虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君   作:どこかのSさん

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プロローグ

 虹ヶ咲学園、お台場にある広大な敷地と幅広い専攻が特色の学校。相当数の新入生を取るらしく日本国内だけでなく海外からの留学生も受け入れる……らしい

 しかしながら、そんな学校でも昨今の世知辛い事情の影響を受けたらしく少し前は女子高だったらしいが現在では少なからず男子生徒も在籍する共学高になったしい……えっ、なんでこんな話をしたのかって? そりゃ勿論、俺がこの学校を受験する予定の男子中学生だからだ

 

「────やべぇ、迷った」

 

 まぁ、そんな説明もある意味で今の状況から逃避をする手段の一つだったのだが、いくら現実から目を逸らしたとてこの広大な敷地内で迷ったという事実からは逃げる事が出来ないわけだが

 

「えーっと、今いる場所がここで……あっちが食堂であっちが部室棟、集合場所はここだから…………やべぇ全然わかんねぇ」

 

 そもそもだ、折角共学化をしたのにあんまりにも男子生徒に対するインフラが整ってなさすぎないか? いやまぁ共学化したのがつい何年か前の話だから仕方なくはあるんだけど……まさか、トイレに行くだけで迷うとは思わないだろ普通

 

「俺、こんなに方向音痴だったか? …………はぁ、マジでどうすっかな」

 

 まぁここで途方に暮れてても仕方ないか……まぁ幸いな事に自由見学の時間はもう少しある、ゆっくり校内を見学しながら集合場所を探すそう

 

「────って、なんだあの子?」

 

 適当に部室棟の方にでも足を向けようかとしたところで、中庭の丁度いい日当たりの場所にあったベンチで眠っている女の子の姿が目に入る

 

「あれ、この学校の制服じゃねぇよな……じゃあ俺と同じ中学生か?」

 

 遠目だからよくわかんないが自由見学で学校に来てそこで居眠りとは、肝が据わっているというかなんというか

 

「まぁいいや、俺も適当に移動────」

 

 するか、と言葉を続けようとするがあのベンチで眠っている女の子の事が妙に頭から離れない、もしもこの場で俺があの子をスルーして別の場所に行ったとしてもだ……多分この学校の在校生に起こされるなりなんなりして何事もなく終わる可能性の方が高いだろう

 しかし、しかしだ、もしも在校生が起こさずにそのまま放置された場合はどうなる? もしもあの子の通っている学校が現地解散だった場合────あの子は置き去りになってしまうのではないか? 

 

「なんて、流石にダメな方向に考えすぎだな……けど」

 

 そうなる可能性が数パーセント未満で、九十数パーセントで何事もなく終わるとしたって……自分の性格上うだうだと気にしちまうのは目に見えてる

 自分で自分の性格をある程度わかっているからこそ、俺は部室棟ではなく中庭のベンチで眠っている女の子の方へ歩き出した

 

 

 

 

 そんなお節介心を発揮して、いざベンチで眠る女の子の場所までやってきた俺は眠っている女の子の前でしゃがんで声をかける

 

「あのー、こんなところで寝てると風邪ひきますよ?」

 

「すぅ──すぅ──」

 

 起きる気配はない、そこそこ深い眠りに入っているらしい……しゃあなし、人によっては引っぱたかれるか叫ばれるかしそうだが揺すって起こすか

 

「おーい、起きろー」

 

「すぅ──んんぅ?」

 

 流石に揺すられる振動で目を覚ましたらしく、ゆっくりと目を開いた女の子は眠たげに目をこすりながら身体を起こす

 

「あれ? 彼方ちゃん寝ちゃってた?」

 

 目の前の女の子はどうやら彼方と言う名前? らしい

 

「起きたか?」

 

「うん…………あれ? 君は誰?」

 

「見ての通り、現在進行形でこの学校を見学してる中学生だよ」

 

「そうなんだー、じゃあ私と同じだねぇ」

 

 何なんだ、この子は……寝ぼけてるのか、それとも天然でこんな感じなのか? 

 

「まぁ、いいか……それより時間、見た方がいいんじゃないか? 俺はまだ大丈夫だけど」

 

「えーっと、うん、私もまだ大丈夫だよ」

 

「そか、なら良かった……そんじゃ、俺はこれで」

 

 とりあえず本人は起きたし、時間もまだ大丈夫ってのも確認できた……そんならさっさとこの場からは退散する方がいいだろうとその場から歩き──

 

「あっ、ちょっと待ってよ」

 

 ──出そうとしたが、彼女の声に呼び止められる

 

「えっと、何か?」

 

「うん、折角だから一緒に見学しよっかなぁって。起こしてくれたお礼もしたいし」

 

「……警戒心とかないんか?」

 

「警戒心?」

 

 この女生徒は本当に……話をしてると妙にズレるというか、調子が崩れる。頭をガシガシと搔きながら改めて彼女の方へと振り返って、一歩近づく

 

「だから、もしかしたら俺が打算アリでアンタに近づいてきたかもしれないだろって事」

 

「えっ? だって君は善意で私の事起こしてくれたんでしょ?」

 

「そうだけど、仮にの話だよ仮にの……誰にでもそうなのか、アンタ」

 

「ううん、ぱっと見で君は大丈夫かなーって」

 

 本当に、調子狂うな

 

「はぁ……そうだな、折角だし一緒に見学するか。起こした礼とかは……別にいい、俺が勝手に気にしただけだし」

 

「そっかぁ……はっ、そういえば自己紹介してなかったね」

 

 はっと思い出したようにベンチから立ち上がった彼女はそんなことを言いながら俺の前まで近づいてくる

 

「私は、近江彼方ちゃんだよぉ」

 

「御手洗御手洗紘陸(みたらい ひろむ)、少しの間だけどよろしく、近江さん」

 

「うん、よろしくね、御手洗くん」

 

 

 

 

 見学の自由時間中、何故か一緒に行動する事になった近江さんと共に虹ヶ咲の色々な所を見て回っていると隣を歩いていた彼女がこちらに視線を向けてくる

 

「そう言えば、御手洗くんは虹ヶ咲を受けるんだよね?」

 

「だな、一応他の高校も受けるけど第一志望はここ……じゃなきゃ見学なんか来ねぇし」

 

「だよねぇ、どこの学科を受けるの? 普通科?」

 

「まだ悩み中だけど……多分情報処理だな、覚えて置いて損はないだろうし」

 

「そっかぁ、彼方ちゃんはねぇ……ライフデザイン学科志望なんだよぉ」

 

 ライフデザインって確かアレだよな、服とか料理とかを学べるって学科

 

「ファッションの事でも勉強したいのか?」

 

 今は制服姿とは言え近江さん、ぱっと見でも結構おしゃれっぽそうだし、やっぱ女の子ってのは少なからずそういうのを勉強したいもんなのか? 

 

「ううん、無事に入学出来たらフードデザインを専攻するつもりだよぉ」

 

「へぇ、そこを専攻したいって事は料理人目指してんのか?」

 

「そこまではまだ考えてないよぉ。強いて言うなら、妹愛……かな」

 

「カッコつけて言うほどの事か……って言いたい所だけど納得だ」

 

 どうやら近江さんには妹さんがいて、ライフデザインの中でもフードの方を専攻するのは大体妹さん絡み……大方、美味い料理を作ってやりたいとかそういう理由だろう、まぁ料理人目指してるって可能性も全然あるけど

 

「けどまぁ、兄弟の為に何かしたいって理由は分かる……俺にも居るし、兄弟」

 

「御手洗くんにも居るんだ、お兄ちゃんとか?」

 

「弟だよ、来年から中学生」

 

「おぉ、奇遇だねぇ、遥ちゃんも来年から中学生」

 

「確かに、奇遇だな」

 

 そんな話をしながら学校の中を歩き、やってきたのは部室棟。二人で並んで案内板の前に立ってこの中に入ってる部活動一覧に目を通す

 

「……多いな」

 

「うん、いっぱいあるねぇ」

 

 ざっと見で何個あるんだコレ、部だけじゃなくて同好会も含めたら一、二、三……膨大すぎて数えるが億劫だ、やめよう

 

「テニス部、ソフトボール部、バスケ部……ワンダーフォーゲル部?」

 

「海釣り同好会に川釣り同好会にバス釣り同好会だって」

 

「全部同じじゃないか……いや、海釣りと川釣りは違うか」

 

 海水と淡水だもんな、にしても膨大だな

 

「そう言えば、近江さんは入学出来たらなんか部活には入るのか?」

 

「うーん、今は考えてないかなぁ、御手洗くんは?」

 

「俺もあんまピンと来てないから、しばらくは帰宅部だな」

 

 元々どっかの部活に入ろうとかは考えてなかったし、中学でも普通に帰宅部だし

 そんな話をして次に行こうかと思ったタイミングでそろそろ集合時間になることに気づいた

 

「っと、俺はそろそろ集合の時間だ、近江さんは?」

 

「あっ、彼方ちゃんもだ」

 

「そんじゃ、集合場所まで行きますか……同じ場所じゃねぇけど」

 

「そうだねぇ」

 

 その言葉の後、俺と近江さんの二人は各々の集合場所に向かって歩き始める……さっき迷ったのが噓みたいに来てすぐに見た場所まで戻ってから、改めて隣にいた近江さんに声をかける

 

「それじゃあな、近江さん」

 

「うん、バイバイ御手洗くん」

 

 短い別れの挨拶をしてから、俺は俺の、近江さんは近江さんの学校の集合場所へ向けて歩き出した……今回の出会いは偶然だっただろうけれど、もしこの学校に無事入学することができれば、その時はまた会う機会もあるだろう

 

「さーてと、勉強。頑張りますかねー」

 

 これが、中学三年のある日の記憶

 

 

 

 

 あの学校見学の日から時は流れ、翌年の春

 朝早くに起きた俺は真新しい虹ヶ咲の男子制服に袖を通し、ローファーを履く

 

「あれ、紘陸。もう行くのか?」

 

「うん。入学初日だし、余裕を持って出た方がいいかなって」

 

 朝食として焼いたトーストを片手に持った親父にそう言ってから近くに置いていた鞄を手に取る

 

「そう言えば、実宙(まひろ)は?」

 

「まだ寝てるんじゃないか?」

 

「そっか、そんじゃいってきます」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

 親父に挨拶をして玄関から外に出て、庭にある小さい家庭菜園で野菜に水を上げていた母さんに近寄る

 

「あら、紘陸。今日はもう行くの?」

 

「うん、道迷って遅刻とかしたくないし……いってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 俺の家から学校までは多少距離があるものの、見学以外にも入試の時とかで何度か通り多少は見知ったものになった道を歩いていると、学校もそろそろ近くなったかというタイミングで後ろから誰かに背中を押される

 

「……久しぶりだな、近江さん」

 

「おっ、やっぱり御手洗くんだったぁ」

 

 振り向いた先に居たのはあの時と変わらないオレンジブラウンの柔らかなロングヘアーを風で軽くなびかせた少女、唯一違うのは、彼女も俺と同じ虹ヶ咲の制服に袖を通していた事

 

「お互い、無事に入学できたみたいだな」

 

「そうだねぇ」

 

 あの時以来合っていないはずなのに、不思議そんな気はしない感じがする

 

「そうだ、入学おめでと、近江さん」

 

「うん、御手洗くんも、おめでとー」

 

 軽い祝福をしながら、俺と近江さんは二人でゆっくりと通学路を歩き始めた

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