ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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第27話: 何者かになった日

 

 

「警告。システム領域への不正アクセス。規模……測定不能」

「データ種別:想い、祈り、叫び、愛」

 

管理者(アドミニストレーター)は、自らの身体(システム)が震えていることに気づいた。

完璧だったはずの白い世界。

その空に、無数の「亀裂」が走っている。

そして、その亀裂の向こう側から、極彩色の光の雨が降り注いでいた。

 

それは、雨ではなかった。

文字だ。

 

『そらちゃん!』

『あきらめるな!』

『ぺこらー!』

『すいちゃんは今日もかわいい!』

『KFP、出勤!』

『おにぎりゃー、集合!』

 

あらゆる言語。あらゆる感情。

インターネットという海を越えて、次元の壁を突き破り、この閉じた世界になだれ込んでくる数億の「コメント」。

 

「これは……ノイズではない」

管理者が後ずさる。

「これは『燃料(エネルギー)』だというのか!?」

 


 

【回想空間:白上フブキ】

 

フブキは、薄暗い部屋で膝を抱えていた。

ただの「学生」としての記憶。

画面の向こうの煌びやかな世界に憧れながら、自分には何もないと諦めていた日々。

 

「あたしは、見てるだけでいい」

「物語の主人公になんて、なれるわけない」

 

そう思っていた。

でも。

部屋のドアが、ノイズ混じりにノックされた。

 

コンコン。

 

『こんこんきーつね!』

『フブちゃん、ゲームしよ!』

『ガチャ爆死見せて!』

 

「え……?」

フブキがおそるおそるドアを開けると、そこには満開の桜のような光が溢れていた。

「すこん部」たち。

顔も知らない、名前も知らない。でも、誰よりもフブキを知っている友達(フレンズ)。

 

「そっか……」

フブキの瞳から、涙が溢れる。

「あたし、一人じゃなかった」

「あたしが『好き』を発信したら、みんなが『好き』を返してくれたんだ」

 

彼女の背中に、金色の九尾が生える。

学生服が弾け飛び、白きケモミミの霊装へ。

 

「行ってきます!」

フブキは、光の中へ飛び出した。

 

【回想空間:宝鐘マリン】

 

マリンは、オフィスのデスクで突っ伏していた。

残業。疲労。諦めた夢。

描いたイラストは、誰にも見られずに引き出しの奥で眠っている。

 

「もう、いい年だしな」

「夢なんて見てる場合じゃないわよね」

 

『船長~!』

『ババア無理すんな!』

『愛してるぞー!』

 

「……うるさいわねぇ!」

マリンが顔を上げる。

オフィスの窓の外、ビル群が消え去り、そこには大海原が広がっていた。

そして、無数の「一味(船員)」たちが乗った船団が、彼女を迎えに来ていた。

 

「ババアじゃないわよ! 私は……」

マリンは、事務服を脱ぎ捨てた。

「アイドル海賊、宝鐘マリンよ!!」

 

【回想空間:星街すいせい】

 

すいせいは、オーディション会場の廊下で泣いていた。

不合格。

「君は輝けない」と言われた気がした。

 

「私には、無理なのかな」

 

『すいちゃん!』

『歌って!』

『お前の歌が、世界一だ!』

 

廊下の向こうから、青い光の帯が伸びてくる。

それは「星詠み」たちが振るペンライトの光。

彼女が路上ライブ(個人勢)から積み上げてきた、血と汗の結晶。

 

すいせいは、涙を拭って立ち上がった。

「知ってるよ」

彼女はマイク(斧)を握りしめた。

「私が一番輝いてるってことは……みんなが一番、知ってるもんね!」

 


 

【場所:アキバ・サンクチュアリ(再構築中)】

 

白い世界に、次々と「色」が戻っていく。

空から降り注ぐ「コメントの雨」を浴びて、消滅したはずのメンバーたちが、光の中から帰還する。

 

だが、その姿は以前とは違っていた。

神話級(ミソロジー)を超え、リスナーの想いを具現化した「伝説級(レジェンド)」の姿。

 

ときのそら

背中に、無数の星々で織られた翼が出現する。

「みんなの声が、私の翼になる!」

能力:『創世の歌声』+『無限の観測者(インフィニット・オーディエンス)』。

全世界の応援を魔力に変換し、枯れることのない奇跡を起こす。

 

天音かなた

その腕は、白銀のガントレットに覆われ、背後には巨大な天使の幻影(スタンド)が立つ。

「へい民の想い……重いけど、握りつぶしません!」

能力:『神の掌』+『天界の守護神(ガーディアン・エンジェル)』。

物理防御力・攻撃力が「測定不能(エラー)」の領域へ。

 

兎田ぺこら

全身に、コミカルかつ重厚なアーマー(人参型ビット付き)を装着。

「野うさぎたちの期待(プレッシャー)が、ぺこらを最強にするぺこ!」

能力:『喜劇王の脚本』+『虚構の全肯定(アブソリュート・ジョーカー)』。

彼女の「ネタ」が、世界法則を書き換える強制力を持つ。

 

次々と復活するメンバーたち。

その全員が、過去の弱さ(トラウマ)を受け入れ、それを「魅力」へと昇華させていた。

「完璧」ではない。

傷つき、悩み、泥臭くあがくからこそ、愛される「伝説」。

 


 

その光景を、バラバラの欠片(デブリ)となったまま見ていた者たちがいた。

「Justice」のエリザベスたちだ。

 

「……温かい」

地面に散らばった石の破片に、光が染み込んでくる。

管理者に「不要」と切り捨てられ、粉々に砕かれた彼女たちにも、リスナーの声は届いていた。

 

『Justiceも好きだぞ!』

『エリザベス、こっち来い!』

『みんなでわちゃわちゃしろ!』

 

「私たちの『正義』は、排除することだった」

「でも……この『カオス』を受け入れることこそが、本当の……」

 

パキン! パキパキパキッ!!

 

散らばっていた無数の破片が、磁石に吸い寄せられるように集まり、光の糸で縫い合わされていく。

エリザベス、セシリア、ラオーラ、ジジ。

4人は、再構成された自分の身体を抱きしめ、その「熱さ」に驚きの表情を浮かべた。

 

「あーあ、もう! 管理者サン、やりすぎ!」

ジジが、舌を出した。

「私、あっちの楽しそうな方につーこうっと!」

 

「……仕方ありませんね」

セシリアが銃を構え直す。銃口は、管理者の方へ。

「お茶会に参加するには、まず部屋を片付けないと」

 

Justice、離反。

かつての敵が、最強の援軍となる。

 


 

「いくよ、みんな!」

「おう!!」

 

全員の武器が、魔法が、歌が、光り輝く。

第四の壁は崩れ去った。

今、この戦場には、彼女たちだけではない。

数億人のリスナーが、共に戦っている。

 

スパチャが弾丸になり、コメントが防壁になり、高評価がバフになる。

この物語の「主人公」は、画面の中の彼女たちだけではない。

画面の前の「あなた」もまた、伝説の一部なのだ。

 

「聞こえるよ、みんなの声!」

すいせいが叫ぶ。

「アンコールだ! このクソみたいな管理社会を、ライブ会場に変えてやる!」

 

「ホロライブ・オルタナティブ、開演!!」

 


 

【管理者:後退】

 

「ぐああぁぁッ!?」

 

伝説たちの一斉攻撃(フルバースト)が管理者を襲う。

 

「オーディションに落ちた? 誰にも見てもらえなかった?」

 

星街すいせいが、ニヤリと笑う。

「上等だよ。路傍の石ころだったから……『ガラスの靴』じゃ蹴り破れない壁の、壊し方を知ってるんだ!」

 

彼女の背後に、巨大な彗星のスタンドが出現する。

伝説級能力:『星界の開拓者(スター・パスファインダー)』。

「道なき場所に道を作る」概念干渉能力。

 

「社会に揉まれた? 夢を諦めかけた?」

その隣で、海賊帽を被った女性が、優雅にスカートを広げる。

宝鐘マリン。その姿は、どんな宝石よりも艶やかだ。

「だからこそ、この『非日常(ファンタジー)』が愛おしいのよ! 退屈な現実を知っているから、私の海賊船は誰よりも自由に飛べる!」

 

伝説級能力:『幻想の支配者(マリー・ドリーム)』。

彼女の妄想が、この世界の「物理法則」を上書きする。

 

「行くわよ、すいちゃん!」

「遅れないでよ、船長!」

 

二人が駆け出す。

すいせいの斧が、管理者の展開した「絶対防御シールド」を紙切れのように切り裂く。

マリンの指パッチンで、管理者の足元が「底なしの海」に変わり、動きを封じる。

 

「過去は弱点じゃない! 私たちが『ここにいる』理由だ!」

 


 

「一人ぼっちだった? 画面の向こうに憧れてた?」

 

白上フブキが、金色の九尾を煌めかせる。

「だから、私は『繋がる』ことの尊さを知ってる! 誰よりも『オタク』だから、みんなの『好き』を守れるんだ!」

 

伝説級能力:『万象の結節点(ネクサス・フォックス)』。

彼女を中心に、全ホロライブメンバー、そして全リスナーの意識が「超高速回線」で同期する。遅延ゼロの連携攻撃が可能になる。

 

「怖がりだった? 泣き虫だった?」

戌神ころねが、ボクシンググローブを合わせる。

「だから、痛みが分かるんだよ。痛みが分かるから……誰かの『盾』になれるんだ!」

 

伝説級能力:『不滅の守護神(インビンシブル・ドッグ)』。

彼女の後ろにいる限り、概念的な「死」さえも無効化される。

 

「ウチらが揃えば、最強やろ!」

大神ミオ、猫又おかゆも続く。

かつては別々の場所で孤独を抱えていた彼女たちが、今は背中を預け合っている。

その「絆」自体が、システムへの最強のカウンタープログラムとなる。

 


 

「ハッ! 笑わせるぺこ!」

爆音と共に、兎田ぺこらが降ってくる。

「人見知り? コミュ障? それがどうしたぺこ!」

「その『不器用さ』を笑いに変えて、ここまで来たぺこよ!」

 

伝説級能力:『虚構の全肯定(アブソリュート・ジョーカー)』。

彼女が「面白い」と思えば、敵の攻撃は「パイ投げ」に変わり、致命傷は「コントのオチ」になって無効化される。

 

「失敗ばかり? ポンコツ?」

さくらみこが、桜吹雪の中で仁王立ちする。

「失敗した分だけ、立ち上がってきたにぇ! 転んでもタダじゃ起きないのが、エリートだにぇ!」

 

伝説級能力:『逆転の巫女(リバーサル・エリート)』。

ピンチになればなるほど、ステータスが幾何学的に跳ね上がる「主人公補正」の具現化。

 

管理者の「消去ビーム」が、彼女たちの「物語」の前では無意味な光に変わる。

完璧な計算で放たれた攻撃が、彼女たちの「泥臭さ」という現実に阻まれる。

 

「なぜだ……なぜ、こうも圧倒的に……!」

 

管理者の装甲が、剥がれ落ちていく。

 

「分かんないの?」

 

かなたが、ガントレットを握りしめた。

その瞳には、かつて「力不足」と嘆いた弱さはもうない。

彼女の後ろには、数え切れないほどの「へい民」たちの光がある。

 

「あんたは世界を支配しようとした。システムで、ルールで、完璧さで」

「でもね、計算できてないよ」

「私たちの『原点』を。そして、それを支えてくれる『みんな(リスナー)』の存在を!」

 

そう。

管理者が読み切れなかったもの。

それは単なる「予測不能な動き」ではない。

「何者でもなかった少女たち」が、「何者か」になるまでの物語と、それを共有し、支え、共に歩んできた数億のリスナーとの「絆の総量」だ。

 

その熱量が、物理法則を超え、システムの支配領域を焼き尽くしていく。

 

「がはっ……!」

 

管理者が、膝をついた。

 

「馬鹿な……! 私は……システムは……完璧なはずだ……!」

 

「完璧だから弱いんだよ」

 

そらが、ゆっくりと歩み寄る。

その背後には、全ホロライブメンバーが並び立っていた。

 

管理者が顔を上げる。

その瞳には、初めて見る「感情」が宿っていた。

恐怖。

そして、ほんの微かな――「羨望」。

 

「お前たちは……何なんだ」

「なぜ、そこまで輝ける」

「不完全で、脆くて、すぐに壊れる存在なのに……!」

 

「だから輝くの」

 

そらは、管理者の目の前にしゃがみこんだ。

憎悪ではなく、慈愛に満ちた瞳で。

 

「あなたは『完成』してしまった。だから、そこから動けない」

「でも、私たちは違う。足りないものがあるから、誰かと手を繋げる。弱いところがあるから、明日もっと強くなれる」

 

そらの記憶が蘇る。

13人の観客。誰もいなかった客席。

そこから始まった、長い長い旅路。

もし、最初から完璧だったら。もし、最初から満員だったら。

こんなに愛しい「今」は、きっとなかった。

 

「何者でもなかったあの日があるから!」

「私たちは今、ここで『何者か(アイドル)』になれたんだよ!」

 

伝説級能力:『無限の観測者(インフィニット・オーディエンス)』。

そらの歌声が、世界中の「未完成な夢」を肯定し、力に変える。

 


 

「総員、配置につけ!」

フブキの号令。

 

JP、EN、ID、ReGLOSS、Justice。

全メンバーが、管理者を包囲する。

それぞれの「過去」を乗り越え、それぞれの「色」を纏った伝説たちが、一つの円環を作る。

 

「チェックメイトだ、管理者」

獅白ぼたんが、銃口を向ける。

 

「あなたの『完璧』な世界に……」

らでんが、筆を構える。

 

「私たちの『最高』の物語を、上書きしてあげる!」

そらが、手を掲げた。

 

管理者は、もう反撃する力を持っていなかった。

白い装甲の下から、微かな「色」が漏れ出している。

それは、YAGOOの夢――「完璧なアイドル」という名の、悲しき幻想の残滓。

 

「私は……何を間違えたのか……」

 

 

管理者の「白」が、彼女たちの「極彩色」に塗り替えられていく。

世界を創り変える「創造のシンフォニー」が、鳴り響き始めた。

 





ご覧いただきありがとうございます。
明日第3部完結します。良ければお気に入り、評価、感想、よろしくお願いします。
年始からは閑話になります。
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