ではない。「走るため」に特化した、究極の戦闘服なのだ。

 

「……よし」

 

 ボクは意を決して、自分の頬を両手でパンと叩いた。

 恥ずかしいなんて言っている場合じゃない。

 これは、幼馴染が魂を込めて作ってくれた、ボクだけの戦闘服だ。そして、脳内の英雄たちも認めてくれた鎧だ。

 これを纏って、GⅠという戦場に立つのだ。

 

 シャッ。

 更衣室のカーテンを開ける。

 待っていたドーベルとブライトが、一斉にこちらを向いた。

 

「…………っ」

 

 ドーベルが息を呑んだ。

 そして次の瞬間、みるみるうちに顔を真っ赤にして、バッと視線を逸らした。

 

「な、何だよその反応! 自分がデザインしたんでしょ!?」

「だ、だって……実物で見ると、その……想像以上に、破壊力がすごくて……」

 

 デザインした本人ですら直視できないレベルらしい。ドーベルは手で顔を覆い、指の隙間から恐る恐るこちらを見ている。ますます不安になる。

 

「まぁ~! とっても素敵ですわ~!」

 

 ブライトだけは、目をキラキラさせて拍手してくれた。

 

「ロールちゃんのスタイルの良さが完璧に活かされてますわ! 黒い宝石みたいで、とってもセクシーで強そうですわよ~!」

「あ、ありがとうブライト。……セクシーかどうかは置いといて、強そうに見えるなら成功かな」

 

 ボクは少しだけ胸を張ってみせた。

 マントのように腰から下がる白い布を翻す。

 

「これで行くよ。朝日杯」

 

 拳を握りしめる。

 新しい鎧の感触が、ボクの闘志に火をつける。

 

「ちょっと、こっち来なさいよ」

 

 不意に、ドーベルがおずおずと近づいてきた。

 顔はまだ赤いが、その瞳はクリエイターとしての真剣さを帯びている。

 

「サイズ感の最終チェックよ。……動いてみて、擦れたりしない?」

「うん、大丈夫。完璧だよ」

「……そう。ここ、ちょっと緩くない?」

 

 ドーベルの手が、ボクの腰回り――ハイレグのきわどいラインに伸びる。

 彼女の指先が、素肌と布地の境界線をなぞるように触れた。

 

「ひゃうっ!? ド、ドーベル!?」

「う、動かないでよ! フィット感を確認してるだけだから!」

 

 そう言いながら、彼女の手は執拗に太ももの付け根や、レオタードの裾を直すふりをしてペタペタと触ってくる。

 くすぐったいし、何より場所が場所だ。

 

「そ、そんなに触らなくても……!」

「大事なことなの! 走ってる最中にズレたら大変でしょ! ……うん、肌触りもいいし、筋肉の張りもいい感じ……」

 

 ドーベルの目が少し据わっている気がする。

 これ、絶対役得だと思って触ってないか? 幼馴染特権を行使しすぎてないか?

 

「あらあら~、ドーベルちゃんったら積極的ですわね~」

「う、うるさいブライト! これは製作者としての責任よ!」

 

 ブライトにからかわれ、ドーベルは慌てて手を離した。

 ボクは深呼吸をして、火照った体を落ち着かせる。

 

「そういえば、ドーベルの勝負服ってどんなのなの?」

「え? 私の?」

 

 ドーベルはティアラ路線につながる阪神ジュニアステークスに参加予定であり、同じく勝負服を用意しているはずだ。

 ボクにこんな過激な服を着せたのだから、さぞかし自分も攻めたデザインなのだろう。

 

「ボクも見せたんだから、ドーベルのも見せてよ」

「うっ…… 仕方ないわね。ちょうど持ってるし」

 

 そうして更衣室に入り、数分後、出てきたドーベル。

 ボクは目を丸くした。

 

 そこにいたのは、白の袖なしブラウスに、緑のフリルがたっぷりついたスカート。

 首元にはリボン、腰にはベルトがワンポイントになっていて、メジロ家らしい気品とかわいらしさが同居した、まさにお嬢様の正装だった。

 露出? 健全そのものだ。ボクの服とは対極にある。

 

「……かわいいけど、なんか普通じゃない?」

「普通で何が悪いのよ!?」

「いや、ボクにこんな辱めさせておきながら、自分は無難に守りに入ったなって」

 

 ボクはジト目で彼女を見つめる。

 こっちはお尻のラインまでくっきりなのに、そっちはフリルで鉄壁ガードかよ。不公平だ。

 

「べ、別に守りに入ったわけじゃないわよ! これはメジロの伝統的な……!」

「ふーん? ボクには『騎士』とか言って露出狂みたいな服着せといて、自分は『深窓の令嬢』ですか。いいご身分だねぇ」

 

 ボクがニヤニヤしながら詰め寄ると、ドーベルはたじろいで目をそらした。

 

「だって……私、ロールほどスタイル良くないし……」

「はぁ?」

 

 ボクは思わず声を上げた。

 いや、ボクはいろいろダイナマイトだと自覚しているし、前世の記憶と相まって規格外なのは認める。

 だが、ドーベルだって負けていない。

 クールビューティーな顔立ちに、引き締まったウエスト、そして何よりバランスの取れた肢体は、十分に魅力的だ。

 

「ドーベルだって、十分スタイルいいでしょ。……もしかして、自信ないの?」

「う、うるさい! アンタが規格外なだけよ! ……それに、アンタにはその方が似合うと思ったのよ! 文句ある!?」

 

 ドーベルが逆ギレ気味に叫ぶ。

 ボクはため息をつきつつ、彼女の勝負服のリボンをちょんとつついた。

 

「文句はないよ。……似合ってる。すっごく可愛い」

「っ……! ば、バカ……!」

 

 ドーベルが湯沸かし器のように赤くなる。

 その横で、ブライトが「ふふ~、ごちそうさまですわ~」と微笑ましそうに見ていた。

 

『ケッ、イチャイチャしてんじゃねーよ』

 

 脳内でゴルシが悪態をつく。

 グランアレグリアも『平和ボケしてんじゃないわよ』と呆れている。

 

 でも、ボクは知っている。

 この勝負服には、ドーベルの「私が見たいロールフィヨルテ」という理想(と少しの欲望)が詰まっていることを。

 そして、自分の勝負服には「メジロの誇り」を込めていることを。

 

「よし! それじゃあ、お互いGⅠ獲ろうね!」

「……ええ。負けないわよ」

「わたくしも応援に行きますわ~」

 

 ボクたちは拳を合わせる。

 この少し恥ずかしくて、でも最高に動きやすい「黄金の鎧」を纏って。

 いざ、朝日杯へ。

 ジュニア最強の称号を掴みにいく。




本日11時閑話更新予定です。

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ガールズラブタグ入れたので、もっとそういう要素も入れていきます(鋼の意志
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