TS転生ウマ娘、才能が空っぽだったので歴代競走馬の魂を借りて伝説を作る   作:雅媛

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43 夏合宿

 7月下旬。

 宝塚記念での激闘を終え、ボクたちはトレセン学園恒例の夏合宿へとやってきていた。

 場所は海沿いの避暑地。

 照りつける太陽、青い海、そして蝉時雨。

 厳しいトレーニングの合間に設けられた、「完全休養日」。

 

 ボク、ロールフィヨルテは、寮の鏡の前で硬直していた。

 

「……これ、本当に大丈夫なのかな?」

 

 鏡に映っているのは、見慣れた自分の肉体だ。

 170cmの長身、バスト96、ヒップ100超えの豊満かつ鋼のように鍛え上げられた筋肉の鎧。

 だが、問題なのはその肉体を覆っている――いや、覆い隠せていない「布」だった。

 

 黒い、紐。

 そう表現するしかない。

 「ストリング・ビキニ」と呼ばれるそれは、面積があまりにも少なすぎた。

 胸元は僅かな三角形の布で乳房の頂点を隠しているだけで、その重量を支えるのは心許ない極細の紐。

 下も同様で、腰骨の位置で紐を結んでいるだけ。動けば際どいラインまで食い込み、少しでもズレれば「大事故」になりかねない代物だ。

 

『……すごいわね。布の面積と表面積の比率がバグってるわ』

 

 脳内で、アーモンドアイが呆れたように呟く。

 

(で、でも! これ、アルダンさんが選んでくれたんですよ!?)

 

 事の発端は数日前。

 メジロアルダンさんに、ドーベルとの仲直りデートの話をした時だ。

 『あら、素敵ですね。それなら、私が特別な水着を用意して差し上げますわ』と、微笑みながらプレゼントしてくれたのがこれだった。

 『ロールさんのようなダイナミックな体には、これくらい大胆なカッティングの方が映えますのよ。海外では流行っておりますし、ドーベルちゃんもきっと喜びますわ』

 あの清楚で儚げなアルダンさんが言うのだから、間違いないはずだ。彼女がそんな破廉恥な罠を仕掛けるはずがない。

 

『……ま、あの腹黒令嬢のことだ。面白がってるだけだと思うけどな』

 

 ゴルシがゲラゲラ笑っているが、もう着てしまったものは仕方がない。

 ボクはパーカーを羽織り、意を決して部屋を出た。

 

 

 

 待ち合わせ場所の浜辺の入り口。

 そこには、すでにメジロドーベルが待っていた。

 

「……遅いわよ、ロール」

 

 彼女は麦わら帽子を被り、白を基調としたフリルのついたワンピースタイプの水着を着ていた。

 清楚で、可愛らしい。

 彼女のクールな雰囲気と、少女趣味な水着のギャップがたまらない。

 

「ごめんごめん。ちょっと着替えに手間取って」

「もう……。せっかくの休養日なんだから、時間は有効に使わないと」

 

 ドーベルは少し拗ねたように頬を膨らませたが、すぐにボクの姿を見て首を傾げた。

 

「……なにその恰好。暑くないの?」

「え? ああ、このパーカー?」

「海に来てまで厚着して……。ほら、早く脱ぎなさいよ。泳ぐんでしょ?」

 

 ドーベルがボクのパーカーの裾を掴み、強引に脱がそうとしてくる。

 

「ちょ、待ってドーベル! 心の準備が!」

「往生際が悪いわね! ……えいっ!」

 

 スポンッ。

 抵抗むなしく、パーカーが剥ぎ取られた。

 真夏の太陽の下、ボクの「紐水着姿」が白日の下に晒される。

 

「……え?」

 

 ドーベルの動きが止まった。

 彼女の瞳が点になり、視線がボクの胸元、くびれ、そして際どい腰回りへと移動していく。

 そして、顔が一瞬で沸騰したやかんのように真っ赤に染まった。

 

「な、ななな、なっ……!?」

「……ど、どうかな? アルダンさんが選んでくれたんだけど」

 

 ボクが恥ずかしそうに尋ねると、ドーベルはパクパクと口を開閉させ、悲鳴のような声を上げた。

 

「ば、バカじゃないの!? なによその紐!? ていうか、は、はみ出てる! いろいろ溢れそうになってるじゃない!」

「えっ、嘘!?」

「嘘じゃないわよ! アルダンさん、何考えてんのよ……!」

 

 ドーベルは慌てて自分のパレオを広げ、ボクの体を隠そうとした。

 だが、時すでに遅し。

 周囲の海水浴客(一般人や他のウマ娘たち)の視線が、一斉にボクに突き刺さっていた。

 

「おい見ろよ、すげぇ体……」

「あの筋肉、芸術品か?」

「ていうか水着エッッッ!」

 

 ざわめきが広がる。

 ボクの鍛え上げられた肉体と、それをギリギリで繋ぎ止める黒い紐のコントラストは、あまりにも刺激が強すぎたようだ。

 

「……見ないで! こっち見ないでよ!」

 

 ドーベルが涙目になってボクの前に立ちふさがる。

 可愛い。

 ボクは彼女の背中を抱きしめた。

 

「ドーベル、守ってくれるの?」

「当たり前でしょ! ……アンタは私のなんだから、他の奴らに1ミリだって見せたくないのよ!」

 

 彼女の独占欲が心地よい。

 ボクたちは周囲の視線から逃げるように、波打ち際へと向かった。

 

 

 

 だが、海に入ってからも受難は続いた。

 というか、ここからが本番だった。

 

「ひゃっ!?」

 

 少し高めの波が来た瞬間、ボクは足を取られてバランスを崩した。

 ドサッ!

 水しぶきを上げて転倒する。

 その拍子に、水の抵抗を受けた極小のブラトップが、あわやという位置までズレた。

 

「ロール! 大丈夫!?」

 

 ドーベルが駆け寄ってきて、ボクを抱き起こそうとする。

 その瞬間。

 ボクの豊かな胸部が、重力と遠心力に従って、ドーベルの顔面にムギュッと押し付けられた。

 

「むぐっ!?」

「あ、ごめんドーベル!」

 

 慌てて離れようとするが、足元がぬかるんでいて上手くいかない。

 むしろ、もがけばもがくほど、濡れた肌と肌が密着し、擦れ合う。

 紐水着の露出度の高さが仇となり、ほぼ素肌同士が絡み合っているような状態だ。

 ドーベルの白い肌の感触。柔らかい肢体。

 それがダイレクトに伝わってくる。

 

「んっ……ロール、近い……!」

「ご、ごめん! 紐が! 紐が解けそう!」

「動かないで! 私が直すから!」

 

 ドーベルは顔を真っ赤にしながら、水中でボクの腰紐を結び直してくれた。

 その指先が、ボクの太ももの付け根や、下腹部に触れる。

 わざとではない。事故だ。

 だが、その背徳的なシチュエーションに、ボクの体温は急上昇していた。

 

「……ふぅ。これでよし」

「ありがとう、助かったよ」

「もう……。本当に手がかかるんだから」

 

 ドーベルは呆れたように言ったが、その瞳は潤んでいて、どこか熱っぽかった。

 彼女もまた、この過剰なスキンシップに当てられているようだ。

 

「ねえ、ロール。……あっちに行こ」

 

 彼女が指差したのは、岩場に隠れた人気のない入江だった。

 人目を避けるため。

 そして、二人きりになるため。

 

 

 

 岩場の陰は、静かだった。

 波の音だけが響く、天然の個室。

 ボクたちは砂浜にレジャーシートを敷き、並んで座った。

 

「……背中、サンオイル塗ってくれる?」

 

 ドーベルが、上目遣いでオイルのボトルを差し出してきた。

 ボクはゴクリと喉を鳴らし、それを受け取った。

 

「いいよ。……失礼するね」

 

 彼女の白い背中にオイルを垂らす。

 手のひらで伸ばすと、滑らかな肌の感触が伝わってくる。

 ティアラ三冠を制した彼女の筋肉は、しなやかで美しい。

 肩甲骨のライン、くびれの曲線。

 指先でなぞるたびに、ドーベルがビクッと反応する。

 

「ん……くすぐったい」

「ごめん。……でも、すごく綺麗だよ」

「……お世辞はいらないわ」

「お世辞じゃない。……世界で一番、魅力的な体だ」

 

 ボクは本心からそう告げた。

 ドーベルは耳まで赤くして、ボクの方へ振り返った。

 

「……アンタも。塗ってあげる」

 

 今度は彼女の番だ。

 ドーベルは手にたっぷりとオイルを取り、ボクの体に触れてきた。

 紐水着のおかげで、塗る面積は広大だ。

 大胸筋、腹直筋、そして太もも。

 彼女の手は、マッサージするように、愛おしむように、ボクの筋肉の溝を這う。

 

「……やっぱり、凄い体」

 

 ドーベルの吐息が熱い。

 

「春の間……アンタが苦しんで、削ぎ落として、また作り直した体。……全部、私のものなのよね」

「ああ。全部、君のものだ」

 

 彼女の指が、際どい腰紐のラインをなぞる。

 ゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上がる。

 

「ねえ、ロール。……甘えさせて」

 

 ドーベルが、ボクの首に腕を回し、その身を預けてきた。

 紐水着でほぼ裸同然のボクの胸に、彼女の水着越しの柔らかい胸が押し付けられる。

 

「最近、ずっと張り詰めてたから。……今日は、アンタの匂いを嗅いで、体温を感じて……トロトロになるまで甘やかされたいの」

 

 普段はクールで、しっかり者の彼女が、こんな風に無防備に甘えてくる。

 その破壊力に、ボクの理性はあっさりと白旗を上げた。

 

「……いいよ。今日はとことん、ダメにしてあげる」

 

 ボクは彼女を抱きしめ、砂浜に押し倒すようにしてキスをした。

 太陽の下での口づけ。

 オイルのココナッツの香りと、潮の香り。そして彼女自身の甘い匂い。

 

「んんっ……ロール……」

 

 ドーベルが舌を絡めてくる。

 人目がないことをいいことに、ボクたちは貪るように求め合った。

 ボクの手が彼女の太ももを撫で、彼女の手がボクの背中を引っ掻く。

 紐水着の心許なさが、逆に興奮を煽る。

 肌と肌の間に、余計なものは何もない。

 

「好き……大好きよ、ロール」

「ボクもだ、ドーベル。……愛してる」

 

 波音が、二人の甘い囁きと、水音をかき消してくれた。

 春の連敗の苦しみも、世間の喧騒も、今は遠い世界のことだ。

 ここには、ただ愛し合う二人のウマ娘がいるだけ。

 ボクは彼女を抱きしめながら、この幸せな時間が永遠に続けばいいと願った。

 

 

 

 夕暮れ時。

 ボクたちは手を繋いで寮へと戻った。

 結局、海にはほとんど入らず、岩陰でイチャイチャしていただけだったが、心身ともに満たされていた。

 ドーベルの顔は、朝よりも血色が良く、憑き物が落ちたように穏やかだった。

 

「……楽しかったわね」

「うん。最高の休日だったよ」

 

 ボクが答えると、ドーベルは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。

 

「その水着……最初は驚いたけど」

「うん」

「……脱がせやすくて、よかったかも」

 

 爆弾発言を落とし、彼女は顔を真っ赤にして走り出した。

 

「ちょ、ドーベル!?」

 

 ボクが慌てて追いかけようとすると、宿舎の入り口で、優雅に日傘を差したウマ娘とすれ違った。

 メジロアルダンさんだ。

 彼女はボクの姿――パーカーの下からチラ見えする紐水着と、首筋に残るドーベルのキスマークを見て、扇子で口元を隠し、ふふっと笑った。

 

「あらあら。……ぴったりだったようですわね?」

 

 その瞳は、すべてを計算づくで楽しんでいる策士のものだった。

 ボクは悟った。

 この人は、間違いなく「分かって」やっていたのだ。

 

(……敵わないなぁ、メジロのお嬢様方には)

 

 ボクは苦笑しながら、愛しい恋人の背中を追いかけた。




ラモーヌ「裸でいいんじゃない?」
アルダン「姉さん、それやってルドルフさんにドン引きされてたじゃないですか」

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