虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君   作:どこかのSさん

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第1話

 御手洗紘陸。虹ヶ咲学園情報処理学科所属の3年生で元生徒会長……なんで生徒会長をやっていたのかと言えば、まぁ成り行きでしかない

 

「ふはぁ……朝、か……」

 

 ニジガクに入学してから確か一年の二学期位だっけか、彼方の時と同じように多分手伝わなかった俺が気にするよなぁというタイミングに遭遇し、そっから成り行きで生徒会の雑務を手伝う事になり、気が付けばどんどん昇進して二年に上がったタイミングで当時の会長に推薦されて現生徒会長に席を譲るまではそれなりに仕事をしていた

 

「起きんの……だりぃ……けど、起きて準備しねぇと」

 

 三年生になってから少し経った訳で、生徒会長でもなくなった以上俺が朝飯を作る日以外は基本的にもう少し後に起きるのだが、今日はそういう訳にはいかない

 布団の近くに置いてあった伊達メガネをかけて、いつの間にか着馴染んでいたニジガクの制服に視線を向ける

 

「……頑張りますか」

 

 今日は、ある意味でケジメの日だ。本来であれば何かが始まる日だったんだろう……けど、そんな始まりは────始まる前に終わっちまった

 

 

 

 

 

 ──かすみさん、もっと振りを大きく! 熱量が感じられません! 

 

 時刻は朝の六時前、ジャージに着替えた俺は気づけば習慣になっていた朝のランニングをしながら、あの時の事を思い出す

 

 ──せつ菜ちゃん、少し休憩しよう? 

 

 ──詰め込みすぎはよくないよ

 

 あの日、あの時、俺に何が出来たのか

 

 ──そんな時間はありません! 

 

 俺が背中を押した……押してしまった後輩に対して、なんと言葉をかけるべきだったのだろうか

 

 ──スクールアイドルが大好きなんでしょう!? やりたいんでしょう!? 

 

 スポットライトを浴びる彼女たちではなく、裏方だった俺ですら気づいたズレ……気づいてもなお、あの空間が心地よくて、目を背けてしまった……致命的なズレ

 

 ──こんなパフォーマンスでは、ファンのみんなに、大好きな気持ちは届きませんよ! 

 

 ──でも、こんなの全然……可愛くないですッ!! 

 

 今でも、後輩の言葉が耳に残っている

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 あの時の事を思い出して、いつもより早いペースで走ってしまっていたらしい。同じコースの筈なのに、半分まで走ったところで息が上がってしまっている

 

「……っ」

 

 ──俺は、どうすれば良かったのだろう

 

 ──俺に、何が出来たのだろう

 

 自分の中にある昏い感情が、今の俺にそう告げる。そして何よりも、あの時自分が言った言葉が、俺自身の心を泥水のように濁らせていた

 

 ──何とかするから、ここは俺に任せてくれ

 

「何とかなんて……出来てねぇじゃねぇかよ……くそっ……」

 

 結局、俺は彼女の側に立ってしまった

 彼女たちの間にあったズレを修正するのではなく、ズレた現状を放置して、これから後輩の──―優木せつ菜の、最初で最後のライブを手伝いをしようとしている

 

「………………」

 

 どれだけ考えても、濁った心をどうにかする事なんざできない……俺は、少しの休憩をしてから、再びランニングコースを走り始めた

 

 

 

 

 その日の午後、学校が終わった後、俺と後輩────優木せつ菜は今日の為に借りたステージの準備をしていた

 

「先輩」

 

「何かミスでもあった?」

 

「いえ、そうじゃなくて……お礼を、言っておこうと思って」

 

「お礼なんて、言われるようなことをした覚えはないよ」

 

 イヤホンで今日の音源が問題なく流れるかを確認しつつ、せつ菜に対して言葉を返す

 

「第一、今回の件だって元を辿ればこっちの責任だよ……気づいてたのに、あの場所が好きで、感じたズレをどうこうしようともしなかった」

 

「そんなことないです! 先輩は────」

 

「あるんだよ。そうじゃなきゃ……あんまりにもやるせないでしょ」

 

 彼女の言葉を遮って、俺は最後のセッティングが問題なく終わったことを確認して彼女へ向けてグッドサインを送る

 

「セッティング問題なし、頑張って」

 

「はい、行ってきます」

 

 そう言って彼女はステージの方へと向かうための一歩を踏み出したところで、改めてこちらを向く

 

「先輩、少しの間でしたが……先輩が背中を押してくれたから、こうしてスクールアイドルに取り組むことが出来ました。だから……ありがとうございました!」

 

「何度も言ってるでしょ、お礼なんて言われる事……した覚えはないよ」

 

 ここまで頑張ったのは、他でもない彼女なのだから

 

 

 

 

 彼女にとって、最後のライブは何事もなく終わった。裏からわずかに見えたファンが彼女へと向けるキラキラとした顔を見れなくなるのは残念だが……スクールアイドル優木せつ菜は、あの日をもって終わりを告げたのだから

 

「……うん、やっぱ微妙」

 

 翌日のお昼休み、俺は中庭で自分用に作った弁当を食べて率直な感想を言う。弟は美味しいと言ってくれるが、やっぱり自分で自分に作ったものだからホントに美味いのかどうかよくわからん

 

「あー! ようやく見つけましたよ! 紘陸先輩!」

 

 騒がしくこちらにやってきたのは中須かすみさん、スクールアイドル同好会に所属してる一年生で少しあざといもののよく言えば天真爛漫、悪く言うと騒がしい後輩だ

 

「……相変わらず騒がし────元気だね、中須さんは。おかげでこっちまで元気になってくるよ」

 

「えへへーそうですかー……じゃなくて! 同好会の件! 何とかするって言ったっきり音沙汰なしってどういう事ですか!?」

 

「あぁ、それね。あの後、せつ菜と色々話した結果、同好会は廃部にする方針で話が決まったから……中須さん、からあげ食べる?」

 

 まぁこっちに絡んできた以上、聞いてくるよな……と言うのも込みで彼女に弁当のからあげを献上しつつ、最終的な結果を伝える

 

「あっ、はい、いただきます──────ん? 紘陸先輩、さっき何て言いました?」

 

「からあげ食べる?」

 

「じゃなくて! その前ですよ!」

 

「あぁ、せつ菜と話した結果、同好会は廃部にする方針で話が決まったから」

 

「ど! う! い! う! こ! と! で! す! か! 先輩、何とかするって言いましたよね!? それが、どうしてそうなるんですか!」

 

「どうしても何も、本人の意思が固いんだから仕方ないでしょ?」

 

「うぐぅ……で、でも紘陸先輩ならどうにか────」

 

「ならなかったから、廃部の方針で話が進んだんだよ」

 

「納得できません!」

 

「だろうね、けど本人の意思が固いんだから仕方なし……ごちそうさまでした」

 

 中須さんと話をしている間に気づけば弁当箱の中身は空っぽになっていた。食事を終えた以上、これ以上ここにいる必要もないし……さっさと退散するか

 

「それじゃあ中須さん、そういう事だから……ごめんね、最後まで頼りにならない先輩で」

 

「えっ、ちょっと! 先輩!? まだ話は────」

 

 なおも会話を継続しようとした中須さんをその場に残して、俺はそそくさと教室へと戻っていった

 

 

 

 

 中須さんが襲来した昼休みと、午後の授業を問題なく終えた放課後、今日はこれ以上何をするってわけでもないから帰ろうかとも思ったのだが……そう言えば同好会の部室にノートPC置きっぱなしなの思い出した

 

「そういや、置きっぱなしのままだっけ」

 

 あのPCの中には色々とデータも入ってるし、そのままにしとく訳にもいかねぇし。と、そんな感じで部室棟から同好会────元同好会の部室を目指して歩いていると、対面から見知った顔が二人歩いてくるのが見える

 

「おっ、宮下さんに天王寺さん、こんにちは」

 

「あっ、ヒロ先輩!」

 

「こんにちは、紘陸さん」

 

 目の前にやってきたのは宮下愛さんと天王寺璃奈さん、宮下さんが二年生で天王寺さんが一年生だが、二人とも俺と同じ情報処理学科の後輩だ

 

「二人は今から帰り?」

 

「これからりなりーと買い物行く予定なんだ、ね? りなりー」

 

「うん、楽しみ」

 

「あっ、ヒロ先輩も一緒に来る?」

 

「せっかくのお誘いだけど、これから部室に荷物を取りに行かなきゃでね。二人で楽しんできて」

 

「そっかー」

 

 誘いを断ったから少し残念な表情を浮かべる宮下さんの横で、相変わらず少し表情のわかりづらい天王寺さんだけど、多分彼女も残念そうにしている……申し訳ないが、今回ばっかりは仕方ないんだ

 

「あっ、そう言えば。さっきそこでスクールアイドル同好会の部室探してる子達いたよ?」

 

「……それホント?」

 

「うん、確かヒロ先輩って同好会の部員だったよね?」

 

「まぁ、そうだね……とりあえず教えてくれてありがと、買い物楽しんできて!」

 

「えっ、うん、ヒロ先輩は────って早っ!?」

 

 まずい、正直かなりまずい、恐らく昨日のせつ菜のライブを見て同好会を探しているであろう人だろう。同好会が廃部になったのは直近も直近……と言うか昨日のライブ終わりに俺とせつ菜で勝手に決めたことだ、だから場合によっちゃ彼女と同好会を探しているであろう子達がバッタリ遭遇する可能性がめちゃめちゃ高い

 大急ぎで同好会の部室がある場所まで向かうと、案の定────探していたであろう二人組と中川菜々(現生徒会長)の姿が見えた、一言二言話をした後、菜々ちゃんの方は同好会のプレート取り外すと、二人組を置いてこっちへ引き返してくる

 

「御手洗先輩?」

 

 丁度バッタリ会う形になってしまったが、菜々ちゃんは俺の方を見ると怪訝な表情を浮かべた

 

「やっぽ、菜々ちゃん」

 

「菜々ちゃんはやめてください。それより、部室棟に何か御用ですか?」

 

「置きっぱなしだったノートPCを取りにね、そっちは?」

 

「廃部になった同好会のプレートを取りに……荷物を取るのでしたら、これ、鍵です」

 

「ありがと……そりゃ廃部になってんだから鍵かかってるよね、二度手間になるところだった」

 

「御手洗先輩は相変わらず変に抜けてますね」

 

「よく言われるよ」

 

「……私はまだ仕事が残っているので、これで。鍵は職員室まで返しておいてください」

 

「了解」

 

 そう言って菜々ちゃんと別れてから、いまだ部室の前に居た二人の間をすり抜けて鍵を回して中に入ろうとする

 

「あのっ」

 

「ん? 何か御用かな?」

 

「同好会……廃部になったって……」

 

「彼女から聞いての通りだよ、今日をもって同好会は廃部になりました」

 

 そう言いながら鍵を回して部室の中に入り、窓際に置かれていたノートPCを回収する

 

「あの、何があったんですか?」

 

 開けっ放しにしてた部室の扉から、そんな言葉が聞こえてくる。そう聞いてきたのは……確か、普通科の高咲侑さんだっけか

 

「何がも何も、方向性が食いちがちゃっただけだよ。バンドとかでも良くあるでしょ? そういう事」

 

「方向性が食い違ったって……なら、せつ菜ちゃんはどうして────」

 

「それも聞いたでしょ、今の生徒会長から……優木せつ菜はスクールアイドルを辞めた、それは本人が決めたことだし、俺らにはどうするつもりもない」

 

「他の人達は、納得してるんですか?」

 

 今度俺にそう聞いてきたのは、確か上原歩夢さんだったか

 

「納得は、してないでしょ……今回の廃部はせつ菜の意思を汲んで俺が独断で生徒会長に進言した事だからね。そういう事だから、それじゃね」

 

 これ以上、何を話すという事もない。目当てのモノを取ったし部室から出て鍵を閉めた後、なんと言えばいいのかわからない表情の二人を置いてその場を後にした

 

 

 

 

 空が茜色に染まり始めた頃、回収したノートPCで軽い作業を終えた俺が校舎から出ると時間帯的に日陰になったベンチに横たわる見知った姿が目に入る

 

「こんなところで寝てると、風邪ひくぞ」

 

「…………紘陸くん」

 

「よう、彼方。何とも言えない顔してるな」

 

 ひやりとする校舎の壁に背を預けて、彼方の近くにしゃがみ込む

 

「ねぇ、紘陸くん……同好会、廃部になっちゃったね」

 

「……あぁ、そうだな」

 

「彼方ちゃん、信じてたんだよ? 君の何とかするって言葉」

 

「……信じてくれてたのに悪いな、こんな結末で」

 

「……許さないよ」

 

「だろうな、それでいい」

 

 彼方の言葉を聞いて、案の定そうなるだろうなと言う笑みが浮かぶ……そりゃそうだ、結局俺は言葉だけでなんもできなかったんだから

 

「紘陸くん、一人で抱え込もうとしてる」

 

「……そう見えるか?」

 

「うん、だから……許さない」

 

「そっか、それなら……お前は俺の事を許さないでくれ、そっちの方が、幾分か気が楽になる」

 

 それだけ言い残して、俺はその場から立ち上がり、帰路についた

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