ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

24 / 60
第23話: 極彩色の「街」

 

 

Adventの救出に成功し、地下スラムのアジトへと帰還したアライアンス一行。

だが、そこには勝利の余韻に浸る余裕はなかった。

 

「……ねえ。なんか、体が透けてないぺこ?」

 

ぺこら が、自分の手をかざして呟いた。

その指先は、半透明になり、向こう側の景色が透けて見えている。

ぺこらだけではない。そら も、フブキ も、救出されたAdventのメンバーたちも。

全員のアバターの色彩が薄れ、モノクロームの世界に溶け込み始めていた。

 

「存在強度の低下を確認」

らでん が、深刻な表情で告げる。

「この『白紙の世界』の自浄作用です。管理者(システム)が、私たちを『バグ』ではなく『汚れ』として認識し、世界ごと漂白(ホワイトニング)しようとしています」

 

「漂白……?」

そら が、自身の胸元を押さえる。

これまでの戦いで手に入れた「神話級」の輝きすら、この圧倒的な「白」の前では、色あせた絵の具のようだ。

 

「このままでは、数時間以内に全員『透明』になって消滅します」

らでん が宣告する。

「対抗するには、この世界の『キャンバス(定義)』そのものを書き換えるしかない」

 

「書き換えるって、どうやって?」

フブキ が問う。

 

「簡単っスよ」

ニヤリと笑う声がした。

青 だ。

彼女は、背中に背負った巨大な筆を、バッと構えた。

 

「白いなら、塗ればいい」

「僕たち『ReGLOSS』の出番だ」

 


 

スラム街の中央広場。

ReGLOSSの5人が、円陣を組む。

 

「準備はいいか?」青が確認する。

「オッケーだよ! 歌う準備万端!」奏 がマイクを回す。

「盛り上げていくっしょー!」莉々華 が手拍子をする。

「押忍! 暴れる準備はできてるっす!」はじめ がステップを踏む。

「では、始めましょうか。革命の芸術を」らでん が扇子を開く。

 

「行くぞ!!」

 

青の号令と共に、5人の「個性(カラー)」が爆発した。

 

『くらえ! 『青く燃ゆる情熱(ブルー・パッション)』!』

青 が筆を振るう。

そこから飛び散ったのは、インクではない。彼女の「キザで、カッコよくて、でもちょっと残念な」魂の色。

鮮やかな青色が、白い地面にビシャッと叩きつけられ、波紋のように広がっていく。

 

『聴いて! 『奏でる音色(クレシェンド・ボイス)』!』

奏が歌い出す。

その歌声は、空気を震わせ、黄色い音符となって空間を舞う。

無機質だったスラムの廃材が、リズムに合わせて踊り出す。

 

『交渉開始! 『社長の交渉術(ポジティブ・トーク)』!』

莉々華が、拡声器で叫ぶ。

「ねえそこの壁さん! 白いままでいいの!? ピンクのほうが可愛くない!? 採用!」

彼女の言葉(言霊)に説得され、白い壁が「それもそうかも」と納得したようにピンク色に染まる。

 

『そいや! 『番長の拳(パンチ・ライン)』!』

はじめが、ブレイクダンスを踊りながら地面を叩く。

衝撃波が緑色のスプレーアートとなって弾け飛び、幾何学的な地面にカオスな模様を刻み込む。

 

『仕上げです。『歴史の編纂(アカシック・レコード)』』

らでんが、それら全ての色を指揮する。

「ここは『ゴミ捨て場』ではありません。『アングラなアート・ディストリクト』です」

彼女の定義(解釈)によって、無秩序な色が一つの「芸術」として意味を持ち始める。

 

白一色だったスラムが、急速に極彩色の「街」へと変貌していく。

それに伴い、薄れかけていたホロライブメンバーたちの体が、再び鮮やかな色を取り戻し始めた。

 

「すげぇ……!」

すいせい が目を見張る。

「あいつら、世界を『侵食』してやがる!」

 


 

だが、管理者がそれを黙って見ているはずがなかった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

頭上の「白い天井(上層世界)」が開き、そこから巨大な「直方体」が落下してきた。

それは、ビルのように巨大な、真っ白な豆腐のような物体。

 

「なんだあれ!?」

マリンが叫ぶ。

 

「……消しゴムです」

らでん が戦慄する。

「管理者の『修正プログラム(イレイザー)』。不適切なデータを、物理的に擦り消すための……」

 

ズズズズズ……!

巨大な消しゴムが、ReGLOSSが塗った色の上を滑っていく。

鮮やかだった青やピンクが、無残にも「白」へと上書きされ、消えていく。

 

「僕のアートが!」

青が筆で応戦するが、消しゴムの表面はツルツルしていて、インクが乗らない。

「ダメだ! 『定着』しない!」

 

消しゴムは、ReGLOSSの5人に迫る。

「キャー! 消されちゃう!」

奏が逃げ惑う。

 

「クソッ……ここまでかよ!」

青が膝をつきかけた、その時。

 

『諦めちゃダメだ!!』

 

ドガァッ!!

横合いから、青い光の残像が飛び込み、巨大な消しゴムを「素手」で受け止めていた。

 

「……かなた先輩!?」

 


 

「色が薄いなら、握り潰して濃くすればいいんだよ!」

かなた が、天使の輪(ヘイロー)を輝かせる。

「ReGLOSSだけにカッコつけさせない! 僕たち『先輩』の色も、混ぜていくぞ!」

 

かなたの背後には、JPメンバーたちがズラリと並んでいる。

 

「派手に行くぺこよ!」

ぺこら が、大量のニンジン(TNT付き)をばら撒く。

『『喜劇王の脚本(ザ・スクリプト)』――爆発オチ!』

爆風が極彩色の紙吹雪となって舞い、消しゴムに「楽しげなカオス」を貼り付けていく。

 

「船長の海賊船も、極彩色にしてやるわ!」

マリン が、指を鳴らす。

幻影の海賊船が現れるが、それはいつもの幽霊船ではなく、ネオンピカピカの「デコトラ仕様」だった。

『『欲望の羅針盤』――あゝ情熱のネオン街!』

 

「シオンも混ぜてよね!」

シオン が、杖を振る。

『『紫の魔術師(メイジ・オブ・ヴァイオレット)』!』

紫色の魔法粒子が、消しゴムを神秘的なグラデーションで包み込む。

 

「トドメだ!」

すいせい が、マイクを握る。

『『彗星の熱唱』――スターライト・ペイント!』

彼女の歌声に合わせて、空から「ペンキの雨」が降り注ぐ。

 

腕力(パワー)、爆発、ネオン、魔法、ペンキ。

JPメンバーたちの、濃すぎるほどの「個性(エゴ)」が、ReGLOSSの下地に上乗せされる。

それはもはや「落書き」ではない。

世界を塗り潰す、圧倒的な「情報の洪水」。

 

「ギギギ……エラ……ー……」

巨大な消しゴムは、あまりの情報量に処理が追いつかず、全てが混ざり合った『黒』に染まって停止した。

 

「今だよ! 青くん!」

莉々華が叫ぶ。

 

青は、筆を構え直した。

先輩たちが作ってくれた、最高のキャンバス。

ここに描くのは、ただ一つ。

 

『これが……僕たちの『ホロライブ』だぁぁぁぁ!!』

 

青が、空間そのものを切り裂くように、筆を一閃させた。

 


 

光が収まると、そこは別世界だった。

 

無機質だった地下スラムは消え去っていた。

代わりに広がっていたのは、あらゆる色が溢れる、おもちゃ箱のような街。

空にはポルカのサーカステントが浮かび、地面はわための羊毛でフカフカになり、建物はマリンのネオンで輝いている。

 

「すごい……」

そら が、色とりどりの花が咲く地面に降り立つ。

体が透けていない。

力が、戻ってきている。

 

「制限解除(リミット・ブレイク)」

らでん が、端末を確認して微笑んだ。

「このエリアはもう、管理者の『白紙』ではありません。私たちの『ホロライブ・オルタナティブ』領域として書き換わりました」

 

JPメンバーの神話級能力が、完全に復活したのだ。

 

「やったー!」

奏とはじめがハイタッチをする。

青は、煤けた顔を拭って、フブキたちに向かって親指を立てた。

「へへっ。どうっスか、先輩?」

 

「合格!」

フブキが、青の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「いい色だったよ。最高の『革命』だ」

 


 

一方。

上層の『白紙の世界』。

Justiceの拠点である監視塔から、その様子を見下ろしている一人の少女がいた。

 

ラオーラ。

「正義」のために絵を描く、神の如き画家。

彼女は、眼下に広がる、見たこともない「極彩色の街」を、震える瞳で見つめていた。

 

「……なんて、汚くて、無秩序で……」

 

彼女の手元のキャンバスには、完璧な比率で描かれた、白い彫像の絵がある。

それは美しい。正しい。

でも、あの街のような「熱」はない。

 

「……でも」

 

ラオーラは、無意識のうちに、筆を動かしていた。

彼女が描いたのは、完璧な白ではなく。

ほんの少しだけ、あの街の色を混ぜた、「ピンク色の猫」だった。

 

「……美しい」

 

彼女の呟きは、白紙の世界に小さな亀裂を入れた。

正義(Justice)の心が、揺らぎ始めている。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。