虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君 作:どこかのSさん
近江姉妹のちょっとした喧嘩と仲直りが終わってから少し、すっかり元の調子に戻った彼方と今日は珍しく一緒に昼飯を食うことになった橙李の三人で中庭までやってきた
「にしても、こうやって三人で飯食うのなんていつぶりだ?」
「2年の中頃以来じゃなかったかな。あの頃から僕も紘陸も色々とバタバタし始めたし」
「彼方ちゃん、橙李くんと会うのも久しぶりな気がするよぉ」
「僕もだよ。学科も違うし紘陸と違って一緒の同好会に所属してる訳でもないから仕方ない気もするけど」
「だねぇ」
「なら、今度久しぶりに予定合わせて三人で遊びにでも行くか?」
「さんせーい」
「いいね、最近は落ち着いてきたし予定を調整してみるよ」
オープンキャンパスの時に彼方と、1年の秋ごろに橙李と会ってからは一緒に飯を食ったりすることも多かったしそれこそ三人で遊びに行くことも多かったのに気づけばこうして三人で飯を食うのも久々。そう考えると、時間の進みが早過ぎて少し怖くなる
「そう言えば橙李くん、彼方ちゃんたちの曲を作ってくれてありがとう」
「気にしないで良いさ。依頼主が親友だし、君たちの曲作りも僕にとっていい刺激になるからね」
「……そう言えば、お前は卒業したら本格的に作曲家目指すんだっけか」
「うん、どこかの事務所に自分で売り込みをかけるか、フリーランスでやっていくのは決めてないけど……曲を作るのを仕事にしたいと思ってる」
「橙李くんはすごいねー、彼方ちゃんはまだ決められてないよぉ」
「俺もだ。入学した頃はIT関係の仕事に就くか、それとも大学に進学かなんて漠然に考えてたけど、今はやりたいことが多すぎて絞りきれん」
「僕はそれでいいと思うけどね、学生生活はもう少しあるわけだし」
そうは言っても、そろそろ進路についても考えないといけないってのはあるんだよな……進路希望を書かないといけなくなる前にある程度はどうするのか決めときたいし
「なんかこうやって話してると、彼方ちゃんたちも3年生なんだって実感するよー」
「今まで実感なかったのかよ」
「えへへー、実感がなかったわけじゃないよ。ただ改めて実感しただけー」
「あぁ、そうかい」
「────隙あり」
「あっ、橙李テメェ人のおかず取るんじゃねぇよ」
「おかずを取られるのは隙を見せた紘陸の過失だろう」
「じゃあ彼方ちゃんもー」
「あっ、お前まで……」
「まぁまぁ、お返しに彼方ちゃん特性玉子焼きを進呈しよう」
「からあげの対価って考えると絶妙に釣り合ってなくないか?」
「そんなことはないと思うよ、からあげも玉子焼きもお弁当の主役だからね。じゃあ僕からはこの大豆の煮物を」
「……テメェに至っては苦手なもん押し付けただけじゃねぇか」
「はて、何の事かな?」
我に返ったらアホらしくなりそうなやり取りだが……この空気感に不思議ななつかしさを感じつつ。橙李から
時は流れて、いつも通りの部活時間
「じゃーん! みんなの初めてのインタビューが、校内新聞に載りましたー!」
「おぉ、みんなめっちゃ良い感じじゃん!」
「結構評判良いみたいよ」
「またインタビューしてもらえるといいねぇ」
「今度は、練習風景をメインにインタビューしてもらうというのはどうでしょう?」
「それ、凄く良いアイデアです。せつ菜さん」
「ねぇ、演劇部の公演の事も載ってるよっ」
「────ッ!?」
高咲さんが演劇部の公演について触れた瞬間、桜坂さんの顔色が少しだけ変わったように見えた
「それにしても主役なんてすごいよねぇ」
「彼方ちゃん、絶対観に行くよぉー」
「……はい。ありがとうございます」
二人の言葉にそう返事をしていた桜坂さんだけど……やっぱどこか沈んでいる気がする
昨日の出来事の後、どうにか相談してもらうことはできないものかと頭を悩ませつつ学校の敷地内を歩いていると、どこかに向かっているらしい1年生三人組と遭遇した……のだが
「桜坂さん、どうしたのそれ?」
「わ、私にも何が何だか……」
「紘陸せんぱーい。丁度いいところに。ささっ、どうせなら先輩も行きましょー!」
「行くってどこに?」
「いいからいいから、ついてきてくださーい」
何がなんだかわからないが……まぁ、中須さんなりに考えがあっての事だろうし。俺に出来る事があるならそれに付き合うのも悪くないか
そんなこんなで、1年生三人に同行してやってきたのはビーナスフォートの中にあるカフェなのだが
「「おぉー」」
「……デカいな」
彼女たちが注文して運ばれてきたのは期間限定らしい巨大なパンケーキ……の生地が虹色になっているバージョン
「これが、伝説の……っ!」
「ホントに食べるの?」
「マウンテンパンケーキ。0勝5敗のかすみんが、完食の極意を教えてあげる」
「……勝ててない」
「中須さん」
「何です先輩?」
「もしかして、俺の事を連れてきたのって食べきれなかった場合、残り全部を押し付けるため……とかじゃないよね?」
「……完食の極意、それは────」
「おいこら、後輩。質問に答えなさい」
「────ひたすら食べ続けるべし! いざ、かかれーっ!」
「いただきますっ」
中須さんはこちらの質問を完全に無視して、天王寺さんと共に巨大パンケーキを食べ始めて幸せそうな表情をしてる
「ほら、しず子も」
「……あむ。っ! 、おいしい!」
「でしょー」
まぁ、気晴らしになるならそれでいいか
「ほら、紘陸先輩もどうぞ」
「……そうだな、いただきます」
「よーっし! 目指せ完食ー! いっくぞー!」
その後、四人でマウンテンパンケーキを食べ進め何とか無事に完食
「……璃奈ちゃんボード。”お腹パンパン”」
「初勝利! いぇーい」
「やったね」
「いぇい」
店を出て完食を喜んでいる後輩たちへ目を向けつつ、中須さんに声をかける
「それで中須さん、これからはどうするつもり?」
「ふっふっふ、愚問ですね紘陸先輩。もちろんショッピングに決まってるじゃないですか!」
「そうなの?」
「そうだよしず子! それじゃしゅっぱーつ!」
「おー」
ノリノリの二人とその後をついていく桜坂さんに続く形で俺もゆっくりと歩き始めてショッピングを開始……と言うわけだが、中須さんは化粧用品? を売ってる店を回り天王寺さんはオーディオ系の店、桜坂さんは……ペットショップを見て回ったりと中々に個性の出た買い物になったと思う
そんなショッピングも一段落つき、キッチンカーでメニューを選んでいる中須さんを一瞥してから、少し離れた所でポスターを眺めている桜坂さんへ視線を向けた
「……」
「天王寺さん、気になる?」
「……うん」
「それじゃ、行ってきな。俺と中須さんも後からそっち行くから」
「わかった」
とてとてと桜坂さんの方へ向かっていく天王寺さんの事を見送ってから、メニュー看板と睨めっこをしてる中須さんに声をかける
「それで中須さん、そろそろ決まりそうかい?」
「ちょっと待ってください、もう少しで決まりそうなんで」
「決まったら教えてね、友達を気にかける後輩への労いって事で奢ってやろう」
「ホントですか!? それじゃあこれとこれと~」
「……少しは手加減してね?」
「わかってますよぅ、それじゃあこれにしよっかな。店員さーん」
中須さんが注文をした後、俺がお会計を済ませて商品を待つ────っと、そうだ今のうちに伝えとくか、中須さん部長だし
「中須さん、次の長期休暇だけど俺多分一週間くらい同好会休むから」
「休むって、何か用事ですか?」
「うん、母さんの方の実家に帰省をね。久々に爺ちゃんと婆ちゃんに顔見せたいし」
「帰省ですか……ちなみにどこです?」
「石川だよ」
「いいですねぇ……っと、ひとまず休みの件は了解です、いつ休むか決まったらまた教えてくださいね」
「わかった」
丁度そんな話を終えたタイミングで中須さんに注文していたものが手渡された
「……甘そうだね」
「先輩って甘いの苦手でしたっけ?」
「好みで言ったら人並みだよ……ただ、今日はもう遠慮したいってだけ」
「あー、なるほど────って、あぁー! また暗い顔してる!」
俺と世間話をしつつ桜坂さんの変化に気づいたらしい中須さんは、一目散に彼女の元へと駆け寄り言葉をかける
「スマイルだよ、しず子」
「かすみさん……」
「今日はヤな事全部忘れて、パーっとあそぼ? それで元気出たら、オーディション頑張って主役取り返そう!」
「っ……知ってたんだ」
「……うん、でも、別に内緒にしなくてもいいじゃん。私たち応援するし……それに、もししず子が落ち込んでるなら話を聞くくらい────」
「大丈夫っ」
「うぇ?」
「心配しないで、私は平気だから、二人ともありがとう。先輩も、付き合ってくれてありがとうございました」
「本当に買い物に付き合っただけだけどね……それより、本当に大丈夫?」
「はい、大丈夫です。今日はもう帰らなくちゃ、じゃあね」
それだけ言うと桜坂さんは一人で帰っていってしまった
「あぁは言ってたけど、しず子。大丈夫じゃないよね」
「……うん」
「そうは言っても、あの子の為に何か出来る事ってなると難しいね」
「紘陸先輩、何かいい案とかないんですか?」
「この状況でそれは流石に無茶ぶりだよ……個人の問題なら首を突っ込むのもやぶさかじゃないけど。流石に他所の部活の事情に首を突っ込むのはね」
しかもちょっとした問題じゃなくて主役を決めるオーディションだ、いくら当人の知人とは言え部外者がほいほい首を突っ込めるものじゃない……本当に、どうしたもんかね
そうして桜坂さんが帰った後、ここでうんうん考えていても仕方がないという事で俺と中須さん、天王寺さんも解散する流れになった────っとその前に、天王寺さんに聞いておきたい事があったのを思い出した
「あっ、そうだ天王寺さん。少し聞きたいことあるんだけど」
「なに?」
「少し前に知り合いからオンラインゲームが出来るパソコンを見繕ってくれないかって相談が来ててさ、少し教えて貰える?」
俺も暇な時にやったりはしてるけど自分で使ってるものの割にあんまり詳しくない……というか親父が仕事用のデスクトップを買い替えるって時に元々使ってたのを譲ってもらってから、色々調べて小遣いとかバイト代やらを貯金して、捻出した予算の範囲でどうにかこうにか組み立てた奴だから若干型落ち気味だし
「わかった。今から少し見に行ってみる?」
「それじゃあお願い」
「中須さんも一緒に行く?」
「うーん……いいえ、私はここで失礼します。紘陸先輩、りな子、また明日ね」
「おう、じゃあな」
「うん、また明日」
こうして中須さんとも別れ天王寺さんと二人でPCショップ目指して歩き始める
「紘陸さん、相談してきた人からどういうゲームがやりたいとか聞いてる?」
「うーん、どれがやりたいとは特に聞いてないかな。強いて言うなら流行ってるゲームが出来るくらいのスペックは欲しいとは言ってた」
「なるほど……流行ってるゲームってジャンルは?」
「ジャンル指定はないって言ってたけど。強いて言うならコミュニケーションが取れるゲーム?」
「コミュニケーションってなると……やっぱりFPSとか?」
「ネトゲでコミュニケーションが取れるってなるとやっぱそうなるか」
「そうなる、後はやっぱりRPGとか」
FPSはともかくRPGなら比較的スペックを抑えても……と思ったが最近のRPGはグラフィックとか色々と凄いしどっちにしてもある程度のスペックは必要だ
「ちなみにだけど万全で動かすってなると幾らくらいになる?」
「えっと……この位」
天王寺さんがスマホの電卓機能を使って計算してもらったけど……流石の値段になるな
「その値段が最低価格って感じ?」
「ううん、自分で組み立てるならもう少し抑えられると思う……けど、今回は組み立て済みのやつを買うつもりなんだよね?」
「今回はそのつもり」
「じゃあやっぱりこの位になる」
そこから色々とPCショップを天王寺さんと巡り、いくつか見繕ってもらったりカタログを確認してみたりとある程度まで絞り込んだ範囲のものを画像を添付してメッセージで送っておく
「これで良しっと、わざわざ付き合ってくれてありがとうね。天王寺さん」
「役に立てたなら良かった」
「役に立ったなんてもんじゃないよ、ホントに助かった……この手の事はやっぱ詳しい人に聞くのが一番だからね」
「紘陸さんも自作のPCを使ってるんだよね?」
「そう……と言っても俺のは親父が使ってた奴の中身を少し弄ったくらいだからすっかり型落ちだけどね」
「買い替えないの?」
「近々買い替えようとは考えてるんだけど……やっぱり時間がね」
「そっか……」
最近は同好会の活動もあるしあんま日数入れてないとは言えバイトだってある……それに休みの日くらいゆっくりしたいって気持ちもある
なんて事も考えつつ天王寺さんの方へ視線を向けると心なしかシュンとしているように見える
「天王寺さん、俺がパソコン買い換える時もまた付き合ってもらってもいい?」
「っ! うん、もちろん!」
「良かった、それじゃあその時はよろしく────っと、そろそろ良い時間だし、帰ろっか」
周りを見るとすっかり日も暮れ始めた頃、わざわざ付き合ってくれた天王寺さんの事を家に送ってから、俺も自分の帰路についた
中須さん達と出かけたりその帰りに天王寺さんに付き合ってもらってPCを吟味したりした次の日、いつものように昼食を摂る為に中庭まで向かっているとベンチに座ってる中須さん、天王寺さんの姿が目に入る
「こんにちは、二人とも」
「あっ、紘陸先輩。こんにちわでーす」
「こんにちは、紘陸さん」
「今日は桜坂さんは一緒じゃないの?」
もしかしたらこの後に来るのかも知れないが一応聞いてみる
「演劇の自主練がしたいから、今日は一人で食べるだそうでーす」
「自主練ねぇ……根を詰めてやってなきゃいいけど」
「──知らなかった、しず子があんな頑固だったなんて。ホント、どうしちゃったんだろ」
「きっと、今のしずくちゃんもしずくちゃんだよ」
「ほぇ?」
「私も、ちょっと同じだったからわかるんだ。自分の事が嫌な気持ち……私の時は、愛さんがぐいって引っ張ってくれた。みんなが、励ましてくれた……だから、ライブが出来た。私には、愛さんが居た……しずくちゃんには────」
「! 私、行ってくるっ」
天王寺さんが言葉を言い切る前に、中須さんは立ち上がって桜坂さんの元まで走りだす
「ナイスエールだったね、天王寺さん」
「そうかな? あんまり実感ない」
「誰かを励ますなんて、そんなもんだよ」
「そうなの、かな?」
「そうだよ。さて────それじゃ俺らは部室に行きますか」
「部室?」
「桜坂さんが落ち込んでるのは皆気づいてるだろうからね。きっと、何かしてるんじゃないかな」
「そっか……そうだね」
こっちの言葉に頷くと天王寺さんはベンチから立って、横に並んで部室に向けて歩き始める。毎度のことながら桜坂さんの力になったのか……と聞かれたら全然力になったような気はしてないけど、きっと中須さんなら桜坂さんの背中を押すだろう
「ホント、つくづく頼りにならない先輩だなぁ……俺」
「紘陸さん、急にどうしたの?」
「いや、同好会の仲間が悩んでるのに俺はなんもできてねぇなと思ってさ」
「そんなことない、紘陸さんは頼りになってる」
「だと良いけどねぇ、さっき言ったけどこういう事って大体実感持てねぇ……けど、まぁどうでもいいか」
頼りになってるだのなってないだの、気にしてたら変にその場で足を止めていままで出来てた事も出来なくなりそうだ
それから少し時は流れて、演劇部の合同公演当日
無事に再オーディションで主演に決まった桜坂さんの大一番だ
「しずくちゃん、オーディション受かって良かったねぇ」
「なんか、私の方まで緊張してきちゃった」
エマさんや上原さんのそんな言葉を横に聞きつつ、開演を待っていると場内にブザーが鳴り、舞台の幕が上がる
この手の劇を見る機会はあまり見る機会はなかったが────感想は、言わずもがなだ。今度、舞台劇って言うのを観に行ってもいいかも知れない