虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君   作:どこかのSさん

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第4.5話(幕間)

 スマートフォンから鳴り響くアラームの音で目を覚ます。時間を確認するいつも通りの朝六時

 

「んんぅ……もう、朝か」

 

 昨日は夜遅くまでちょっとした作業をしていたからいつもより思考が曇っているがいつもの日課をこなさないのは少し気分が落ちる

 ゆっくりとした動きで布団から起き上がって軽く伸びをする。朝特有の気怠さを感じながらランニング用のジャージに着替え、頬を軽くパンッと叩いて意識をシャキッとさせる

 

「あっ、おはよう兄ちゃん」

 

「おはよ、今日も部活か?」

 

「うん。少し先だけど部でイベントに出ることが決まってさ、みんな気合い入れてるから俺も頑張らなきゃ」

 

 俺が部屋から出るのと同じタイミングで隣の部屋のドアが開き東雲の制服を着てスポーツバッグを持った実宙が出てきた

 

「頑張るのは良いが、頑張りすぎは身体に毒だぞ?」

 

「わかってるよ……て言うかそれは兄ちゃんだって同じでしょ」

 

「……さてと、そんじゃ兄ちゃんランニング行ってくるから」

 

「あっ、誤魔化した」

 

「うっせ」

 

 生意気言ってきた弟に一言だけ言葉を返してさっさとランニングへと向かった

 

 

 

 

 

 時間は少し進み昼休み、いつものように弁当片手に中庭へ向かう

 

「あれ? 御手洗先輩?」

 

「おー、紘陸くんだー」

 

「桜坂さんと……彼方?」

 

 遭遇したのは弁当を持った彼方と売店の袋を持った桜坂さん……周りにエマさんとか中須さんの姿も見えないし、この二人の組み合わせって言うのは中々に珍しいかもしれない

 

「二人も昼は中庭か?」

 

「うん、そのつもりだよー。それと、しずくちゃんとはさっき偶然会ったんだぁ」

 

「そうなのか?」

 

「はい、今日は天気もいいので中庭でお昼にしようと思って」

 

 成る程、確かに今日は天気と気温の両方でかなり気持ちいい日なわけだし、屋外で昼飯にしたくなる気持ちもわかる

 

「と言うか俺、珍しい組み合わせとは思ったけど……もしかして顔に出てたか?」

 

「いえ、そんなことはないと思いますけど……どうなんでしょう、彼方さん」

 

「顔には出てなかったよー、でもね、彼方ちゃんたちを見た時に少し意外そうな表情してたからそうなんじゃないかなぁって」

 

「……なるほどな」

 

 絶妙に釈然としないがまぁ、彼方が言うならそう言う事なんだろう

 いつまでも中庭の前で話をしているわけにはいかないし、俺がいつも昼食を取っている場所まで三人で向かい、各々で食前の挨拶をしてから弁当だったり惣菜パンだったりを食べ始める

 

「御手洗先輩、今日はサンドイッチですか?」

 

「ん? あぁ今日は朝からパンの気分だったからな」

 

「紘陸くんは毎回お弁当だよねー」

 

「彼方もそうだろ……まぁ、毎回買うのも金がかかるしな。料理自体も嫌いじゃないしな」

 

 そう言いつつランチボックスの中に収められているサンドイッチを口に放りこんでいると桜坂さんは俺に対して少しだけ意外そうな視線を向けてくる

 

「ん、どうかした?」

 

「いえ、御手洗先輩って料理出来たんだなと……」

 

「あれ? 桜坂さん知らなかったっけ?」

 

「はい、前の時はこうしてお昼をご一緒する機会もありませんでしたから」

 

 桜坂さんにそう言われて改めてこれまでの事を思い返してみると、確かにこうして桜坂さんと昼飯を一緒に食べるのは初めてかも知れない。そうやって思い返してみるとまともに昼食を一緒にしたことのあるのは菜々ちゃんと彼方くらいか

 こうしてみると思ったよりも一人飯をしてる時の方が多いな、誰かと一緒にってなったら菜々ちゃんと彼方以外だと橙李くらいしかいないし……なんて考えていれば隣でエサ待ちの魚みたいに口を開けている彼方も諦めるかと思ったがそんなことはなさそうだ

 

「それで、彼方……さっきからその口はなんだ?」

 

「一つちょーだい」

 

「……対価は?」

 

「からあげ一つ」

 

「……ほれ」

 

 まぁ、それならいいか……彼方の口にサンドイッチを一つ放り込むと、もぐもぐとサンドイッチを食べ始め、少しするとごくりと飲み込んだ

 

「んー、やっぱり紘陸くんはお料理上手だね……はい、お返しどーぞ」

 

「おう、サンキュー」

 

 早速受け取ろうとしたが、彼方が箸で掴んだからあげを受け取ろうとしたが……彼方はこっちに渡そうとしない

 

「彼方? 早く渡して欲しいんだけど……」

 

「うん、だから渡すよ? はい、あーん」

 

「……普通に手渡しじゃダメか?」

 

「あーん」

 

「……あーん」

 

 彼方からあーんされたからあげを食べる

 うん、うまい……うまいが、流石に恥ずかしい。一緒に食べてた桜坂さんも少し顔を赤くしてるし……と言うか、肝心の彼方は特に照れた様子もない

 

「彼方、お前に照れとかはないのか?」

 

「照れ?」

 

「……はぁ、もういいか」

 

 これ以上何かを言うと俺の方が恥ずかしくなりそうだ

 

「あの、御手洗先輩と彼方さんって……」

 

「別にそう言うんじゃないからな? ただ思ったより長い付き合いで距離感が近いだけで」

 

「えっと、確か虹ヶ咲に入学した頃の付き合い……なんでしたっけ?」

 

「あぁ、オープンキャンパスの時に一回知り合って、そんで入学式で再会してって感じだな」

 

「すっかり長い付き合いになったもんねぇ」

 

「だなぁ……っと、そうだ。桜坂さんも、よかったら一つどうぞ」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 彼方には渡したのに桜坂さんに渡さないのは少しだけ不公平に感じたからサンドイッチを一つ彼女に渡してから、残りを口の中に放り込んだ

 

 

 

 

 

 お昼休みから時間は進み放課後、今日は同好会の活動も基礎練習と言う事もあり俺は俺で他のメンバーと別れて頼み事がてらに付き合いの長いもう一人に会いに来た

 

「と言う事があってだな、付き合いの長くなったお前にも会いに来た」

 

「理由が随分とざっくりしてるね」

 

「今更だろ」

 

「……それもそうだね。それで、わざわざ雑談をしに来たわけじゃないだろう?」

 

「まぁな、けど本題の件は少し意見貰いたかっただけだし……しばらくはゆっくり雑談でもしながら親交を深めようぜ」

 

「気色が悪いね」

 

「流石にそれはひどくないか?」

 

 自分でも少しこの言葉選びは気色悪いかとは考えたけれども、真っ向から言われると流石に傷つく

 

「それで、親交を深めると言っても具体的には何をするんだい?」

 

「……考えてなかった」

 

「変なところで考えなしだね……けど、それなら妹自慢でも聞いてもらおうかな」

 

「いっつもしてんだろ、小学4年の妹が天使だのって」

 

「今年から一つ学年が上がって今は5年生だね。最後に会ったのは今年の年末だけど、気遣いのできる心優しい子になってて何よりだよ」

 

「……視点が兄妹と言うか親とか親戚のソレじゃないか?」

 

「仕方ないだろう、毎年の夏休みと年末の帰省で会えるとは言え3年も離れて暮らしているんだから」

 

「……そう言うもんか?」

 

「そう言うものさ、君も弟くんと離れて暮らしてみると僕の気持ちが実感できると思うよ?」

 

「俺と実宙の場合は年も近いし……お互い高校生だから案外そう言う事は気になんないと思うぞ」

 

「いや、絶対になると断言できるよ。なんせ兄や姉は等しく弟や妹を愛しているものだからね」

 

「いや、流石にそれは個人差あるだろ」

 

 流石に等しく愛しているは過言だと思う、むしろ程よく中は良いがある程度の距離感はあるのが自然だとも思うんだが……まぁ、そこは家によるって事にしておこう、橙李もそうだが、思い返すと彼方も妹さんの事を溺愛してるし

 

「と言うか、橙李はそんな感じで大丈夫なのか?」

 

「何がだい?」

 

「いや、今年で小5って事は世間一般的にはそろそろ反抗期に入ってもおかしくない時期だし、そうなったらお前も────」

 

「ウチの妹に反抗期はないよ」

 

「いや、別にないって事はないし気づいてないだけで反抗期は────」

 

「ない、絶対にありえない、ウチの瑠璃乃が反抗期で僕の事をうざがったり、どこの馬の骨とも知らない男を連れてくるなんて事……地球が滅ぼうとあってはならない事だよ」

 

「いや、俺は別にそろそろ反抗期でもおかしくないってだけで、そこまで話を飛躍させたつもりは────」

 

「前提が間違っているよ、紘陸。瑠璃乃はね、とても気遣い屋さんなんだ、明るくて気配りができて、いつも周りを見ていて誰かの為に頑張れる子なんだよ。そんな瑠璃乃に反抗期が来るわけないじゃないか」

 

「……目が怖ぇよ」

 

 普段は基本穏やかで若干胡散臭い感じを醸し出しているくせに、妹の話になった途端目を血走らせるのはマジで怖いからやめて欲しい……あと、じりじりと近寄ってくるのも勘弁してほしい

 

「橙李、近い」

 

「僕が君に近いのは気にしないで良い、それよりもどれだけ瑠璃乃がいい子なのか君にはもっと知ってもらう必要が────」

 

「十分知ってるわ! 年末急にお前から電話かかってきたから何事かと思ったら妹本人が呼びに来るまで延々俺に妹可愛い談義を仕掛けてきたのを忘れたか!?」

 

「いや、それは覚えているよ、けれど思い返せばまだまだ語り足りない事が────」

 

「俺はもうお腹いっぱいだよ! てかマジで近い! 後逃げないようにかなんか知らんが掴まれてる肩が痛いから一旦離れてくれ!」

 

「おや、これは失敬」

 

 まだ若干目は血走っているものの多少は冷静さを取り戻したらしい橙李が離れて椅子に座りなおした

 

「ひとまず反抗期云々は悪かった、迂闊に疑問を口に出すもんじゃないな」

 

「いや、僕の方こそ少々熱くなりすぎた。確かに垓分の一程度とは言えありうる可能性を視野に入れて覚悟を決めておくのは大事だね」

 

「単位のデカさがあって欲しくないって気持ちをひしひしと伝えてくるよ……そうだな、話題を変えよう」

 

「変えるのかい? 僕としてはまだ話しても────」

 

「これ以上話すとお前は妹さん関連でギアがぶっ壊れるだろうが、だから一旦同好会関係の本題を話させてくれ」

 

「一旦、と言う事は本題が終わったらまた瑠璃乃の話をしても良いという事だね?」

 

「……下校時間までなら、仕方がないから付き合おう」

 

「よしきた、それじゃ早速本題についてを聞こうじゃないか」

 

「露骨にノリノリになったなお前」

 

 これは心底満足がいくまでコイツの妹談義に付き合う事になるな……と言うある種の覚悟を胸の中でしつつ、本題の方に話を持っていく

 

「まぁ本題って言っても同好会の知名度を上げようって話なんだけどな」

 

「……それ、僕じゃなくて本人たちに聞いた方がいいんじゃないかい?」

 

「事前にメッセージで確認して知名度アップの件は了承貰ってる。どのイベントに出る……と言うか何をするにも知名度がないとだし」

 

「まぁ、それはそうだね。で? 具体的に何をするのかは決まっているのかい」

 

「ひとまず何人か収録ブース借りて曲撮った後にその音源使ってMV制作を計画中って感じ」

 

「成る程。MVと言うのは良い案かもね、今はSNSの時代だし」

 

「だよな……それが聞けて良かったよ」

 

 俺個人も同じ意見だったわけだが一人でそうだろうと考えて動くよりも一人、二人からも意見を聞いてから動き始めた方がいいだろうとの事で世間話もかねて意見を聞きに来て良かった

 

「さてと、それじゃあ紘陸。約束通り付き合ってもらうよ……僕の妹語りに」

 

「……お手柔らかに頼む」

 

 それから俺の体感で約二時間以上、実際の時間はどんなもんか覚えてないが、理解できたのは人の話……と言うか、惚気を聞くというのはとんでもなく疲れるという事と聞いている間はとんでもなく苦いコーヒーが欲しくなるという事だ

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