虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君   作:どこかのSさん

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第3話

 

「返すわ、生徒名簿。勝手に借りちゃってごめんなさいね」

 

「優木せつ菜と言う名前は、どこにも見つけられなかったわ」

 

 少し演技交じりに言う彼女だが、この感じだと生徒名簿を借りたタイミングからすでにある程度の予測は出来ていたのだろう

 

「いないはずのせつ菜と、どうやって廃部のやり取りが出来たのかしらね……教えてくれる、優木せつ菜さん?」

 

 その言葉に対し、菜々ちゃんは肯定も否定もせず無言を貫く

 

「否定しないのね」

 

「元々隠しきれるものとは思っていませんでしたから……ですが、同好会以外の方に指摘されたのは予想外でした」

 

「偶々同好会に親友が居てね、なんで生徒会長が正体を隠してスクールアイドルをやっていたのか興味があるんだけど……彼女たちが聞きたいのは、そこじゃないみたい」

 

「せつ菜ちゃん……」

 

「っ!」

 

 朝香さんの言葉に続くように、エマさんがせつ菜の名前を呼んだ

 

「ちょっとお休みするだけって言ってたじゃん」

 

「グループを解散する時に決めてたんですか……? 私たちとは、もう……」

 

「桜坂さん、それは────」

 

「紘陸先輩! いいです、私の口から……言います」

 

 俺の言葉を遮るように、彼女は言葉を発する

 

「優木せつ菜は、もういません……私は、スクールアイドルを辞めたんです。もし皆さんがスクールアイドルを続けるなら……ラブライブを目指すつもりなら、みなさんだけで続けてください」

 

 彼女が告げたのは、明確な拒絶の言葉だった

 

 

 

 

 生徒会室から退出した後、俺は久々に彼方と二人で通学路を歩いていた

 

「紘陸くんは知ってたんだね……生徒会長が、せつ菜さんだって」

 

「あぁ、ある意味じゃ優木せつ菜は俺と菜々ちゃんの二人で始めたスクールアイドルだからな」

 

 彼女がポツリと呟いた言葉に対して、俺も肯定の返事をする

 

「そうだったんだ」

 

「あぁ、最初は曲どうするかとか、衣装のデザインどうするかとか……すげぇ忙しかった、生徒会長やってた時に出来た伝手をめちゃめちゃ頼ったし」

 

 まぁ、そこに関しては同好会として活動始めてからも変わんなかったか……けど、初めて彼女が優木せつ菜としてステージに立った時、舞台袖から見た自分の想いを伝えるために懸命に踊る彼女の姿と、見に来てくれたファンの笑顔を見た時はすげぇ嬉しかったな

 

「……紘陸くん、なんか嬉しそうだね」

 

「ん? 顔でも緩んでたか?」

 

「うん、ゆるゆるだったよぉ」

 

「マジか……」

 

 そこまで表情筋が緩むことはなかったと思うんだけどな

 

「ねぇ、紘陸くん……紘陸くんは、どう思ってるの? せつ菜ちゃんがスクールアイドルを辞めちゃった事」

 

「……始めた時からずっと、どういう決断を下すにしても本人の意思を尊重しようと考えてたよ」

 

 茜の色の日差しが差し込む通学路の途中でふと、隣を歩いていた彼方が足を止めた

 

「どうした?」

 

「……じゃない」

 

「えっ?」

 

「そうじゃないよ、紘陸くん。私が聞きたいのは、そうじゃない……」

 

 そうじゃないって言われても、さっき言ったのが俺の考えであることに変わりないんだからそうじゃないもクソもないだろう

 

「いや、そうじゃないって言われてもな。俺の考えはさっき言った通りなわけで────」

 

「違うよ、私が聞きたいのは……紘陸くん、思いだよ」

 

「俺の、思い?」

 

 俺の思いって、一体どういう事だ? 

 

「紘陸くんとせつ菜ちゃんは今まで一緒にやってきたんでしょ? 同好会を始める前からずっと、せつ菜ちゃんと一緒に、紘陸くんだって”優木せつ菜”を作ってきたんじゃないの?」

 

「それは……」

 

「今の紘陸くんはただ自分の中にある思いから、気持ちから目を逸らしてるだけだよ、自分の考えなんて都合のいい言葉を使って……せつ菜ちゃんの味方をするって言い訳して、どうして自分の気持ちを他でもないせつ菜ちゃん本人に伝えないの?」

 

 俺が、目を逸らしてる? 自分の気持ちから? 

 

「言ってる意味、よくわかんねぇよ……」

 

 少し近づいてくる彼方に対して、俺は自分でも気づかないうちに数歩後ずさっていた

 

「紘陸くん、紘陸くんがせつ菜ちゃんに自分の気持ちを伝えたのは、いつ?」

 

「そんなの、アイツから辞めるって言葉を聞いた、とき────」

 

 その言葉を口に出して自分の思考が頭から水をかけられたように一気に冷めていく……あの日から、せつ菜と中須さんの意見がすれ違ってから、俺は一度でも自分の意見を言ったか? 自分の中にある気持ちを、口に出したのは何時だ? 

 気が付けば、俺にとって”優木せつ菜”は、彼女の事を示す言葉になっちまってなかったか? 彼女が優木せつ菜を辞めるって言った時、俺は自分の言葉で、彼女に対して何かを伝えたか? 

 

「すまん、彼方。考えがまとまんねぇ」

 

「紘陸くん、私が同好会を廃部にしたって言った時の言葉、覚えてる?」

 

「許さない、だろ?」

 

「うん、紘陸くんはいっつも一人で抱え込もうとしちゃうから……いっつも中途半端に色々隠して、勝手に背負ってさ」

 

 そう言った彼方は、再び俺の横までやってきて手を取った

 

「あっ……」

 

「せつ菜ちゃんのことだって、正体がバレなきゃそのまま自分一人で背負いこむつもりだったでしょ? 一人で背負いこんで、一人で責任感じて、一生そのまま……だから私は許さないって言ったんだよ?」

 

 俺の手を取ったまま、ゆっくりとこちらに視線を合わせて、彼女は言葉を続ける

 

「一人で抱え込むのは、許さない。だって、仲間だもん、私だけじゃなくって、かすみちゃんも、エマちゃんも、せつ菜ちゃんだってそう」

 

「仲間……か」

 

 そうか……俺はいつの間にか、自分の中で線を引いちまってたんだな。ステージに立つ彼女たちと、それを裏から見る事しかできない俺、その間に彼女たちと自分は違うって

 

「そっか、俺も同好会の仲間だったけな」

 

「そうだよ? 忘れてたの?」

 

「あぁ、今まですっかり忘れてた」

 

「紘陸くんは、うっかりさんだね」

 

「……そうだな」

 

 ホントに、うっかりしてたよ

 

「明日、伝えてくるよ。せつ菜に────スクールアイドル同好会の、御手洗紘陸としての気持ちを」

 

「うん、頑張ってね」

 

 少しだけクリアになった思考から出た言葉に対して、彼方はいつもと変わらない笑みを浮かべてその言葉を返してくれた

 

 

 

 

 その日、夢を見た

 

『中川さん、何見てるの?』

 

『あっ、御手洗会長、これは、その……』

 

 今から一年くらい前の、生徒会室での記憶だ。俺が引き継ぎで生徒会長になって、菜々ちゃんが副会長になってすぐの頃、教師から頼まれた仕事を終わらせて生徒会室に戻ると、菜々ちゃんは珍しくスマホで何かの動画を見ていた

 

『それって、アイドル?』

 

「……はい、スクールアイドルです」

 

 スクールアイドル、当時の俺は風の噂くらいでしか聞いてなかった。それこそ中学時代の同級生が、推しのスクールアイドルがいるだのなんだので進学先をそこに決めたとか、その程度だ

 

『興味あるの?』

 

『いえ、別に……そういうわけでは……』

 

『その割には、目を輝かせてたみたいだけど?』

 

『なっ!? い、いつから見てたんですか!?』

 

『うーん、時間換算にすると一分二十秒くらい前から?』

 

『ほぼ最初からじゃないですかっ! どうして声をかけてくれなかったんですか!?』

 

『随分と楽しそうに見てたからね、それに鍛えてたスニークスキルを披露するのにもいい機会かなって』

 

『どうしてそんなものを鍛えてるんですか! 会長、誤解しないでくださいね? これは決して────』

 

『いいじゃん、やってみれば?』

 

『────えっ?』

 

 その時は何気ない世間話な感じで言ったことを覚えてる

 

『興味があるんでしょ? それなら何事も挑戦だよ』

 

『でも、そんな簡単には……』

 

『それじゃ、俺も一緒にやるよ』

 

『はい!?』

 

 サポートをするって意味だったんだけど、思い返してみるとこの時の言葉足らず感やべぇな……この感じだと俺も一緒にステージで踊って歌うみたいに聞こえる

 

『だから、俺も一緒にやるよ、スクールアイドル』

 

『はっ、いや、しかし、男性スクールアイドルと言うのは』

 

『あぁごめん、これは語弊だね。俺が君のサポートをするって事』

 

『でも、それは……』

 

『俺とか学校側に迷惑が掛かるかも、なんて思ってるならそれは間違いだよ。何事もチャレンジするのは良いと思うし……何よりも、俺が見てみたい』

 

『御手洗会長……』

 

『それに、興味があるって事は中川さんにもあるんじゃない? 伝えたい思いとか』

 

『伝えたい……思い……私は、伝えてみたいです。私の大好きって思いをっ』

 

『よし、それじゃ、やってみよう。君の大好きって気持ちを伝える為に────スクールアイドルを!』

 

『……はいっ!』

 

 そうして、彼女に手を差し出したところで少しずつ目の前の光景がぼんやりと薄らいでいった

 

 

 

 

「しっかし、どうすりゃいいんだろうな」

 

 あの日から何日か経ったのだが、中庭で腕を組んでうんうんと唸ってみる。いざ自分の気持ちを彼女に伝えるとなると……なんて言えばいいのかわからん。それに怖気づいたまま、気づいたら何日か経っていた

 

「おやぁ、こんなところで何してるのかなぁ?」

 

 と、耳に聞き馴染みのある声が耳に響く

 

「……彼方か」

 

「やっぽー紘陸くん……その感じだと、何か気づいた感じ?」

 

「あぁ、今になってようやく……俺がせつ菜に言いたかった言葉を見つけられたよ」

 

「そっか、それでその言葉をせつ菜ちゃんに伝えられたの?」

 

「いや……いざそれを伝えるとなると怖くなっちまってさ、ぶっちゃけると怖気づいてる」

 

 なんて伝えればいいのか、伝えるためにはどうすればいいのか……絶賛思い悩んでいる所だ

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、彼方は少し悪戯交じりな笑みを浮かべて、こっちに視線を向けている

 

「……なんだよ」

 

「べっつにー、けど……もしかしたらせつ菜ちゃんにそれを伝える機会がすぐに来たりして」

 

「そんな都合のいいタイミングがあるわけ────」

 

 言葉を続けようとしたタイミングで、校内放送が始まった

 

『普通科二年、中川菜々さん、優木せつ菜さん、至急西棟屋上まで来てください』

 

 特定の生徒を特定の場所まで呼び出すためだけの短い放送だが……さっきの声は、上原さん? 

 

「もしかして、お前らなんか仕掛けたか?」

 

「んっふふー、彼方ちゃんたちは何もしてないよ? ただ、侑ちゃんがせつ菜ちゃんと話してみるって言うのを聞いただけ」

 

「……なるほどな」

 

 少なくとも、俺が一人でうんうんと悩んでいる間に何かしらがあったらしい……詳しい事はよくわからないがまぁ────

 

「──少し用事を思い出したから、行ってくるわ」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 西棟の屋上か、学校の中を走るのは普通にダメな行為だが、今回ばっかりは許してくれよ

 

 

 

 

 西棟の屋上まで走って向かうと、丁度高咲さんと菜々ちゃんが何やら話をしてるようだった

 

「──もう全部わかっているんでしょう! 私が同好会に居たら、みんなの為にならないんです! 私が居たら、ラブライブに出られないんですよッ!」

 

「だったら! だったらラブライブなんて出なくていいっ!」

 

 ある程度まで近づいた所で、せつ菜と高咲さんのそんな言葉が聞こえてきた

 

「あっ、いや、ラブライブがどうだからとかじゃなくて……アタシは、せつ菜ちゃんが幸せになれないのが嫌なだけ、ラブライブみたいな最高のステージじゃなくていいんだよ、せつ菜ちゃんの歌が聞ければ、十分なんだ」

 

 そう言った彼女は一歩ずつ、菜々ちゃんへと近づいていく

 

「スクールアイドルがいて、ファンがいる、それでいいんじゃない?」

 

 ──スクールアイドルがいて、ファンがいる……か

 

 この場で入るのもどうかとは思ったが、俺はゆっくりと扉を開けて屋上に出ると二人がこちらを向く、なんと言えばいいのかわからない表情の菜々ちゃんとは違い、高咲さんがこっちに気づいて笑みを見せる

 

「御手洗先輩も来たんですね」

 

「……わかってた、みたいだね」

 

「はい、昨日彼方さんが来るかも知れないって言っていたので」

 

「そっか」

 

 それだけ言ってから、俺は菜々ちゃんの────せつ菜の前に立つ

 

「先輩……」

 

「色々と言いたい事が出来たけど……まずは、ごめん!」

 

 そう言って俺が頭を下げると彼女は驚いた表情を浮かべた

 

「な、なんで先輩が謝るんですか!?」

 

「今まで君から────優木せつ菜から逃げてきちゃったからね、これはその謝罪」

 

 頭を上げて軽く制服の襟を正してから、改めて彼女に向き合う

 

「同好会を廃部にするって話をしたとき、俺はそれを肯定した────それでいいって思ったから」

 

 何も言わない菜々ちゃんに対し、言葉を続ける

 

「けど、それは君の気持ちからも……俺自身の気持ちからも目を逸らしてただけだった」

 

「先輩の……気持ち?」

 

「うん、俺は……俺は君に、スクールアイドルを続けて欲しいと思ってる」

 

「っ先輩まで……なんで今更……」

 

「ファンだから、かな……高咲さんの言った、スクールアイドルがいてファンがいる、その言葉を聞いてハッとしたよ。それでいいんだって」

 

 気が付けば、いつの間にか見失ってしまっていた……大きいステージじゃなければ多くの人に気持ちを届けられない、そう思ってしまっていた

 

「菜々ちゃんが────優木せつ菜が伝えたかった”大好き”って気持ちは、ラブライブに出ないと伝わらないものなんかじゃなかった。どんな場所でも、どんなステージでも、伝えたい気持ちは、届けたい君の大好きは伝えられる。でしょ? 高咲さん」

 

 気づけば、俺の隣までやってきた高咲さんにに、そう問いかける

 

「はい! あの日に見たせつ菜ちゃんのステージでアタシはせつ菜ちゃんから、大好きな気持ちをもらったんだよ?」

 

「それと、君から大好きだって気持ちをもらったのは高咲さんだけじゃない、ファンのみんなだってそうだし……俺だってそうだ」

 

 彼女がスクールアイドルを始めから、どれだけ頑張ったのかを俺は知ってる

 

「俺たちは……スクールアイドル”優木せつ菜”から、大好きだって気持ちを貰ったんだ」

 

「────本当に、いいんですか?」

 

 ふと、目の前にいる彼女からそんな言葉が漏れる

 

「私の本当のわがままを、大好きを貫いてもいいんですか?」

 

 彼女がした問いに対する答えは、決まってる

 

「もちろん!」

 

「当たり前でしょ、俺たちは君が────優木せつ菜が大好きなんだから」

 

「っ!」

 

 目の前にいる彼女は俺たちの目の前から、太陽の光がさす方へと歩き始める

 

「本当に……わかってるんですか? 私は貴方たちが思ってるより、ずっとわがままなんですよ?」

 

「知ってるよ。それに……そんな君が俺たちは大好きなんだから、ね? 高咲さん」

 

「はい!」

 

「まったく────どうなっても知りませんよ!」

 

 そう言った彼女は────優木せつ菜は、光の射す屋上から、高らかに宣言した

 

「これは、始まりの歌です!」

 

 その日から、活動を辞めていた優木せつ菜はスクールアイドル同好会へと復帰し、一度は廃部になった同好会だが、新たな体制、新たなメンバーを加えて、再び動き出した

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