虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君   作:どこかのSさん

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第7話

 天王寺さんのライブが終わってから少し経った頃、今日も今日とていつもの時間にランニングをするためにジャージを着て部屋から出ると丁度同じタイミングで実宙も一緒に部屋から出てくる

 

「おはよう。実宙」

 

「うん、おはよう兄さん。今日もランニング?」

 

「毎日の習慣だからな、実宙は今日も部活か?」

 

「ううん、今日は休み。日曜に部のライブが控えてるから練習もだけど休みもしっかりとらないって事で」

 

「成る程……と言うかライブかぁ。ちなみにどこでやる予定で?」

 

「お台場のビーナスフォートだったと思う」

 

「成る程、そんじゃ当日は見に行かせてもらいますかね」

 

 実宙の通ってる東雲は彼方の妹さんも通ってるっつってたし、アイツの事だからどうせ最前列で応援するとか意気込んでる事だろうし

 

「さてと、そんじゃ俺は走ってくるから。実宙はどうするんだ?」

 

「学校終わったら普通に帰ってくるかなぁ……もしかしたら買い物して帰ってくるかも。兄さんは?」

 

「俺は普通に同好会だよ……そんじゃ、行ってくるわ」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 普段と変わらない兄弟のコミュニケーションをした後でいつものようにランニングへと出かける

 

 

 

 

 

 

 ランニングを終え、学校に向かって授業を受けてと普段と変わらない学生生活を送っているうちに気づけば昼休み。いつものように中庭まで向かっていると少し浮かれた後ろ姿が目に入る

 

「よう、彼方。今日はご機嫌そうだな」

 

「あっ、紘陸くん。まぁねー、今日の彼方ちゃんはやる気に満ち溢れてるよぉ」

 

「今朝のグループで言ってたやつか」

 

「その通り! 今日は遥ちゃんが見学に来るんだから気合い入れないとねー」

 

「気合い入れすぎて練習の途中で電池切れ起こすんじゃねぇぞ?」

 

「わかってまーす。それより紘陸くんもこれからお昼でしょ? 行こ?」

 

「だな、のんびり話してると飯食い逃しそうだし」

 

「だねぇ……ちなみに紘陸くん。今日のお弁当の中身は?」

 

「弁当箱の下段に米、上段のおかずは白身魚のフライと唐揚げにだし巻き、それとほうれん草の和え物」

 

「ほう、中々の気合の入りぶりですな」

 

「フライは昨日の晩飯の残りで唐揚げは冷凍だけどな」

 

 メインではあるが流石に朝から仕込む余力はない……正確に言うとランニング終わって余裕があるときは作るが基本的に余裕があるときの方が少ないからある程度は妥協するしかない

 そんな話をしながら二人で中庭のいつもの場所まで向かって弁当を広げ、二人並んで食事を始める

 

「紘陸くん、玉子焼き一つちょーだい」

 

「いいけど、等価交換な。お前の玉子焼きも一つ寄越せ」

 

「いいよー、はいどーぞ」

 

「どうも」

 

 穏やかに流れる風を浴びながら、等価交換で受け取った玉子焼きを一口食べる……うめぇ

 

 

 

 

 

 そんな昼休みから時が進み放課後、彼方たち同好会のメンバーは普段の練習着。俺と高咲さんはニジガクのジャージに着替えて練習前に一度部室に集まってというのがいつもの流れなのだが今回は見学者が来るという事で彼方にせつ菜、上原さんに高咲さんの四人が迎えに行ってる

 

「そんで、中須さん。わざわざ俺まで普段の席からここまで移動させて……何をするって?」

 

「紘陸先輩聞いてなかったんですか? ではもう一度……いくら彼方先輩の妹とは言え、敵情視察に変わりありません。つまり! 我々がいかにダークホースのスクールアイドルかを見せつけてやる必要があるのです!」

 

「……そうか」

 

 つまり、中須さんはいつもの対抗意識を発動しているだけか

 

「あのぉ、スクールアイドルはライバルではあっても敵ではないのでは?」

 

「いいえ敵です! 相手は同じ1年生なのにネットでちやほや──―じゃなくて注目されてて羨ましい、いや悔しいッ!」

 

「本音が漏れてるぞー」

 

「紘陸先輩は黙っててください! しず子もそう思うでしょ!?」

 

「えぇー……私は別に」

 

「そこは悔しがってッ!?」

 

「おぉー、かすみん燃えてるー」

 

「我々が東雲学院のスクールアイドル部に負けてないって事、部長のかすみん自ら証明して見せます!」

 

「あれ? かすみんって部長だったの?」

 

「自称ですけど……」

 

「書類的にも普通に部長だよ、中須さん」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ」

 

「……でも実際、知名度に関してはウチと東雲学院じゃ天と地ほどの差があるわよ?」

 

「うぐっ……それを言われると」

 

「校内では、割と有名になってきたけどねぇ」

 

「地道に公開してたMVとか、天王寺さんのライブのお陰で学校外での知名度も多少は上がったが……まぁそれでも知名度は天地の差だわな」

 

 色々と追い風は吹いている気はしているのだが、まぁ知名度は東雲とは比較にならないわな

 まぁそこに関してはどうしょうもないなってお手上げのポーズをしたところで部室の扉が開きエマさんと天王寺さんが中に入ってくる

 

「ティーセット借りてきたよー。遥ちゃんに会うのとっても楽しみだねぇ」

 

「うん、天使みたいに可愛いって彼方さんよく言ってるし」

 

「かわいさでは負けませんよぉっ! ですよね! 紘陸先輩!」

 

「何でこっちに振るかね……ちなみに言っとくと俺は会った事ないからね」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ」

 

 わかんないところがあったら彼方に勉強を教えてもらったり、逆にこっちが教えたりするときも基本的には空き教室か図書室使ってたし……そもそも休日は彼方と会う機会がなかったしな

 

「よーっし! 愛さんも気”合い”入れちゃおうかなっ、”愛”だけに。なんてねっ」

 

 と、そんな話をしているとそろそろ彼方たちが近江さんと一緒にこっちへ向かってると連絡があった

 

「高咲さんからこっち向かってるって連絡来たし、そろそろ俺らも準備しますか」

 

「そうね、みんな準備しましょ? かすみちゃん、ホワイトボード片付けて」

 

「むぅー、わかりました」

 

 少し不満そうではあるものの、まぁ中須さんならそこら辺は割り切るだろう

 部室にいるメンバーでホワイトボードを元あった場所に戻したり、俺が座ってた椅子を定位置に置き直したりと片付けをしていった

 

 

 

 

 

「近江遥です、よろしくお願いします」

 

 挨拶と共に頭を下げてきたのが彼方の妹、近江遥さんらしい

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「楽しんでってねー」

 

「よろしくね」

 

「待ってたよー」

 

「よろしく。璃奈ちゃんボート『にっこりん』」

 

「よろしくね、近江遥さん」

 

「あ、ありがとうございます……っ」

 

 と、中須さん以外のメンバーは一通り近江さんへの歓迎の言葉をかけていく。対する彼女は少し恐縮そうにしているけれど、それは初めてきた場所で会うのも初めての人ばっかりだから仕方ないだろう

 

「全員揃った事ですし。早速練習に向かいましょうか」

 

「そうだね、それじゃ行こっか」

 

「は、はい……」

 

 挨拶もそこそこに部室から出て全員で練習へと向かう訳だが……流石に中須さんを置いてきぼりにするのは流石にアレか

 

「初めましてぇ、貴方のかわいいはここにいる。スペシャルスクールアイドルかすみんこと、中須かすみです。今日はかすみんに会いに来てくれてありがとう」

 

「わー……置いてかれてるぞ、中須さん」

 

「うぇっ!? ちょ、ちょっとー! 置いてかないでくださいよー!」

 

 一応置いて行かれてる事を伝えると中須さんはそんな声を上げながら急いでみんなの後を追っていった……なんて言ったらいいのか、本当に

 

「さてと、それじゃ俺も準備に取り掛かりますかね」

 

 マネージャー業務は高咲さんに任せちゃってるけど、それ以外の所で……しっかり貢献しないとな

 

 

 

 

 

 同好会のみんなが練習している間、俺がやってきたのは調理実習室。近江さんが来るってのは今朝がたに彼方から連絡があって聞いてたし、それなら練習終わりはお茶会にしようって話になっている。エマさんと天王寺さんがティーセットを借りてきたのもその一環だ

 という訳で、俺も何かしらお菓子を作ろうかと思い調理実習室の使用申請を登校してからすぐにしておいたわけだ。勿論材料も調達済み

 

「さてと、それじゃあ作っていきますかね」

 

 今回俺が作っていくのはマフィン。今のところみんなの練習は適宜休憩を挟みながら30~40分くらいだからその間で作れるものを……と母さんに聞いてみたところマフィンと言われたのでそれを作っていく

 

「えーっと、まずは常温に戻した無塩バターをボウルに入れて、クリーム状にように練る……と」

 

 持参したエプロンとマスク、それとバンダナを装着して母さんから借りたレシピの順序で進めていく

 

「そんでクリーム状になったら砂糖と塩を加えて空気を含ませるように混ぜていく」

 

 そこからは黙々とレシピ通りに材料を投入して調理を続けていく……わかっちゃいたけど人数分って考えると結構体力使うな、これ

 

「で、えーっと卵を2~3回に分けてよく混ぜた後は。牛乳とバニラエッセンスを加えて混ぜる」

 

「それが終わったら薄力粉とベーキングパウダーを加える……混ぜすぎると粘り気が出るから手早くね。了解」

 

 黙々と混ぜていくとレシピの写真にのってる生地に近いものが出来た……これをマフィン型に分けて入れて180℃に予熱したオーブンで25分焼いていく。幸いな事にニジガクの調理実習室はそこそこ多いあらかじめ予熱しておいたオーブンを使って人数分は焼いて、25分待って……無事完成

 試食用に一つ多く作っておいたものを食べてみる

 

「うん、しっかり焼けてる。問題ない」

 

 初めてにしては良く出来てると思う……けど、母さんの作ったやつと比べるとなんか違う気がするんだよな

 

「……っと、そろそろ部室に行かないとか」

 

 ここで感じた違和感は忘れないよう頭の片隅に置きつつ、完成したマフィンを持って部室へと向かう

 

 

 

 

 

 片手にマフィンを乗せた皿を持ったまま部室のドアをゆっくりと開ける

 

「マフィン、焼いてきたぞー」

 

「おー、紘陸くんナイスタイミングー」

 

「あっ、受け取りますよ」

 

「サンキュ、せつ菜。それじゃ、はいこれ」

 

 わざわざ取りに来てくれたせつ菜にマフィンの皿を渡してからいつも座ってる席に向かう

 正直な所、来る前は対抗心を燃やしまくってた中須さんがどんなことを言うのかと冷や冷やしていたが、穏やかな雰囲気みたいで良かった

 

「遥さん、今日、見てみてどうだった?」

 

「はい、お姉ちゃんも皆さんも楽しそうでした。それぞれの個性にあった練習もあって、素敵な同好会ですね」

 

「ホント!? 嬉しいなぁ」

 

 近江さんも同好会に対して好意的な印象を抱いてくれてるみたいで良かった────っと、彼方がうつらうつらし始めてる。出来るだけ音を立てないように立ち上がって、いつものように崩れ落ちそうになったタイミングで手を差し込んで頭を受け止めた

 

「ふぅ、今日は間に合った」

 

「たまに間に合ってない時ありますもんね。どうぞ、枕です」

 

「お姉、ちゃん?」

 

 ひとまず桜坂さんの持ってきてくれた枕をいつもの定位置にセットしてゆっくりと頭を下ろす。俺が彼方の後ろから退けるのと丁度同じくらいのタイミングでエマさんがブランケットを彼方にかけて安眠スタイルの出来上がりだ

 安眠スタイルが完成してからふと近江さんの方に視線を向けると、彼女は少し驚いたような表情を浮かべてる

 

「あの、お姉ちゃんは良く寝ちゃうんですか……?」

 

「? はい、私の知る限り彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ」

 

「特に膝枕で寝るのが好きだよね」

 

「膝枕ぁっ!?」

 

「そうそう、愛さんもしてあげたよー。ヒロ先輩は?」

 

「流石に膝枕はないな、まぁたまに背中に寄りかかって寝てる事あるからそう言う時は背中を貸してる」

 

「お、男の人の背中を……お姉ちゃん、そんな頻繁に寝てるんですね……」

 

「そう言われると、最近いつにも増してよく寝ているような?」

 

「確かに、練習しながら寝てた」

 

「元々寝るのが好きって感じはしてたが……練習しながら寝るは俺も初遭遇だったな」

 

 かれこれ1年の頃から昼休み寝てる彼方に背中を貸したりしてはいたが……練習中に寝てわざわざ呼ばれるって経験をしたのはアレが初めてだった。休止前の同好会が活動してた時期でもそんなことはなかったし

 

「そう言えばこの前も、全然起きないくらい熟睡してたような……」

 

 全員あれ? みたいな空気にはなってるんだが……大丈夫なのか? これ

 

 

 

 

 

 結論から言うと、大丈夫だった

 あの直後は何とも微妙な空気になっていたが、それはそれとしてお茶会は進行したから気づけば元の空気に戻っていた……まぁ、とは言っても近江さんの方はいまだに何かを気にしてる様子はあるけど

 

「っ……んん……あれ……?」

 

「目、覚めた?」

 

「はっ……~~~~っ、遥ちゃんにお姉ちゃんの恥ずかしい所を見られてしまったぁぁぁ……っ!」

 

 穏やかな空気が流れる中で、いつものように活動記録の執筆作業をしていると、どうやら彼方が目を覚ましたらしい

 

「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ? いっぱい無理してるんだから」

 

「? 無理してるって……何を?」

 

「やっぱり……」

 

「遥ちゃん?」

 

「お姉ちゃん、同好会が再開してからあんまり寝てないでしょ?」

 

「うん、つい楽しくてぇ」

 

「私、お姉ちゃんが忙しすぎて倒れちゃうんじゃないかって気がして……それで、今日見学に来たの」

 

「そうだったの?」

 

「でも。今日のお姉ちゃんは疲れなんて感じさせないくらい元気で楽しそうで……すごく嬉しかった。いつも私を優先してくれたお姉ちゃんが、やっとやりたいことに出会えたんだって」

 

「遥ちゃん」

 

「今のお姉ちゃんには同好会がとっても大事な場所だってよくわかったの。だから私────決めたよ」

 

「なにを?」

 

 彼方の事を真っすぐ見据える彼女が、次に何ていうのか……何となくだけどわかった

 

「私────スクールアイドル辞める」

 

「──―? ……ん?」

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 

 近江さんの言葉に驚いて声を出したのは、彼方と高咲さん。他のみんなも声にこそ出してないが各々驚いたような様子を見せてる。けれど、この中で一番同様しているのは間違いなく彼方で言葉になってない文字の羅列が口から漏れ出てしまってる

 

「どうしてっ!?」

 

「このままじゃ、お姉ちゃんが体壊しちゃうから」

 

「彼方ちゃんが寝ちゃった所為で、遥ちゃんのこと心配させちゃったの? 大丈夫だよぉ────」

 

「全然大丈夫じゃないよっ! お姉ちゃんはお母さんが忙しいからって、お家のこと全部して、家計を助けたいからってアルバイト掛け持ちして、奨学金貰ってるからって勉強も頑張ってッ! そのうえスクールアイドルもなんて、誰だって倒れちゃうよ!」

 

 近江さんの口からあふれた言葉は間違いなく彼女の本心だって事は分かる、そしてその言葉が姉を心配する思いから来てる事も伝わってくる

 

「……もう、いいの」

 

「ぇっ……?」

 

「私の事より、お姉ちゃんにはやりたいことを全力でやって欲しいの」

 

「遥ちゃん……」

 

「あのぉ……そのために遥さんはスクールアイドルを辞めるんですか?」

 

「はい」

 

 おずおずと言った桜坂さんの質問に対して、遥さんはためらいもなく肯定の返事をする

 

「ダ、ダメ! そんな、遥ちゃんは夢を諦めちゃダメっ!」

 

「お姉ちゃんが苦労してるのわかってて、夢を追いかけるなんてできないよッ!」

 

「っ……そんなの、気にしなくっていいんだよ? だって、遥ちゃんは大事な妹なんだもん」

 

「どうして……っ? 妹だったら気にしちゃいけないの?」

 

「心配させちゃってごめんね? 彼方ちゃん、もっと頑張るから────」

 

「ッ! お姉ちゃんの────わからずやッ!」

 

「遥ちゃん、私────」

 

「高咲さん、待って」

 

「────紘陸先輩?」

 

「……俺が行ってくる」

 

「えっ、あっ、ちょっと────」

 

 部室から出て行った彼女の後を追おうとする高咲さんの事を呼び止めてから、俺が彼女の後を追う……悪い高咲さん、君だって近江さんの事が心配なのはわかってるけど今回ばっかりは、その役目を譲ってくれ

 

 

 

 

 

 階段を所々ショートカットしつつ、彼女が向かっているであろう正門へ向けて走ると、一人歩いてる東雲の制服が目に入る

 

「近江さん!」

 

「あっ、えっと……貴方は……」

 

「そっか、そう言えば自己紹介してなかったね。虹ヶ咲3年の御手洗紘陸です。よろしくね」

 

「御手洗って……もしかして?」

 

「その通り、東雲に通ってる御手洗実宙の兄です。そっちもよろしく」

 

「御手洗くんのお兄さん……よ、よろしくお願いします」

 

 改めて自己紹介を終えてから、軽く息を整えつつ次の話題を切り出す

 

「スクールアイドルを辞めるって話、本気なんだね?」

 

「! はい、もう決めた事ですから……」

 

「そっか」

 

 少し迷った表情を浮かべたけどすぐに決意をしたような表情に変わった

 

「もしかして、お姉ちゃんに何か言われて?」

 

「ううん、違う。理由は色々あるんだけど……とりあえず、少し歩こっか」

 

「えっ? はい……」

 

 少し困惑した様子を見せる彼女と一緒に、ゆっくりと歩き始める

 

「当たり前だけど近江さんってスクールアイドル部だよね、ウチの実宙も同じ部らしいけど迷惑とかかけてない?」

 

「迷惑なんてそんな、むしろこっちが色々と助けて貰ってる位で……」

 

「そっか、つまりアイツも頑張ってるわけだ」

 

「……えっと、御手洗さ────お兄さんと御手洗くんって、仲いいんですか?」

 

「紘陸で良いよ。実宙と混ざって呼びにくいだろうし……それで、そうだね。まぁ仲は良いと思うよ。あんま喧嘩とかもしないし」

 

 最後に喧嘩したのはそれこそ小学生の頃が最後で、中学入ってからはお互いに何となくの距離感を見つけたからか喧嘩もしなくなった

 

「近江さんは……まぁ彼方とは仲良さそうだね」

 

「はい。でも、お姉ちゃんいつも私の事ばっかりで自分の事は二の次で……」

 

「それで、今回の行動に出た?」

 

「はい……」

 

 別に怒ってる訳じゃないんだが、近江さんは少しシュンとした表情になってしまった……と言うか、本当に話したいのはこれじゃない

 

「……実はさ、一度だけ同好会がバラバラになりかけた事があったんだよね」

 

「そうなんですか!?」

 

「うん……原因はまぁ、ちょっとした意見のすれ違いだった……けど、すれ違っちゃった片方が少し思いつめちゃってね。自分が同好会に居たら────ってスクールアイドルを辞める決断をした」

 

「それで……どうなったんですか?」

 

「紆余曲折あって復帰したよ。それで今はみんなで活動してる」

 

 俺の言葉を聞いて、近江さんはどこかほっとしたような表情を浮かべる……まぁ、そりゃそうだよな。あんなに仲良さげなのに脱落者が出てたんですは洒落にならない

 

「だから状況は違うけど、近江さんの考えてること何となくわかるよ」

 

「……え?」

 

「彼方の背負ってるものを、今度は自分が……とか思ってるでしょ」

 

「──―なんで」

 

「わかるよ。俺も同じだったし。さっき話した思いつめちゃった子にスクールアイドルをやってみればって言ったのは俺でさ、そんで同好会が設立してからは今の高咲さんみたいな事をしてたんだ……けど、彼女ほど上手くやれなくて、すれ違った時も俺に任せろなんて口では言っといて……結局何もできなかった」

 

「それで……その時、紘陸さんはどうしたんですか?」

 

「思いつめちゃった子の責任を全部ひとりで被ろうとした。俺が何もできなかったのは事実だったし、それならアイツの責任だけでもせめて俺が────ってさ。むしろあの時はアイツの責任は俺が背負わなきゃって思ってた」

 

 結局、高咲さん達が諦めなかったお陰で同好会は今の形になったし、俺も分不相応に同好会に所属し続けてる

 

「少し長くなっちゃったけどさ、俺が伝えたかったのは君は、無理に彼方の背負ってるものを背負わなくてもいいんだよ」

 

「でも、それじゃあお姉ちゃんが────」

 

「わかってる。だから改めて彼方と話してみて欲しいんだ」

 

「お姉ちゃんと……」

 

「うん、今すぐにじゃなくてもいいから。どんな形でも、アイツが伝えようとしてる想いに、耳を傾けてみて欲しい」

 

「……わかりました」

 

 そのやり取りを最後に、俺は近江さんと別れてニジガクへの道を引き返す……自分勝手になっちまったけど、俺が伝えたかったことは伝えた。だから、これからどうなるかはあの姉妹次第だ

 

 

 

 

 

 青空が少しだけ隠れた曇り空、同好会のメンバーは彼方が心配だからと昼食はアイツと一緒に食べるらしい

 俺はと言えば……少し気分がとか適当な事を言って合流はせずに、一人でベンチの上に寝転がって雲の流れる様子を眺める

 

「……ビビってるな、俺」

 

 自分が言った言葉が原因で姉妹仲がこじれてたら……とか余計なことまで考えちまってる。そのせいで普段ならこれと言って気にしないのにやたら彼方と顔を合わせる気にならない

 はぁ……いつものことながら、気分が沈むとそれ以外の事を考えてずるずると悪い方に考えるってのは悪い癖だってのは理解できるが、治せる気がしない

 

「高咲さんなら……もうちょい上手い事やったのかね」

 

 まさか、自分でもここまで彼女に劣等感を抱いてるとは思わなかった……なんてことを考えていると、ブレザーのポケットに入れていたスマホが軽く振動している事に今更気づく

 画面を確認すると、表示されていたのは彼方の名前

 

「用でもあんのか、はたまた恨み言でも言われるのか……」

 

 まぁどっちにしたってだ、通話開始のボタンを押してスマホを耳に当てる

 

「もしもし、なんか用か────」

 

『紘陸くん、お願いしたいことがあるんだ』

 

「お願い?」

 

 彼女が俺にしたお願いと、彼女の立てた計画を聞いた後、通話終了のボタンを押して寝転がっていたベンチから軽い動きで立ち上がる

 

「お願いされちまったら……仕方ねぇな」

 

 

 

 

 

 そこからは怒涛の数日間だった、彼方からされたお願いをどうにか実現するためにあっちこっちを行ったり来たりしてた所為で同好会に顔を出す暇はなかった……まぁ大変だったけど、調整の為にあっちこっち駆け回る作業は生徒会長時代を思い出して懐かしかったりなんだかんだ楽しかったりで、実りのある時間だったとは思う

 時は流れて計画が実行される予定の日曜日、東雲学院のライブが行われるビーナスフォートに足を運んだ同好会のメンバーと共に、ライブが始まる時間まで待機する

 

「おっ、紘陸くん。久しぶりだねぇ」

 

「……久しぶりつっても、数日顔合わせなかっただけだろ。彼方」

 

 今回の件では東雲学院のスクールアイドル部にも世話になったから待機ついでに挨拶をと伝えていた筈なのだが、何故か彼方の方が先に姿を見せた

 

「準備、しなくていいのか?」

 

「ふっふっふ、実は準備はバッチリなのだよ」

 

「……そうか、そいつは何よりだ」

 

「────ねぇ、紘陸くん。私と遥ちゃん、別に喧嘩はしてないよ?」

 

「っ! なんで俺にそんなことを言うんだ?」

 

「んー、何となくかな。今日の為に頑張ってた時にふと思ったんだ。紘陸くんが遥ちゃんの事を追っかけた時に、何か話してそれでずるずるとマイナス方面に考えちゃってるのかなって」

 

「……エスパーかお前は」

 

「ふっふっふ。なんたってもう三年の付き合いだからねぇ、紘陸くんの考えは彼方ちゃんにはお見通しだよ」

 

「俺は時々お前が怖くなるよ」

 

 数日会わなかっただけなのに、今こうして話してる事に若干のなつかしさを覚えてる……それに、心の底に沈殿してたみたいな泥が少し綺麗になった感覚もある

 

「────敵わないな、ホントに」

 

「何が?」

 

「別に、こっちの話だよ……それより、今日は頑張れよ」

 

 そう言って俺が軽く手をあげると、意図を察したらしい彼方もいつものような笑みを浮かべて手をあげ────

 

「あったりまえじゃん」

 

 ────その場でハイタッチをする

 

「それじゃ、いってくるね」

 

「おう、行ってこい」

 

 いつも通りの言葉、いつもの通りの空気で、彼方は最後の準備へと向かっていった……あの調子なら、大丈夫そうだな

 

 

 

 彼方と分かれてから観客席の方へと移動すると、高咲さんと近江さんの姿が見えたからそっちへ近づく

 

「御手洗先輩、お疲れ様です」

 

「お疲れ、高咲さん……それと少し前ぶりだね、近江さん」

 

「ひ、紘陸さん。あの……一体何が────」

 

「見てればわかるよ」

 

 俺がその言葉を発したすぐ後、会場の照明が消灯され、ステージの中央へと集中……ステージ衣装に身を包んだ彼方が姿を見せる

 そこから1曲、彼方が披露した曲は他の誰でもない彼女にとって最も大切な妹────近江遥へ自分の想いを伝えるための曲。彼女の歌を聞きながら、周囲に目を配るとステージを見に来ていた参加者の心を掴むと同時に、込めた想いは一番伝えたかった人に伝わっているみたいだ

 

「……良かったな

 

 

 

 

 

 今回、俺が彼方にお願いされたのは簡単に言うと東雲学院と彼方の間を取り持つことだった。東雲には俺の弟が通っててスクールアイドル部のマネージャーをやってるって言うまさになシチュエーションだったから、取り持つことは比較的簡単に出来たし、近江さんがスクールアイドル部を辞める旨を伝えてしまっていた事も相まって、今回の件は比較的スムーズに事は進んだ

 大変だったのが事前に設定していたセットリストに彼方の曲をねじ込む形になったり、急に出ますと告知をしたり、事前に準備をしていたヴィーナスフォート側に事情を説明したりと……けどまぁ、苦労の甲斐もあってお互いに満足のいく方向に進めたのは何よりだ

 

「お疲れ様、兄さん」

 

「ん、あぁ実宙か……お疲れさん」

 

「みんな感謝してたよ、部員の危機を救ってくれたって」

 

「主に頑張ったのはアイツらだよ。俺はいつも通り動き回っただけ」

 

「謙虚は美徳って言うけど、謙遜のし過ぎは嫌味だよ兄さん。今回は頑張ったんだからしっかり自分を労わないと」

 

「……そうだな」

 

「わかってないでしょ?」

 

「わぁってるよ」

 

 ぶっちゃけあんま実感はないけど、まぁ適当に肯定の言葉だけ返しておく

 

「それより実宙、お前もこれから色々やんないとなんじゃないか?」

 

「おっとそうだった、行ってくるね」

 

「おう、行ってこい。俺は観客席でライブ楽しんでっから」

 

 実宙にそんな言葉をかけてから、後ろ姿を見送り……息を深く吐いた

 未だ心の奥に存在する泥は沈殿したままだが、それでも少しだけマシになった気がした

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僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ(作者:スパイダーキャット)(原作:僕のヒーローアカデミア)

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総合評価:2014/評価:8.64/連載:35話/更新日時:2026年04月15日(水) 18:00 小説情報


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