ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
世界を、上書きする時間が来た。
【オーストラリア沖:決戦空域】
「(……来るよ。今度は、大きいのが)」
白上フブキ が、アークのセンサーデッキで耳を鋭く立てた。
空の見えない「裂け目」から、これまでとは比較にならないほど巨大な、無機質な「真っ白な三角錐」が出現した。
サイレンサー。
世界のノイズを調停し、静寂へと導くための管理者の執行官(デリーター)。
「(……へぇ。ずいぶんとお行儀のいい敵が来たもんだね)」
星街すいせい が、黄金に輝く巨大な斧を肩に担ぎ、不敵に笑った。
「(いいよ。50人分のストレス、まとめてぶつけてあげる)」
「(よし、みんな! アライアンス、総員戦闘開始っス!)」
大空スバル の号令。
その瞬間、アークの甲板は「暴力的なまでに美しい」スキルの飽和攻撃で埋め尽くされた。
それは、単なる迎撃ではなかった。
これまで温存されていた「伝説」たちが、その真価を解き放つための、凄まじい祝祭。
「(地獄の響きを、その身に刻みなさい。……死を、恐れなくていいわ)」
森カリオペ が、漆黒の鎌『リッパー』を大きく振りかぶり、虚空へと叩きつけた。
「(『地獄の切断(ソウル・リッパー)』――絶界・魂の収穫祭(デス・パレード)!)」
鎌が空を裂いた瞬間、サイレンサーの一体が、その巨大な質量を無視して「概念的」に両断された。物理的な装甲の厚みなど、魂を刈り取る彼女の前では意味をなさない。
「(不死鳥の焔は、絶望を焼き尽くすためにあるわ!)」
小鳥遊キアラ が双剣から烈火を放ち、空に巨大な朱い翼を描き出した。
「(『不死鳥の飛翔(フェニックス・ライズ)』――永劫の劫火(プロミネンス・フレア)!)」
海面から噴き上がった炎が、サイレンサーの周囲を瞬時に灼熱の檻へと変貌させる。白一色の執行官たちが、その「色」の暴力に耐えかね、外装からピクセル状に崩れ始めた。
「(……いあ。いあ。……深淵の主よ、その眼を開け)」
一伊那爾栖(イナニス) が、巨大な触手群を背後に顕現させ、静かに古代の呪文を紡ぐ。
「(『虚空の浸食(ヴォイド・ハザード)』――深淵の具現(ジ・アンオーサド)!)」
サイレンサーが通過しようとした空間そのものが「黒い絵具」をぶちまけたように濁り、異次元から伸びる無数の触手が、神の執行官を逃れられぬ泥沼へと引きずり込んでいく。
凄まじい「カタルシス」の連鎖だった。
「(まずは船長からのご挨拶よぉ! 全速力で行くわよ!)」
宝鐘マリン の神経接続されたアークが、猛烈な速度で氷の海を滑走。
アークの側面から、 獅白ぼたん が生成した巨大なガトリング砲群がせり出す。
「(『獅子王の狩猟(キングレオ・ハント)』――フルオート・ヘイル!)」
数千万発の弾丸が、一瞬で空をオレンジ色に染め上げた。
「(そこだぁぁぁ! こんな怪物、ただの書き割りの冗談ぺこぉぉぉ!!)」
兎田ぺこら が、空中から無数のTNTを投下しながら叫んだ。
「虚構の全肯定(アブソリュート・ジョーカー)」。
彼女が「冗談」と断じた瞬間、サイレンサーの強固な因果律が剥ぎ取られ、その身は脆い紙細工へとダウングレードされる。彼女の『ハッタリ』により、本来の威力を数千倍に増幅された爆炎が、無防備となった執行官の装甲を内側から食い破った。
「(重力、操作開始。……落ちなさい)」
ムーナ・ホシノヴァ が、アークのデッキで優雅に手を掲げた。
「(『重力制御(Gravity Control)』――ムーン・フォール!)」
サイレンサーの周囲に凄まじいGが発生し、空に浮いていた巨体が、地面に激突した隕石のように氷の海へと叩きつけられた。
「(逃がさないでござるよ! 『風切の活路(カゼキリ・ルート)』――絶界・十文字(ゼッカイ・ジュウモンジ)!)」
風真いろは が抜刀。一閃。
その軌跡は、単なる「道」を作るだけにとどまらない。白く塗り潰された「無」の空間そのものを切り剥がし、背後にある鮮烈な「色」の奔流を呼び込む、因果の活路。
「(余がいれば、一歩も通さぬ。……これぞ鬼神の舞よ!)」
百鬼あやめ が、アークの舳先で舞うように刀を振るった。
「(『鬼神の結界(オニ・バリア)』――羅刹・千本槍(ラセツ・サウザンド)!)」
彼女を中心に展開された絶対防御領域から、無数の霊力の槍が射出され、サイレンサーの隙間を容赦なく穿つ。
「(天才魔法使いの本気、見せてあげるんだから。……消えちゃえ!)」
紫咲シオン が杖を高く掲げ、虚空に巨大な魔法陣を何重にも重畳させた。
「(『黒魔術の特異点(シンギュラリティ・ウィッチ)』――虚無の崩壊(ヴォイド・カタストロフ)!)」
サイレンサーの核を狙い、超高密度に圧縮された重力魔法が炸裂。周囲の音さえも吸い込まれるような轟音が、空を震撼させた。
「(おゆびー! 全部、置いていけぇぇぇ!)」
戌神ころね が、アークの甲板を跳ね、サイレンサーの頭上に直接飛び乗った。
「(『不屈の耐久(エンドレス・ガッツ)』――黄金の鉄拳(ゴールデン・ナックル)!)」
全ダメージを筋力へと変換した、理不尽なまでの破壊力。彼女の拳が触れた瞬間、神の装甲に「犬」の文字が刻まれた巨大な亀裂が走り、爆砕した。
いろは が切り裂いた「概念の裂け目」をガイドレールとして、さらにもう一つの「希望」が天から降り注ぐ。
「(みんなの想い……私に預けて!)」
ときのそら が、アークの最上層から歌いながら、浄化の波動を全方位に放出した。
「(『原初の歌声(ソング・オブ・オリジン)』――輝きの聖域(シャイニング・ブライト)!)」
その歌声に呼応するように、すいせい の黄金の斧が、本来なら届かないはずの虚空の彼方へと吸い込まれていく。
「(仕留めるよ。……星の輝きに、焼かれな)」
すいせい が、いろは の作った道を一気に駆け抜ける。
斧を振りかざし、全身を蒼い炎で包み込んだ。
「(『流星の突破(ステラ・ブレイカー)』――終焉の一撃(ファイナル・テトリミノ)!)」
ドォォォォォォォォン!!
サイレンサーの本体が、内部から爆発するように粉々に砕け散った。
絶望的なはずの「管理者の代行者」が、今のホロライブ・アライアンスの前では、まるで紙細工のように無力だった。
「(……ふぅ。あっけなかったぺこね)」
ぺこら が、煙の上がる甲板で自慢げに鼻を鳴らした。
周囲では、戦いを終えたメンバーたちがハイタッチを交わし、歓喜の声を上げている。
「(私たちの絆、マジで最強すぎない!?)」
ラミィ が、勝利を祝して聖水のシャンパンを全員に振る舞う。
「(これなら、どんな管理者が来ても、全部倒して元の世界を塗り戻せるよ!)」
誰もが確信していた。
自分たちは、もう負けない。
この「神話の完成」こそが、世界の新しいルールなのだと。
「(……Ame, 調子はどう?)」
戦いの後片付けが進む中、がうる・ぐら が、懐中時計を見つめている ワトソン・アメリア に声をかけた。
「(……ええ。少し、磁場の乱れかな?)」
アメリア が、懐中時計の蓋をパチンと閉じた。
「(時計の音が、変なの?)」
「(……ううん。ただ、一瞬だけ。チクタクっていうゼンマイの音が……電子レンジの終わりみたいな、『ピピッ』っていう高い音に聞こえた気がして)」
アメリア は、少し首を傾げてから、ぐら に向かって微笑んだ。
「(きっと、さっきの爆発で耳がやられたのね。心配ないわ、ぐら)」
アメリア は、時計をポケットにしまった。
彼女の懐中時計は、今も正確に時を刻んでいる。
……左右対称の空の下、一度も狂うことなく。
勝利の祝杯をあげる彼女たちの背後で。
アークのエンジンが、不自然なほど「一定のリズム」で、機械的なハミングを上げ続けていた。