TS転生ウマ娘、才能が空っぽだったので歴代競走馬の魂を借りて伝説を作る   作:雅媛

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48 海外遠征

トゥインクルシリーズ。それはウマ娘たちの夢が詰まった輝かしい舞台。

有馬記念を制し、国内でこれ以上ない名声を手に入れたボク、ロールフィヨルテは、次なる目標を「世界」に定めた。

目標は中東、ドバイ。一昨年ぐらいに新設されたばかりのドバイワールドカップへの招待だ。

 

「……本当に行くの? ロール」

 

出発の日の成田空港。

見送りに来てくれたメジロドーベルが、ボクの肩を抱きながら心配そうに顔を覗き込んできた。

彼女自身も国内の春の重賞を控えているため、同行はできない。

 

「大丈夫だよ、ドーベル。タイキもスズカも世界へ行ったんだ。ボクもあいつらの隣に立たなきゃいけないからね」

「……でも、顔色が悪いわよ。まだ飛行機にも乗っていないのに」

「あはは、ちょっと緊張してるだけさ」

 

そう強がってゲートをくぐったボクだったが、この時のボクは知らなかった。

自分の中に宿る「伝説の魂」たちがどれほど海外に強くても、ボク個人の三半規管はそれとは別次元の「ポンコツ」であるということに。

 

 

 

離陸して1時間。

ボクたちの座席は、ドバイ政府が用意してくれた豪華なファーストクラスだ。

しかし、そのラグジュアリーな空間を一番楽しんでいたのは、ボクではなく脳内の魂たちだった。

 

「ひゃっほー! 見てろよマスター、この雲の上の景色! 自由だぜ!」

 

ゴールドシップが脳内のソファで跳ね回り、ぶどうジュース(ワインのつもりらしい)を煽っている。

 

「……あら。ファーストクラスのホスピタリティ、悪くないわね。ドバイのダートは少し硬いけれど、貴女なら大丈夫。私が勝った時は、もっと日差しが強かったかしら」

 

ジェンティルドンナは優雅に脚を組み、すでにドバイでのショッピングリストを作成している。

 

「ロール、呼吸を整えて。10時間ほどのフライトだけれど、これを乗り越えればナド・アルシバの素晴らしい風が待っているわ」

 

アーモンドアイも落ち着いた声でアドバイスをくれるが、彼女たちの助言は今のボクには一切耳に届いていなかった。

 

「……う、ううっ……。だ、誰か……。揺らさないで……。地球を……止めて……」

 

ボクはファーストクラスのふかふかの座席で、真っ青な顔をしてエチケット袋を握りしめていた。

魂たちは馬として何度も海を渡った経験があるし、アイちゃんやドンナさんはドバイで見事に勝利を収めている。

だが、ボク自身が極度の「飛行機酔い」体質だったようだ。電車やバスは大丈夫だったのに、どうして飛行機はダメなんだ……

 

「うぐっ……ごふっ……」

「おーいマスター、もうすぐ機内食だぞ! キャビアだぞキャビア!」

「……死ぬ……。キャビアとか……名前を聞くだけで……出る……」

 

結局、ドバイまでの10時間、ボクは魂たちの「あそこは免税店がすごいんだって」「現地の砂はこう蹴るのよ」という有益な(?)アドバイスを、全て嘔吐の音でかき消しながら過ごした。

 

 

 

ナド・アルシバレース場。

到着した時点でボクの体力はマイナスに振り切れていた。

現地の熱気、独特の砂の匂い。本来なら高揚するはずの舞台だが、ボクの身体はまだ機内の揺れを記憶しており、地面に立っていても世界が右に左に傾いて見える。

到着して3日は休養したのだが体調はどうしても戻らなかった。

 

『……根性よ、ロール! 私のパワーを使いなさい!』

 

ジェンティルドンナが気合を注入してくれる。

 

『……そうね。とりあえず、この場は気合でしのぎましょう』

 

アイちゃんも力を貸してくれる。

 

だが、ゲートが開いた瞬間、ボクの身体は石のように重かった。

海外の、本場のダートの洗礼。

散々練習したスタートもコーナリングも、平衡感覚が狂ったボクにはとてもこなせるものではなかった。

 

結果は、惨敗。

掲示板(5着以内)すら外す、後方のままの入線。

「日本総大将」の肩書きが砂に埋もれるような、苦い初海外遠征となった。

 

 

 

帰国後、ボクは痛感した。

 

(ボク……飛行機、絶対無理だわ……)

 

どんなに魂が強くても、輸送でこれだけ削られては勝負にならない。

とはいえ、ボクが国内のGⅠに出続けても、後輩たちの成長を阻害するだけではないかという思いもあった。

 

「……潮時、なのかな」

 

トゥインクルシリーズ。

ウマ娘たちが物語を紡ぐ、最高の場所。

でも、ボクの物語はここで一区切りなのかもしれない。

 

「……ねえ、みんな。ボク、決めたよ」

 

脳内の魂たちに告げる。

 

「ボク、トゥインクルを引退して、ドリームトロフィーリーグに移籍する」

 

タイキシャトルが先に向かった先。

スター性と技術がより求められるところだ。

まあ、所属してもみな走っているわけでもないし、一度移籍してからその先の道を探そうかと思ったのだ。

 

『……ふふ。いいんじゃないかしら。貴女らしいわ』

 

アイちゃんが微笑む。

 

『ギャハハ! 向こうでも暴れてやろうぜ!』

 

ゴルシも大賛成だ。

 

『いいんじゃないかしら?』

 

ドンナも部屋の隅っこで偉そうに言っている。

 

 

トゥインクルシリーズでのレース生活は終わる。

だが、ボクの人生はまだまだ先に続いている。

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