TS転生ウマ娘、才能が空っぽだったので歴代競走馬の魂を借りて伝説を作る   作:雅媛

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本編だとドーベルが暴走しているようにしか見えないですが大体は自業自得だという話。


閑話:ロールの勝負服があんなになってしまったわけ

 皐月賞の迫る中、ボク、ロールフィヨルテは自室の鏡の前で、自分の肌を過剰に露出させた勝負服を見つめながら、遠い日の記憶を辿っていた。なぜ、これほどまでにボクの格好は極端な方向へと進んでしまったのか。その発端は、まだボクたちが幼いころ、ある夏の日の出来事に遡る。

 

 当時のボクは、ファッションというものに全く興味がなかった。いや、今も全く興味がないが。

 服は動ければいい、汚れが目立たなければそれでいい。そんな無頓着なボクが、メジロ家の主催する格式高いガーデンパーティーに、ドーベルの付き添いとして参加することになったのである。

 

 会場は、手入れの行き届いたバラが咲き乱れるメジロ家の広大な庭園だった。周囲のウマ娘たちは、目も眩むようなシルクのドレスや、精緻な刺繍が施された勝負服の礼装を纏い、優雅に談笑している。一方、ボクの格好といえば、地元のデパートで安売りされていた質素なブラウスに、何の変哲もないスラックスだった。

 正直服装なんて全くよくわからないし、うちの母もそういったものには全く無頓着だった。父もウマ娘の服装には詳しくなく、ボクがなんとなく好みで選んだだけの服装だった。ボク自身は、主役はドーベルなのだから自分は背景に徹すればいいと考えていたのだが、世間というものは、それを許してはくれなかった。

 

「あら、あそこに立っているのはどなたかしら。メジロ家のお嬢様の隣に、あんな貧相な格好の方がおられるなんて、何かの冗談かしらね」

 

 扇子で口元を隠しながら、数人のウマ娘たちがボクたちの方を向いて嘲笑を浮かべていた。彼女たちは名門の出身を鼻にかけた、いわゆる「上流」を自称する子らだった。ボクの服装を一般市民のなり損ないだとか、迷い込んだ野良ウマ娘だとか、聞こえるように悪口を並べてくる。

 

 ボク自身は、何を言われても平気だった。彼女たちの言葉は、ボクという存在の価値を一ミリも毀損しないことを知っていたからだ。正直晴れの場でそんなことを言うような教育を受けている彼女らに同情すら浮かんでいた。

 しかし、ボクの隣にいたドーベルは違った。彼女は震える手でボクの袖を握りしめ、顔を真っ赤にして俯いていたが、やがてその目から大粒の涙が零れ落ちた。

 

「……どうして……そんなこと、言うのよ」

 

 ドーベルの声は小さかったが、そこには底知れぬ怒りと、そして親友をバカにされたことへの悔しさが滲んでいた。彼女は普段の気弱な姿からは想像もつかない勢いで、嘲笑っていた連中の前に踏み出した。

 

「ロールは……私の、大切な友達よ! アンタたちのドレスより、ロールの方がずっと、ずっと綺麗なんだから! 見た目だけで人を判断するような連中に、ロールを笑う資格なんてないわ!」

 

 ドーベルの咆哮は、華やかなパーティー会場を一瞬にして凍りつかせた。彼女は泣きながら、それでも真っ直ぐにボクを庇い続け、最終的には収拾がつかないほどの言い合いに発展してしまった。結局、パーティーはその直後に解散となったが、帰りの車内でもドーベルの涙は止まらなかった。

 

 

 

 

「ごめんね、ロール……。私のせいで、あんな嫌な思いをさせて……」

 

 ボクは彼女の頭を撫でながら、服装なんてどうでもいいと思っていた自分の甘さを痛感した。

 今後もドーベルの付き添いやラモーヌさんやマックイーン姉さんのの付き合いで晴れの場に出ることも多いだろう。

 そういう時に今のままではだめなのだ。少なくともまともな格好をしていれば、いらない紛争は防げるのだから。

 

 だが困ったことに服を選ぶ知識もなければ伝手もない。

 さてどうしようか、と悩みながらドーベルにボクは提案した。

 

「ドーベル。ボクの方こそごめんね。もうちょっと服装に気を付けたいんだけどよくわからないから、ドーベルに服を選んでもらえたりしないかな?」

 

 わからなければ他人に頼る。

 いつものやり方だったが、それが、この「物語」の始まりだった。

 

 

 翌週から、ドーベルによるボクの改造計画がスタートした。最初は、彼女が好むような可愛らしい、フリルたっぷりのドレスからの試着だった。だが、ボクは自分で言うのもなんだが、ウマ娘の中でもかなり体格が良く、筋肉のつき方もよい。繊細なフリルやパフスリーブを纏ったボクは、鏡の中で「着慣れない服を着せられたクマ」のような違和感を放っていた。おまけに、フリフリが触るため、袖が動かすたびに邪魔になる。

 

「……ドーベル、ごめん。これ、すごく動きにくいし、ボクには似合わない気がする」

「うーん、確かに。ロールの格好良さが、フリルに負けちゃってるわね。分かったわ、方針を変えましょう」

 

 次に彼女が選んだのは、マニッシュでクールなスタイルだった。レザーのジャケットや、身体にフィットするタイトなパンツ。これは確かにボクの体格に合っていた。しかし、ここでボク自身の要望が加わることになったのである。

 

「ドーベル、この脇の部分、もう少し大きく開けられないかな。腕を振り回す時に布が擦れるのが気になるんだ。あと、この太もものあたりも、もっと自由度が欲しい」

 

 ボクとしては純粋に、機能性と動きやすさを追求したつもりだった。

 個人的な好みだが、あまり布が触れているのが好きじゃないし、暑いのも苦手だ。

 おそらく筋肉が多すぎて発熱が多いのだろう。

 

 とはいえ最初はまだそこまでではなかったはずだ。

 しかし、そんなボクの要望を忠実に反映していった結果、ドーベルの「審美眼」が徐々に開花し始めてしまった。

 

「……ロール、アンタのその広背筋のライン、隠すのはもったいないわね。ここを大胆に開けて、肩甲骨の動きを見せる構成にしましょう。それから、この脚の筋肉も、隠すよりは露出させた方が、圧倒的に『強さ』が際立つわ」

「え、あ、うん。そうだね……。でも、これ、ちょっと肌が見えすぎじゃないかな?」

「いいのよ。アンタの身体は、鍛え上げられた芸術品なんだから。それを誇示することは、ウマ娘としての礼儀よ。というか普段から、かなり露出した私服着てるじゃない」

「そうなんだけど」

 

 ドーベルはどこか取り憑かれたような真剣な目で、ハサミとピンを操っていった。ボクが機能性を求めれば求めるほど、彼女の美学がそれを「美的な露出」へと昇華させていく。

 最近は出来上がった服を鏡で見るたびに、顔から火が出るような恥ずかしさを感じている。しかし、それ以上に、ボクの服を真剣に選び、ボクがそれを着るたびに瞳を輝かせるドーベルを裏切ることはできなかった。

 何より、あのパーティーでボクのために泣いてくれた彼女が、今では自信満々にボクをプロデュースしている。その姿を見ることが、ボクにとっての喜びでもあった。

 

「ロール、今日のその背中のライン、最高よ。自信を持って!」

「……ああ。君がそう言うなら、ボクは胸を張って着るよ」

 

 ボクは自分の意志でこの「露出」という物語を始めてしまったのだ。今さら後戻りはできないし、ドーベルの期待を裏切ることもできない。たとえ世界中のファンの性癖を破壊し尽くすことになったとしても、ボクは彼女が選んだ衣装を纏い続けるだろう。

 

 ボクの背負う羞恥心は、彼女への愛の重さでもある。

 さて、そんな過去を思い出しながら、ボクは再び鏡の中の女騎士を見つめ、一つ深呼吸をした。

 

「でもやっぱりこれはちょっとやりすぎじゃないかな」




ドーベル「そもそもロールの夏の私服なんてタンクトップとホットパンツよ。胸の谷間も横乳もへそも太腿も丸だしなあれよりは絶対ましだと思う」

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