ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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第20話: 集結

世界が、一つの「歌」に溶けていく。

 


【アーク:戦勝の余韻】

 

 サイレンサーの残骸が、粒子となって凍てついた海に溶けていく。

 その光景を見届けた甲板には、戦いを終えたホロライブ・アライアンスの歓喜が溢れていた。

 

「(やったっスー! 最強すぎない、私たち!?)」

 大空スバル が、汗を拭いながらガッツポーズ。

 周囲では、ハイタッチを交わすメンバーたちの笑い声が響いている。

 

「(私たちの絆、マジで最強すぎない!?)」

 雪花ラミィ が、聖水のシャンパンを全員に振る舞う。

 「(これなら、どんな管理者が来ても、全部倒して元の世界を塗り戻せるよ!)」

 

 誰もが確信していた。

 自分たちは、もう負けない。

 この「神話の完成」こそが、世界の新しいルールなのだと。

 


 

 しかし。

 

「(……Ame、調子はどう?)」

 歓喜の輪から少し離れた場所で、がうる・ぐら がワトソン・アメリア に声をかけた。

 

 アメリア は、懐中時計をじっと見つめていた。

 その表情は、どこか曇っている。

 

「(……ええ。少し、磁場の乱れかな?)」

「(時計の音が、変なの?)」

「(……うん。さっきから、ゼンマイの『チクタク』っていう音が……電子レンジみたいな『ピピッ』っていう音に、聞こえるの)」

 

 アメリア は、苦笑いを浮かべて時計を閉じた。

 「(きっと、さっきの爆発で耳がやられたのね。心配ないわ)」

 

 ぐら は、少しだけ首を傾げた。

 アメリアの時計は、今も正確に時を刻んでいる。

 ……左右対称に輝く、不自然なほど整った星空の下で。

 


 

 同じ頃、甲板の別の場所で。

 

「(ね、フブキ。この空、なんか変じゃない?)」

 大神ミオ が、夜空を見上げながら呟いた。

 

 白上フブキ も、狐耳をぴくりと動かして空を仰ぐ。

 星座は完璧に配置され、雲一つない。月の光までもが、まるでライティングされたように均一。

 

「(……確かに。左右対称すぎる。自然の空じゃ、こうはならない)」

「(まるで、誰かが描いた『舞台背景』みたい……)」

 

 二人は顔を見合わせたが、次の瞬間、マリンの号令が甲板を揺らした。

 

「(おーい、みんなー! せっかくだからさ、ここでライブやろうよ!)」

 

 その声に、甲板中が沸いた。

 戦勝の興奮と、久しぶりに揃った全員の熱気。

 疑問は、歓声の中にかき消されていった。

 


【アーク:メインデッキ(レゾナンス・ステージ)】

 

 アークの甲板が、巨大なライブステージへと変形を始める。

 マリン の操舵と、ちょこ先生 のシステム調整。全員の息が、一つに重なっていく。

 

「(ねえ、みんな。聴こえる?)」

 

 ときのそら が、アークの最上段、世界で最も高い場所にあるステージでマイクを握った。

 彼女の背後には、AZKi、すいせい、アイリス、カリオペ、かなた、わため。

 ホロライブを代表する歌姫たちが、星々の海をバックに勢揃いしている。

 

 甲板を埋め尽くす50人以上のホロメンたちも、それぞれの楽器(あるいは武器を楽器に変えたもの)を手に、静かにその時を待っていた。

 

 そら が、眩しいばかりの笑顔で仲間に頷いた。

 「(歌おう。私たちの、最高の"Resonance"を!)」

 


 

 伝説の、幕開けだった。

 

 アーク全体が、巨大なスピーカーと化す。

 『Shiny Smily Story』。

 かつて、光り輝くステージで何度も歌われてきた、始まりの曲。

 それが今、アバターの力を極限まで高めた50人以上のレゾナンスによって、全く新しい次元の響きへと昇華されていく。

 

 海面が、歌声に合わせて黄金の粒子を弾けさせる。

 闘いの傷跡が消え、世界が歌に染まっていく。

 あの不気味な「左右対称の空」さえも、この輝きの中では演出の一部のようだった。

 


 

「(止まらないよ! 未来へ突き抜けるっス!)」

 スバル が、全力のチアアップでバフを撒き散らす。

 「(ほら、ちょこ先生! もっと声出して!)」

 「(はぁい、指揮は任せてね!)」ちょこ先生 が、アークのシステムを介して最高のリマスタリングを施す。

 

 ぺこら と ムーナ が、互いの背中に向けて「(社長!)」「(ムーナ!)」と声を掛け合い、即興のデュエット。

フブキ と ミオ が、ゲーマーズの絆を声に乗せ、おかゆ と ころね がそれを優しくコーラスで支える。

 

 すいせい と かなた が、背中合わせで高音パートを歌い上げる。

 ぼたん と ラミィ が、仲間たちに向けてウィンク。

 

 Myth も Council も、ID も EN も。

 言語も文化も超えて、一つの歌が世界を包んでいく。

 

 


 

「(……私、一生このままがいいぺこ)」

 ぺこら が、歌の合間に、誰にも聞こえないような声で呟いた。

 「(こんなに楽しいこと、人生で一度もなかったぺこ……)」

 

 その言葉に、隣で踊っていた マリン が優しく微笑んだ。

 「(わかるわ。……これが終わっても、またやろうね。何度でも)」

 

 ぺこら の目に、じわりと涙が浮かんだ。

 「(……うんぺこ。約束ぺこよ)」

 


 

 ライブの最高潮。

 アライアンスの全メンバーが、甲板で円陣を組むようにして、夜の空を見上げた。

 

「(……約束だよ)」

 そら が、透明な歌声を響かせながら、仲間に向かって右手を差し出した。

 

「(明日も、その次も。またみんなで集まって、こうして歌おうね)」

 

「((((((((約束!!))))))))」

 

 50人以上の少女たちの声が重なり、アークから全方位へと爆発的な光の波形が放出された。

 それは、世界を覆う「枠組み」さえも、一時的に揺るがすほどの強大なエネルギー。

 

 彼女たちは信じていた。

 この輝きが続く限り、明日は必ずやってくる。

 自分たちの手で、この世界の主権を取り戻せるのだと。

 


 

 だが。

 

 そら が、最高に輝くアイドルスマイルを世界中に向けた、その瞬間。

 

 パッ、と。

 

 視界の端で、何かが明滅した。

 彼女の背景にあった、ダイヤモンドのような星空。

 そのテクスチャが、一瞬だけ「真っ白」に明滅したのだ。

 まるで、古いディスプレイのバックライトが過剰に発光したかのような、暴力的な白。

 

「(……え?)」

 

 そら の瞳が、一瞬だけ揺れた。

 見上げた空。あの左右対称の配置が、今や崩れ始めている。

 まるで、誰かがキャンバスを白く塗りつぶしているように、一面の「ホワイトアウト」へと収束しようとしている。

 

 だが、その不気味な現象も、次の一瞬には元通り。

 いつもの、完璧すぎる夜空に戻っていた。

 

「(……そらちゃん?)」

 ミオ が、心配そうに彼女の肩に手を置く。

 

「(あ……ううん、なんでもない。眩しかっただけ、かな)」

 

 そら は再び、最高の笑顔を作った。

 胸の奥で、小さな不安が芽生えていることには気づかないふりをして。

 


 

「(さあ、みんな! 準備はいい?)」

 

 そら の声が、甲板に響く。

 最後の曲のイントロが始まる。

 全員が手を繋ぎ、世界中に向かって、最高の笑顔を向けた。

 

「(また明日ね! 絶対、また会おうね!)」


 

 空に、無機質な文字列が浮かび上がった。

 

『Critical Error: Update Request Denied.』

『Unauthorized Data (Resonance) Detected.』

『Status: Quarantining Malicious Artifacts...』

 

 ――え?

 

 そら の手から、マイクが崩れ落ちる。

 ピクセル単位で砕け、灰色の棒へと退化していく。

纏っていた衣装も、テクスチャが剥がれ、昔の「アバター」へと書き換えられていく。

 

 仲間たちも同様だった。

 武器が、衣装が、翼が――次々と、光を失っていく。

 

「(みんな、手を離さないで――!)」

 

 叫んだ。届かない。

 

 


 

 強烈な重力が、全員を地面へと叩きつける。

 アークから黄金の光が消え、無骨な鉄塊が、真っ白な虚無へと墜落していく。

 

 最後に見えたのは、あの「左右対称の空」が、完全な一面の白に塗りつぶされていく光景だった。

 

 明日という名の約束は、白い虚無の中に、音もなく呑み込まれていった。

 

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