虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君 作:どこかのSさん
突然だが、スクールアイドル同好会には天王寺璃奈と言う学年が二つ年下の後輩がいる
感情を表に出すのが苦手……って感じの子だが実際の所は感情豊かで誰よりも誰かと繋がりたいと思っている女の子だ。そんで、なんで急にこんな話をし始めたのかと言うと、彼女と始めて会った時の事をふと思い出したからだ
「はーっ……やべぇ、暇だ」
季節は春頃、丁度今の形になる前の同好会が始動する前後のある日だったと思う。その日は珍しくこれと言って立て込んだ用事なかったから一人暇を持て余していた
いつもなら誰かしら誘って買い物行ったり、日が暮れるまで生徒会の仕事をこなしてから帰ったりするのだが次の生徒会長への引き継ぎを終えて晴れてその役職からも解放されている
生徒会長と言う役職から解放された結果、今日が暇なのは事前にわかってたことだから橙李に誘いをかけたりもしたのだがこういう日に限って誘った相手に用事が入っているもので無理だと断られた
「マージでどうすっかなぁ……本でも見に行くか?」
いつまでも学校の敷地内であーだこーだ考えてても仕方ないしとりあえずどっか適当に向かうか
「あっ、ヒロ先輩だ! おーい!」
「んっ?」
その呼び方をする人物に心当たりはあるし、周りを見回しても俺以外の生徒の姿も見えないから声のした方へ視線を向けると同じ学科の後輩である宮下さんともう一人がこちらへ向けて歩いてきていた。リボンの色を見る感じ1年だから新入生か、確か名前は……思い出した
「宮下さんと……情報処理学科1年の天王寺璃奈さん、だよね?」
「私の事、知ってるの?」
「勿論、生徒会長たるもの────」
「当然全校生徒の名前は憶えているもの、だよね?」
「するっと決め台詞取るね……まぁ、俺も前生徒会長からの受け売りだけどさ」
「そうなの?」
「あぁ、いつから言われ始めたのかわからんけどニジガク生徒会長の心構えみたいなもんなんだってさ」
これを言い伝えるも伝えないもその代の生徒会長次第らしいし、俺にこの言葉を教えてくれた前の生徒会長も俺が由来聞かなきゃそれを教えるつもりもなかったらしい
俺も今の生徒会長の菜々ちゃんに心構えとして覚えておくと良いとは伝えはしたけど諸々の説明は省いたし
「生徒会長なんですか?」
「ん? あぁ、今は元生徒会長だけどね」
「元会長?」
「元会長」
生徒会長云々の部分に多少の疑問を覚えたらしい天王寺さんとそんな会話をしていたが────
「──そう言えば、二人はどうして一緒に? 遊びにでも行くの?」
「その通り! 実は天王寺さんがジョイポリの割引券持っててさ、折角だから一緒に行こーって思ってさ」
「成る程……一応聞くけど、カツアゲとかではないよね?」
「ひどっ!? ヒロ先輩って私がそんなことすると思ってんの!?」
「いや、思ってないけど一応ね」
「カツアゲじゃない、私が割引券を譲ろうとしたら先輩が誘ってくれて……」
相変わらず、とんでもないコミュニケーション能力だな……流石は飲食店の娘さんと言うべきか
けど、特にこれと言った問題が起こっていないようなら良かった
「まぁ、特に何をしてないってのなら良かったよ……そんじゃ、俺はそろそろ行くから二人も楽しんで」
「ちょっと待って! せっかくだからヒロ先輩も一緒に行かない?」
「俺も?」
「うん! 遊ぶなら大勢の方が楽しいし! 天王寺さんも良いでしょ?」
「うん、私も一緒に遊びたい」
「……よし、それなら俺も一緒に行かせて貰おうかな」
二人が問題ないって言うならせっかくの誘いだし一緒に行かせてもらうとしますかね
「えぇぇぇぇ! ライブぅぅぅっ!?」
それから時は流れて現在、果林さんも新たに加入した同好会の部室にて天王寺さんからライブをしたいという旨が伝えられていた
「うん」
「それは急な話ですね」
「色々足りないのはわかってる……でも、みんなに見て欲しくなって。それに、PVはキャラに頼っちゃったから……クラスの子達は良いって言ってくれたけど、あれは、ホントの私じゃないから」
エマさんの撮影が終わってから続々と他のメンバーのPV作りも進行し、今は全員分のPVが公式チャンネルに上がっている。同時にMVの方も天王寺さんや映像研の力を借りて全員の分を問題なく公開することが出来たわけだ
けど、そう言えば天王寺さんのPVは撮影をする前にこんな感じでどうかとキャラクターを用いたものを見せられたうえでこれも個性的でいいとゴーサインを出していた流れだった気がする
「ダメ、かな?」
「いいんじゃないっ」
「っ!」
「決めるのは璃奈ちゃんだよ?」
「私は、璃奈さんが決めたことを応援しますよっ」
「そうです。チャレンジしたいという気持ちは大事なことだと思います」
「本人がやりたいって思ったんなら、トライしてみるのもいいんじゃないか?」
それも大事な同好会の活動だろうし
「────うん」
「それで、いつやる予定なの?」
確かに、いつやるのかは重要だよな。衣装とか曲とかの準備もあるし
「たまたま空きが出たから────来週の土曜」
「ホントに急じゃんっ」
空きが出たところに滑り込んだ形なんだろうけど、中須さんの言う通りいささか急……だけど、基礎練習はしてるわけだし来週までなら何とかなるか?
「まぁまぁ、私も手伝うよ」
「いいの?」
「愛さんも手伝う」
「俺も、微力ながら手を貸すよ」
「わ、私もっ」
「勿論私もです!」
確かに伝えられたのは急だったけど、同好会のみんなだって天王寺さんを応援する気みたいだ
「……ありがとう」
さて、そんな形で始まった第一回天王寺さんソロライブ大作戦
「ステージ演出はある程度希望に沿ってくれるみたいだけど」
「映像は自分で作れる」
「りなりー、得意だもんね」
「うん……でも、パフォーマンスは自信ない」
そう言って少しうつむいた天王寺さんだったけど、すぐに顔を上げて真っすぐな視線をみんなの方へ向けてきた
「だから、教えて教えて欲しい」
天王寺さんの決意に応えるために、各々の練習に天王寺さんがローテーションで入ることになった
ここに関しては実際にステージに立ってパフォーマンスをする同好会のメンバーが必要な事を把握しているだろうと、俺は特にノータッチ、いつもの作業である活動記録の更新などを行う平常運転……の予定だったのだが
「それで、呼ばれたから来てみたんだけど……どういう状況?」
目の前に広がっているのは真面目に練習に取り組んでいる天王寺さんと、何故か寝ている彼方、そしてそんな彼方を見ておろおろしてたであろう事が何となくわかる中須さんと桜坂さんの姿
「えーっと、練習中に彼方さんが眠っちゃって……」
「かすみん達にはどうすることもできず……」
「あぁ、了解。彼方の事はこっちで回収するから桜坂さん達は練習を続けて」
「わ、わかりました」
「それと、今日は暑いからこれみんなで飲んで」
事前に買っておいたスポーツ飲料を桜坂さん、中須さん、天王寺さんに渡してから彼方の額にペットボトルを当てる
「ふぁっ!? ……ってあれ? 紘陸くん?」
「おう、起きたか。とりあえずこれ、飲んどけ」
「お、ありがとうー。璃奈ちゃんたちは?」
「向こうで練習中」
そう言いつつ三人が練習してる方を指さすと彼方は、そっかぁと軽く言葉を返してくる
「それで、練習中急に寝落ちしたらしいけどちゃんと休んでるのか?」
「……なんか紘陸くん、お父さんみたいだねぇ」
「お前、人が心配してんのにそう言う事言うか?」
「んふふー、心配してくれてるのがわかるからだよぉ……それに、彼方ちゃん無理なんてしてないからだいじょーぶだよ」
「お前の大丈夫は絶妙に信用できないんだよ、お前」
彼方の事情は本人から聞いてるし理解はしてるが、それでも頑張りすぎる傾向がある
バイトに勉強、同好会を始めるより前は放課後の時間を使って休んでる事が多かったし、俺が生徒会長になってからは他の役員がいない時に生徒会室のソファを使わせることも多かった
「今日だって練習中に寝落ちしたっつってたし、好きでやってる事なんだろうけどあんま心配かけんな」
「へー、心配してくれてるんだぁー」
「……んだよその顔は」
「べつにー、なんでもないよー」
露骨にニマニマした表情でそんな事をのたまいやがった彼方だったが、差し入れしたスポーツ飲料のキャップを開いて軽く何口か飲むとゆっくりと立ち上がる
「さてと、それじゃあ彼方ちゃんも練習に戻ろっかな」
「もういいのか?」
「もちろん。よーし、彼方ちゃん頑張るぞー」
そう言って練習をしてる桜坂さん達の方へと向かっていく彼方の事を見送ってから、俺も部室に戻るため立ち上がる
天王寺さんのソロライブへ向けた強化練習三日目、一日目は軟体などの体力づくり、二日目は発声練習ときて、三日目は……
「こんにちはぁ、今日はかすみん。会場みんなを夢中にさせる魔法、かけちゃいますからね♡」
なんだこれ?
ある種平常運転の高咲さんと宮下さん、それと相変わらずあざとい感を前面に押し出している中須さん……なんの練習かわからんけど、まぁいつも通りか
「これは何の練習?」
「MCですよ」
MCの練習だったのか……言われてみれば確かに、曲と曲の合間にやってる事がほとんどだし必要な練習ではあるのか
「それじゃあ歩夢先輩、ハイタッチです!」
「う、うん……」
どうやら中須さんからハイタッチして次は上原さんの番らしい
「えっと、今日は来てくれてありがとうございます。一歩ずつ頑張っていくので、応援よろしくお願いしますねっ」
「あゆむー! 今日も、かわいいよー!」
「えっ、照れるよ……」
「そう言うところもかわいいよーっ!」
ホントにMCの練習か? これ
「むむむ……ッ、かすみんだって、かわいさなら負けてませんよっ!」
「顔が引きつってる、対抗意識出しすぎて持ち味が死んでるぞ、かすかす後輩」
「かすかすじゃなくてかすみんです! って言うか急に入ってこないでくださいっ」
「丁度、今日の活動記録が出来上がったから見せに来たんだが随分とアレだったからな、批評させて貰った」
そんな事を言いながら手に持ってたノートパソコンを中須さんの方に手渡す
「そんじゃ部長。確認お願いします」
「むー、わかりました」
若干不満そうな表情をこちらに向けつつもノートパソコンを受け取り活動報告の確認を始める中須さん……基本的に活動重視だがこういう所で部長としての業務もしっかりやってくれてるのは流石って感じだ
「それで、天王寺さん。調子はどんな感じ?」
「私には、少し難しそう」
「難しそう……か、確かに始めての事で勝手はわかりずらいか」
「そっか、まぁMCをやらないスタイルもありますからねぇ」
「今度のライブではやらない方向で行きますか?」
「ううん、やる。今回は……出来ないからやらないは、なしだから」
今回の天王寺さんは、自分に出来る限りのことに挑戦してみるつもりらしい、彼女の目から伝わる覚悟のような感情はせつ菜にも届いたらしく。今回はMCもやる方向でまとまった
「紘陸先輩。活動記録オッケーですっ。ちなみにぃ、もうすこーしかすみんの可愛さについてアピールしてくれる内容でもいいんですよ?」
「了解、そんじゃ活動記録は更新しとくよ。それと、自分の可愛さをアピールしたいならセルフでやんなさい」
「ぶー」
「ぶーじゃありません……さてと、そんじゃ俺も自分の作業戻るから、みんなも練習頑張って」
まだ練習を続けるであろうみんなにその言葉をかけてから、さっきまで座っていた席に戻────ろうと思ったが天王寺さんに一つ聞いておかないといけないことあったな
「天王寺さん、ライブの告知だけどどうしよっか、こっちで作っておく?」
「ううん、それも自分で作る」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫」
「了解、それじゃあ完成したらこっちにも送っておいて。広報用のSNSアカウントに投稿しておくから……それと、あくまでも体調最優先で無理はしない事、わかった?」
「わかった」
「広報用SNSなんてあったんだ……」
「アタシはフォローしてるよ」
「私もです」
「愛さんも!」
天王寺さんと話している後ろで、広報の為に作ったアカウント関係で2年生組がやいやい言ってるがそれに関してはまぁ横に置いておこう
とりあえず天王寺さんのソロライブは現状問題なく進んでいる……俺に出来る事で思いつくのは、彼女の事を気にかけつつ何事も起こらないように祈っておくくらいか
時は流れ、ライブ開催の日程が少しずつ近づいていた。天王寺さんも日々頑張って練習メニューをこなしていたお陰でダンスや発声もだいぶ良くなってきているし、裏方で色々と動いていた俺の方も彼女の考えた演出プランをまとめた資料を受け取り、それを元に会場側のスタッフさんと打ち合わせを行ったりとこれと言った問題はなく進んでいる
そして、いよいよライブの開催が明日となった日の放課後、いつもの練習時間となったのだが……集まった同好会のメンバーの中に天王寺さんの姿はなかった
「────ダメだな、家の電話にも出ない。宮下さんは?」
「私の方も出ない。りなりー、何かあったのかな?」
他のメンバーと顔を合わせたまま少しの間、無言の時間が続いていると果林さんがおもむろに口を開く
「……練習、始める?」
「えっ、でも璃奈ちゃんが────」
「来ないでしょ、連絡しても繋がらないんだから」
「──なんでですかッ、りな子のライブは明日なんですよ!? あんなに頑張って準備してたのに……ッ」
「決めるのは璃奈ちゃんよ」
「っ……」
「今日はもう解散にしない?」
「えっ──!?」
「うん、そうだな。果林さんの言う通り今日は解散にした方がいいかもしれない」
「紘陸先輩まで!?」
「いつまでこうしてたって仕方ないだろ? まぁ、解散言った奴は他にも思うところがあるのかも知れないけど」
「別に思うところなんてないわよ」
そうは言ってる果林さんだけど、少しむすっとしている感じがにじみ出てる
「果林ちゃん、拗ねてる?」
「っ! なんで私が!?」
ほら、案の定エマさんから指摘されてるし
「明日は、モデルのお仕事入れないようにしてたもんね」
「本当な璃奈ちゃんのライブ、楽しみにしてたんじゃない?」
「わ、私はライブの内容に興味があっただけよっ」
大人びているように見えて、案外子供っぽいところもある果林さんの事を中須さんがからかって軽いお仕置きを受けたりもしているがそれは一旦置いておいて……ふと、天王寺さんと付き合いの長い宮下さんの方へと視線を向けると、何かを決めたような表情を浮かべていた
「私、ちょっと行ってくる!」
「へっ!? 愛先輩!?」
「アタシも────!」
「侑ちゃんっ!」
「どこ行くんですか!?」
「璃奈さんの所だよっ!」
「ふぇっ!?」
宮下さんと高咲さんを筆頭に、上原さんに中須さん、桜坂さんもこの場所から目的地────天王寺さんのところに向けて駆け出していく
「まぁ、ほっとけないよねー」
「結局、みんなで行くのね」
「行かないんですか?」
「────行くわよっ」
「それじゃ、置いてかれないように俺らも行きますか」
一番先頭を走っている宮下さんと高咲さんに置いて行かれないように、俺たちも天王寺さんのところまで向かう
そうして走り続けて辿り着いたのは立派なマンションのエントランス……ここに天王寺さんは住んでるのか。なんて感想を抱いてる傍らで宮下さんがエントランスにある集合インターホンで天王寺さんに呼びかけていると、閉まっていた入口が開いた
一度家に来たことがあるらしい、宮下さん達を先頭に天王寺さんの住んでいる部屋までやってきた俺たちは玄関を開けて中に入ってから、高咲さん、宮下さん、上原さん、中須さんの四人が部屋に入って残りは廊下で待機って感じになった
「おじゃましまーす……璃奈ちゃーん?」
中を開けても部屋に姿が見当たらなかったのか、高咲さんが彼女の名前を呼ぶ
「……ここだよ」
「「「!?」」」
「えぇ!? なんでダンボールぅ────んんんッ!?」
中須さんは驚いたような声を上げたがすぐに高咲さんに口をふさがれている……ダンボールってどういうことだ?
ダンボールについての詳細は非常に気になるが……その気持ちは一度置いておこう
「りなりー」
「……ごめんね、勝手に休んで」
「ホントだよ、心配したんだぞ」
宮下さんは優しい声音で天王寺さんに言葉をかける
「どうしたの?」
「自分が、恥ずかしくて……私は、何も変わってなかった」
ぽつり、ぽつりと、天王寺さんは言葉を紡ぐ
「昔から楽しいのに怒ってるって思われちゃったり、仲良くしたいのに、誰とも仲良くなれなかった……今もクラスに友達はいないよ。全部私の所為なんだ、もちろん、それじゃダメだと思って、高校で変わろうとしたけど……最初はやっぱりダメで────でも、そんな時に愛さんと会えた」
「っ!」
「愛さんと会って、紘陸さんと会って……スクールアイドルの凄さを知ることが出来て、もう一度、変わる努力をしてみようって思えた。歌でたくさんの人と繋がれるスクールアイドルなら、私は変われるかもって────でも、みんなはこんな事でって思うかも知れないけど、どうしても気になっちゃうんだ。自分の表情が……ずっとそれで失敗し続けてきたから」
姿は見えなくても、聞こえてくる天王寺さんの声が、ずっと悩み続けた彼女の気持ちが、心に響く
「あぁ、ダメだ。誤解されるかもって思ったら、胸が痛くて……ぎゅーって……こんなんじゃ……このままじゃ────ッ……私は、みんなと繋がることなんてできないよ────」
「────ごめんなさい」
彼女のその言葉を聞いた瞬間、何故か自然と身体が動いた……動いた身体は自然に天王寺さんの所まで向かって、高咲さん達の近くで立ち止まった
「ありがとう。璃奈ちゃんの気持ち、教えてくれて」
「うん、愛さんそう思うよ」
「えっ────」
目の前にあるダンボール────その中にいるであろう天王寺さんの前にしゃがんで、その言葉を伝えた二人の隣に俺もしゃがみ込んで、心の中にある言葉を彼女へと紡ぐ
「天王寺さん、よく頑張ったね。ずっと悩んで、一歩でも前に踏み出そうと、前に進もうと頑張って……君は、ホントに凄いよ」
「紘陸さん……」
「アタシ、璃奈ちゃんのライブ見たいな」
俺が自分の子t場を伝え終わった後で、今度はゆっくりと、高咲さんが彼女に言葉を伝える
「今はまだ、出来ないことがあってもいいんじゃない?」
「えっ?」
「そうですよね、璃奈さんには出来るところ、たくさんあるのに」
「そんなの────」
「頑張り屋さんな所とか」
「諦めないところもね」
桜坂さんも、上原さんも、果林さんも
「機械に強いし」
「動物にも優しいですよね」
「みんなー! どんどん言っちゃってズルいよーッ!」
中須さんも、エマさんも、彼方も、せつ菜も……高咲さんも、宮下さんも、俺も、みんな天王寺さんの凄い所を知っている
「よーっし! 愛さんも!」
「うわわっ、ちょっと……」
「ん?」
「恥ずかしい……」
「りな子、ダメな所も武器に変えるのが一人前のアイドルだよ」
「そうそう、出来ないことは出来ることでカバーすればいいってね。一緒に考えてみようよ」
「まだ時間あるし」
「……ありがとう」
天王寺さんが口にしたありがとうと言う言葉、それはきっと、ここにいるみんなの思いが彼女に届いたからこその言葉だと思う
「璃奈さんとこういうお話出来たの、始めてですね」
「そう言えばそうだねー」
「! ────もしかしてっ」
ふと、せつ菜が口にしたその言葉、自然に口にこぼれた言葉かも知れないけれど……それが天王寺さんにとって何かの気づきになったらしい。ダンボールを被ったままだったけれど、立ち上がった彼女は窓の方まで一直線に歩いていって、思い切りカーテンを開ける
「これだッ!」
彼女の中でズレていた最後のピースが、ピタリとハマる音がした
そこから少しだけ時間は進み、ある日の放課後
他のメンバーはいつものように練習に出かけている中で俺は一人、部室で最新の活動記録を書き記していく……えっ? 天王寺さんのライブはどうなったのかって? それは勿論────
【同好会活動記録 第〇号 天王寺璃奈、ソロライブ大成功!】
────無事、大成功だ!