ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
視点:大空スバル
フェーズ:散華のループ ~ 伝説級覚醒
【システム・ホロアース:絶望の再現領域】
「やめて……もう、やめてくれ……!」
暗闇の中。目の前の巨大なスクリーンに、また「あの光景」が映し出される。
『……あー、楽しかったぺこ!』
画面の中で、兎田ぺこらがいたずらっぽく笑う。
彼女が言霊を放つたび、絶望の壁が塗り替えられ、彼女の身体は光の粒子となって霧散していく。
「あぁぁぁぁぁ……!」
場面が変わる。
崩落してくるアキバの空。数億トンのデータ質量。
それを、天音かなたが両手で支えていた。
『行けえええええ! 立ち止まるな!』
炭化していく彼女の腕。仲間を未来へ送るために、彼女は空ごと光の中に消えていく。
「かなたんッ!!」
止まらない絶望のダイジェスト。
雪花ラミィと癒月ちょこが、精神汚染を引き受けて黒い紙片となり。
大神ミオとさくらみこが、黒い雷に打たれて光の道をこじ開ける。
「ミオしゃッ……! みんな……ッ!!」
私は叫びながら、消えていく彼女たちの残滓に手を伸ばした。
でも、指先は冷たい画面に触れるだけ。
「学習しなさい、大空スバル」
管理者の声が、脳髄に直接響く。
「これは事実だ。お前に道を拓くために、彼女たちは『消滅(デリート)』した。
お前は『太陽』を自称していた。だが、お前が照らしたのは仲間の死に様だけだったな。
ただ騒がしいだけの、無意味な熱源だ」
プツン。
映像が切れる。そして、また最初から始まる。
『……あー、楽しかったぺこ!』
「うっ、ぅぅ……」
私は、暗い床にうずくまっていた。
もう、何回見ただろう。百回? 千回?
喉が枯れるほど叫んだ。涙も枯れた。
でも、結末は変わらない。
みんなが私のために、笑って消えていく。
……違う。
これは「記録(ログ)」じゃない。
管理者が、私の心を折るために構築した「罠」だ。
分かっている。分かっているのに、心が摩耗していく。
スバルのせいだ。
スバルがもっと強ければ。
スバルがもっと、みんなを照らしていれば……。
私の身体から、色が抜けていく。
トレードマークのオレンジ色が、薄汚れた灰色に変わっていく。
帽子が落ちる。メガホンが転がる。
「そうだ。絶望しろ。
仲間の犠牲の上に立つ価値など、お前にはない。
ここで永遠に、自分の罪を見続けるがいい」
私は膝を抱え、耳を塞いだ。
もう聞きたくない。もう見たくない。
スクリーンの向こうで、誰かが砕ける音がする。
耳を塞いでも聞こえてくる。地獄のASMR。
……助けて。誰か、止めて……。
心の中で呟く。でも、誰に?
みんな消えたのに。私が殺したようなものなのに。
その時。
絶望のループ音に混じって、「異質な音」が聞こえた気がした。
『……ルちゃん!』
『……て!』
『……けるな!』
幻聴ッスか……? また、私を責める声ッスか……?
『スバルちゃん! 立って!』
『まだ終わってねぇぞ!』
『お前が諦めたら、誰がみんなを照らすんだよ!』
違う。これは、責める声じゃない。
罵倒でもない。これは……「応援(エール)」だ。
(……スバ友?)
顔を上げる。
真っ暗な空間の天井に、無数の小さな「光の点」が見える。
ペンライトの光? いや、コメントの輝きだ。
彼らは見ている。この地獄を。
そして、うずくまる私に向かって、喉が裂けるほどの声援を送っている。
『スバル! スバル! スバル!』
『俺たちがついてる!』
『お前の声を聞かせてくれ!!』
「……聞こえる。みんなの声が……」
枯れたはずの喉が、熱くなる。
止まっていた心臓が、早鐘を打ち始める。
そうだ……。私は、何を見てたんだ?
変えられない結末? 仲間の死?
そんなの、管理者が勝手に決めた「バッドエンド」だろ!
私は、震える足で立ち上がった。
スクリーンの中では、ちょうどミオしゃが攻撃を受ける瞬間だった。
『スバル……』
画面の中のミオしゃが、私を見る。
その目は「ごめんね」なんて言ってなかった。
その目は、言っていたんだ。
――あんたなら、できるでしょ?
「……ッ!!」
バチンッ! と頬を張られた気がした。
そうだ。ミオしゃは、私がメソメソしてるのを一番嫌がる。
ぺこらは、私がツッコミを入れないとボケられない。
ラミィは、私が引っ張らないと不安がる。
「過去がなんだ……絶望がなんだ……!」
私は、足元に転がっていたメガホンを拾い上げた。
ボロボロで、ひび割れたメガホン。
でも、私の手の中で、それは灼熱の赤色に発光し始める。
「警告。対象の感情値、限界突破。熱源反応、増大」
「おい、管理者! よく聞け!」
私は、スクリーンを睨みつけた。
涙でグシャグチャの顔で。でも、世界で一番、図太い笑顔で。
「何回見せられようが、関係ない!
スバルは……諦めが悪いのが取り柄なんだ!!」
カッッッ!!!!
私の身体から、目もくらむような「太陽の光」が噴き出した。
灰色の肌が、鮮やかな小麦色に戻る。
オレンジ色の衣装が輝く。
「スバ友! 声、貸してくれ!
このクソみてぇな暗闇を、全部吹き飛ばすくらいデカイ声で!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
『Shuba! Shuba! Shuba!』
数百万のリスナーの声が、私のメガホンに集束する。
それは「音」じゃない。「エネルギー」の塊だ。
「いくぞオラァァァァァァ!!」
私は大きく息を吸い込んだ。
「お前ら全員、起きろぉぉぉぉぉぉぉッ!!! おはよう!!!」
【システム・ホロアース:深層領域】
私の絶叫が、物理的な衝撃波となって暗闇を走った。
パリーンッ!!
管理者が「決定的なログ」として見せつけていた画面が、粉々に砕け散った。
「警告。システムエラー。死者のデータが……再起動(リブート)している?
ありえない。彼女たちの整合性は失われたはずだ」
「消滅? ハッ、勝手に殺すな!」
私はメガホンを振り上げた。
全身から溢れ出す光が、周囲の闇を焦がしていく。
「私の声が届く範囲は……全員『生きてる』ことにする!
それが……大空スバルのルールだ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
私の背後に、巨大な光の巨神――アヒルのような騎士のような幻影が立ち上がる。
それは、私自身の魂の形。
私を支えてくれるみんなの想いの集合体。
伝説級(レジェンド)能力:『太陽の守護神(サン・ガーディアン)』
効果:絶対共鳴、および全ステータス無限上昇。
私の「声」が届く限り、仲間のデータ崩壊を拒絶し、絆を強制接続する。
「スバ友! ペンライト振れぇ! その光ひとつひとつが、私の弾丸だ!」
『Shuba! Shuba! Shuba!』
リスナーたちの無数の光が、私の周りに集まり、小さな太陽となって回転する。
私は、ただのアイドルじゃない。
みんなの元気を束ねて、世界に叩きつける「太陽神」だ!
「管理者! お前が見せた絶望の映像……。逆再生してやるから、よく見てろ!」
私が光を放つと、砕け散ったデータの残骸が、逆再生のように収束し始めた。
氷の欠片が集まり、エルフの形になる。
『……もう、スバルってば、声デカすぎ』
雪花ラミィが、呆れたように、でも嬉しそうに微笑んで杖を構える。
ノイズが収束し、いたずらっぽい兎の耳が生える。
『ちょっと! 勝手に脳内で殺さないでほしいぺこ!』
兎田ぺこらが、人参ランチャーを肩に担いで、ジト目でツッコミを入れてきた。
『ぺこらは今、データ層で一休みしてただけぺこよ!』
「ぺこら……! ラミィ!!」
そして、温かい両手が、私の背中をパン! と叩く。
『……遅いよ、スバル。ウチら、ずっと待ってたんだから』
大神ミオが、さくらみこと共に、頼もしい足取りで横に並ぶ。
光のゲートの向こうからは、かなたやちょこ先生も、そしてこのサーバー室で共に戦い続けていたフブキたち――全20人の気配が、一つの「太陽」として結実していくのが分かった。
「みんな……!」
幻影じゃない。一時的な奇跡でもない。
これが、私たちの「現実(レゾナンス)」だ!
「いくぞオラァァァァァ! 全員まとめて、かかってこいやぁぁぁ!!」
「バカな……理屈に合わない! データは欠落していたはずだ!」
管理者が、大量の防衛システムを放つ。
『雪月花・乱れ咲き!』
ラミィの氷魔法が、敵をカチコチに凍らせる。
『爆発するぺこ~!』
ぺこらのTNTが、それを粉砕する。
『ウチのカードは最強だよ!』
ミオのタロットが、私たち全員に「無敵」の運命を付与する。
そして、スバ友たちが突撃する。
『スバルの邪魔すんなー!』『壁になれ!』
「あはははは! 見たか! これがホロライブだ! これが私のチームだ!」
私はその中心を、一直線に駆け抜ける。
「理屈も計算も、全部ひっくり返す!
それが……『元気』ってやつだろーがよ!!」
管理者のコア(中枢)が目の前に迫る。
白い光の球体。
「来るな……! 私は秩序だ! 正解だ!」
「超えるんだよ……!」
私は空高く飛び上がった。
背後の『太陽の守護神』が、私と同じポーズをとる。
20人の仲間と、全スバ友の光が、私の右拳に集まる。
「スバルは……太陽だ!!」
太陽は沈まない。夜が来ても、必ずまた昇る。
何度絶望しても、絶対に「おはよう」って言い続ける!
「必殺!!」
私の全てを込めた、最大最強の「挨拶(エール)」。
「サン・ガーディアン流……!」
「オオゾラ・プロミネンス・シャウトぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
「おはスバぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ズガァァァァァァァァァァン!!!!!
圧倒的な「朝陽」が管理者のコアを飲み込み、黒い空間を浄化し、地平線の彼方まで焼き尽くした。
暗闇が裂け、本物の青空が、システムの奥底へと差し込んでいく。
光が収まる。私は、青空の下、大の字で倒れ込んでいた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
全身が痛い。でも、最高の気分。
「……あ」
横を見ると、仲間たちが集まってきていた。
『スバル、よくやったね』
ミオが、私の頭を撫でてくれる。
『最強だったぺこよ。……ま、ぺこらの方が目立ってたけどぺこ』
ぺこらが、相変わらずの調子で笑う。
データとか、現実とか、もうどうでもいいッス。
だって、今、みんなで笑ってる。それが全てだ。
「……うん!」
私は起き上がり、泥だらけの服をパンパンと叩いた。
メガホンを拾う。
空には、私のカラーである黄色い太陽が輝いている。
「スバ友ー! 生きてるかー!」
『生きてるー!』『最高だった!』
空から、温かいコメントが降ってくる。
私はニカっと笑った。
「よし! 今日も元気に! じゃあねー バイバイーッ!」
私は走り出した。
太陽は沈まない。
大空スバルがいる限り、この世界はいつだって「快晴」だ!