ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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第19話: 世界の上書き

世界を、上書きする時間が来た。

 


【オーストラリア沖:決戦空域】

 

「(……来るよ。今度は、大きいのが)」

 

 白上フブキ が、アークのセンサーデッキで耳を鋭く立てた。

 空の見えない「裂け目」から、これまでとは比較にならないほど巨大な、無機質な「真っ白な三角錐」が出現した。

 

 サイレンサー。

 世界のノイズを調停し、静寂へと導くための管理者の執行官(デリーター)。

 

「(……へぇ。ずいぶんとお行儀のいい敵が来たもんだね)」

 星街すいせい が、黄金に輝く巨大な斧を肩に担ぎ、不敵に笑った。

 「(いいよ。50人分のストレス、まとめてぶつけてあげる)」

 

「(よし、みんな! アライアンス、総員戦闘開始っス!)」

 大空スバル の号令。

 その瞬間、アークの甲板は「暴力的なまでに美しい」スキルの飽和攻撃で埋め尽くされた。

 


 

 それは、単なる迎撃ではなかった。

 これまで温存されていた「伝説」たちが、その真価を解き放つための、凄まじい祝祭。

 

「(地獄の響きを、その身に刻みなさい。……死を、恐れなくていいわ)」

 森カリオペ が、漆黒の鎌『リッパー』を大きく振りかぶり、虚空へと叩きつけた。

 「(『地獄の切断(ソウル・リッパー)』――絶界・魂の収穫祭(デス・パレード)!)」

 鎌が空を裂いた瞬間、サイレンサーの一体が、その巨大な質量を無視して「概念的」に両断された。物理的な装甲の厚みなど、魂を刈り取る彼女の前では意味をなさない。

 

 

「(不死鳥の焔は、絶望を焼き尽くすためにあるわ!)」

 小鳥遊キアラ が双剣から烈火を放ち、空に巨大な朱い翼を描き出した。

 「(『不死鳥の飛翔(フェニックス・ライズ)』――永劫の劫火(プロミネンス・フレア)!)」

 海面から噴き上がった炎が、サイレンサーの周囲を瞬時に灼熱の檻へと変貌させる。白一色の執行官たちが、その「色」の暴力に耐えかね、外装からピクセル状に崩れ始めた。

 

 

「(……いあ。いあ。……深淵の主よ、その眼を開け)」

 一伊那爾栖(イナニス) が、巨大な触手群を背後に顕現させ、静かに古代の呪文を紡ぐ。

 「(『虚空の浸食(ヴォイド・ハザード)』――深淵の具現(ジ・アンオーサド)!)」

 サイレンサーが通過しようとした空間そのものが「黒い絵具」をぶちまけたように濁り、異次元から伸びる無数の触手が、神の執行官を逃れられぬ泥沼へと引きずり込んでいく。

 

 

 


 

 凄まじい「カタルシス」の連鎖だった。

 

「(まずは船長からのご挨拶よぉ! 全速力で行くわよ!)」

 宝鐘マリン の神経接続されたアークが、猛烈な速度で氷の海を滑走。

 アークの側面から、 獅白ぼたん が生成した巨大なガトリング砲群がせり出す。

 「(『獅子王の狩猟(キングレオ・ハント)』――フルオート・ヘイル!)」

 数千万発の弾丸が、一瞬で空をオレンジ色に染め上げた。

 

 

「(そこだぁぁぁ! こんな怪物、ただの書き割りの冗談ぺこぉぉぉ!!)」

 兎田ぺこら が、空中から無数のTNTを投下しながら叫んだ。

 「虚構の全肯定(アブソリュート・ジョーカー)」。

 彼女が「冗談」と断じた瞬間、サイレンサーの強固な因果律が剥ぎ取られ、その身は脆い紙細工へとダウングレードされる。彼女の『ハッタリ』により、本来の威力を数千倍に増幅された爆炎が、無防備となった執行官の装甲を内側から食い破った。

 

 

「(重力、操作開始。……落ちなさい)」

 ムーナ・ホシノヴァ が、アークのデッキで優雅に手を掲げた。

 「(『重力制御(Gravity Control)』――ムーン・フォール!)」

 サイレンサーの周囲に凄まじいGが発生し、空に浮いていた巨体が、地面に激突した隕石のように氷の海へと叩きつけられた。

 

 

「(逃がさないでござるよ! 『風切の活路(カゼキリ・ルート)』――絶界・十文字(ゼッカイ・ジュウモンジ)!)」

 風真いろは が抜刀。一閃。

 その軌跡は、単なる「道」を作るだけにとどまらない。白く塗り潰された「無」の空間そのものを切り剥がし、背後にある鮮烈な「色」の奔流を呼び込む、因果の活路。

 

 

「(余がいれば、一歩も通さぬ。……これぞ鬼神の舞よ!)」

 百鬼あやめ が、アークの舳先で舞うように刀を振るった。

 「(『鬼神の結界(オニ・バリア)』――羅刹・千本槍(ラセツ・サウザンド)!)」

 彼女を中心に展開された絶対防御領域から、無数の霊力の槍が射出され、サイレンサーの隙間を容赦なく穿つ。

 

 

「(天才魔法使いの本気、見せてあげるんだから。……消えちゃえ!)」

 紫咲シオン が杖を高く掲げ、虚空に巨大な魔法陣を何重にも重畳させた。

 「(『黒魔術の特異点(シンギュラリティ・ウィッチ)』――虚無の崩壊(ヴォイド・カタストロフ)!)」

 サイレンサーの核を狙い、超高密度に圧縮された重力魔法が炸裂。周囲の音さえも吸い込まれるような轟音が、空を震撼させた。

 

 

「(おゆびー! 全部、置いていけぇぇぇ!)」

 戌神ころね が、アークの甲板を跳ね、サイレンサーの頭上に直接飛び乗った。

 「(『不屈の耐久(エンドレス・ガッツ)』――黄金の鉄拳(ゴールデン・ナックル)!)」

 全ダメージを筋力へと変換した、理不尽なまでの破壊力。彼女の拳が触れた瞬間、神の装甲に「犬」の文字が刻まれた巨大な亀裂が走り、爆砕した。

 

 

 いろは が切り裂いた「概念の裂け目」をガイドレールとして、さらにもう一つの「希望」が天から降り注ぐ。

 

「(みんなの想い……私に預けて!)」

 ときのそら が、アークの最上層から歌いながら、浄化の波動を全方位に放出した。

 「(『原初の歌声(ソング・オブ・オリジン)』――輝きの聖域(シャイニング・ブライト)!)」

 その歌声に呼応するように、すいせい の黄金の斧が、本来なら届かないはずの虚空の彼方へと吸い込まれていく。

 

 

 

「(仕留めるよ。……星の輝きに、焼かれな)」

 すいせい が、いろは の作った道を一気に駆け抜ける。

 斧を振りかざし、全身を蒼い炎で包み込んだ。

 「(『流星の突破(ステラ・ブレイカー)』――終焉の一撃(ファイナル・テトリミノ)!)」

 

 

 ドォォォォォォォォン!!

 

 サイレンサーの本体が、内部から爆発するように粉々に砕け散った。

 絶望的なはずの「管理者の代行者」が、今のホロライブ・アライアンスの前では、まるで紙細工のように無力だった。

 


 

「(……ふぅ。あっけなかったぺこね)」

 

 ぺこら が、煙の上がる甲板で自慢げに鼻を鳴らした。

 周囲では、戦いを終えたメンバーたちがハイタッチを交わし、歓喜の声を上げている。

 

「(私たちの絆、マジで最強すぎない!?)」

 ラミィ が、勝利を祝して聖水のシャンパンを全員に振る舞う。

 「(これなら、どんな管理者が来ても、全部倒して元の世界を塗り戻せるよ!)」

 

 誰もが確信していた。

 自分たちは、もう負けない。

 この「神話の完成」こそが、世界の新しいルールなのだと。

 


 

「(……Ame, 調子はどう?)」

 

 戦いの後片付けが進む中、がうる・ぐら が、懐中時計を見つめている ワトソン・アメリア に声をかけた。

 

「(……ええ。少し、磁場の乱れかな?)」

 アメリア が、懐中時計の蓋をパチンと閉じた。

 

「(時計の音が、変なの?)」

 

「(……ううん。ただ、一瞬だけ。チクタクっていうゼンマイの音が……電子レンジの終わりみたいな、『ピピッ』っていう高い音に聞こえた気がして)」

 

 アメリア は、少し首を傾げてから、ぐら に向かって微笑んだ。

 「(きっと、さっきの爆発で耳がやられたのね。心配ないわ、ぐら)」

 

 アメリア は、時計をポケットにしまった。

 彼女の懐中時計は、今も正確に時を刻んでいる。

 ……左右対称の空の下、一度も狂うことなく。

 

 勝利の祝杯をあげる彼女たちの背後で。

 アークのエンジンが、不自然なほど「一定のリズム」で、機械的なハミングを上げ続けていた。

 

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