ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
【インドネシア上空・シミュレーター】
「はい、そこもっと速く! そんなんじゃヌメヌメした触手に捕まっちゃうよ!」
フブキの声が、IDメンバーのデバイスに響き渡る。
ここは、インドネシア上空、高度数千メートル。
アークに搭載された「シミュレーター(旧ホロアース)」内で、リス、ムーナ、イオフィの三人は、地獄の特訓を受けていた。
「リスちゃん! 敵の攻撃パターンは300通りだよ? 丸暗記して全部避けて!」
「無理だよ!!」
リスが悲鳴を上げながら、仮想のノイズ弾幕を紙一重でかわす。
「ムーナちゃん! 重力で『守る』んじゃなくて、『潰す』イメージで!」
「潰す……ピシャーン!って?」
ムーナが首をかしげる。
「イオフィちゃん! 敵の言語コード解析、残り5秒!」
「うわーん、頭パンパンだよぉ!」
イオフィが頭を抱える。
「厳しすぎるんじゃないぺこか?」
見学していたぺこらが、ドン引きしている。
「いや、あの子たちは『天才』肌だ。これくらい負荷をかけないと、本当の力(ポテンシャル)が出てこない」
フブキは余裕の笑みで、コンソールの難易度設定を『Human(人間)』から『Holo(ホロメン)』へと引き上げた。
【ジャカルタ・市街地】
その頃、インドネシアの地上では、現実の危機が迫っていた。
「アーク、応答願います! ジャカルタ市街地に、巨大な反応!」
らでんの警告アラートが鳴り響く。
モニターの映像には、ジャカルタの歴史的市街地「コタ・トゥア」を蹂躙する、巨大な影が映っていた。
それは、インドネシアの豊かな自然と、都市の喧騒が「ノイズ化」して融合した怪物。
デリーター・ボルケーノ(火山)。
ジャワ島の火山活動そのものが、サイレンサー(本体)の影響で「悪意」を持った災害級エネミーだ。
「噴火だよ! 溶岩(マグマ)が、街を飲み込んでる!」
アークの甲板から、かなたが叫ぶ。
真っ赤な溶岩流が、歴史ある建物を次々と溶解させていく。
「あそこには、まだ逃げ遅れた人たちが……!」
ムーナが顔色を変える。
「私たちが、行かなきゃ!」
イオフィが叫ぶ。
「準備はいいかい?」
フブキが、シミュレーターの接続を切った。
三人の体からは、湯気が出るほどの熱気が溢れている。特訓(スパルタ)の成果だ。
「当然だね!」
リスが尻尾を振る。
「やってやるよ!」
ムーナが瞳を怪しく光らせる。
「コタ・トゥアは、私の庭だからね!」
イオフィがペンを構える。
アークから、三つの影が飛び出した。
それを援護するように、JPメンバーも続く。
「リスちゃん、先行して! 撹乱をお願い!」
「Risu Time!」
アユンダ・リスが、超高速で廃墟を駆け抜ける。
彼女の能力『Tech Hack(技術掌握)』が発動する。
街に残された信号機、自動販売機、放置されたドローン。あらゆる機械が、彼女の「歌」に呼応して再起動し、デリーターに向かって一斉射撃を浴びせる。
「こっちだよー! お尻ペンペン!」
リスは敵のヘイトを集め、マグマの奔流を巧みに誘導する。
「今だ! ムーナ!」
「Moona...Hoshinova!」
ムーナ・ホシノヴァが、夜空に浮かぶ「月」に手を伸ばした。
『Gravity Control(月引力制御)』。
彼女の手のひらに、小さなブラックホールのような球体が生まれる。
「重力……反転!」
ズズズズズ……!
地上を流れていた溶岩が、重力を失い、空へと逆流し始めた。
熱波が宇宙へと吸い上げられ、街への被害が食い止められる。
「すごいぺこ……! あれがIDの力ぺこか!」
ぺこらも、そのスケールの大きさに舌を巻く。
「まだだよ! イオフィちゃん!」
「Iofi is here!」
アイラニ・イオフィフティーンが、空中に巨大なキャンバスを描く。
『Alien Link(異星言語解析)』。
彼女の筆先から放たれた光の粒子が、デリーターの身体(マグマ)に刻まれた「ノイズの術式」を、リアルタイムで解析し、翻訳していく。
「分かった! あいつの核(コア)は、火口の奥! 『大地の怒り』そのものだよ!」
イオフィの情報が、全員のデバイスに共有される。
「核が見えれば、こっちのもんだにぇ!」
みこちが、マグマ溜まりに向かってお祓い棒を振る。
「エリート神事! 溶岩でも泳いでやるにぇ!」
「船長、主砲用意!」
マリンがアークの艦首を向ける。
「全門、ロックオン! ぶっ放すわよ!」
JPメンバーの攻撃と、IDメンバーの特技が見事に噛み合う。
言葉の壁も、距離の壁もない。
そこにあるのは、同じ「ホロライブ」という魂の共鳴(レゾナンス)。
「トドメだ!」
そらが、戦場の中央に降り立つ。
「みんな、声を合わせて!」
そらの「原初の歌声」に、リスのハイトーン、ムーナの重低音、イオフィのハーモニーが重なる。
日本語、英語、インドネシア語。
異なる言語が混ざり合い、一つの強烈な「和音」となって、デリーターを包み込む。
「オオオオオ……!」
デリーターの動きが止まる。
その身体を構成していた「怒り」の感情が、歌声によって「鎮魂」されていく。
「すいちゃん、今!」
「了解!」
すいせいが、ムーナが作った重力の「道」を駆け上がり、イオフィが示した「核」へと、リスがハッキングした「ドローン群」と共に突撃する。
「『星系直列(ステラ・アラインメント)』・インドネシアVer!!」
青い流星が、火山の火口へと吸い込まれ――
カッ!!!!
まばゆい光と共に、デリーター・ボルケーノは、七色の花火となって夜空に散った。
「やったー! 大勝利ー!」
リスたちが歓声を上げる中、イオフィの表情がふと真剣なものに変わった。
彼女のアンテナ――『Alien Link』が、宇宙からの微弱な信号を捉えたのだ。
「……え? なにこれ……空から?」
「どうしたのですか、イオフィ殿?」
アークの艦橋で、らでんもまた、手元のコンソールに表示された不可解な波形を凝視していた。
「ノイズ反応、消失……いえ、違います。これは……通信?」
「うん、間違いないよ。誰かが……誰かが、私たちを呼んでる」
イオフィは夜空を見上げた。
「『観測者』が……接触を求めている」
【東京・渋谷】
一方、その頃。
日本の首都、東京でも、新たな火種が燻り始めていた。
場所は、渋谷。
かつて若者の活気で溢れていたこの街は今、武装集団「AA(アンチ・アライアンス)」の支配下にあった。
「おい、聞いたか? アキバの連中、海外に戦力を割いてるらしいぞ」
「チャンスじゃねぇか。あいつらがいない間に、サンクチュアリの物資を奪っちまおうぜ」
廃ビルの一室で、武装した男たちが密談を交わしている。
彼らはノイズの脅威が減ったことで、逆に「人間同士の利権争い」に目を向け始めていた。
アキバ・サンクチュアリが独占する「魔法(魔力物資)」や「高度医療」は、喉から手が出るほど欲しい資源なのだ。
「でもよぉ、アキバにはまだ『鬼』とか『ヤクザみてぇな警官』が残ってんだろ?」
「へっ、所詮は女子供の集まりだ。俺たちの『重火器』と、ある『協力者』がいれば……」
「その『協力者』って、あたしのことかな~?」
突如、天井のダクトから、逆さまに少女が降りてきた。
赤と青の奇抜な髪色。小柄な体に、不釣り合いなほど巨大な存在感。
ハコス・ベールズ。
「うわっ!? べ、ベールズ様!」
男たちが慌てて敬礼する。
ベールズは、サイコロを弄びながら、キャハハと笑った。
「君たちさぁ、話がセコいんだよね。物資を『奪う』? 違うでしょ」
「もっと派手に、『壊し』ちゃえばいいじゃん!」
彼女の瞳の中で、カオスの渦が回転する。
「アキバの結界も、秩序も、全部めちゃくちゃにしてさ。……もっと『面白い』世界にしちゃおうよ?」
男たちの目が、次第にトロンと濁っていく。
ベールズの放つ「カオス」のフェロモン(精神干渉)が、彼らの理性を取り払い、破壊衝動を増幅させていく。
「……そうだな。壊せばいいんだ」
「アキバなんて、燃やしちまえ」
「そうそう、その意気♪」
ベールズは満足気に頷くと、窓の外――アキバの方角を見つめた。
「待っててね、アイリス。君が大事に守ってる『希望』……あたしが全部、グチャグチャに混ぜてあげるから!」
彼女が指を鳴らすと、背後の暗闇から、異様なオーラを纏った4つの影が現れた。
虚ろな目で錆びた短剣を持ったフクロウ、七詩ムメイ。
「……ホラー、タべる?」と不気味に笑う赤井はあと(はあちゃま)。
「お菓子くれるって言った!」と傘を振り回すこぼ・かなえる。
そして、「ここどこ? ピザある?」とキョロキョロしているがうる・ぐら(迷子になってこちらに合流)。
最強で最悪の「混沌軍団(カオス・レギオン)」が、ここに結成された。
ジャカルタで勝利を収めたアーク。
だが、その背後の日本で、最悪の「内乱」が始まろうとしていることを、彼らはまだ知らない。