ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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第16話: オーストラリア

次元の境界線が、極彩色の硝子細工のように砕け散った。

 


【アーク:甲板(メインデッキ)】

 

「(あ、明るい……! これ、最高じゃないぺこ!?)」

 

 アークの最前列で、ぺこら が眩いばかりの青空を仰いだ。

 アキバの熱狂――ベールズ が放った次元をバグらせるほどの『カオス』を推進力に変え、アイリス の奏でる『希望』をガイドレールとして突っ込んだ未知の超空間。

 その出口を抜けた瞬間にアークを包み込んだのは、太平洋のノイズに塗れた空では決して見ることのできなかった、圧倒的なまでの「勝利の光」だった。

 

 眼下には、宝石を砕いて散りばめたような蒼い海が広がっている。

 波間を吹き抜ける風には、もはや消毒液のような無機質な匂いも、死を予感させる不吉な静寂もない。

 

「(……信じられない。ノイズ密度、ゼロパーセント。……ここは、完全に浄化されてるね)」

 フブキ が、銀色の耳をぴんと立てて呟いた。

 彼女の拡張能力『万象連結(フレンズ・ネットワーク)』が、地球全土の情報圏(インターネット)の残差をソナーのように撫で、かつてないほどクリアな信号を拾い上げている。

 

「(スバル。……準備はいい?)」

「(おう! いつでもいけるよ、フブちゃん! この日のために、アキバで後輩どもをシゴき抜いてきたんスからね!)」

 

 大空スバル が、居直りに近い自信を込めて拳を握る。

 アークの甲板に並ぶID組のメンバーたちの背筋が、その言葉を聞いた瞬間に「ピシッ」と凍りついたように伸びた。

 

「(……ムーナ、リス、イオフィ。あんたたち、まさか『フブキ・ブートキャンプ』の教えを忘れたわけじゃないよね?)」

 

 フブキ が、氷のように冷たく、それでいてどこか楽しげな瞳で背後のメンバーを振り返った。

 

「(……い、いえ! 忘れてません、フブキ・コマンダー!)」

 ムーナ・ホシノヴァ が、重力魔法を司る月の女神とは思えないほど、生真面目な直立不動の姿勢で応える。

「(次元を越える間の『イメトレ特訓(1万回ノック)』、しっかりと身に刻んであります!)」

 

「(よし。……なら、英雄らしく振る舞いな。私たちが、ホロライブ・アライアンスこそが、この世界の主役であることを証明するよ)」

 

 フブキ の号令。

 その直後、アークの通信チャンネルが、次元のノイズを真っ二つに切り裂くような「完璧な英語」によってジャックされた。

 


【オーストラリア・エリア:上空】

 

「(Hello! ……って、まだ言うのは早かったかしら?)」

 

 凛とした、それでいてどこか芝居がかった、非の打ち所がない発音。

 アークに搭載されたらでんの『共鳴(レゾナンス)・パッチ』を介して、その声は全メンバーの脳内へ、クリスタルのように響き渡った。

 

「(ようこそ、ホロライブ・アライアンスのみんな。……そして。私(わたくし)たちが管理する、完璧に整えられたこの聖域(サンクチュアリ)へ。待っていたわよ)」

 

 空を、白銀の航跡が切り裂く。

 大きな時計の歯車を背負い、青いドレスの裾を翻しながら、オーロ・クロニー が空中を散歩するように降りてきた。

 彼女の背後には、空間の司であるサナ、自然の守護者であるファウナの姿も見える。

 

「(クロニー! サナ!)」

 アイリス が、安堵の溜息を吐きながら艦橋から身を乗り出した。

 「(無事なのね!? 『議会(Council)』は……)」

 

「(ええ。……むしろ、少し退屈していたくらい。この世界の掃除は、私たちが既に済ませておいたから)」

 

 クロニーが指を鳴らす。

 その瞬間、アークの進行方向に、空そのものが編み上げられたような巨大な「花の回廊」が出現した。

 次元すらも手懐けた、神の所業。

 

 だが、そのクロニーの涼しげな顔が、フブキと視線が合った瞬間に、一瞬だけピクリと動いた。

 

「(……白上フブキ。……あのアキバでの通信(アニュアル)以来のリモートね)」

 

「(あら、クロニー。……まだ『時間の進み方』が甘いんじゃない? あとで、アークの訓練室まで来な。IDのみんなが受けたメニュー、特別に体験させてあげるから)」

 

「(……っ! ふ、ふん。私は完璧よ。必要ないわ)」

 

 あのオーロ・クロニーが、僅かに腰を引いた。

 フブキの「スパルタ教官」としての威圧感は、もはや次元や言語の壁を越えて、神話級の存在にさえトラウマを植え付けていた。

 


【議会の庭園:ヘブンズ・ガーデン】

 

 アークがゆっくりと地上に着陸した。

 そこは、オーストラリアの大地がそのまま「神殿の庭」になったかのような、楽園だった。

 

「(わわぁ……! お花がいっぱいぺこ! これ、ハッタリじゃないぺこ!?)」

 ぺこら が、恐る恐る地面に降り立つ。

 

「(……ぺこら先輩、これは現実だよ)」

 イオフィ が、キャンバスを広げるように空を指差した。

 「(これが……フブキ先輩たちが守り抜いてきた、私たちの『オリジン(原典)』なんだね)」

 

 庭園の奥では、ティーセットを囲んで サナ が、優雅にスコーンを頬張っていた。

 管理者の影も、崩壊の予兆もない。

 あるのは、圧倒的な「平和」と、それを守り抜いた「英雄」たちの誇りだった。

 

「(Welcome! そら先輩、ずっと待ってたよ!)」

 サナ が大きな笑みを浮かべ、そら を迎え入れた。

 

「(サナちゃん! ……本当に、みんな無事なんだね。……ありがとう。この世界を、守っていてくれて)」

 

「(うふふ。私たちの役割ですから。……でも、そら先輩が来てくれたなら、もう私たちは『守る』だけじゃなくていいんですよね?)」

 ファウナ が、慈愛に満ちた、しかしその奥に猛烈な闘志を秘めた瞳で微笑んだ。

 

「(そうだね。……これからは、私たちの番だ)」

 

 そら の号令と共に、アライアンスの全メンバーがアークから降り立った。

 JP、EN、ID。

 これまで孤独に戦っていた断片(パーツ)が、今、そらという「希望」の下に、完全な軍団へと統合された。

 


 

 祝祭は、夜まで続いた。

 

 だが、それは単なる宴ではない。

 最強の英雄たちが、互いの武勇を認め合い、結束を深める儀式でもあった。

 

「(……へぇ。IDの娘たちも、あのフブキの特訓を生き残ったんだね)」

 ときのそら が、ムーナたちが披露した高精度の重力演武を見て、感心したように頷いた。

 

「(はい、そら先輩……! 『配信者たるもの、どんな重力下でもカメラ目線を忘れるな』というフブキ先輩の教え……血反吐を吐く思いで習得しましたっス……!)」

 リス が、感動とトラウマが混ざったような涙を流しながら、フブキの横顔を仰ぎ見る。

 

 当のフブキは、デッキの椅子に悠然と腰掛け、アイリスとベールズを左右に従えていた。

 「(まあ、合格点かな。……でも、明日の作戦では、もっと動いてもらうよ。……ねえ、アイリス、ベールズ。あんたたちだけは、特別扱いしてあげようか?)」

 

「(あはは、カオスに特別なんてないよ、フブキ! 楽しそうじゃん!)」

 ベールズ がニヤリと笑い、ハコスの予兆(カオス)で夜空を虹色に染め上げた。

「(私たちのレゾナンス……管理者の旦那に、特大の『クラッカー』として叩きつけてやろうぜ!)」

 

 何も奪われていない。

 誰も欠けていない。

 フブキの厳しい背中と、そらの優しい光。

 そして、その二人に導かれた50人の英雄たち。

 

 アークのエンジンは、かつてないほどの『共鳴(レゾナンス)』によって、黄金の粒子を宇宙の果てまで撒き散らしていた。

 「絶対に負けない」。

 その確信だけが、オーストラリアの完璧すぎる夜空を、誇らしく貫いていた。

 

 

 

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