ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
【オーストラリア近海:クリスタル・ラグーン】
「(っはぁぁぁ! 最高っスね、これ!)」
パヴォリア・レイネ が、アークの甲板から身を乗り出して叫んだ。
目の前に広がっているのは、熱帯の太陽の下、眩いばかりに凍りついた「氷の海」だ。
オーストラリア。本来ならば常夏の楽園であるはずのその場所が、今や世界で最も巨大な「天然のスケートリンク」へと変貌していた。
だが、それは単なる気象異変ではない。
事の始まりは、ハコス・ベールズ の一言だった。
『ねえ、アークが来たんだし、もっとド派手なパーティにしようよ! 氷の上で踊るの、最高にカオスでクールじゃない!?』
彼女の『カオス(混沌)』の権限が発動した瞬間、アークの周囲数キロメートルの海面は、瞬時にダイヤモンドのごとき硬度の氷へと結晶化した。
海水の分子運動を強制停止(フリーズ)させ、物理定数をその場の「ノリ」で書き換える事象改変。それこそが、ホロライブ・アライアンスが手に入れた「新しい日常(ワールド・オーダー)」のルールだった。
氷上では、アークを支えてきた主力たちが、各々の「異能」を実戦形式で最適化(チューニング)していた。
「(ちょ、おかゆ先輩……! そこ、慣性無視(グリッチ)しすぎだってばぁ!)」
クロエ が、震える足で氷の上に立ち、音もなく空間を滑走する影を必死に追っていた。
「(あはは、さかまた遅いよ〜。ほら、おにぎり投げちゃうよ?)」
おかゆ が、自身の存在密度を希薄化させる『モグモグ・ハイド』を応用し、摩擦係数をゼロに固定したまま氷上を縦横無尽に駆け巡る。彼女が滑りながら虚空から生成した「氷のおにぎり」は、物理法則を無視した弾道で軌跡を描き、クロエの回避パターンを封印していく。
「(ちょ、空間計算(ロック)された!? おかゆ、これは単なる『遊び』の域を超えてるよぉ!)」
クロエが悲鳴を上げながらも、そのダガーを抜く速度はアークでの実戦よりも鋭い。彼女たちは祝祭を口実に、その限界機動を極限まで研ぎ澄ませていた。
その隣では、天音かなた が巨大な氷の塊を「素手」で削り出していた。
「(よしっ……! ここは分子レベルで圧縮して……あ、握力が……!)」
彼女の『天圧の防壁(ヘブンズ・グリップ)』が、氷の分子構造そのものをダイヤモンド構造へと強制変位させていく。かなたが指先を動かすたびに、空間に凄まじい圧力が生じ、純白の「天使の翼」が物理的な質量を伴って形作られていく。
「(わぁ! かなた先輩、構造解析(アナライズ)が追いつかないよ! これ、もう新素材(マテリアル)だよ!)」
こぼ・かなえる が驚異的な好奇心でかなたの手元を覗き込む。
「(こぼちゃん? あ、ありがとう。……でも、近づきすぎないでね。万が一出力が暴走したら、このエリアの重力、逆転しちゃうから……っ)」
かなたの真剣すぎる表情――それは、いつか来る「最後の日」に備えた、精密制御の極致だった。
【氷上の特設会場:アライアンス・レゾナンス・チャージ】
「(あはは! いくよ、クロニー、サナ! 全域共鳴(オール・リンク)、起動!)」
九十九佐那 が、宇宙の法を司るその身を一瞬だけ巨大化(ギガンティック・フォーム)させ、ラグーン全体の「空間の揺らぎ」を物理的に押さえ込んだ。
「(了解。……時間の流れを、スケーティング用に最適化(クロノ・スリップ)したわ)」
オーロ・クロニー が指を鳴らす。
リンク上の時間は、彼女たちの意志に従ってミリ秒単位で「静止」と「加速」を繰り返し、物理限界を超えた機動を可能にする。
「(ゆびゆび~! ころね、慣性制御は得意なんだ~!)」
戌神ころね が、痛覚と恐怖を遮断した『不屈の耐久』により、常人なら骨が砕けるようなG環境下で氷上を爆走する。
「(待って、空間強度が保たない……っ!)」
かなたが避難する中、ころねはさらに加速。その軌跡は真空の熱を孕み、絶対零度の氷地に炎の線を刻む。
「(はい、チーズ! 全域バフ、乗せるよー!)」
フェンスの外側では、夏色まつり が『祭りの神輿』を最大出力で展開し、場に満ちる戦意を「黄金の粒子」へと昇華させていた。
「(わためも、共鳴安定化(レゾナンス・スタビライズ)! つのまき――じゃんけん!)」
角巻わため の歌声が、アイリスの『希望』と重なり合い、大陸全土のノイズを物理的に圧殺していく。
「(るなたん、魔力(糖分)が足りないのら。チョコ、炉心コアを持ってくるのら!)」
姫森ルーナ が、氷の王座から絶対命令を下す。
「(あらあら、ルーナ姫。特製の魔導ココアを用意したわ。これを飲めば、出力が300%は跳ね上がるわよ)」
癒月ちょこ が優雅に差し出すその一杯は、もはや飲料という名の「戦術補給物資」だった。
祝祭の熱気は、海の上だけではない。
「(ミオ、オーストラリアの『出力』、想定を上回ってる。これなら、日本からの転送も余裕だね)」
秋葉原のサンクチュアリ中枢から、紫咲シオン が虚空から魔力を捻出し、大陸間を繋ぐ『魔力回廊』を維持しながら呟く。
「(ああ。カードは『戦車』。……そらちゃんたちの勇姿が、アキバのみんなの希望を物理的なエネルギー(魔力)に変えてるんだ)」
大神ミオ が、タロットを操りながら、日本と世界を繋ぐ「共鳴の糸」がかつてないほど太くなっていることを確認した。
「(IRyS, 見て! そら先輩の3回転半、あれ、『事象の固定』を伴ってるよ!)」
ベールズが、相方の アイリス の肩を叩いた。
そら が宙を舞う瞬間、その空域の「ノイズ」は完全な消滅を超えて、宝石のような物理結晶へと変質していた。
「(本当……。あれはもう『歌』じゃないわね。世界を定義し直すポエム……。ねえ、ベ、本当に良かった。アークのみんなが来てくれて)」
アイリスが微笑む。
「(この圧倒的な『出力』なら……『管理者』の冷たい静寂なんて、一瞬で吹き飛ばせる)」
「(……ま、そんな寂しい未来、カオスの権限でデリートしちゃうからね!)」
ベールズがニヤリと笑い、アイリスの手を引いて氷の上へと飛び出した。二人の描く『カオス&希望』の共鳴は、もはや一国の防衛力を上回るほどの「事象改変力」を放っていた。
新しく合流したIDの後輩たちも、その「軍団(アライアンス)」の力に戦慄していた。
「(ゾンビ! ゾンビのロジックで重力遮断!)」
クレイジー・オリー が、ベールズの背後から「不死性無視(アンデッド・アクセル)」で乱入する。
「(あはは! ノってきたねオリー! 慣性をバグらせてあげる!)」
二人の軌跡が氷上に複雑な幾何学模様を描き、その摩擦熱が虹色の火花となって散る。それは遊びではなく、対ノイズ戦における「空間遮断」の応用訓練だった。
「(みなさん、もう少し『戦術的優雅(タクティカル・エレガンス)』というものを意識してはどうですか?)」
パヴォリア・レイネ が翼を広げ、風を完全に掌握した『風切の活路』の派生技で滑走する。彼女の通過した跡には、一切の障害物を許さない「真空の道」が形成されていた。
「(……ふふ。素晴らしいですね。異能が、意志と結びついて、世界を塗り替えていく。この記録こそが、私たちの最強の武装になる)」
リンクの端で、儒烏風亭らでん が『審美眼』によるデータ解析を行い、全メンバーの共鳴パターンを最適化(アップデート)していた。
一方、リンクの端。
喧騒から少し離れた場所で、イオフィ は一人、氷の上に突っ伏していた。
「(……イオフィ。またオーバーヒートぺこか?)」
兎田ぺこら が、脳に負荷をかけた後のように熱を持つイオフィの頭を冷やしながら声をかける。
「(……社長。……会いたかったですよ、本当に。アキバとオーストラリアの『共鳴連結』……成功しましたね)」
ムーナ・ホシノヴァ が、ぺこらの隣にふわりと舞い降りた。
彼女の全身から溢れる重力波は、もはや制御の必要がないほどぺこらの『ハッタリ(現実上書き)』と調和し、周囲の空間を強化していた。
「(……ムーナ。……へっ、そんなしんみりするのらしくないぺこよ。……ほら、次の『コンビネーション』を確認しに行くぺこ!)」
ぺこらが照れくさそうにムーナの手を引く。
「(……はい、ぺこら先輩。……世界の果てまで、随行します)」
二人の「月」と「兎」が重なり合い、氷の上に最強の『対抗ロジック』の影を落とした。
その、眩しすぎる輝きの中に。
「(……いえ……酔ってはいますが……見てください、これ。論理階層(レイヤー)が、おかしい)」
イオフィ が、焦点の合わない目で氷の底を指差した。
そこには、透明度の高い氷を透過して、遥か深海の底が見えていた。
本来ならば暗闇であるはずの深海。
だが、そこには不自然なほどの「明かり」があった。
「(……なんぺこ、これ。白い箱?)」
イオフィ の視線の先。
深海の泥の上に、真っ白な、完璧な立方体が、数千、数万と、整然と並んでいた。
それは魚でも、サンゴでも、沈没船でもない。
意味を持たない、データの抜け殻。
あるいは、世界を構成するための「未描画エリアのスペーサー」のような、無機質な物体。
「(……整然と並びすぎています。まるで、管理者のコレクションルームの棚みたいだ……)」
イオフィ の『エイリアン・リンク』が、祝祭の熱狂を遮断し、そこに一切の感情も文鳴もない「死の秩序(システム)」を読み取ってしまう。
それは、彼女たちの「異能」を以てしても、まだ「定義」できない未知のコードだった。
「(何言ってるぺこ。それはきっと、ラグーンの珍しい岩かなんかぺこよ! ほら、第2部主役(わたしたち)の出番ぺこ!)」
ぺこら が、イオフィ の腕を強引に引いて立ち上がらせる。
その瞬間、氷の底の白い輝きは、リンクの上で爆発した虹色のバフ・エフェクト(煙幕)にかき消され、二人の視界から消えた。
「(……そうですね。せっかくの祝祭、この『力』を楽しまなきゃ損です)」
イオフィ は、自重するような力強い笑みを浮かべ、再び最強の「軍団(アライアンス)」の中へと戻っていった。
背後で、左右対称の空が、不気味なほど鮮やかに輝き続けていた。
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