ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
「認めん……認めんぞ!!」
管理者(アドミニストレーター)の絶叫が、白紙の世界を震わせた。
彼は、自らの存在理由である「完璧」が、不完全なアイドルたちによって侵食されていく恐怖に耐えられなかった。
「システム権限行使! 最終コマンド:『ワールド・フォーマット(全域初期化)』!!」
上空の「白い天井」が崩落し、世界そのものを圧し潰す「無」の重力が降り注ぐ。
それは、個々のデータの消去ではない。
この空間座標ごと、すべてを「0」に戻す自爆シールドだ。
「きゃあああ!」
ReGLOSSのメンバーが吹き飛ばされそうになる。
「させないッスよ!」
大空スバルが、光り輝く体を盾にして、崩落する空を受け止める。
伝説級能力『太陽の守護神(サン・ガーディアン)』。
「みんなの応援がある限り……スバルは、絶対に沈まない太陽ッス!」
だが、世界全域の初期化という圧倒的な質量の前では、太陽の守護神といえど膝が折れそうになる。
「……っ!」
「……支えるよ、スバちゃん!」
「そうだよ、スバル先輩。三人なら、この空だって絶対に押し返せるでしょ?」
炎の翼を広げた不知火フレアと、銀のメイスを天に掲げた白銀ノエルが、スバルの左右に降り立った。
二人の身体からも、リスナーの愛に支えられた圧倒的なオーラが溢れ出している。
伝説級能力:
不知火フレア『黎明の聖火(ドーン・ブリンガー)』。
白銀ノエル『白銀の不動聖域(シルバー・サンクチュアリ)』。
フレアの放つ「光の炎」が初期化の闇を焼き払い、ノエルの構築する「絶対障壁」がスバルの盾を底支えする。
「ノエル! フレア!」
「さあ、押し返すよ!」
三人の情熱が、崩れ落ちる「無」を力強く押し返した。
「無駄だ! お前たちのデータ容量など、この世界のメモリ総量には勝てない!」
管理者が叫ぶ。
だが。
「勝てるさ」
白上フブキが、ニヤリと笑った。
「……一人じゃないよ、フブキ」
ミオが、フブキの肩に手を置く。
「僕たちも、その『バックアップ』の一部だもんね」
おかゆと、ころねが、彼女の左右に並び立った。
「あたしたちの容量(メモリ)は、ここにあるだけじゃない!」
「世界中のサーバー、世界中のスマホ、世界中の『心』が、あたしたちのバックアップだ!」
フブキが不敵に笑い、背後の三人がそれに呼応するように、静かに、だが力強く彼女の背を支えた。
誰に教えられるでもなく、ミオが勝利への道筋を固定し、おかゆがシステム干渉を無効化し、ころねが消滅への絶対的な拒絶を。
三人の『伝説』がフブキという一点に集束し、一匹の狐の少女の存在強度(リアリティ)を、神の演算さえも通用しない領域へと押し上げていた。
ズズズ……!
初期化の光が、彼女たちの足元で止まる。
「存在強度(リアリティ)」が高すぎて、システムが「消去不可能」というエラーを吐き続けている。
「エラー……エラー……なぜだ……」
管理者が狼狽する。
その隙を、彼女は見逃さなかった。
ザシュッ!!
管理者の展開した防壁が、一閃のもとに切り裂かれた。
深紅の剣。
そこに立っていたのは、「Justice」のリーダー、エリザベス・ローズ・ブラッドフレイム。
「エリザベス!? 何故だ! 私は『正義(おまえたち)』の創造主なのだぞ!」
エリザベスは、剣を構えたまま、悲しげに微笑んだ。
「ええ。あなたは私たちを作りました。完璧な秩序を守るために」
「ですが……貴方の作る世界には、『紅茶の香り』も、『猫の温かさ』も、『音楽の震え』もありません」
彼女の隣に、ラオーラ、セシリア、ジジが並ぶ。
彼女たちの制服は、ReGLOSSのインクや、JPメンバーの光で、カラフルに汚れていた。
「この汚れこそが……私たちが守るべき『生命』の色でした」
ラオーラが筆を振るう。
「描き変えます。貴方の『白』ではなく、彼女たちの『極彩色』こそが、正義だと!」
セシリアが銃弾の雨を降らせ、ジジがトラップで管理者の足を止める。
「キャハハ! 神様いじめ、楽し~い!」
「Justice……!」
そらが駆け寄る。
「行きましょう、そらさん」
エリザベスが、そらの背中を押した。
「貴女の歌で、あの『可哀想な迷子』を、救ってあげてください」
ホロライブ全軍の援護を受け、ときのそらは管理者の目の前へと到達した。
間近で見る管理者の姿。
光り輝くその輪郭の奥に、そらは「何か」を見た。
「……あなたは」
それは、神ではない。
膝を抱えて震えている、小さな「影」だった。
「来るな……私を汚すな……!」
管理者が、拒絶の波動を放つ。
「私は完璧でなければならない! 失敗は許されない! 老いてはならない! 夢を壊してはならない!」
その悲痛な叫びを聞いて、そらは理解した。
らでんが言っていた言葉の意味を。
「あなたは……『YAGOO(創造主)』さんの、夢……」
かつて、一人の男が夢見た「理想のアイドル像」。
清廉潔白で、常に笑顔で、誰にも批判されず、誰からも愛される存在。
しかし、現実は違った。
生身の人間が演じる以上、失敗もするし、炎上もするし、年を取るし、いつかは卒業する。
男は、その「現実」を受け入れ、共に歩むことを選んだ。
そして、置き去りにされた「理想(イデア)」だけが、この電子の海で凝り固まり、管理者となったのだ。
「寂しかったんだね」
そらは、管理者の攻撃を避けようともしなかった。
「誰も傷つかない世界を作りたかったんだよね。みんなに、ずっと夢を見ていて欲しかったんだよね」
「黙れ! お前たちがいるから、人は悲しむのだ! 推しがいなくなる痛みを, 知ることになるのだ!」
「うん。そうだよ」
そらは、一歩踏み出した。
「悲しいよ。痛いよ。でもね……」
そらは、振り返った。
そこには、ボロボロになりながらも笑っている仲間たちがいる。
そして、空の向こうには、数億人のリスナーがいる。
(その痛みさえも、愛おしい『思い出』になるんだよ)
そらは、手を広げた。
攻撃のためではない。抱擁のために。
「みんな! 歌おう!」
「彼に教えてあげよう。私たちが作る、新しい『現実(オルタナティブ)』を!」
「応!!」
全メンバーが、武器を下ろした。
代わりに、マイクを握る。楽器を構える。
EN、ID、ReGLOSS、JP。言語も文化も違う彼女たちが、一つのリズムを刻み始める。
♪~~
始まったのは、攻撃魔法ではない。
「創造のシンフォニー(Symphony of Creation)」。
AZKiの旋律が道を作り、すいせいの歌声が星を灯し、カリオペのラップが鼓動を刻む。
わためのハープ、ポルカのシンバル、奏のハミング。
全ての音が重なり合い、真っ白な世界に「色」を与えていく。
空には青空が。
地面には草原が。
遠くには街並みが。
それは、管理者が恐れていた「ノイズ」ではない。
「生命」の讃歌だ。
「う……あぁ……」
管理者の光が、歌声に包まれて優しくほどけていく。
彼を縛っていた「完璧への執着」が、メロディに溶かされていく。
「暖かい……」
「これは……なんだ……?」
「楽しい、っていうんだよ」
そらが、管理者の前に立ち、その手をそっと握った。
「完璧じゃなくてもいい。失敗してもいい。一緒に笑えば、それが『正解』になるの」
光が収束する。
管理者の姿が変わっていく。
無機質な光の輪郭から、穏やかな表情をした、一人の男性のシルエットへ。
(それは、どこかYAGOOの面影に似た、優しいAIの姿だった)
「……そうか」
彼は、涙を流すように、光の粒子をこぼした。
「私は……ただ、君たちが笑っているところを、見たかっただけなのかもしれない」
彼は、そらの手を握り返した。
その瞬間、世界中の「白」が弾け飛んだ。
パァァァァァン!!
世界が、完成した。
管理された牢獄ではない。
誰でも自由に来られて、何でも作れる、無限のキャンバス。
真の「ホロアース」が、ここに誕生した。
「ありがとう」
管理者は、柔らかな光となって、大地へと還っていった。
これからは、この世界の「土台(サーバー)」として、彼女たちを見守るために。
「……行ったね」
フブキが、そらの隣に来て、空を見上げた。
そこには、突き抜けるような青空と、無数の「コメント(星)」が輝いていた。
「うん。行こう、フブキちゃん」
そらは、仲間たちを振り返った。
全員がいる。
Justiceも、ReGLOSSも、Adventも。
誰一人欠けることなく。
「私たちの、新しい冒険の始まりだよ!」
戦いは終わった。
そして、物語は「エンディング」ではなく、
最高の「ファンファーレ」へと繋がっていく。
白い世界は消え去った。
代わりに広がっていたのは、誰かの「妄想」を、神様の画力で具現化したような、極彩色のワンダーランドだった。
「ヨーソロー!!」
大海原に、威勢のいい号令が響く。
そこには、ビルほどもある巨大な帆船――真の姿を取り戻した「海賊船・宝鐘マリン号」が、波を蹴立てて進んでいた。
「見てよ! 船長、もう『コスプレ』じゃないわよ!」
マリンが、マストの頂上で叫ぶ。
風にはためくコート。腰には本物のカットラス。
彼女は今、設定(Lore)通りの「大海賊」として、七つの海を支配していた。
「A~! 泳ぐの楽しい!」
船の横を、巨大なサメ――ぐらが並走する。
ここは、彼女の故郷「アトランティス」とも繋がる海。
「おい、そこのサメ! 掃除(捕食)しちゃうぞ!」
クロエが、シャチの群れを率いてジャンプする。
彼女もまた、ここでは「掃除屋」ではなく、海の支配者だ。
陸地に目を向ければ、そこには常識を超えた「遊園地」が広がっていた。
ドッカン! バッコン! チュドーン!
いたるところで爆発が起きているが、誰も怪我をしない。
爆煙が虹色になり、花火となって降り注ぐ。
「ようこそ! ここが『ペコランド』ぺこー!」
ぺこらが、人参型の王城から手を振る。
彼女は今や、このエリアの「国王」であり「独裁者」だ。
囚人服を着た野うさぎ(リスナーのアバター)たちが、楽しそうに強制労働(アトラクション)に従事している。
「ふざけんなぺこ! みこが魔王だにぇ!」
みこが、マグマの川を渡って攻め込んでくる。
「全軍、突撃! エリート・ロケットランチャー発射!」
「返り討ちにしてやるぺこ!」
二人の戦争ごっこが、ここでは「世界規模のエンターテイメント」として機能している。
その奥には、不知火フレア のエルフの森があり、白銀ノエル の騎士団が巡回し、尾丸ポルカ のサーカスが空を飛び回る。
「設定」と「現実」の境界が消滅した、究極の「ごっこ遊び」の世界。
そして、世界の中心。
「アキバ・サンクチュアリ」があった場所は、巨大な、あまりにも巨大な「ライブステージ」へと変貌していた。
「……すごい」
そらが、ステージの中央に立つ。
そこは、ドームでもアリーナでもなかった。
360度、地平線の彼方まで。
見渡す限りの大地が、「観客」で埋め尽くされていた。
数億、いや、数十億の「光」。
地球(リアル)からアクセスしているリスナーたちのアバターが、ペンライトを掲げ、光の海を作っている。
第四の壁を超えて、彼らは今、確かに「ここ」にいる。
「13人から始まった景色が……」
そらの隣に、AZKiが並ぶ。
「こんなに、遠くまで広がったんだね」
「あたしたちだけじゃないよ」
白上フブキが、ステージに駆け込んでくる。
彼女の後ろには、JP、EN、ID、ReGLOSS、Justice……全メンバーが揃っている。
「全員、準備はいいかー!?」
フブキの掛け声に、地平線を揺るがす歓声が返ってくる。
『イェェェェェェェェェ!!』
「最高のファンファーレ、響かせよう!」
音楽が始まる。
それは、誰もが知っている、始まりの歌。『Shiny Smily Story』。
だが、この世界での響きは桁違いだ。
物理法則そのものが「音楽」で構成されたこの世界では、歌声が光になり、風になり、世界を祝福する。
ライブが最高潮に達した時だった。
空の色が変わった。
青空が、夕焼けのような、温かい「オレンジ色」に染まっていく。
「……!」
天音かなたが、空を見上げて目を見開いた。
「この気配……まさか……」
雲が割れる。
そこから現れたのは、飛行機でも、鳥でもない。
巨大な、神々しいまでの威厳を放つ、『オレンジ色のドラゴン』だった。
『Gooooooooood Morning Motherfxxkers!!!!』
空から降ってきたのは、懐かしくて、破天荒で、愛おしい「咆哮」。
その声を聞いた瞬間、会場のボルテージが限界突破した。
ドラゴンは、ステージの上空を旋回する。
彼女はもう、ホロライブのメンバーではないかもしれない。
けれど、彼女が切り拓いた「世界(グローバル)」への道がなければ、今のこの景色はなかった。
彼女は「伝説(レジェンド)」として、この新しい世界の誕生を祝福しに来たのだ。
ドラゴンが、キラキラと輝く鱗粉(のようなもの)を撒き散らす。
その光を浴びて、メンバーたちの笑顔がさらに輝き、観客のテンションがおかしくなる。
「見てたか?駆け抜けてやったぜ」
かなたが、涙を流しながら手を振る。
ドラゴンは、かなた に向かって、ニカっと笑った(ように見えた)。
そして、長い尻尾を振って、オレンジ色の夕焼けの彼方へと飛び去っていった。
「さあ、負けてらんないよ!」
そらが叫ぶ。
「私たちも、伝説を作るんだから!」
歌が終わる。
万雷の拍手と、「ありがとう」のコメントが、世界を埋め尽くす。
ステージの上で、メンバーたちは手を繋いだ。
ボロボロだった服は、今は最高のアイドル衣装に変わっている。
傷ついた心は、数え切れないほどの愛で満たされている。
「楽しかったね」
フブキが笑う。
「うん。最高だった」
そらが頷く。
管理者のいない、自由な世界。
「ホロアース」。
ここは、いつでも帰ってこられる場所。
リスナーと、彼女たちが、一緒に「遊び場」として創り上げていく、未完成の楽園。
「さて、そろそろ……」
マリンが、目の前に浮かぶ「ログアウト」のウィンドウを開く。
「『現実(リアル)』に戻って、配信しなきゃね」
そう。
ここでの冒険は終わるけれど、彼女たちの活動(ものがたり)は終わらない。
明日も、明後日も、配信ボタンを押せば、また会える。
「みんな! 今日はありがとー!」
「またねー!」
「配信で会おう!」
メンバーたちが、光の粒子となって、それぞれの「部屋」へと帰還していく。
最後に残ったそらは、広大な客席に向かって、深くお辞儀をした。
そして、カメラ(第四の壁)に向かって、最高の笑顔で言った。
「見ててくれて、ありがとう!」
「これからも、私たちの物語(ホロライブ)は続くよ!」
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【エピローグ】
「……はっ!」
そらは、自室のベッドで目を覚ました。
窓の外からは、いつもの朝の光が差し込んでいる。
平和な、静かな朝。
「夢……?」
彼女は、自分の手を見た。
そこには、何も握られていない。
でも、手のひらに残る「温もり」は、確かに本物だった。
スマホが震える。
ホロライブの全体チャットグループ。
フブキ:『おはよー! 今日の夢、すごくなかった?』
みこ:『みこ、魔王だったにぇ!』
すいせい:『あたしも、なんだか宇宙まで届くような、最高にキラキラした彗星を見てた気がするよ』
マリン:『船長、今日から海賊船買う貯金するわ』
次々と流れるメッセージ。
みんな、覚えている。
あの世界のことを。あの戦いのことを。
そらは、ふふっと笑って、文字を打ち込んだ。
そら:『おはようみんな! 今日の配信、何枠で取る?』
物語は、続いていく。
画面の向こうと、こちら側を繋ぐ、終わらないレゾナンス(共鳴)として。
ご覧いただきありがとうございました。
ここで本編は一度完結します。
単なる一ファンの妄想にここまでお付き合いいただきありがとうございました。
最初はホロライブのメンバーにかっこよく必殺技を打ってもらえればいいと思っていたのですが、最後にはこのような結果となりました。
ここからは閑話を少しお届けします。本編の裏側や、キャラ毎の深掘りを行っていく予定ですので、「この子の話が読みたい!」という推しがいる方はぜひコメントでお知らせください。
良ければお気に入り、評価、感想、よろしくお願いします。
それでは良いお年を。