ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
第11話: 拡張能力と世界進出
【秋葉原・UDX屋上】
「再生の歌(リ・レゾナンス)」がアキバ・サンクチュアリから放たれ、世界が「再起動」してから、数日が経過した。
東京は、その姿を一変させていた。
「(……なんて、青いんだろう)」
アキバUDXの屋上、かつての「砦」に立った大空スバルは、ノイズの砂嵐が完全に浄化された、突き抜けるような青空を見上げていた。
大静寂(グレートサイレンス)以前よりも、鮮やかに、高く。
それは、そらの拡張能力「存在の調律(ソング・オブ・リアリティ)」によって、「希望」の色で「調律」された空だった。
だが、変わったのは空だけではない。
彼女たち自身もまた、「再生」を経て、劇的な変化(アップデート)を遂げていた。
「おはようぺこー! 今日もいい天気ぺこなー!」
階下の広場から、能天気な声が響く。
スバルが眼下を覗き込むと、そこには兎田ぺこらが生存者たちに挨拶回りをしている姿があった。だが、何かがおかしい。
ぺこらが手を振るたびに、周囲の瓦礫が、なぜかファンシーな「パステルカラー」に塗り変わり、背景にコミックのような集中線が幻視されるのだ。
「ぺこら、おまえ、能力(ちから)漏れてるぞ! 背景がアニメになっちゃってるから!」
スバルが上から叫ぶ。
「あ? ……げっ、マジぺこ!? 普通に挨拶しただけなのに!?」
「こらぺこら! 朝から世界観をバグらせるんじゃないよ!」
ミオしゃが駆け寄り、ハリセン(いつの間に具現化したのか不明だが、これもぺこらの『現実改変(ワールド・イズ・PEKO)』の影響だろう)でぺこらの頭をスパーン!と叩く。
すると、虚空に『なんでやねん!』という巨大な「書き文字」が実体化し、物理的な質量を持ってぺこらを押しつぶした。
「痛っ!? 文字が重いぺこ!? 物理(フィジカル)になってるぺこ!?」
「あ、ごめん。うちのツッコミも『具現化』しちゃったみたい……」
「どいつもこいつも、加減ってモンを知らねぇのかよぉ!」
スバルは苦笑しながら、額を押さえた。
死闘を乗り越えた彼女たちの「導きの力」は、もはや制御が必要なレベルで「日常」を侵食(オーバーライド)し始めていた。
デバイスを使わなくても、仲間の位置や感情が肌でわかる「常時接続(パッシブ・レゾナンス)」。
そして、感情の昂ぶりがそのまま「物理現象」として世界に出力されてしまう、過剰なまでのエネルギー。
「(……ふあぁ。よく寝たぁ)」
別の方向から、巨大な影が差した。
マリンが寝起き眼で、UDXのテラスに出てきた瞬間だ。
「船……私の、船ぇ……あはん……」
彼女が何やら艶めかしい寝言を漏らした、その時である。
ズズズズズ……ッ!
アキバの上空、青空を遮るように、全長数百メートルはある巨大な「幽霊船(ファントム・シップ)」の幻影が具現化し、一帯を日陰にした。
「ギャーッ!? マリン船長、起きて! 起きてください! 街の日照権が死にます!」
らでんが、慌ててマリンを揺り起こす。
「はっ!? ……あれ、わたし何してた?」
「サーバー権限の譲渡により、マリン船長の『欲望(イメージ)』の具現化率が100%を超えています! 無意識で戦艦を呼ばないでください!」
らでんが悲鳴を上げる。彼女には「視えて」いるのだ。今のマリンが、ただの海賊コスプレではなく、この街を更地にできるレベルの「移動要塞」そのものを背負っている事実が。
街には、そんな「騒がしい音」が戻っていた。
それは、かつてのノイズの不快な「ザー」音ではない。
生存者たちの笑い声、仲間のツッコミ、そして未来を作る音だ。
「よしっ、笑ってる場合じゃないな! スバルも仕事するッスよ!」
スバルは頬をパンと叩き、自身の役割へと戻る。
「みんなー! お疲れッス! スバルの『応援(エール)』、受け取ってくれー!」
彼女の拡張能力「不屈のチアアップ(広域)」が、サンクチュアリを通じて「希望の歌」の残響に乗り、アキバ全域の生存者たちの精神に「常時接続(オールウェイズ・オン)」される。
人々は、疲れを知らなかった。
絶望を、忘れていた。
スバルの「応援」が、彼らの「明日への気力」そのものを生成し続けていた。
復興現場では、かなたが数十トンの瓦礫を「天圧の防壁(物理法則固定)」で発泡スチロールのように運び、地下ではシオンが「魔導の極み(無限魔力炉)」となって全域の電力を賄っている。
百鬼あやめの「鬼神の結界」と、戌神ころねの「絶対守護領域」が、この街を地球上で唯一の「絶対安全都市(アルティメット・サンクチュアリ)」へと変貌させていた。
まさに、凱旋。
第1部の死闘が嘘のような、騒がしくも愛おしい「平和」な朝だった。
【秋葉原・サンクチュアリ中枢】
UDX地下、サンクチュアリ・コア中枢。 そこは、日本再生の「司令塔(ウォールーム)」となっていた。
「(…ダメだ)」 コアサーバーのコンソールに触れ、目を閉じていたらでんが、顔をしかめた。 「(『解読』はできても、『繋がり』すぎている)」 第1部の「蘇生」を経て、らでんの拡張能力「万物の系譜(アカシック・レコード)」は、サンクチュアリのコアと「常時同期」するレベルに達していた。 彼女には今、「世界中」の「記憶」と「悲鳴」が、リアルタイムで流れ込んでいた。 「(アキバの『光』が強くなった分、世界の『闇』が、より濃く視える…!)」
「(私の方も、同じだ)」 司令塔の中心。 巨大な「世界地図(ホロアース・マップ)」を前に、フブキは腕を組んでいた。 彼女の拡張能力「万象連結(フレンズ・ネットワーク)」は、もはや仲間を探すだけの「念話」ではない。 地球全土の「情報圏(インターネットの残骸)」そのものに「ハッキング」し、監視する、超広域の「索敵網(ソナー)」と化していた。
その「ソナー」に映し出される、世界の現状。 それは、絶望的だった。
「(日本は、ほぼ『白(セーフ)』。そらちゃんの『調律』と、私たちの『浄化』で、ノイズは沈黙した)」 マップ上の日本列島は、アキバを中心とした「光の聖域」として白く輝いている。
だが、海を越えた瞬間、その光景は一変する。
「(アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ…全部、『黒(ブラックアウト)』だ)」 大陸の全てが、第1部の東京など比較にならないほど、濃密で、絶望的な「虚無(ノイズ)」の渦に沈んでいた。 それは、黒い嵐だった。 「サイレンサー(本体)」の接近に伴い、日本の「光」を「異物」として拒絶するかのように、日本以外の全世界で、ノイズが爆発的に活性化していた。
「(『再生の歌』は、日本を『救った』。でも、世界から『孤立』させた、とも言える)」 フブキは、苦々しく呟いた。 このままでは、日本という「孤島」が、世界の「虚無」に飲み込まれるか、「本体」に叩き潰されるか。 時間の問題だった。
「(…声が、する)」 らでんが、流れ込む「悲鳴」に意識を集中させる。 「(微かだけど…『光』がある。覚醒したての…『導き手』の光だ)」 「(ああ、私にも視えてる)」 フブキが、マップのある一点を指差した。 太平洋のど真ん中。黒い「虚無」の嵐が、最も激しく渦巻く場所。 インドネシア列島近海。 そこに、今にも消えそうな、小さな、小さな「光」が三つ、明滅していた。
【インドネシア近海】
「(ノイズが、濃すぎて『声』が拾えない…! ラグが酷すぎる……!)」
フブキが焦燥の声を上げる。だが、その瞳にはゲーマー特有の「攻略」の火が灯っていた。
「(でも、あたしの『回線(コネクト)』をナメないで! 物理的(フィジカル)にこじ開ける!)」
フブキが「万象連結」の出力をオーバードライブさせる。脳内で仮想の冷却ファンが唸りを上げ、彼女の「狐の耳(アンテナ)」が物理的な輝きを帯びてノイズの嵐を貫いた。
その三つの「光」に、強引に「接続(リンク)」する。
「(――!?)」 フブキの脳内に、凄まじい「絶望」と「恐怖」が流れ込む。 ボロボロの小型船。嵐に翻弄され、ノイズの「触手」に捕まる寸前。 そこに、三人の「少女(アバター)」がいた。
「(ダメ…! ハッキングが、効かない…!)」 「(重力が…! 私の力じゃ、この嵐は止められない…!)」 「(情報が、読めない…怖い、怖いよ…!)」 ID組――リス、ムーナ、イオフィ。 彼女たちは、確かに「導き手」として覚醒していた。 だが、第1部の頃のJPメンバーと同じ。いや、仲間もいない「孤立」した状況で、自らの「力」を持て余し、ただ「虚無」に怯えることしかできなかった。
「(誰か…! 誰か、助けて…!)」 イオフィの、悲痛な「叫び」。
その時、リスが、自らの「力(技術)」で、フブキの「ハッキング(接続)」の気配に、かろうじて気づいた。 「(この感覚…『光』…? 日本の『アキバ・サンクチュアリ』の噂は、本当だった…?)」 リスは、残る力の全てを振り絞り、「万象連結」の回線に向かって、一つの「単語」を叫んだ。 それは、かつて彼女たちが「配信」を通じて、JPのメンバーたちに呼びかけていた、敬愛の言葉。
「(Tolong…!)」 (訳:助けて…!)
「(――Senpai(先輩)!!)」
その「声」は、フブキを通じて、アキバ・サンクチュアリの「司令塔」にいた、全てのJPメンバーの「心」に、明確に響き渡った。
【秋葉原・サンクチュアリ中枢】
「…『センパイ』、か」 司令塔の片隅で、壁に寄りかかっていた星街すいせいが、ニヤリと笑った。 「呼ばれちゃあ、行くしかねえよなァ?」 彼女の拡張能力「星系の軌跡(ステラ・オービット)」は、この星(地球)の重力圏すら「突破」できる。うずうずしていたところだった。
「(ふんっ。ぺこらたちを『先輩』と呼ぶとは、見る目があるぺこ!)」 ぺこらが、ふんぞり返る。 死闘を経て、彼女の「現実改変(ワールド・イズ・PEKO)」は、自らの「存在」を賭けることなく、限定的な「ルール」を「上書き」できるまでに、安定・進化していた。 「(後輩(こうはい)が、先輩(せんぱい)に助けを求める! 当然ぺこ!)」
「(アキバの復興? 第二次接触(カウントダウン)?)」 みこちが、ポンと手を打った。 彼女の拡張能力「神託実現(35P・オラクル)」は、もはや「最適解」を視る受動的なものではない。 「(『みこたちが、後輩を助けて、ついでに世界も救う!』これで『決定』だにぇ!)」 彼女が「勝利」を「認識」した瞬間、それが「現実」として、世界に「固定」され始めた。
「(まったく…後輩ってのは、手がかかる)」 ころねが、無敵の「盾」の力を持て余したように、ポリポリと頭を掻いた。 「(しょうがない。助けに、行くか)」
「司令塔」に集結していた、最強の「遠征組」メンバー―― そら、フブキ、すいせい、みこ、ころね、ぺこら、マリン、かなた、クロエ、おかゆ、らでん。そして、宴会中に合流を果たした まつり、わため、ルーナ―― 彼女たちの「意志」は、一瞬で一つになった。
「フブキ! 状況は!?」
そらが、司令塔に駆け込んでくる。
「ご覧の通り!」
フブキが、絶望に沈む「世界地図」と、その中で唯一「救難信号」を放つID組の「光」を指差した。
「彼女たちは、助けを求めてる。あたしたち『ホロライブ』に」
「行くしかないね」
そらの言葉に、迷いはなかった。
だが、全員で日本を離れるわけにはいかない。「サイレンサー」の脅威は一時的に去ったとはいえ、いつまたノイズが再活性化するかわからないからだ。
「チームを分けよう」
ミオしゃが、静かに手を挙げた。彼女の手には、タロットカードが握られている。
「ウチの『占い』でも出たよ。『留まるべき守護者』と『旅立つべき開拓者』……今のウチらには、この二つの役割が必要だって」
ミオしゃは、地図の上にカードを並べていく。
「アキバは、今や日本の心臓だ。ここが落ちれば終わり。だから……ウチと、あやめちゃん、ちょこ先生、シオンちゃん、あとラミィちゃん……それと、スバル。このメンバーは残って、鉄壁の防衛陣を敷く」
「(エッ!? スバルも留守番!?)」
スバルが声を上げる。一番に飛び出していくつもりだったのだ。
「スバルちゃんは、アキバの『太陽』だからね。あんたがいなくなったら、みんなの元気がなくなっちゃうよ」
ミオしゃの言葉に、スバルはハッとして、そして力強く頷いた。自分の役割(ロール)を理解したのだ。
「……了解ッス! 留守は任せて! あんたたちが帰ってくる場所は、スバルが死守するから!」
「(じゃあ、殴り込みはボクたちの出番ってことだね〜)」
おかゆが、ゆらりと前に出る。
「(遠征組は、機動力と火力が自慢のメンバー……と、癒やし枠(わため・ルーナ・まつり)も連れてくよ。あたし、そらちゃん、すいちゃん、船長、かなた、ぺこら、らでんちゃん、クロエちゃん、フブキちゃん……)」
フブキが、選抜された遠征メンバーを見渡し、不敵に笑った。
「(このメンバーで、世界を『繋ぎ』に行く! もちろん、あたしたち『先輩』として、ね!)」
「うん!」
そらが、全員の顔を見て、力強く頷いた。
「(私たちの『日常』を取り戻した。次は、遠く離れたみんなの『世界』を取り戻す番だね!)」
【東京湾・お台場海浜公園】
東京湾・お台場海浜公園。 「デリーター・OD」との死闘の末、半壊・座礁していた「ホロライブ・アーク」の残骸。 その前に、「遠征組」のメンバーが降り立った。
「(うわー、ボロボロ……。でも、よく見ると『お宝』の原石だね、これ!)」
宝鐘マリンが、船長(キャプテン)の帽子を被り直し、ニヤリと笑った。
朝、無意識に呼び出してしまった「幽霊船」ではない。
今、彼女の目の前にあるのは、仲間と共に作り上げる「本物」の船だ。
「(お前ら! 今度は幻影(ファントム)じゃないよ! 世界の『お宝(後輩)』、いただきに行く本気の機体だ!)」
マリンが指を鳴らす。
「(ホロライブ・アーク、大・改・装(リビルド)!)」
その号令と共に、JPメンバーの「無双」の力が、一点に集束した。
「(まずは、骨組み(フレーム)と、動力(エンジン)!)」
アキバの方角から、紫色の魔力の奔流が空を裂いて届く。地下で炉心となっているシオンからの遠隔供給だ。
「(『魔導の極み(マギカル・トリック)』――炉心、生成!)」
アキバ・サンクチュアリから「万象連結」を通じて転送された莫大な「魔力」が、アークの機関部で渦を巻き、「擬似・太陽炉」とも呼べる、半永久的な「魔導エンジン」へと再構築されていく!
「ドクン!」
船が、心臓のように脈動を始めた。
「(エネルギー値、安定しています! 朝の暴走とは大違いです!)」
らでんが、ホログラフィックな端末を見ながら安堵の声を上げる。
「(うるさいわね! あれは寝ぼけてただけよ!)」
マリンが赤面しながら怒鳴り返すが、その顔は楽しそうだ。
「(次は、装甲(アーマー)!)」 かなたが、船体に向かって両手をかざす。 「(『天圧の防壁(ヘブンズ・グリップ)』――神格装甲(ディバイン・アーマー)、固定!)」 彼女の「握力」が、周囲の「空間」そのものを「掴み」、「高密度な物理法則の『壁』」へと圧縮。それが、アークの船体を、純白の「装甲」として覆い尽くしていく。 ノイズの「虚無」すら「圧殺」する、絶対的な「盾」だ。
「(仕上げに、『航路(ナビ)』と『武装(ウェポン)』!)」 らでんが、ブリッジの羅針盤に触れる。 「(『万物の系譜(アカシック・レコード)』接続! 旧世界の『衛星技術』と『航海術』、解読・融合!)」 羅針盤が、ノイズの嵐の「先」にある、安全な「航路」を自動で描き始めた。
「(武装は、これぺこ!)」
ぺこらが、船首に巨大な「ドヤ顔のウサギ」のエンブレムをババン!と貼り付けた。
「(『現実改変(ワールド・イズ・PEKO)』! この船は、『最強の戦艦』であり、『絶対に沈まない』! 決定ぺこ!)」
言霊(ルール)が、強制的に船に「上書き」される。
「ゴゴゴゴゴゴゴ…!」 数分前まで「残骸」だった船が、凄まじい「光」と「魔力」を放ちながら、その姿を「変貌」させていく。 純白の「神格装甲」に身を包み、船体各部には「魔導スラスター」が輝き、船首には「ぺこら(ウサギ)」の紋章が輝く。
「(ちょっ!? なんで一番目立つところがぺこらなのよ!? ワシの船!)」
マリンが抗議の声を上げるが、ぺこらは聞こえないふりでサムズアップ。
「(硬さ重視ぺこ!)」
「(可愛くない! カリスマがない! ……ああんもう、時間がないからこれでいくけどぉ!)」
それは、もはや「船」ではなかった。 「超弩級・魔導戦艦(スーパー・ドレッドノート・マジック・バトルシップ)」の誕生だった。
「(艦長、宝鐘マリン!)」 ブリッジに立ったマリンが、ウサギのエンブレム越しに、自信に満ちた笑みで仲間たちを見渡した。 「(出航だ、お前ら! 後輩どもが、泣いて待ってるぜ!)」
「「「「「応!!」」」」」
「ホロライブ・アーク(改)」は、魔導エンジンの轟音と共に、お台場の砂浜から「浮上」。 目指すは、ノイズの嵐が渦巻く、南の海。
「面舵一杯! 目指すは南(サウス)! ――全速前進(フル・スロットル)、ヨーソロー!!」 マリンの号令が、青空に響き渡った。